10 NOV/2022

カプセルトイ『ねぎ袋』はなぜ10万個も売れた? 担当者に聞くヒットの秘訣「ユーザーに共感される商品は、バランス感覚がカギ」

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2022年9月末、カプセルトイの『ねぎ袋』がSNSを中心に話題を集めた。『ねぎ袋』とは、その名の通り、ねぎ専用の袋だ。

スーパーのレジ袋や、エコバッグからはみ出てしまうことが多く、時には家に着くまでの間に傷ついてしまうねぎがシンデレラフィットするということで、「これ、欲しい!」「企画した人天才すぎる」と話題に。

その勢いは止まるところを知らずお昼のワイドショー『ひるおび』(TBS系)や、各ニュースサイトで特集されるほど大きな反響を呼んだ。

この『ねぎ袋』はどのように誕生したのだろうか? 生みの親である株式会社ターリン・インターナショナルの島本典子さんに開発秘話を聞くとともに、製造コストなどの制約がある中でヒット商品を生み出すために意識していることを聞いた。

<プロフィール>
株式会社ターリン・インターナショナル 島本典子さん
2010年株式会社エポック社に営業事務として入社、その後企画開発部に異動。21年7月に同社のカプセルトイ事業を引き継いだ株式会社ターリン・インターナショナルに転籍。現在は商品企画マネジャーとして勤務。累計200以上のアイテムを担当

コラボ依頼も続々! ユーザーの心をわしづかみにする「カプセルトイらしさ」を重視

——『ねぎ袋』がSNSを中心に話題になりました。実際、どのくらい反響がありましたか?

弊社の公式Twitterで複数回にわたってツイートしているのですが、それらのツイートが合計で1.6万リツイート、2.5万いいねされました。 普段は1000いいね行けば大反響と捉えていたので、かなり驚きましたね。

カプセルトイは10万個発売されればヒットと言われるのですが、ねぎ袋は非常に多くの受注があり10万個以上も生産しました

——予想以上にバズったわけですね。

そうなんです。そんな中で、いろいろな方からお問い合わせもいただきました。

例えば、テレビ番組からの取材。これまで複数のカプセルトイが取り上げられる中の一つとして紹介されることはありましたが『ねぎ袋』だけで特集されたのは初めてでした。

それから、ネギの生産者や、ブランドネギの担当者、全国のJAの方など、ネギに関わる方々から「うちにもカプセルトイの機械を置きたい!」という問い合わせや、「コラボ商品を作りたい」とのご依頼もいただき、非常にうれしかったです。

——なぜ、ここまで話題になったと思いますか?

一番は、ユーザーの共感を得られたことが大きいかなと思います。SNSでシェアしてくださった方のコメントでは「こういうの欲しかった!」というものが多く、ニーズがあったのだなと実感しました。

また、私が商品企画を行う上でいつも大切にしているのが、カプセルトイらしさ。今回はそれがうまく伝わったのかなと。

——カプセルトイらしさとは何でしょう?

ちょっととがっていて、クスッと笑ってしまうような面白い要素だと私は捉えています。

ネギが入る大きな袋なんて、探せば市販でかわいいデザインのものがあると思いますし、手作りされている方もいるとは思うんですよね。

『ねぎ袋』も正直、かわいらしいデザインにしようかは最後まで迷ったのですが、カプセルトイならではの要素を入れたくて、あえてデザインをネギそのまんまにしました。

——なぜとがった要素が必要なのですか?

カプセルトイは、ユーザーの心をいかに一瞬でわしづかみにできるかが勝負なんです。

毎月、各社から多数の新作が出ているので、その中で埋もれない工夫が必要。ユーザーに強烈なインパクトを与えるものがヒットしやすいんです。

——なるほど。インパクトを与えるために、工夫したことはありますか?

