元バンダイ執行役員が49歳で起業「定年後も働き続けるための手段と、昔の夢が噛み合った」/村瀬和絵
人生100年時代。年齢や常識に縛られず、チャレンジを続ける先輩女性たちの姿から、自分らしく働き続ける秘訣を学ぼう
そのヒットの立役者が、今回登場する村瀬和絵さん。大手おもちゃメーカー・バンダイの執行役員から、49歳で起業して新たなチャレンジを始めた。
約30年勤めた会社を辞め、身一つで独立。それができたのは、会社員として長く勤めた経験があってこそだと教えてくれた。

株式会社FUNDARD 代表取締役 村瀬和絵さん
2000年、株式会社バンダイに入社。企画・製造・マーケティングに従事し、女児向け玩具、幼児向け玩具などを数多く担当。04年発売『たまごっちプラス』の企画・マーケティングを担当しメガヒットとなる。16年同社執行役員に就任。22年同社を退職し、株式会社FUNDARDを設立。似顔絵ぬいぐるみ『じぶんぐるみ』事業を手掛ける ■Instagram/Twitter/HP
定年で「働くこと」が終わるのが怖かった
私は22年に27年間勤めたバンダイを退職し、起業しました。
自分のお店や会社を持つのは、20代の頃からのぼんやりした夢。ただ、バンダイの仕事は楽しかったですし、執行役員にもなり、充実していて。
だからこれまで、起業しようなんて考えたことはなかったんです。
転機となったのは、コロナ禍。急に自宅待機になり、考える時間ができたことで、かつての夢を思い出しました。
加えて、当時の私は48歳。役職定年となる55歳を目前に、今後について考える時期でもあったんです。
中には定年まで勤め上げてお金を貯め、その後の人生を自由に生きる人もいます。それもありかなとは思ったんですけど、私は新卒で就職した当時から長く働きたいと思っていて。
だから、働くことが終わってしまうのが怖かったんですよね。

55歳まで会社に残り、そこから起業する選択肢もありましたが、体力を考えたら元気なうちにやった方がいい。
そうやって次の仕事を軌道に乗せることができれば、ひょっとしたら90歳ぐらいまで働けるかもしれません。
そう考えて、50歳を目前に起業という道を選びました。「何をやるか」の前に、「起業しよう」が先にあったんです。
「長く働き続けるために何をすべきか」を考えた結果と、昔の夢が噛み合ったイメージですね。
それに、20代の頃は会社を辞めて独立する踏ん切りはつかなかったけど、今回は「自分が始めた事業が伸びると信じよう」と思えましたし、長く働いた分だけ当時よりはお金に余裕もできました。
ふとマイナスなことを考えちゃうこともあるけど、今だから比較的前向きに考えられているような気がしますね。
『じぶんぐるみ』誕生の背景にある、大量生産への違和感
そうして起業を決め、始めたのが『じぶんぐるみ』です。
じぶんぐるみは、お客さまがWebサイト上で目や鼻などのパーツを組み合わせ、それを元に人型のぬいぐるみを作ることができるサービス。
前職では送別会などでプレゼントを送る際、その人が担当した商品の特別バージョンを作ることがあって。
他にはないオリジナルのものをもらった喜びがあり、それがアイデアの基になりました。
また、子どもを見ていると、おもちゃをもらった瞬間は宝物を手に入れたように喜んでいるのに、しばらくたつと部屋の片隅に放置されている、みたいなことがあって。
そんな状況に対して、「ずっと大事にしてもらえるおもちゃを作りたい」という思いが根底にあります。

