【獣医師×ライター】パラレルキャリアも世界一周旅行も! “臆病で堅実”だからこそ踏み出せた一歩

「やりたい」を欲張ろう!
会社員のパラレルキャリアライフ

新しいことを始めたい。別の環境に身を置いてみたい。でも、今の仕事を辞めたいわけではない……。そんな時、選択肢の一つになり得るのが「パラレルキャリア」。会社員としての本業を持ちながら、それ以外の活動をやる。それは一体どんな人生なのだろう。

班目美紀

班目美紀さん(@madara_152
獣医学部卒業後、動物病院に獣医師として就職。3年ほど働いた後、女性向けキャリアスクールに通い、獣医師として働く傍らライターのキャリアをスタート。現在は、週4日獣医師、週3日ライターのパラレルキャリアライフを送る。2023年7月、獣医師の仕事は辞めずに数カ月の休暇を取得し、世界一周旅行へ出発予定

「獣医師の仕事もライターの仕事もとにかく好きなだけ。相乗効果は期待していないんです」

そう笑顔で話す班目美紀さんは、週4日獣医師として動物病院に勤務。残る週3日はインタビューライターとしての仕事に時間を当て、パラレルキャリアライフを送っている。

さらに今夏から、会社員のまま世界一周旅行に出るというアクティブっぷり。

一見自由奔放そうに見える班目さんだが、意外にも「私は臆病だし、石橋をたたいて渡るタイプなんです」と話す。では、なぜやりたいことに臆せずチャレンジできるのだろう。

獣医師も楽しい。ライターも好き。だから道を絞らなかった

新卒で選んだ仕事は、長年の夢だった動物病院の獣医師。ペットにまつわるメディアも運営している会社に入社しました。

というのも、ライターや編集の仕事にも以前から興味があって。「獣医師が合わなかったら、そのメディアに編集として携わるのもいいかも」と思い、今の会社を選んだんです。逃げ道があるだけで、安心できるんじゃないかなと思ったので。

いざ始めてみると、獣医師の仕事は自分が想像していた以上に楽しくて。時にはいっぱいいっぱいになることもあるけれど、動物や飼い主さんと過ごす時間も好きだし、仕事は充実していました。

班目美紀

ただ、就職してから3年ほどたったある日、ふと「今ならどんな症例の患者さんが来ても、診断と治療について最適解が出せるな」と気付いたんです。

その時に「じゃあ次は何をしようか」と考えて、学生時代に漠然と憧れていた「文章を書くことを仕事としてやりたい」と思い立ちました。

そこで、獣医師の仕事も、文章を書くことも、どっちも好きだから、どっちもやっちゃおう。そんなシンプルな思いつきから、パラレルキャリアをスタートしました。

獣医師とライター、どちらもあることで余裕が生まれた

ライターの仕事を始めるにあたって、ライター講座を受けられる女性向けのキャリアスクールに通いました。

そこで、いろいろなライターの仕事があることを知ったのですが、中でも人の暮らし方や働き方を深ぼっていくインタビューライターに興味を持ちました。

班目美紀

獣医師の仕事の中でも飼い主さんとコミュニケーションを取ることが好きですし、人と関わることが好き。

だから、自分のやりたいことがインタビューライターだと見えてきたタイミングで、スクールに通いながら「ここで書きたい!」と思ったメディアへの問い合わせも始めました。

でも、現実はなかなか厳しく、最初は「今はライターさんは足りているので」って断られてしまうことも多くて。「書きたいな」と思いつつも、「必要とされていないな」とへこんでしまう日々が続きました。

結局、最初の問い合わせから2~3カ月後、あるメディアの代表から「ライターさんの空きが出たのですが、書きませんか?」とご連絡をいただいて。

半年ほど前から、本格的にインタビューライターとしての仕事を始めました。

スケジュール

勤めている会社の勤務形態が変形労働制のため、1日10時間勤務×週4日というスタイル。残業は1日1時間程度なので、働きやすい環境だそう。お休みの3日のうち15時間程度はライターとして稼働。「獣医師の仕事は命を預かっているため、本業に支障が出ないよう、曜日でくっきり分けながら気を付けてスケジューリングしています。無理な納期のライティング依頼は受けないようにしています」(班目さん)