『ねぎ袋』本体のデザインもそうですが、カプセルトイの機械に入れるポップも工夫しました。

はじめは道端に落ちているネギの写真を入れて、悲壮感漂うイメージのポップデザインだったんです。でも「もっと商品の特長をダイレクトに伝えた方が、インパクトがあるのでは?」と社内の営業担当から提案されて。

ターリンインターナショナル

たしかにカプセルトイは道端やスーパー等のお店の入り口に置いてあることが多く、じっくり見てくれる方はほとんどいないんですよね。

いかに直感的に「欲しい!」と思わせるポップを作れるかが勝負なので、「ネギを入れるための袋」だと一目で分かるようなネギ一色のデザインにしたんです。

スーパーをまわってネギを徹底調査「面白いだけじゃなく、使えるものに」

——たしかにこのポップは目に留まりますよね。 そもそも、『ねぎ袋』の企画アイデアはどうやって思いついたのでしょう?

アイデアの源泉は、弊社の営業担当の一言でした。

最近カプセルトイのメインターゲットは成人女性になりつつあって、女性が日常的に使えるポーチやバッグが非常に人気。

各社がいろいろな種類のアイテムを発売する中、弊社の商品が埋もれないように「何か面白いもの作りたいよね」と社内で話していたところ、営業担当の一人が「ネギを入れるものなんていいかも」と言ったんですよ。

その時、私自身が「欲しい!」と思えたので、絶対に商品化しようと決めました。

——具体的に、どうやって商品化を実現したのですか?

はじめは「野菜専用袋」みたいな商品名にして、玉ねぎとかニンジンとか、それぞれの野菜専用の袋があって、そのラインアップの一つにネギも入れようと考えていました。

でも、それだとインパクトが弱かったのか、企画会議で提案したところいまいちな反応で……。

私もとがった企画にしたい思いがあったので、今度はネギに特化した企画に練り直して、4種類束ねぎ専用、1本用、小ネギ用、ネギの青い部分用……と全てネギ専用の袋の中でバリエーションを作ってみました。

ターリンインターナショナル

すると、「これ面白いね」と評価してもらえて、ようやく上長からOKをもらえたんです。

——『ねぎ袋』の開発にあたって、特に苦労された点は?

サイズを決めるのに苦労しましたね。実際に袋として使いにくかったら、ユーザーをがっかりさせてしまうので。

スーパーによって、ネギの大きさや売られ方が違うので、どれくらいが最適なのか迷って……。

家の近くのスーパーを何軒も回って、実際に売られているネギのサイズを調査しました。

——ただとがっていて面白いだけでなく、ちゃんと使ってもらえるものにしたかったんですね。

はい。なので、肩ひもの長さをどうするかという点もこだわりました。ひもが長すぎると引きずってしまうし、短すぎると不便。

身長の高い人も低い人も使いやすい長さにするために、サプライヤーと打ち合わせしながらサンプルを多数作ってちょうどいい長さを探りました。類似品もなかったので、トライアンドエラーの連続でしたね。

ターリンインターナショナル

コストをかけずにできる工夫は全部やる。「妥協できないポイントは何か」を明確に

——ターリン・インターナショナルでは、どのくらいのペースでカプセルトイの新作を出しているのでしょうか?

再販アイテムを含めて、毎月8~10アイテムをリリースしています

商品企画と開発生産のメンバーがそれぞれ月2〜3個の企画を担当し、生産まで手掛けることが多いですね。

——毎月新しい商品の企画をし続けていると、アイデアが枯渇することもありそうですよね。島本さんにとって、商品を生み出すためのアイデアの源泉は何なのでしょうか?

