エンジニアから営業職へ。20代で見つけた「自分らしい手に職」でかなえた育休後の理想的な働き方【サイボウズ 渡會さくらさん】

「女性が時短勤務」だけじゃない。
変わる、育休後の働き方

コロナ禍以降に浸透した時間・場所にとらわれない働き方や、国が力を入れて取り組んでいる男性育休の取得促進によって、育休復帰後の女性の働き方が多様化している。「女性が時短勤務をする」以外に今はどんな選択肢が生まれているのか、識者・経験者が語る実例を通して紹介しよう

「長い目でキャリアを考えたときに、私にとっては育休後が仕事にアクセルを踏みたいタイミングだったんです」

そう語るのは、ソフトウエア開発会社のサイボウズで、法人営業として働く渡會さくらさん。

サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社
営業本部 エンタープライズ営業部
渡會さくら(わたらい・さくら)さん

通信系SIerに新卒入社し、エンジニアとしてシステム開発に従事。3年目で営業企画に異動し、営業組織における業務BPRを担当。その後、2018年にサイボウズに営業として入社。20年11月に産休・育休を取得し、22年4月から復職

以前は通信会社でエンジニアとして働いていたが、自分らしい働き方を求めて転職し、サイボウズではフルリモート・フルフレックスの働き方を選択。

転職後に第一子を出産し、育休を取得してからフルタイムで仕事に復帰した。

「育休復帰直後からフルタイムで思い切り働けるサイボウズの環境と出会えたのは、自分にとって理想的な環境を選べる『仕事スキル』を20代のうちに磨いておけたことが大きかったと思います」(渡會さん)

そう振り返る彼女に、育休後すぐに仕事に全力投球する働き方を選んだ理由を聞いた。

育児に専念する一年半を過ごしたから、アクセル全開で仕事がしたかった

――渡會さんは昨年フルタイムで育休から復帰されたそうですが、現在はどのようなお仕事をしていますか?

サイボウズが開発している、組織のコミュニケーションや情報共有を活性化させるツールを企業に提案する営業職として働いています。

当社の製品を導入していただいて、コミュニケーションを円滑にすることで、業務効率化のお手伝いをすることがミッションです。

サイボウズ株式会社 渡會さくらさん

――なぜフルタイムで復帰しようと思われたのでしょうか?

長期的な視点でキャリアを考えてみると、バリバリと仕事に打ち込む時期があったり、家庭に軸足を置く期間があったりと、緩急があるものですよね。

私は一年半ほど産休・育休を取っていて、その期間は家庭に軸足を置いていたので、育休明けは思い切り仕事にアクセルを踏みたかったんです。

というのも、復職したタイミングがちょうどコロナ禍で、弊社を含めIT業界全体の売り上げが非常に伸びている時でした。

勢いに乗っているサービスを盛り上げていくフェーズで得られる、成長の機会を逃したくない。

そんな思いも重なり、フルタイムでの復帰を希望しました。

――フルタイムで復帰することについて、夫婦で話し合いはしましたか?

育休中から、「復職したら、思い切り仕事がしたい」という話をしていましたし、夫自身「育児の時間も大切にしたい」という考えだったので、私の選択についても応援してくれました。

夫もIT業界で働いていますが、私と同じようにフルフレックスで、リモートワークが中心だったため、家事・育児を臨機応変に分担できたことも大きかったと思います。

――育休復帰後すぐにフルタイムで働くことに対して不安はありませんでしたか?

ありましたね。営業職は社外のお客さまと接するお仕事なので、ハンドリングできない部分が多いのではないかと。

でもやってみると、意外に育児と両立しやすい仕事なんだなと感じました。

時間の使い方は任されているので、お客さまとのアポイントも対応しやすい時間に調整できますし、メールの返信も子どもの寝かしつけ後にできますしね。

やってみて無理だったら時短勤務に変更することも考えていたんですが、「これならやっていけそうだ」と思い、現在まで1年ほどフルタイム勤務を続けています。

家族も職場の同僚も「チームメイト」。遠慮せずに頼ればいい

――慣れない育児をする中でのフルタイム勤務となると、大変な面もあったのではないでしょうか?

サイボウズ株式会社 渡會さくらさん

フルリモート、フルフレックスの働き方だったので両立はしやすかったのですが、それでも時間に追われることはしばしばありましたね。

急な問い合わせやトラブルなど、限られた時間の中で突発的な対応を行わなければならないケースも多いため、子どもを寝かしつけた後にやるなど、時間のやりくりには苦戦しました。

――調整が難しいケースもあると思いますが、どのように対応していますか?

