後藤真希の辞書に「努力」の文字はない。ストイックに完璧を求める孤高のカリスマの原動力
この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります
奇抜なマスクとコスチュームで正体を隠した有名人が実力勝負のパフォーマンスに挑む、新発想のエンターテインメント番組『ザ・マスクド・シンガー』(Amazon オリジナル作品)。
総勢 12 組が集結したシーズン2の優勝者は、ヴィーナスに決まった。
圧巻の歌とダンス、そしてゴールドのコスチュームにふさわしい華のあるパフォーマンスを披露した彼女の正体は、なんと元モーニング娘。の後藤真希さん。

「10年に1人の逸材」とプロデューサーのつんく♂さんに才能を見いだされ、13歳で3期メンバーとしてモーニング娘。に加入。
金髪の大人びた風貌で衝撃のデビューを飾り、いきなりセンターを務めた『LOVEマシーン』は大ヒット。モーニング娘。歴代シングルの中で売上枚数はぶっちぎりの1位を記録した。
そのカリスマ性で人々を魅了し、今なお「伝説のアイドル」と評される彼女は、なぜ正体を隠し、シビアな実力勝負に挑んだのだろう。
その裏側には孤高のカリスマ、後藤真希の「負けず嫌いのプライド」があった。
正体を隠してパフォーマンスをしたら、みんなはどう思うんだろう?
今回の優勝をみんなが喜んでくれました。
ファンの人はもちろん、そうでない方々も「かっこよかった」とたくさんSNSでコメントをしてくれて。うれしいし、「よかったな」って安心しました。

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『ザ・マスクド・シンガー』シーズン2優勝後の反響をうれしそうに話してくれた後藤さん。番組をきっかけにYouTubeの「歌ってみた」動画をチェックするなど、「興味を持ってくれる人が増えている」そうだ。

「『ヴィーナス推してたよ』って言ってくれる人もいて、うれしかったです。身近な人ほど『絶対優勝すると思ってた』って言いますね(笑)」(後藤さん)
近年は写真集『ramus』(講談社)が話題を呼ぶなど、30代の等身大な美しさで支持を集めている後藤さん。一方で、多くの人の前でパフォーマンスをする機会がなかなか持てずにいたという。
キラキラしたアイドルとしてではなく、謎のヴィーナスとしてパフォーマンスをしたら、みんなはどう思うんだろう。
そんな気持ちもあって、面白そうだなと思って参加を決めました。

いわば実力試しとしての出場。とはいえ、マスクやコスチュームを着用してのパフォーマンスには想像以上の苦労があった。
最初の『HIDE&SEEK』の時なんてほぼ何も見えていなくて(笑)。「それならいっそのこと集中しよう」と、ほとんど目をつぶって歌っていましたね。
その後は徐々に視界が改善されたので、会場にいるお客さんへマスクの中からアピールもしつつ、パフォーマンスをしていました。

正体がバレないように「そうよね」など、普段話さないような話し方を心掛けてたそう。「それなのに『動きにハロプロ感がある』と言われて。自覚はないので『ハロプロ感って何だろう……』って考えちゃいました(笑)」(後藤さん)
一番お気に入りのステージは? という質問に、「いや~どれだろう~」と少し悩む様子を見せた後藤さん。「どれも自分の中で頑張ったなって思ってるんですけど」と前置きし、『be alive』を挙げた。
ダンスをするわけでも、大掛かりな演出があるわけでもない中で歌わせてもらったので、「次進めたらすごいぞ」って自分の中で思っていました。
そういう意味では記憶に残るステージでしたね。
プロとして完璧であるために、自分と徹底的に向き合ってきた
『ザ・マスクド・シンガー』では複数人がパフォーマンスを披露した後、審査員による投票が行われる。獲得票が多ければ次へ進み、少なければマスクを外し、正体を明かさなければならない。
ヴィーナスは最初から「あふれ出る自信を感じる」と審査員から評価されていた。堂々と強気な様子に映っていたが、マスクの下の後藤さんのプレッシャーはすさまじいものがあったという。

何か一つ間違えただけで、次は私の名前が呼ばれてしまうかもしれない。そのドキドキはずっとありました。
ジャンルにこだわらずに曲を決めたので、「次はどうやって見せよう」というプレッシャーもすごくありましたね。
披露した曲は、必ずしも得意な曲ではない。例えばSuperflyの『タマシイレボリューション』は、スタッフから「後藤さんに合うと思う」と勧められた曲であり、歌うのは「ほぼ初めて」。
そんな中で実力勝負のステージに挑むにあたり、弱点の強化にも力を注いだ。
声を張って歌うときに声がふらつきやすかったり、高音が思うように出なかったり。
どうにかすんなり歌える方法をレッスンしてもらい、意識的にボイストレーニングをしていました。

