13 OCT/2017

「作り手のエゴ」は全部捨て去るべし! 漫画オタクな女性リーダーが貫く“超・ユーザー視点”/小川朋子さん

話題の“あの商品・サービス”を生み出したのはどんな人?
今をときめく!“ヒットgirl”の頭の中

働く女性たちに愛されているヒット商品やサービスを生み出した女性たちの頭の中を大解剖! 彼女たちがこれまで築いてきたキャリアや、仕事ノウハウを徹底インタビューしていきます。
話題の商品・サービスの「生みの親」「育ての親」から、ワンランク上の仕事をするためのノウハウや、モチベーション高く仕事を続けるコツを学びましょう!

今やマンガもスマホで読む時代。アプリストアを開けば、さまざまな電子書籍サービスが濫立しているが、その中で見逃せない戦略を打ち出しているのが、株式会社ブックテーブルが運営するスマートフォン専用電子マンガサイト『読書のお時間です by Ameba』だ。2013年9月よりサービス開始。会員数430万人を超える同サービスは4周年の節目を機に大幅リニューアル。女性向けマンガサイトとして独自路線を歩み始めたところだ。

その戦略の裏側にあるものとは。リニューアルの舵取り役を担ったプロデューサーの小川朋子さんに話を聞いた。

ブックテーブル

株式会社ブックテーブル
プロデューサー
小川朋子さん

2011年、株式会社サイバーエージェントに新卒入社。同社の基幹サービスであるAmeba事業に携わり、中核事業であるAmebaプラットフォームの事業責任者を担当。2017年より子会社ブックテーブルに異動し、スマートフォン専用電子マンガサイト『読書のお時間です by Ameba』のプロデューサーとして活躍中

“楽しみ”のない職場から良いサービスは生まれない

――約4カ月前に他部署から異動してきたと伺っています。小川さんがこのサービスのプロデューサーに抜擢された理由は何だったのでしょうか。

当時、『読書のお時間です』はサービス面でも組織面でも課題を抱えた状態でした。その1つが、競合サービスとの差別化です。今や、電子書籍サービスはありとあらゆるものがあって、単なるストア機能だけでは特色が出せません。そこで、もともと『読書のお時間です』のユーザーが9割以上女性だったこともあって、女性読者に特化したサービスとして打ち出していくことが決まったんです。

――ターゲットをしっかり絞り込んで再スタートを切ったということですね。

ターゲットユーザーの気持ちに寄り添ったプロダクトを提供していくためには、女性の視点が欠かせません。そこで、私の異動を機に組織も戦略も大幅に刷新。もともとは男性が多いチームだったのですが、女性主体のチームに生まれ変わりました。

――サービスの“立て直し”はプレッシャーも大きそうですが、リニューアルに取り組むにあたって最も課題だと感じたことは何でしたか?

組織面とプロダクト面、それぞれで大きな壁にぶつかりました。まず組織面の課題からお話しすると、経営陣と現場メンバーの間でコミュニケーション不足があって、お互いの価値観や認識、目指す方向性などがうまく合致していなかったこと。どちらもサービスへの情熱を持っているのに方向性が微妙にずれているように見えて、これはまずいな、と。

――具体的には、どんなことをしてそういった組織の雰囲気を変えていったのでしょうか。

「何でも本音で話せる&楽しく働ける組織づくり」「マンガ愛とサービス愛を高める」ことを大事な軸にしました。まずは、メンバーが楽しく働けるチームづくりを目的として、若いスタッフ数名の中から「活性化委員会」というものを結成しました。彼女たちにお願いしたのは、いわゆる懇親会の盛り上げ役といったことに加えて、マンガ愛を高めるためになるべくマンガにまつわるお店を選ぶなど、店選びにまでこだわりました。

実はこうした些細な部分にいかにエンタメ性を加えられるかが、チームの雰囲気づくりの上で大切だと思うんです。皆が参加するのが楽しみになるようなお店を選んだり、その場の仕切りを盛り上げたり、また、懇親会の中でもマンガサービスに携わってることが誇りに思えたり。男性だと、つい簡素になってしまうところを、女性ならではの視点や気配りを盛り込むことで、チームが明るくなることを皆で意識しました。