家族にも職場のメンバーにも、状況をしっかり伝えて頼っています。

夫にも普段から仕事の話はしていて、小さなことでも話すようにしています。

そうすることでイレギュラーな事象が起きても「今こういう状況だから、今夜は夕飯の準備お願い!」「今日は保育園のお迎え担当変わってほしい!」と頼りやすくなりますし、状況も理解してもらいやすいんですよね。

これは職場においても同じ。サイボウズには日報や「つぶやきの文化」があって、自分の状況を発信しやすいんです。

「子どもの面倒を見るので一時間離れます」「ちょっと用事があるので抜けます」なんていう情報発信を皆がしていて、男性社員でも「保育園のお迎えがあるので、17時半以降の打ち合わせには出られません」とスケジュールに書いている人もめずらしくありません。

皆がお互いさまと考えているので、自然とチームメンバーで助け合える風土が醸成されていて、これにはとても助けられています。

家庭も職場もチームでやる。これが両立の秘訣かもしれません。

――つい、「頼るのは申し訳ない」と考えてしまう人も多いですが、チームで助け合うのが当たり前という考え方であれば、気持ちが楽になりますね。

実は私の部署では、育休から復帰した女性社員がまだ私以外いないのですが、結婚している女性のメンバーは多いので、申し訳なさそうにしている背中は見せたくなくて。

後に続く女性社員たちが育児と両立しながら働きやすい風土をつくることも、私の大切な役割だと考えています。

育休後の「自分らしい働き方」をかなえるカギは、20代で磨く仕事スキルにあり

――渡會さんが、育休後に自分らしい働き方を見付けられたのはなぜだと思いますか?

サイボウズ株式会社 渡會さくらさん

長期視点でキャリアを捉えていたからかもしれません。

何十年と働き続けていく上で、「この時期は家庭・育児に時間を取りたい」「この時期は仕事に軸足を置きたい」と長い目でプランニングしていたので、あらかじめ夫と話し合い、準備ができたのかなと思います。

前職時代、同僚が「昇格試験を受けたいから、子どもはあと1年待たないと」と話しているのを聞いた時、会社が決めたレールに乗ることで自分のプライベートの選択肢が狭まってしまうことに、違和感を覚えたんです。

これって短期的な目線でのプランニングだと思うんですよね。

会社に自分の人生を合わせるよりも、自分はどう生きたいのかをベースに考えて設計していった方がいいなって。

――ライフイベントが仕事に影響しやすい女性だと特に、会社の制度に当てはめて人生設計をしてしまいそうですね。

そうなんですよね。でも、自分がどう生きたいかをベースに考えられると、自分らしい選択ができると思います。

また、私が「育休後は仕事にアクセルを踏みたい」という思いを実現できたのには、フルリモート・フルフレックスの勤務形態であったことも大きい要因だと思っています。この環境を選べたことは幸運でしたね。

――渡會さんが理想の働き方ができる環境を選択できたのは、なぜだったのでしょうか?

自分がやりたい仕事、理想の環境を選べるように、20代のうちに経験を積んでおけたからではないかと考えています

私のファーストキャリアはシステム開発を手掛けるエンジニアでした。

エンジニアの仕事もやりがいはあったのですが、お客さまがどんな風にシステムを使ってくれているのかが見えにくく、次はよりエンドユーザーの顔が見える仕事がしたいという思いから営業企画への異動を希望しました。

そこで経験を積むうちに、今度は「自分が心から良いと思うサービスを自ら提案する仕事にチャレンジしたい」という思いが強まり、サイボウズの営業職への転職を決めました。

やっぱり、やっていて楽しい仕事の方がパフォーマンスは上がります

20代の頃に試行錯誤しながら、やりたい・頑張りたいと思えることを仕事にできたことが、育休後も理想的な仕事や環境を選べるくらいのスキルの習得につながったのではないかと思います。

――「好きこそものの上手なれ」ですね。

サイボウズ株式会社 渡會さくらさん

そうですね。私のファーストキャリアであるシステムエンジニアの方が「手に職を付けられる」イメージがあると思いますが、私はお客さまとコミュニケーションを取る仕事の方が価値を発揮できるタイプだと気付くことができました。

育休から復帰した今、フルフレックス・在宅勤務の理想的な環境で営業の仕事を楽しめているのは、20代の頃に自分の本心と向き合い、環境を変えるために行動したことが大きいかな、と思っています。

今の会社でも、自分から積極的に手を挙げないとやりたい仕事は回ってこないので、「自分はこういうことをやりたい」と常に発信をする意思表明はすごく大事だと感じています。

例えば、毎年行われている会社のイベントで、私が担当しているお客さまと一緒に登壇させていただく機会がありました。

こういった機会も、もし自ら「チャレンジしたい!」と意思表示していなければ、きっと巡ってこなかったと思います。

チャンスを逃さないためにも、積極的に伝えるように心掛けています。

――「今は仕事をバリバリ頑張りたい」というお話でしたが、今後はどのように働いていきたいと思っていますか?

復帰して最初の2、3年はアクセルを踏んでいきたいと考えていますが、たとえば子どもが小学校に入学した後など、子育てに軸足を置きたくなってアクセルを緩める選択をしたとしても、会社に価値提供ができる人材になっていたいと思っています。

そのためのスキルや経験を、アクセル全開の今のタイミングでキャッチアップしていきたいですし、家と仕事の両立を意識したキャリア計画を立てていきたいですね。

あとは、私のように育休後にフルタイムで復帰したい人も、時短勤務で復帰したい人も、自分らしい働き方を選択できる環境をつくっていきたいと思っています。

皆が自分らしい選択ができて、その選択をお互いに認め合える環境がつくれたら、理想的ですね。

取材・文/キャベトンコ 編集/光谷麻里