【進化するピル】生理は年3回でいい。婦人科医が解説「妊活中以外に生理はいらない」超明白な理由
イライラ、腹痛、肌荒れ……。生理が来るたび不調に悩まされているにも関わらず、「つらくて当たり前」とがまんしてしている人も多いのでは?
そんな女性たちに知ってほしいのが、最新医療を含むフェムテックを活用し、PMS(月経前症候群)の症状を緩和・改善する方法だ。
『女性の悩みはFemtechで解決! オトナ女子のためのカラダの教科書』(宝島社)の著者で、月経トラブルに詳しい婦人科医の松村圭子先生は、「妊娠を望んでいない女性には、生理は本来必要ない。PMSに悩んでいる人は、ピルを使って生理のタイミングや回数をコントロールすることも選択肢に入れてほしい」と話す。
身近なもののはずなのに、多くの女性が意外と知らない生理のこと。
松村先生に、生理の本来の役割や、PMSによるつらい症状の改善に役立つフェムテック最新事情について詳しく話を聞いた。
生理は「妊娠しなかった結果」。妊娠を希望しない女性には必要なし
ーー毎月やってくる生理。PMSの症状に悩まされる女性も多いですが、そもそも生理は何のためにあるものなのでしょうか?
簡単に言ってしまうと、生理は「妊娠しなかった結果」なんです。
女性の体は毎月、妊娠に向かって赤ちゃんを育てるベッドとなる子宮内膜を厚くして、受精卵を迎える準備をしています。
ただ、妊活をしていない限り、基本的には受精卵がその子宮内膜にはりつくことはないわけです。すると、受精卵のためのベッドである子宮内膜は不要になり、血液とともに排出されます。これが、月に1回やってくる生理の正体です。
ーーでは、妊娠を望んでいない期間は、生理がなくても女性の体には何も問題はないのでしょうか?
その通りです。医学的に生理の仕組みを理解すると、「妊娠を望まない期間に生理は必要ない」ことが分かります。
でも、正しい知識がない状態だと「生理をとめてしまうのは体に悪そうだな」「一度でも生理をとめると、妊娠しづらくなるのかな」など、間違ったイメージを持ってしまいがち。そうやって、つらいPMSの症状をがまんしてしまう女性も少なくありません。
ーー毎月生理がくることによるメリットはないのでしょうか?
医学的な立場から言えば、妊娠を望んでいる人以外にメリットと言えるものは「ない」と言えます。繰り返しになりますが、生理はあくまで「妊娠しなかった結果」なので、それ以外の機能はないんです。
むしろ、生理によって引き起こされる頭痛や腹痛、肌荒れやイライラなどに毎月苦しむことは、デメリットでしかないですよね。
一定期間、仕事のパフォーマンスが下がることによる損失も働く女性にとっては大きいはずなので、ぜひ自分自身で生理をコントロールしてほしいと思います。
ーー「生理をコントロールする」というと?
一番シンプルなのは、ピルを活用すること。日本では「ピル=避妊薬」というイメージが強いのですが、ピルは月経困難症や子宮内膜症の治療薬としても使われていて、その場合は保険が適用されます。
血栓症を起こすリスクが少し上がることは報告されているものの、使うメリットはさまざまあります。
例えば、生理日を自分で決められるし、生理痛は軽くなる。生理による出血が減って貧血が改善されたり、ニキビや肌荒れの悩みが解消されたりする人も多くいます。
さらに、生理不順が改善したり、子宮内膜症の予防につながったり、長期的に飲み続けることで卵巣がん、子宮体がん、大腸がんなどの予防につながることも分かっています。
生理の回数を減らしてQOLアップ。最新ピル事情
ーー避妊やPMSの症状改善だけでなく、がん予防など、ピルにはさまざまな効果があるんですね。
その通りです。また、ピルも年々進化していて、種類もますます増えています。
例えば、従来のピルは、1カ月に数日間、飲まない日を作ってその間に軽い生理を起こさせるものが主流でした。でも、最近では「4カ月に1回生理がくる」ようにするピルを処方する病院も国内で増えつつあります。
ちなみに海外では、年単位で生理をなくしてしまうピルも使われていて、そのうち日本でもそういうピルが主流になっていくのではないかと思います。
ーー従来の「月に1回軽い生理を起こすピル」と、最近の「数カ月に1度だけ生理を起こすピル」とでは、効果にどのような違いがあるのでしょうか?
従来のピルがなぜ1カ月に1回軽い生理を起こさせていたかというと、それは単純に、「生理は月に1回来るものだ」という意識の問題で、実は医学的には何も意味はなかったんですよ。
しかも、月に1回軽い生理はくるわけなので、頭痛や腹痛もピルを飲むことで軽減はすれどなくなりはしないことも多かった。
一方で、最近のピルは生理がくる回数自体を減らしているので、その分、痛みに悩まされる回数も減るし、痛みを抑える効果もより大きいとされています。
生理の回数がぐっと減ることによって、QOL(クオリティー・オブ・ライフ=暮らしの質)が上がったり、仕事でパフォーマンスを上げやすくなったりする人は多いと思いますよ。
ーー年単位で生理をとめるピルも海外では普及しているとのことですが、実際はそれでも問題ないということですか?