334億以上の組み合わせから、自分だけのオリジナルのぬいぐるみを作ることができる(参考)
同時に、大企業でおもちゃを作る中で感じていた違和感を解消したい思いもありました。
大企業は大量生産が基本です。それによる良さもあると割り切っていた一方、大量に作るための企画をしなければばらない点に違和感があったんです。
新商品を考える際の条件に「大量生産」があったことが、自分の志向と違ってきたように感じていました。何のために作っているのか、考えてしまうこともあって。
また、企業規模が大きく流通機能がしっかりしている分、おもちゃがお客さまの手に渡った後の実態が見えにくい面もありました。
店頭に行けばお客さまの反応は多少見られますが、誰が買っているのか、お客さま一人一人の顔までは分からない。
そういう中で仕事をしていて、自分の「作りたい」という気持ちが、必ずしも心の底から満たされるわけではないことを感じていたのだと思います。
そういった自分のモヤモヤを解消しながらやりたいことを実現するには、やっぱり起業しかないなと。
これまでとは真逆のことをやってみたい思いもあって、自分でやることを決めました。
じぶんぐるみは受注生産ですから、欲しいという意思があるお客さまに商品をお届けできます。つまり、売れなかったものを捨てなくていい。
ダイレクトにお客さまの声が聞けますし、完成品はオリジナルの特別なぬいぐるみだから、大事にもしてもらえます。
そうやって大企業とは違うやり方で、事業をやっていこうと考えました。

「いざ起業する際は『大企業の役員を辞めるなんてもったいない』『わざわざリスクを取らなくても』と言われたこともありましたが、どうやら私、心の声が漏れていたみたいで。近い人たちは『前から言ってたもんね』という反応で、それほど驚かれませんでした(笑)」(村瀬さん)
今実感する、会社員を長くやっていた良さ
前職で部門運営はしていましたけど、自分の資金で会社を始めて経営をするのは初めて。
役員として経営に携わるのとは勝手がまるで違って、「当時の自分、全然分かってなかったのによくやったな〜」って思います(笑)
起業してからヒヤヒヤすることはいっぱいありましたけど、この1年は発見が多くありました。
今までは部下に「これやっておいてね」で済んだことも多かったし、各業務の専門部署もありましたが、今は何でも自分でやっています。
大変だけど、自分で事業を回している実感が持てるのは楽しくもありますね。
私はもともとマルチタスクが得意な方。今は給与や取引先への振込みや契約書のチェックなど、あらゆることをしなければいけないけど、「意外とできるな」っていう実感があります。
税金や労務など、知らないことはたくさんあったけど、調べればどうにかなることも分かりました。
私はバンダイに約30年いましたが、長く同じ環境にいると、どうしても成長の実感が得にくくなってしまうところがあります。
もちろん毎年起きることは違うし、考えることも変わるけど、自分の業務範囲はある程度決まっている。
季節ごとの商戦に向けたスケジュールも同じ。どうしても共通する部分が出てきます。
そういう意味では、環境が大きく変わり、知らなかったことをたくさん経験できたこの1年間は、成長できた期間だったんじゃないかなと思いますね。

一方で、独立した今、会社員を長くやっていたことの良さも感じています。
『たまごっちプラス』のような大ヒットは大きい会社にいたからできたことですし、あれだけ売れたから経験できたこともいっぱいありました。
それに、成功体験がないと、なかなか夢が見れないのかもなと思うんです。
私が起業してもやっていけるかもと思えたことにも、「なるべく前向きに考えよう」って自分に言い聞かせられていることにも、会社員時代の成功体験がうっすらつながっている気がします。
振り返ればその時々で悩みはあったし、特に入社して最初の3〜4年は生産管理や雑務を担っていて、「おもちゃ作りができないなら辞めようかな」と思ったこともありました。
サラリーマンですから、飲みながら文句を言うことだってありましたよ。仕事は楽しかったけれど、日々の小さな不満はいくらでも出るじゃないですか(笑)
でも、私の尊敬している先輩たちは「それでいいんだよ」と言ってくれた。
文句言いながらでも目の前のことを頑張れば評価されるし、そこには何のリスクもない。だから文句を言いながらでも、やればいいんだよって。
そういう環境で、自分が実現したいことを思い切りやる。そこがサラリーマンの良さなのかなと思いますね。
文句で終わらせないために、会社に自分の意思を伝えて
振り返れば、やっぱり目の前のことにがむしゃらに取り組むことが、自分を成長させていたように思います。
だからたとえお金のために働いているのだとしても、「目の前の仕事が自分に合っているか」「楽しいか」「自分がステップアップできているか」は考えてもいいのかなと思いますね。
それらがないのであれば、別の道を考えてもいいのではないでしょうか。
今回、私は起業で大きく環境を変えましたけど、同じ会社の中で自ら次のステップに進むこともできます。
例えば『たまごっちプラス』を担当していた時は、そろそろ他の人にバトンタッチして新しい空気を入れた方がいいと思い、自分から別のプロジェクトに異動したい意思を伝えました。
そういう環境の変化があったから、27年間もバンダイで充実した日々を送れたのだと思います。
特に若い頃は会社から言われたことが全てのように思ってしまうけど、自分の意思は伝えていいんですよ。そうしないと、文句が文句で終わっちゃいますから。

