美容師から建設業界の作業員へ。働きやすさ重視で選んだ仕事を楽しむための心掛け「現場の雰囲気は自分でつくれる」
建設現場で足場を組む作業員として働く宇田川澪香さん(24歳)は、かつて美容院でアシスタントをしていた。
美容師になるのはかねてからの夢だったが、働き方が合わずに体調を崩し、転職することに。

株式会社東京BK足場
積算アシスタント 宇田川澪香さん
美容専門学校を卒業後、美容院に就職。美容師のアシスタントとして3年勤務した後、体調を崩し退職することに。2021年に株式会社東京BK足場に転職し、積算アシスタントとして住宅の外装リフォームに伴う足場の設計・設営や事務作業を担当する
美容業界から建設業界へ。全くの異業種への転職だが、現在の職場にたどり着いた理由を「働きやすさを重視した結果」だと宇田川さんは言う。
だが、働き始めてからは、みるみるうちに「仕事が楽しくなった」と話す。
夢だった美容師として働くことをあきらめた彼女が、新しい業界・職場で仕事を楽しめるようになった理由は一体何なのだろうか。
食事もまともにとれない…長時間労働でボロボロになった美容師時代
幼い頃から美容師になることに憧れていた宇田川さん。美容専門学校を卒業し、美容師アシスタントとして働き始めた。
しかし、待ち受けていたのは厳しい現実。長時間労働の中で不規則な生活を続けたことが原因で、体調不良が続くようになった。
「アシスタントとして3年働きましたが、食事もまともにとれない環境だったので、健康状態はボロボロに。これ以上続けるのはまずいと思って、美容師を辞めることにしました」
転職を決意した際、「美容系の仕事に就くことは一切考えなかった」という。
「まずは体調を優先しようと思ったので、ワークライフバランスが整いやすい仕事はないか探しました。
ただ、美容師の仕事が嫌いになったわけではないので、当時は『将来的にまたやりたくなったら資格を生かしてチャレンジしよう』と思っていたんです」

「働きやすさ」を一番の条件に転職先を探した結果、出会ったのが現在宇田川さんが在籍している東京BK足場。建築現場で用いる足場の製造・設置作業などを行う企業だ。
「年間休日の日数も給与も前職より良くて、しかも自宅からも通いやすい。無理なく働ける仕事であれば業界にこだわりはなかったので、条件だけを見て『この会社いいな』と思いました」
初めての転職、しかも異業種へのチャレンジに「不安はなかった」という。
「建設業界は仕事がきついと言われがちですよね。でも、私は親戚に大工さんがいるので建設業には親しみがあったんです。
強いて言えば、私以外に女性がいないのでは……という不安はちょっとだけありました。でも、面接で採用担当の方にお話を伺う中で若い女性のスタッフが働いていることが分かって安心できました」
「足場が組みあがるとうれしい」適度に体を動かし、すっかり健康に
東京BK足場へ入社した宇田川さんが担当することになったのは、積算アシスタントというポジション。
建設現場の高所作業時に職人たちが使う「足場」を設置するための見積書や設計図面の作成のほか、実際に足場を組み立てる作業も行っている。
「求人に『アシスタント』と書いてあったので事務系の仕事だと思ったのですが、事務作業だけでなく、実際に現場に出て作業することも多いんです。
でも、私にはそっちの方が向いているみたい。適度に体を動かしているからか、すっかり健康になりました(笑)」