パラレルキャリアというと、「二つの仕事で相乗効果を生み出せたら……」と考える人も多いようですが、私の場合、そういうものは全く期待せずに、獣医とライターの仕事の両立を始めました。

ただ単に、両方好きだからやってみるというだけ。でも、いざパラレルキャリアを始めてみると、メリットに感じることもたくさんありますね。

一番大きなメリットは「私の道はこれしかない」と根詰めて考えなくていいということ。

獣医師免許を持つほとんどの人は、獣医師の仕事に専念し、獣医師としてどのようにキャリアを歩むかを考えると思います。

でも、ライターとしていろんな人たちの話を聞き、視野を広げたことによって、獣医師である以前に「私自身は何をやりたいのか」を考えられるようになりました。

それにどんな仕事にも波はあるので、獣医師の仕事で落ち込むことがあっても「私にはライターの仕事もある」と思えるし、逆にライターの仕事がうまくいかなくて「私向いていないな、しんどいな」と感じるときも、「獣医師の仕事もあるし、明日も動物病院で癒やされるぞ」と思えるんです。

獣医師とライター、両方の仕事があることで、気持ち的に余裕が生まれたことは大きなメリットだと思います。

また、会社員を続けているから収入も安定しているので、ライティングを趣味の延長で楽しめるのもパラレルキャリアならではのメリット。

ライターを本業にしてしまっていたら、生計を立てなければならないひっ迫感で、せっかく好きだったインタビューライターの仕事も、もしかしたら嫌いになってしまっていたかもしれません。

班目美紀

「石橋をたたいて渡る」性格が、挑戦するときの武器に

今、パラレルキャリアとは別に、実はもう一つ、チャレンジしたいことがあって。それは、「世界一周旅行」。

2カ月ほど会社から休暇をいただいて、今年の7月に出発する予定です。旅先で現地に住む人にインタビューしながら、ゆっくり今後の働き方を考えていけたらなと思っています。

こうやって話すと、自由奔放にやりたいことをやっているように感じるかもしれません。でも私はもともとすごく臆病で堅実。石橋をたたいて渡るタイプの性格です。

なぜそんな私が自由にやりたいことをできているかというと、やっぱり、獣医師としての仕事があるからこそだと思います。

国家資格を取得し、3年間獣医師の仕事に集中して「働く人」としての土台をつくったからこそ、今はやりたいことにも臆することなく、挑戦できている。

獣医師として確かな足場を築いているので、失敗したら戻ればいいと思えますが、本業がおろそかになってしまったら、戻ってくることもできませんから。

班目美紀

今思えば、目先のやりたいこと、楽しいことにすぐに飛びつかず、土台を築くことのみに集中していた最初の3年が一番きつかったかもしれません(笑)

でも、その3年があったから、「やりたいことをがまんせずに何でもやっちゃおう」と思える今の自分がいると自信を持って言えます。

また、会社を休職して世界一周旅行に行きたいと上司に相談したときに「いいじゃん!」と快く背中を押してもらえたのは、本業でしっかり信頼関係を築けていたからこそかなと。

そう気付くきっかけにもなって、「しっかりと地に足つけて、獣医師の仕事をやってきてよかった」と思えました。

パラレルキャリアも世界一周旅行も、「もしかしたらできるかも」と思いながら「結局勇気が出なくてやらなかったな」なんて思いながら死ぬのは絶対嫌なんです(笑)。だからこそ、できるときに全部やりたい。

臆病で堅実な性格だから、いつでも自分が立ち返れるしっかりした土台をつくれたり、複数のことに取り組んで心の余裕をつくったりすることができた。

つまりこの性格は、新しいチャレンジをする上で武器になっているんじゃないかな、って今は思いますね。

班目美紀

ライターとしていろいろな人と出会うことで、働き方や生き方の選択肢は無限に広がっていて、何を選択してどう生きてもいいんだなと感じられるようになりました。

これは、病院で働いているだけだったら得られなかった考え方かもしれません。 選択肢が増えたことで、より自由に生きられるようになったんです。

これからも「やりたい!」と思ったことには、果敢に飛び込んでいきたいですね。

取材・文/於ありさ 撮影・編集/光谷麻里(編集部)