特に『Go! Go! Heaven』はめちゃくちゃキーが高いから、事前の音合わせでは体力が追いつかなくて。
キツそうに聞こえちゃうし、自分もヘロヘロになっちゃったんです。「やばい、原キーで歌えないかも」って焦りましたね。
ダンスも久しぶりだったが、「なんだかんだで踊れました」と笑顔を見せる。自宅で自主練習を重ねたものの、「練習と本番は全然違った」と苦労を明かした。
コスチュームを身にまとった状態と普段の格好とでは、全然違うんですよ。

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ジャージだとバキバキに踊れているように見えても、衣装だと背中の電飾の板が体のしなやかさを邪魔してしまって、不器用そうに見えちゃう。
それが自分では気になって、リハでも「この動きのとき、めちゃめちゃ痛いな」って気にしながら踊っていたんですけど、本番では「もうけがしてもいいや!」と開き直っていました。

13歳でデビューし、一時代を代表するスターとして人々を魅了してきた後藤さんは、不器用でがむしゃらなアイドルというより、圧倒的な実力とカリスマ性を備えた「完璧なアイドル」のイメージが強い。
そうあるために、これまでも徹底的に自分と向き合ってきた。
普段から昔やったライブを見たり、過去の歌を聴いてみたりしています。そうやって「もっとこうした方が聴きやすいな」とか、自分で自分にダメ出しをしていますね。
もちろん過去より成長できているなと思う部分もあるけど、「昔はすんなり動けているのに、今は考えないとできないかもな」と感じることもあって。

今回のリハでは振付師の仲宗根梨乃さんから「もっと自由にやっていいよ」って言われて、「自由って何だっけ」と考えちゃったりもしました。
完璧を求めて練習をする。それは「負けず嫌いのプライド」
これまでの取材で、後藤さんは華麗なパフォーマンスの裏側を語ってくれた。デビュー以来、すさまじい努力を重ねてきたであろうことは間違いない。
そう分かってはいても、その姿があまり想像できない人でもある。

そんな印象を伝えると、「10代の頃から『努力って何?』って感じだったんですよ」と少し意外な答えが返ってきた。
ハロー!プロジェクトのメンバーの中には、「頑張ってるね」って周りから褒められていた子もいます。そういう子は努力している姿勢やオーラがあるから、みんなが応援したい気持ちになるんですよね。
でも私の場合はそうじゃなくて。「そつなくこなす」「さらっとやるよね」みたいな感じで大人からは見られていました。

それは、なんだか寂しい気もしてしまう。私だって頑張っているのに……と卑屈の虫も湧いてきそうだ。
ところが、後藤真希は違う。
私は誰よりも完璧にできるように仕上げる作業を見えないところでしているんですよ。それは誰に言うわけでもなく、ただ自分ができないのが嫌だからやっているだけ。
ファンのみんなはそれを努力と言ってくれるけど、私の中では負けず嫌いのプライドだなって思います。

完璧を求めて練習をする。それこそが努力に他ならないが、後藤さんはそれを努力と捉えていない。
ファンの中には「後藤真希が楽しく幸せであればそれでいい」という人もいるだろう。そこに甘えることだってできるのに、後藤さんはストイックに自分のパフォーマンスを磨くことを止めない。

それは、費やした時間や労力を誰に認めてもらえずとも、自身の「完璧でありたい」というプライドが原動力だから。
自分と向き合い、至らない点を改善し、プロのアーティストとしての完成度を高めていく。それが後藤真希が孤高のカリスマたる理由なのだろう。
これからは定期的に、自分の歌を発信する機会をつくりたいですね。
特に優勝後は「トロフィーを持ちながら歌っていた曲が聴きたい」「『HIDE&SEEK』を踊ってほしい」といった声もあるので、どんな形になるかは分からないけど、何かしらやれたらなと思っています。

憧れの人は篠原涼子さん。「ナチュラルで、きれいで、かっこよくて、でも面白くてかわいい。そんな人になれるように、自分も年齢を重ねていけたらなって思っています」(後藤さん)
後藤真希さん
Twitter/Instagram/BLOG/YouTube『ゴマキのギルド』『ゴマキとオウキ☆』
後藤真希 LIVE TOUR 2022 『歌ってみた~Songs of You and Me!~』
<大阪公演>
会場:YES-Theater
日時:2022年9月10日(土)
昼公演:開場15:00・開演15:30
夜公演:開場18:00・開演18:30
<愛知公演>
会場:NAGOYA ReNY limited
日時:2022年9月17日(土)
昼公演:開場15:00・開演15:30
夜公演:開場18:00・開演18:30
<東京公演>
会場:恵比寿ガーデンホール
日時:2022年9月23日(金・祝)
開場:15:00・開演16:00
後藤真希 バースデースペシャルイベント(仮)
<東京会場>
会場:恵比寿ガーデンホール
日時:2022年9月23日(金・祝)
開場:19:00 開演:19:30
ゲスト:藤本美貴
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『ザ・マスクド・シンガー』シーズン2
配信開始日:Prime Videoにて独占配信中
話数:本編9話
取材・文/天野夏海 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) ヘアメイク/Shizuka Aoyama スタイリスト/Mika Yamashina
『プロフェッショナルのTheory』の過去記事一覧はこちら
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