「性別じゃなく、適材適所で」主夫とフルタイム妻が実践する夫婦円満のルール【河内瞬夫妻】

人とは違う、自分もいい。
My Life「私たちの選択」

結婚する? 子どもを持つ? 仕事はどうする? 現代女性の人生は、選択の連続。そこで本特集では、自分らしく生きる女性たちの「選択ヒストリー」と「ワークライフ」を紹介します

共働き世帯が増えているにもかかわらず、家庭内労働の割合はあいかわらず女性に偏りがちだ。2021年6月に東京都が実施した「男性の家事・育児参画状況実態調査」によると、未就学児を持つ子育て世代の家事・育児の1日当たりの平均時間は女性の方が圧倒的に長く、その差はなんと5時間20分だった。

「男性の家事・育児参画状況実態調査」より

男性の家事・育児参画状況実態調査」より

しかし、この記事で紹介するブロガー・河内瞬さん夫妻は、日本の平均的な夫婦とは全く違う選択をしている。

夫の瞬さんは、家事・育児全般を担う「主夫」。かつては瞬さんも会社員として働いていたが、育休復帰後も「フルタイムで働きたい」という妻の希望を受けて退職。現在のスタイルにたどり着いた。

河内夫妻はなぜこのような選択ができたのだろうか。また、この選択が二人のキャリア・人生にもたらしたものとは何なのだろうか。二人に話を聞いた。

役割は、シンプルに「向き不向き」で決めればいい

河内家は、夫の瞬さん、妻、娘2人の4人暮らし。夫の瞬さんは、会社員から主夫に転身して気付いた家事・育児の大変さを綴ったコミックやエッセイをブログやSNSで発信している。

中でも、主婦の大変さをサラリーマンの仕事に例えたマンガが大きな反響を呼び、2022年2月には書籍『主婦をサラリーマンにたとえたら想像以上にヤバくなったマンガ』(主婦の友社)を発売。

創作活動を始めたきっかけは、自身が日々感じる家事育児の大変さを発散するためだったという。

夫・河内瞬さん(以下、河内夫)

子どもというのは、基本的には大人の思い通りにはいかない理不尽な生き物です。

そんな生き物を相手にしている人、理不尽さに常に振り回されている人の存在を伝えたいと思い、子どもを部下に、家事や育児を仕事に置き換えて漫画で発信することを始めました。

現在は瞬さんが家事・育児を担っているが、第一子出産から第二子が保育園に入園する前までは妻が専業主婦をしていた。

その後、一時的に共働きをしていた時期もあったが、「上手くいかなかった」と河内夫妻は当時を振り返る。

河内妻

どちらも仕事に出てしまうので、残業が多い時期になると家族そろって過ごす時間が取れなかったんです。

それに、限られた時間で家事・育児をやりくりしていくのは想像以上に大変で。共働きの難しさを感じました。

河内夫

世間には共働きでうまくいっている家庭もたくさんありますが、私たちには向いていなかったんですよね。このままでは夫婦関係が悪くなるな、という実感がありました。

共働きの方が収入は安定しますし、子どもたちを育てる上でもお金は大切です。でもそれ以上に、両親の仲が良く、家族で穏やかに過ごせることが第一だと考えるようになっていきました。

仕事と家事・育児に忙殺され、夫婦ですれ違う毎日が続いた。結果、自分たちに共働きは向いていないと思い、「僕が主夫になった」と瞬さんはことの経緯を説明する。

河内妻

なぜ夫が主夫、妻がフルタイムの会社員という選択を取ったかというと、お互いの意思と向き不向きを考慮した結果ですね。

夫が主夫になる前は、私が専業主婦として数年間過ごしていました。その時に気付いたのですが、私には「主婦」が向いていなかったようで……。

家にとじこもっているとストレスがたまるし、「自分も外に出て働きたい」「できるならフルタイムで働きたい」という思いがどんどん強まっていきました。

河内妻

一方、夫は料理や掃除が苦ではないタイプだったらしく、むしろ私よりも得意なくらい。話し合いの結果「だったら、適材適所がいいよね」と夫婦で意見が一致したので、夫が主夫に、私がフルタイムの会社員になったんです。

その時は、まさかこんなに長く主夫として家事・育児の中心を担ってくれることになるとは思っていませんでした。

河内夫

僕の場合、生まれ育った環境が特殊だったのかもしれません。

僕の父は自営業だったので、時間を自由に使えたこともあり、家事や育児に主体的に取り組んでいる姿を幼少期から見ていました。当時にしては珍しかったんだな、と振り返ってみると思いますが、僕にとっては「家のことは夫婦でやる」というのが当然で。

