女性は男性より交渉上手!? プロが教える会社や家庭で役立つ交渉術
給与・待遇・職務内容・家庭での役割分担――。「交渉」というと、自らの主張を押し通し、相手を言いくるめた者が勝つというイメージが強いのではないだろうか。そのため、交渉するという行為に苦手意識を抱いている女性は多い。しかしながら、人の意見に合わせてばかりいたり、常に妥協してばかりいるような人生は、きっと面白くない。
そこで、11月8日(日)に慶應義塾大学にて行われた女性らしさを生かした協調型の交渉術を学べる講演、『Women Negotiating ~NOから始まる女性の交渉~』(主催:ちゃぶ台返し女子アクション実行委員会)の内容をレポートする。同講演では、ヨーロッパを中心に15年間交渉アドバイザーとしてキャリアを積んできたマレーネ・リックスさんが登壇。マレーネさんの出身地であるデンマーク流の「交渉」に対する考え方や、交渉術を教えてくれた。
女性は職場や家庭において毎日交渉を重ねている
マレーネさんの講演は、「交渉」とは何かを定義することから始まった。まず、多くの女性たちが、交渉を「相手に対して自分の意見を押し通すものだ」と誤解しているという。
「例えば、ケーキがあったとしますね。それを誰かと分けて食べるとき、全員分をきっちり同じサイズで分けることだけが公平というわけではありません。『あなたは今お腹が空いている?』、『もっと欲しい?』、『少なくていい?』……こういった対話を通じ、それぞれがその時に一番満足のいくサイズのケーキを自分のものにできるように調整する。これこそが交渉であり、お互いが最大のメリットを得られるプロセスです。『自分には交渉なんてできない』と考えている女性も多いかもしれませんが、それは違います。私たちは毎日、こうやって職場や家庭において交渉を重ねているはずなのです」
つまり、マレーネさんの考える交渉とは、どちらか片方が一方的に意見を押し付けたり、損をこうむるものではない。その時々で、お互いにとって最も「公平」な状態を目指して行われるべき対話なのだ。
また、女性が交渉を苦手だと感じてしまう理由の一つとして、「相手に『NO』と言われることを必要以上に怖がってしまうから」と話すマレーネさん。特に日本社会においては、相手の気持ちを察して自分の行動を決めたり、相手を立てて自分は控えめにすることが美徳とされているため、「NO」と言われることに免疫のない女性が多い。
マレーネさんは「相手からの『NO』を変に避ける必要はなく、交渉のスタート地点に立っただけだと思えばいいんです」と指摘する。
「世界の多くの文化において、女性は良い聞き手となり、他人に対して目配りをするようにと育てられてきました。聞くことと目配りすることは、協調をベースとした交渉における武器だといえます。ただし、女性は協調性に富んでいるあまり、男性ほど要求に対して固執することができず、すぐに譲歩してしまいます。交渉においては、自分の要求を明確にしつつ、柔軟に相手と話し合い協調するという姿勢がとても大事です」
交渉をうまく運ぶためにおさえるべきポイント3つ
では、交渉をうまく運ぶためのコツはあるのだろうか。マレーネさんは交渉に役立つ3つのポイントを紹介してくれた。
ポイント1
「質問」を効果的に使って相手と対等な立場を築く
「まず、まともに交渉を進めるためには、相手と対等な立場で交渉ができる土壌を築く必要があります」とマレーネさん。相手に一方的に意見をぶつけられたりしたとき、黙っているだけでは対等な立場には立てない。自分の貫きたい意志を守りつつ、相手の考え方をしっかり把握できるように、「では、私は何をすればよいですか?」、「あなたに必要なことは何ですか?」など、質問をしていくといいそうだ。
また、交渉で感情的になるのは禁物。どうしたら相手が「YES」と言ってくれるか、対話を通じて丁寧にひも解いていこう。
ポイント2
各種ツールを駆使して最適な伝え方を探す
「メール、電話、対面、それぞれのメリットを活かし、使えるツールを存分に駆使して自分の意見を伝えるようにしましょう。交渉はいつでも対面で行わなければいけないものでもありません。メールの方が効果的なときもあるし、時には誰かを仲介して自分の意思を伝えた方がいい場合もあります」
建設的に用件を伝えたいときや、相手の感情に振り回されたくないときはメールで。きちんと細かいニュアンスが伝わるようにしたいときは電話や対面で。必ずしも「対面ではっきり物を伝えなければダメだ」と思い込まず、その時々でふさわしいツールを使って交渉を進める方がいい。
ポイント3
結果を急がず「休憩」を挟む
仕事上のことでも家庭のことでも、「交渉は時間がかかるもの」とマレーネさんは断言する。違う価値観や考えを持った人間同士が折り合いを付けるのは、どのような局面においてもそう簡単なことではない。
「自分と相手の譲れないものが何なのかをお互いにさらけ出して交渉を続けても、全く折り合いがつかないという場合もあります。でも、それはそれで普通のこと。結果を急がずに一息ついて、『一度休憩を挟み、考えを整理する時間を持ちませんか』とあなたから提案するのも一つの手です」
お互いの言い分がぶつかって場が硬直してしまったときは、「交渉のペース」を変えたり、「自分の考えを伝えるツール」を変えてみたり、自ら変化を生み出すことで状況が変わることもあるそうだ。
仕事も家庭も、自分の意思を頑なに貫くだけではうまくいかない。マレーネさんが教えてくれたような「交渉」をうまく自分のものにできれば、今後の仕事人生はより豊かなものになっていきそうだ。
取材・文/朝倉真弓 画像提供/ちゃぶ台返し女子アクション実行委員会