建設現場の作業では、重い建材を持ち上げるなど力作業も必要だ。体調を崩していた宇田川さんには肉体的な負担が大きいのではないか。
そう問い掛けると、「それが、全然大変じゃないんですよね」とあっけらかんと笑う。
「東京BK足場が提供している足場は特別軽い素材でできているので、力に自信がない人でも持ち運びできるんです」
現場の仕事は先輩の仕事を見ながら習得。足場の下に泥よけ用のシートを敷いたり、現場の片付けをしたり、できることからスタートして少しずつ業務範囲を広げていった。
「入社から1年たつ頃には、大体の仕事は理解できるようになりました。仲間と協力して足場が組み上がった時は、やりがいを感じましたね」
足場の図面作成にはCAD(キャド)と呼ばれるツールを使う。転職するまでは全く触ったことがなかったというが、「素人でも操作しやすい設定になっているんです」と教えてくれた。
「足場の組み方によって、その後の建設作業の効率も変わってきます。さらに物件のリフォームの場合は、すでに建物がある状態の敷地に足場を組むことになるので新築の現場と比べて制約が多い。
難しさはありますが、うまく設計できたときはすごく達成感がありますね。自分の設計した図面に沿って足場が出来上がっていくのを見るのはうれしいです」

仕事を楽しむための、シンプルな心掛け
当初は「働きやすさ」を重視して転職先を選んだと言うが、今の宇田川さんの話からは仕事を楽しんでいる様子が伝わってくる。
仕事を楽しめるようになった理由を聞くと、宇田川さんが日々大切にしている心掛けを教えてくれた。
「基本的なことですが、現場に入った時の最初のあいさつをしっかりすること。これを大切にしています。
現場にはさまざまな職人さんがいますし、ほとんどが私よりも年齢も経験も上の人ばかりです。技術や知識ではかないませんが、あいさつなら私にもできますから(笑)
元気よく声を出すと、それだけで現場の空気がふっと和むんです。すると、その後の仕事もスムーズに進むようになるんですよ」
職人の世界というイメージもある建設現場。自分の居場所をつくるためにも、「自分から積極的にコミュニケーションを取るのが大切」だと宇田川さんは続ける。

「現場にはベテランの職人さんも多くて一見こわそうな人もいますが、実際に話してみると皆さんすごく優しいんですよ。
だから、勝手に相手のことを決めつけずに自分から話し掛けて、一緒に働く仲間のことをよく知るようにしているんです。
そうすることで、自分だけでなく現場のみんなにとっても楽しい現場になったらいいな、と思っています」
美容院で接客をしていた頃と比べても、「今の方が人と関わることが楽しい」と宇田川さんは続ける。
「美容室で働いていた頃は、相手がお客さんなのでどうしても気を使ってしまって、心から会話を楽しめないこともあったんです。
でも今は、現場の仲間であり、一緒に頑張るパートナーの人たちが相手。素の自分のままで会話できて、すごく楽しいし、人と関わる楽しさを味わいながら自分自身も少しずつ成長している実感があります」
仲間と働く中で見付けた新しい目標。「この会社で、頼られる人になる」
現在、宇田川さんは女性のみで構成された足場の設営・解体チームに在籍している。
「約1年前に女性チームが立ち上がり、私もそのメンバーとなりました。皆でわいわい話すのも、チームで協力して現場の作業を進めていくのも楽しくて、仕事へのモチベーションがさらに上がりましたね。
仲間と一緒に働くスタイルが、自分にはぴったりなんだなって思いました」

東京BK足場で積算アシスタントとして働く女性の多くは業界未経験者。写真左の桂 幸実さん(25歳)も、前職はホテルフロントの受付業務と全くの異業界出身だ
「取りあえず体調を優先に」と考えて転職した宇田川さんだが、今では「この仕事を⻑く続けたい」と考えているという。
「もっとできる仕事を増やして、現場で活躍できるようになりたいですね。育児と仕事を両立しながら働いている女性社員もいますし、ここでなら長く働けると思うんです」
入社して3年目の今は、目指すべき姿も見えてきた。
「女性チームのリーダーは私と同じ24歳なのですが、仕事が速く、みんなに頼られる存在でかっこいいんです。
彼女を見ていると、私ももっと周囲に貢献したいと思います。今は、『宇田川さんにこの仕事をお願いしたい』と、名指しで頼ってもらえるような存在になることが目標ですね」
新しい目標を見付けた宇田川さんの表情は明るい。きっとこれからも、自分らしく「仕事を楽しめる環境」をつくりながら、夢をかなえていくはずだ。
取材/秋元 祐香里(編集部) 文/上野 真理子 撮影/赤松洋太