そうなんです。健康上は何も問題ないですし、ピルを飲むのをやめればまた妊娠もできるようになります。
なので、「4カ月に1回生理を起こすピル」も、「生理をすっかりなくしてしまうのは不安」という気持ちに応えるものでしかありません。生理を完全にとめることに心理的抵抗感がないのであれば、年単位でなくしてしまっても肉体的には何の問題ありませんよ。
ーーピルに興味がある場合、産婦人科に行けば自分に合うものを処方してもらえますか?
医師の専門などによって、提案してもらえるピルのバリエーションに差はあるかもしれませんが、まずは通いやすい婦人科に行って相談してみるといいですよ。
今はピルにもいろいろな種類があるので、肌荒れに悩んでいる、頭痛や腹痛に悩んでいるなど、特に困っている症状があればそれを伝えると、自分に合うものを処方してもらえると思います。
また、気軽に相談できるような医師との出会いも大切。現代女性は婦人科系のトラブルを抱えやすい環境に生きていますから、今後も長く付き合える“パートナードクター”を見つけておけると安心です。
ぜひ、病院のHPを見たり、取りあえず病院に行って話をしてみたりすることで、頼れる医師を探してみてください。
フェムテック活用で「自分理解度」を高めて、生理の困りごとを解消
ーーピルを活用するほかにも、生理のつらさを改善するのに役立つフェムテックはありますか?
『わたしの温度』(トッパン・フォームズ)のような、付けて寝るだけで自動的に基礎体温が記録される婦人体温計や、『ルナルナ』などの生理・体調管理のアプリを活用して、自分のデータを毎日ためていくのはオススメです。
例えば、病院にかかるにしても、医師に自分が困っていることや毎月の心と体の変化などについてうまく説明できないと、適切な提案が得られないことがあります。
なので、「生理周期の中で私はこの時期にいつもこういう状態になる」「その時にこういう対策をとったらこう変わった」など、自分のことをよく理解して人に伝えられるようにしておくことが重要です。
そして、こうやって自分をデータ化していくと、「こういうときはこうすればいいんだ」という対処法も見えてきて、不安解消にも役立ちます。
ーーというと?
例えば、「この時期に毎月頭が痛くなるけれど、こうしたら痛みが緩和された」とか、「すごくイライラしたときに、こういう行動をとったら楽になった」とか、自分なりに効果のあった対処法を毎回記録しておくようにします。
すると、次にまたその症状が起きたときも「こうすればすぐ良くなるから大丈夫」と思えるようになるし、「またあの症状が起きたらどうしよう」という不安も減る。生理のつらさを軽減するための自分なりの対処法が分かると、すごくラクになれると思うんですよね。
ーーデータの蓄積で自分への理解度を高めることは、不安やストレスを軽減することにもつながるんですね。
その通りです。それに、「こうすれば大丈夫」という対処法は、人それぞれ違うので、自分に合う対処法を認識することが大事なんですよ。
ちなみに、私の場合は料理したり、勉強したり、何かに夢中になることがイライラ解消に効く対処法。こういうときはこうすればいいっていうのが分かっているから、ほとんどストレスは感じないですね。
でも、「料理」や「勉強」をしたからといって気分が晴れる人ばかりではないでしょう? だから、自分でいろいろ試してみて、自分に合う方法を探すしかないんですよね。
ーー自分に合う方法が見つかると、健康維持も楽しみながらできそうですね。
「楽しんでできること」を続けることはすごく大事ですよ。
「健康のために」と何かをがまんすることを始める女性って多いんですけど、楽しくないことって結局長くは続かないし、がまんしてばかりだとつらいので必ず反動がくるんですよ。例えば、ストイックな「糖質オフ生活」なんてまさにそう。半数以上の人がリバウンドしています。
健康は目的ではなく、人生を楽しむための手段。だからこそ、何事もがまんし過ぎも要注意です。
ーー生理の痛み、つらさもそうですね。
そうですよ。「自然のままが健康にいいはずだから」と信じ込んで生理のつらさをがまんしている女性は多いかもしれないけれど、でも、それで人生を楽しめなくなってしまう期間があるのはあまりにもったいない。
医学やテクノロジーの力を借りて、「仕事も人生も楽しめる自分」になってほしいなと思います。
取材・文/柴田捺美
書籍情報
『女性の悩みはFemtechで解決! オトナ女子のためのカラダの教科書』(宝島社)
女性ならではの健康問題や妊娠・出産・更年期といったライフイベントをより快適に過ごすための製品やサービスを指す“Femtech[フェムテック]”。けれども、女性たちが自身のからだについて、あるいは最新の婦人科医療についての知識を十分に持っていないのが実情。本書では、「女性ホルモン」「更年期」「不妊治療」といった限定的なトピックスについて最新の知見を元に、松村圭子先生が分かりやすく解説しています。