商品につながるアイデアのタネって、何でもない日常にこそあると思うんです。

例えば、以前『ボロボロパイロン』という商品を出したのですが、これも道で汚いパイロン(カラーコーン)を見たのがきっかけで。隣にキレイなパイロンが置かれていて、その対比に「パイロンの一生」を感じたんです。

そのようなちょっとした体験が商品化につながっているので、常に周りを見たり、SNSを見たり、時には異業種の商品をして、「何か企画になるものはないか」とアンテナを張りめぐらせています。もう職業病ですね(笑)

——道端に落ちていたネギといい、ボロボロのパイロンといい、少し悲壮感があるようなものを面白く捉え直している印象を受けました。

一瞬でユーザーの心をわしづかみにするためには、かわいいだけでなく「何これ!」とか「バカだな~」とか、見ている人が興味を持ってくれたり笑ってくれたりする商品にしたいなと思っています。

ただ、とがり過ぎて残念ながらボツになってしまったものもありますよ。例えば、『藁人形の一日』という商品。

企画に落とし込むところまでいけたものの、藁人形というあまりにも闇を感じるモチーフが社内で物議をかもして、お蔵入りとなりました……。

ターリンインターナショナル

——企画がお蔵入りすることもあるということですが、カプセルトイの開発ならではの大変さを島本さんはどう感じていますか?

商品をユーザーに届けるまでの、あらゆる制約をクリアすることですね。カプセルトイは、使用する素材や製造コストなど、配慮すべき点が多いんですよ。

でも、数々の制約がある中でも最大限良いものを作りたい。

なので、一番の難関であるコストに関しては、「ここは絶対にこだわる」というポイントを絞るなどして工夫をしています。

例えば、塗装だけで言うと、猫のフィギュアとは別にえさのパーツが付属する商品の場合、猫だけでも柄や肉球、目や耳……と色を塗る箇所が多いんですよ。さらに、えさの塗装などにもこだわってしまうと、塗装だけでかなりのコストがかかってしまいます。

だから、白猫にする場合はえさを豪華にしたり、三毛猫は模様がいっぱいあるからえさの塗装をシンプルにするよう工夫したりして、ラインアップ全体でバランスを取るようにしています。

——こだわるべきポイントと、バランスを取るポイントはどのように見極めていますか?

ユーザーが喜ぶポイントは何か? というのが判断軸ですね。

やはり商品として出す以上、ユーザーが手に取った時に満足するものであるべきだと思うので。

企画者が自分の欲求を満たすために商品を作っているわけではないので、誰のための商品なのかという点は見失わないようにしています。

例えば、やむを得ずえさの塗装を減らすことはあっても、猫のかわいさを損ねてしまってはユーザーががっかりしてしまいますよね。

だから、猫好きの皆さんに「かわいい!」と喜んでいただけるクオリティーに仕上げることは最後まで妥協せずにこだわるポイントです。

——どんな商品を作るにしても、コストや納期など制約はつきものですよね。その中で「何にこだわるか」「妥協できない点は何か」を明確にするといいと。

そう思います。だから、コストを抑えて商品のクオリティーを上げる方法を試行錯誤しています。

例えば、『歩く猫』という商品では、付属のパーツ(ブロックや側溝のフタ)の塗装をすればコストがかかってしまいますが、代わりにブロックの表面の質感など造形にこだわることでクオリティーを上げることに成功しました。

ターリンインターナショナル

島本さんが企画・開発に携わった『歩く猫』。しっぽの角度や脚の動きにこだわったという

猫についても、コストがかからない範囲で試行錯誤しましたね。まっすぐでもカーブのあるしっぽでも製造コストは同じですが、ちょっと角度を変えるだけで本物の猫そっくりの仕上がりになり、ユーザーに喜ばれる商品になります。だったら、造形はとことんこだわった方がいいですよね。

あらゆる制約を考慮しつつも、工夫次第で良くできるポイントは、手を抜かずにこだわり切る。そういうバランス感覚は、大事なのかなと思いますね。

——今後、島本さんが作ってみたいカプセルトイはありますか?

具体的にコレをというものはないのですが、手に取った方に楽しんでもらえるような、気持ちが明るくなるものを引き続き作っていきたいなと思っています。最近は何かと暗いことが多い世の中ですからね。

あとは、「こんなカプセルトイがあるんだ!」と思われるような意外性のあるものを作っていきたいですね。

たくさんの人に「欲しい」と思ってもらえるような、好奇心をくすぐるアイテムを送り出していけたらうれしいです。

取材・文/於ありさ 編集/柴田捺美(編集部)