河内夫

なので「夫婦のどちらかが家庭に入ろう」という話し合いになった時も、妻が専業主婦に戻るという選択肢と並列して「自分が主夫になる」ことを考えることができました

たどり着いたちょうどいい働き方「収入面で妻に依存しない」「モチベーションは上がり続けている」

結果、フルタイム勤務への希望が強かった妻が会社員として働き、瞬さんが主夫として家事・育児を担う現在のスタイルにたどり着いた河内家。

瞬さんが主夫の選択を取った直後、周囲から上がった反応はネガティブなものが多かった。

河内夫

僕が主夫になったのは6~7年前ですが、当時から「女性の社会進出を応援しよう」という社会の動きはありました。

にもかかわらず、周囲からかけられる言葉はその真逆。主夫になったと話すと「男は働いてナンボでしょ」なんて言われるんですよ。そのギャップに戸惑いましたね。

さらに、親からは収入面への不安を投げかけられることも。瞬さんも「最初のうちは妻も「自分が家計を支えなければ」というプレッシャーを感じているように見えた」と当時の様子を語る。

親と妻の不安を解消するために、主夫業と並行してできることを模索していった。

河内夫

僕自身、主夫になったことで「収入を得る=外に出て働くしかない」という固定観念が自分にもあったと気付きました。

家事や育児がパートナーと協力し合うのと同じように、収入面でもどちらかに頼りきりにならないようにしたい。そう考えるようになっていったんです。

河内夫

今の時代、家にいても稼げる手段はたくさんありますよね。僕にとっては、それがブログでした。

試行錯誤しながらですが、できることを少しずつ増やしていこう、と思いながら今日までやってきました。

主夫だからといって、家事や育児しかできないわけではない。そう考えてブログやSNSでの発信により注力するようになった瞬さん。

フルタイムで働き出した妻も、次第に仕事のペースがつかめるようになっていったという。

河内妻

夫に家庭を任せることができるので、出張が必要になった時も迷うことなく「行く」という選択ができるようになりました。

繁忙期でも集中を切らすことなく仕事に取り組めるのは、主夫の夫がいるからこそですね。

河内妻

向いていないと感じていた家事の負担が減ったこと、時間の制約が軽減されたこと。そのおかげで、今ではやりたいと思ったことを自由に選択できるようになりました

夫が主夫になってから、仕事に対するモチベーションはどんどん上がっています。

瞬さんが主夫になったことでポジティブな変化を感じているのは、妻だけではない。瞬さん自身も、主夫になったからこそ得られた幸せがあると微笑む。

河内夫

会社員時代は、子どもの就寝後に帰宅することも多かったですし、週末は疲れ果てていたので家族との時間をあまり取れていませんでした。

ですが主夫になってからは必然的に子どもと一緒にいる時間が増えましたし、思春期に差し掛かってきた女の子たちですが、妻だけでなく僕にも悩みを打ち明けてくれます。

家庭のことを妻に任せたまま会社員を続けていたら、こうはならなかったんじゃないかなと思いますね。

役割の違いで仲違いしないように、時間を共にして歩み寄る

今でこそ良い関係性を築けている河内夫妻だが、最初から順風満帆だったわけではない。ポジションを交代したばかりの頃はお互いに不慣れな面も多く、円満とは言い難い期間もあったそうだ。

その局面を乗り越えるために、瞬さんが意識したのが「夫婦での会話を大切にする」ことだという。

河内夫

どちらかが仕事、どちらかが家事・育児に集中していると、一緒に生活していても、あらゆるシーンで同じベクトルを向けなくなっていきます。

相手が何を考えているのか分からなくなり、不安を感じてしまう。当然不満も溜まりますよね。するとどんどん夫婦関係が悪くなるわけです。

河内夫

相手の価値観や考えていることを把握するためには、単純ですが「会話をする」しかない。夫婦と言えど違う人間なので、言葉にしないと何を考えているかは分からないですから。

そう気付いてからは、毎日数分でも夫婦で会話する時間をつくるように意識しているという瞬さん。子どものことや仕事で起こったことを報告するとともに、感じている不満があれば遠慮せずに伝えるという。