最近は転職が当たり前になり、1社で長く働くことに不安を感じる人もいるかもしれません。
でも、現状の仕事が自分に合っていて、楽しくて、成長している実感があるのなら、変に焦らなくて大丈夫なんじゃないかな。1社で長く勤めるキャリアの築き方もありますからね。
ただし、社外に目を向けた方がいいとは思います。
仕事の関係性がものすごく限定されている人を見て、「そのつながりがなくなったらどうするんだろう」と思ったんですよね。だから、私はそういう人を反面教師にしていました。
会社にいるとどうしても内向きになってしまうけど、社外のいろいろな人と接するようになったら、会社ごとの違いも見えてきました。
自社で大切に守られていることが、他社ではそうでなかったりする。そういう違いは面白かったし、社内のルールに縛られないようにしようという意識にもつながったように思います。
だから会社にいた頃は、「それってこっちの都合じゃない?」みたいなことを言いがちでした(笑)
でも、そのおかげで起業しても急に孤独になった感じはしなかったですね。
大手のおもちゃ屋さんを超える会社になれたら
私が長く働いてこられたのは、時代によるところも大きかったと思っています。
昔は結婚して子どもができたら会社を辞める女性も多かったですし、実際に私より上の世代で、長く残っている先輩女性はそう多くはありません。
そのうち女性が出産後に職場に戻ってくるのが当たり前になっていき、私は結婚したのが40歳近かったこともあり、そっちの流れに乗れました。
もし20代で結婚していたら、「先輩たちは辞めているし、そういうものなのかな」と思っていたかもしれません。
そして、女性の役職者を増やそうという時代に仕事をしていて、ちょっとだけ先行して管理職や役員になってきました。
だから、これから伸びていく若者の参考になるのであれば、自分の体験談を積極的にお話ししたい思いがあります。

自分の会社については、じぶんぐるみは始まったばかりではあるものの、想定以上にさまざまなシーンで使われています。
単身赴任中のお父さんのじぶんぐるみと息子さんが一緒に寝たり、亡くなった方のじぶんぐるみと旅行に行ったり、結婚式に新郎新婦のじぶんぐるみを並べたり……。
人を題材にしている分、感情やストーリーが生まれるのでしょうね。まだまだこれからですが、お客さまの反応から手応えは感じています。
今後はじぶんぐるみを買ってくださった方により楽しんでもらえる環境をつくりたいです。その辺のアイデアは今まさに考え中ですが、コミュニティーのようなものをつくれればとイメージしています。
そうやって買って終わりではなく、じぶんぐるみによって購入者の方がもう一歩前に進めるような環境を作りたいですね。
私には、3歳頃からずっと大事にしているぬいぐるみがあります。結婚するまではベッドの横に置いていて、今でも大事にしまってあるんですけど、じぶんぐるみも誰かにとってそういう存在になれたらうれしいなと思います。

経営の勉強会では、「未来の姿を描きなさい」と言われました。
まだ起業して1年だし、目の前のことを差し置いて大きな未来を語っていいのだろうか……なんて思いますけど、たしかに「〇年後にこうなりたい」がなければ、そこに到達できないんですよね。
それに、大きな目標を立てても5分の1ぐらいしかできないかもしれない。だから目標は大きく持った方がいい。
だから頑張って大きな未来を描こうと思って、「大手のおもちゃ屋さんを超える会社になれたらいいな」と今は考えています。こうして口に出すのも恐れ多いですが(笑)
そうやって大きな夢を目指しながら、これからも長く働き続けていければと思います。
取材・文/天野夏海 撮影/光谷麻里(編集部)
『教えて、先輩!』の過去記事一覧はこちら
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