ブックテーブル

半年前に行ったチームキックオフ懇親会では、渋谷にある『マンガトリガー』というマンガサロンで実施し、実際にマンガ家さん達にも来てもらって作品誕生の秘話を聞いたりして、全員のマンガ愛やモチベーションを高められる良い機会になりました。

――分かります。飲み会の場所が“普通の居酒屋”ってだけで、ちょっとテンションが下がります。ワクワクしない(笑)

あとは、職場の雰囲気も和やかにしたかったので、フロアに本棚を新設して、そこにマンガを並べて「ブックカフェ」というコーナーを作ったり。チームの月初会や締め会で使用される資料も、今まで1枚のスライドにびっしり数字がつめこまれていただけだったんですけど、もっと分かりやすさにこだわって見せ方を工夫したり。当たり前ではありますが、とにかくチーム皆の意識を統一すること、同じ方向を向くためには経営陣が考えている内容や戦略などがちゃんと「伝わる」ことを第一にしています。せっかく女性中心のチームなんだし、ちょっとしたところにも「分かりやすい・見やすい」資料のホスピタリティーを加えて、皆が前向きに働ける空気をつくりたいと思ったんです。

――「楽しみ」を日頃の仕事の中に散りばめていったんですね。他に工夫したことはありますか?

ミーティングをする際は出席者全員に必ず発言してもらうことですね。そのためにもまずは自分がKYと思われるくらい、どんどん話すようにしています。リーダーが腹を割って話さないと、他の人も本音を言ってくれません。

――それでも、なかなか意見を言わない人がいる場合はどうしていたんですか?

会議の場などで発言するのが苦手な人というのは、どの職場にも必ずいますよね。そういう人の声が埋もれないようにするためには、あらかじめ議題に関する意見をシートに書いてもらうことをオススメします。それをベースにディスカッションするようにすると、全員の声を拾うことができますよ。

――そうした試行錯誤を経て、実際にチームの空気が変わり始めたのはいつ頃からですか?

2カ月くらいはかかった印象ですね。最初の頃は会議に参加しても、空気がピリピリしているのを感じていたのですが、最近はもうそういう雰囲気も一変! 和気あいあいとチームで意見交換ができるようになりました。ギスギスした空気の中からでは、絶対に良いアイデアは生まれない。皆が楽しみながら、自分らしく働けるチームづくりは、ヒット商品を生むための下支えとして絶対に欠かせないポイントだと思います。

自分の携わったサービスを、胸を張って友達に勧められなければダメ

――では、プロダクト面でぶつかった「壁」についてもお聞かせください。

まず、『読書のお時間です』としての特色を打ち出していくためにも、「小川だったらどんな機能がほしいか考えてみて」と上司から課題をもらいました。そこで、女性のユーザ目線で考えたときに、実際にマンガを読んだユーザの「このマンガはここがめっちゃ面白い」「このシーンが良い」「こういう気分の時にオススメ」というようなリアルな声がもっと出てくるようにしたいと考えました。で、そういった実際にマンガが大好きな人達の声がもっと伝わって、かついろいろなアツい声がちゃんとその日の自分の気分軸で見つけられる場をつくりたいと思いました。

マンガを読むことは好きだけどいつも「何のマンガを読めばいいかわからない」状態になりがちで。でもそういうとき、人からのオススメにすごく影響されるんです。働いているとマンガを読む時間は限られているのでマンガ選びには失敗したくない。だからこそマンガに詳しい友達からアツくオススメされると絶対読んじゃいます。あとは、泣いてスッキリしたい日は「マンガ 泣ける」で検索したり(笑)。そういう普段の私がやっていることが、『読書のお時間です』の中でそのままできればという目線で、新しく機能を追加していきました。