とはいえ、この「夫婦の会話」をするのが苦手、という家庭も多いのではないだろうか。そんな人に向けて、瞬さんは自分たちの例を話してくれた。

河内夫

よし、話すぞ! と身構えると、慣れないうちは逆に話しづらくなりますよね。なので僕たちの場合、まずは一緒に過ごす時間をつくることから始めました。

例えば、子どもたちの就寝後に一緒にドラマや映画を観たり、仕事で帰りが遅いのであれば、翌朝子どもが起きてくる前に二人でコーヒーを飲んだり。

とにかく夫婦そろって何かする時間を意識的につくるようにしたら、自然と会話が生まれるようになりました。

河内夫

会話することが日常的になっていけば、やがて何でも言い合える関係性が構築されます。少しずつ二人の時間を増やしていったことで、今の円満な関係につながっていきました。

また、妻も「家族への感謝を忘れない」というシンプルだが大切な心掛けを語った。

河内妻

フルタイムで働けるようになった結果、共働きの頃よりも仕事は忙しくなりました。忙しい日が続くと、つい自分のことばかり考えてしまうようになります。

家族と過ごす時間が減ると、思いやりや感謝の気持ちも薄れがちです。なので、仕事の付き合いでの食事を減らしたり、休日は仕事をしないようにしたりと、メリハリをつけるようにしています。

私もできる範囲で家事や育児をするために、仕事の効率化を真剣に考えるようになりました。

役割は違っても、共に暮らす家族であることに変わりはない。同じ方向を向いて過ごしていくための心掛けと歩み寄りによって、河内家の円満は築かれている。

家事も育児も仕事も大変。だからこそ、夫婦でやれば楽しめる

今後も夫が主夫、妻がフルタイム勤務というスタイルを継続していく予定だという河内家。改めて「自分たちには今の暮らしが合っている」という実感をにじませた。

河内妻

私はいろいろな人と関わることが好きなので外に出て働けている今の状況がとても楽しいですし、夫は黙々と何かをすることが好き。

お互いが向いている役割を選択できて良かったな、と感じています。どちらかが無理をすることなく選択できたからこそ、このスタイルでやってくることができたんだろうなと思いますね。

瞬さんは、自身が主夫になったことで家事・育児を担う存在の重要さと大変さを実感しているという。

河内夫

働いて稼いでいる人が「世帯の中心」と思う人も多いかもしれませんが、家事や育児を通じて「家庭」を支える存在も、同じように大切。そして、一人で家庭を支えていくのには限界があることにも同時に気付いたんです。

家庭を支える人が倒れてしまえば、家族がバラバラになってしまいかねません。働くにしても、主夫をするにしても、パートナーと支え合うことが大切。どちらが偉いとかはないんですよね。

そんな気付きを、今後もブログやSNSで発信していきたいという瞬さん。これまでは家事・育児の大変さを理解していない人に「知ってもらう」ことを目的にしてきたが、今後はアプローチを変えていく予定だという。

河内夫

ブログを始めた頃と比べると、社会もずいぶんと変わってきました。以前は僕が子どもを公園に連れていくと「いいパパね」と言われましたが、最近では子連れの男性をたくさん見かけますしね。

なので、「家事・育児は大変だ!」ということだけじゃなくて、「だからこそ、夫婦でやっていけば楽だし楽しくなるよ」というところまで伝えていきたいなと思っています。

まずは妻が専業主婦となり、やがて共働きへ。そして夫が主夫に……。さまざまな役割分担を一通り経験し、河内家がたどり着いたベストな選択。それが今のスタイルだった。

そこには、男だから・女だからというバイアスは全くない。どちらが偉いという驕りも感じられない。あくまでも、二人の関係性は平等だ。

仕事も家事・育児も支え合って然るべき。そんな当たり前のことを、河内夫妻の選択は私たちに教えてくれた。

<プロフィール>
夫・河内瞬(かわうち・しゅん)さん

主夫ブロガー。妻のフルタイム勤務に先立ち、会社員から主夫に転身。主夫になって気付いた家事・育児の大変さをブログやSNSで発信している
ブログ ■Twitter ■Instagram

妻・河内さん
第一子出産を機に、当時勤めていた会社を退職。第二子出産後に復職。その後、夫が会社員から主夫に転身したのを機にフルタイム勤務へ

書籍情報

『主婦をサラリーマンにたとえたら想像以上にヤバくなったマンガ』(主婦の友社)

主婦をサラリーマンにたとえたら想像以上にヤバくなったマンガ

元サラリーマン主夫が家事や育児の大変さをサラリーマンにたとえたマンガで展開するコミックエッセイ。あなたの会社にもしこんな部下(子ども)が会社にいたら? 想像をはるかに超える主フ業のヤバい現場がリアルに体感できる1冊です。「そんな状況ありえないでしょ!?」と思うかもしれませんが、「あるんです!」。

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取材・文/阿部裕華 企画・編集/秋元 祐香里(編集部)