――ユーザー目線をとにかく徹底して考え抜いたわけですね。

ブックテーブル

はい。ただし、それがかえってネックになることも。「こんな機能があったら嬉しい」と思うものをどんどん追加していった結果、仕様が複雑過ぎて使いにくくなってしまうという問題が浮上してきました。そのことを上司から指摘されたのが、リリースの1週間前。とは言え、どの機能もチーム皆でこだわり抜いて決めたものばかりだったので、最初はどれも削りたくなくて、なかなか上司の指摘を受け入れられませんでした。

――自分がサービスをつくっている立場だと、どれも思い入れがありますもんね。

そうなんです。当事者であるがために視野が狭くなりがちなのも事実。そこで、チーム外の人にテスト画面を実際に触ってもらい、生の声を聞いてみることにしました。彼女たちの口から出てきたのは、「ちょっと複雑で、操作方法がぱっと理解できない」というリアルな反応でした。そうした声を元に、最終的にはチーム全員で話し合い、追加してきた機能を大幅に削ることを決断しました。

――作り手としては苦しい決断です。

でも、最後は皆で納得したので、すごくスッキリしました。良いサービスをつくる上では、作り手のエゴはいりません。「せっかく考えたんだし」とか「一回作っちゃったし」みたいな“ユーザーには関係ないこと”は全部捨てていかないと、どんなに想いが強くても“肝心なもの”が届けられなくなってしまう。

そして、いつもサービスをリリースする前に自分の胸に問いかけるのは「このプロダクトを胸を張って、自分の友達や家族にオススメできるかどうか」です。自分にとって身近な人に自慢したくならないようなものだったら、きっとヒットサービスにはならない。だからこそ、最後までこだわりを捨てず、少しでも気になることがあったら改善することが大事だと思います。

ヒットgirlを支えるのは、毎朝の充実した食卓

――ヒットを生むために、ご自身が個人レベルでやっていることはありますか?

情報収集は欠かさずやっていますね。Twitter、Facebook、Instagramはもちろんのこと、いろいろなニュースメディアやキュレーションメディアを小まめにチェックして。Twitterもタイムラインをぼんやり見るのではなくて、「トレンド」を見て、今何が話題になっているのか押さえるようにしています。あとは『App Store』のランキングチェックも毎日しています。どうしてこのアプリが上位に来ているのか、実際に使ってみたりユーザレビューなどを見て、ユーザにウケているポイントを分析するようにしています。

――いつもお仕事について考えている感じですね(笑)

そうですね(笑)。でも、辛いことや悩むことはいっぱいあるんですけど、そんな日はとにかく早く寝てリフレッシュします! 昔から、寝たら嫌なことは忘れるタイプです(笑)。そういう意味では、得な性格なのかも。あと、落ち込んでいるときはギャグ系のマンガを読んで笑ってすっきりします。

――「楽しみ」や「ポジティブさ」をとても大事にしていらっしゃるように感じます。そういったマインドを保つ秘訣はなんですか?

ブックテーブル

まずは健康な体を維持することですね。そうじゃなければ気持ちも明るくなりませんから。健康維持という点で意識しているのは、絶対に朝ご飯を欠かさないこと。どんなに忙しくても、お気に入りのパン屋さんで買ったパンにフルーツを添えて、モリモリ食べます。多くの人にとっては、出社前の朝の時間は何となく憂鬱で、忙しない時間かもしれません。でも、楽しみな朝ごはん一つあるだけで、起きるのが楽しみになったり、会社に行く足が軽くなったりするものです。

――ここでも、自ら「楽しみ」を仕掛けているわけですね。

そうみたいです。改めて言いますが、人が最高のパフォーマンスを上げるにはやっぱり「楽しみ」がないと! そして、「楽しみ」というものは自分の意識や工夫次第でいくらでも日々の仕事や暮らしの中に散りばめていけるものです。そうやって、自分自身やチームをワクワクさせて、最高のサービスを世の中に発信していけたらと思います。

取材・文/横川良明 撮影/栗原千明(編集部)