育児中の女性を採用したい企業が増加中? 転職のプロが語る「育休後のキャリア」で困らない人になるために今からできること

「女性が時短勤務」だけじゃない。
変わる、育休後の働き方

コロナ禍以降に浸透した時間・場所にとらわれない働き方や、国が力を入れて取り組んでいる男性育休の取得促進によって、育休復帰後の女性の働き方が多様化している。「女性が時短勤務をする」以外に今はどんな選択肢が生まれているのか、識者・経験者が語る実例を通して紹介しよう

江口 歌奈子さん、栢沼 恵理子さん

働くアラサー女性を悩ませる、結婚・出産、転職のタイミング。

「将来的に結婚して子どもができたら、今より転職活動がしづらくなるのでは?」
「育休明けの女性は採用されにくいのでは……?」

漠然とした不安から、「今のうちに」と転職を焦る人も多いかもしれない。

育休復帰後の転職は不利? 女性たちに募る不安

事実、20~30代の働く女性に『Woman type』で育休と転職にまつわるアンケートを実施したところ、約7割が「育休後は転職活動がしづらくなる」、約5割が「育休後は内定が出づらくなる」と回答している(下図)。

Q. 育休復帰後の転職について、あなたのイメージと近いものをお選びください。

20~39歳の女性へのWebアンケート(クラウドワークス)

【調査概要】
●調査方法:20~39歳の女性へのWebアンケート(クラウドワークス)
●調査期間:2023年5月16日~5月30日
●有効回答者数:100名
●複数回答可

多くの女性たちが、いまだ「子どもがいることは、転職に不利」だと感じている現状が浮かび上がった。

また、出産後に転職が不利になると考えている人たちからは、下記のような回答が寄せられた。

・「育児中は、子どもの体調による急な欠勤も考慮しなければならないため、入社後に周囲との連携が取りづらい中での勤務が厳しいと思われそうだから」(20代・企画/マーケティング職)

・「育休に良いイメージを抱いている企業がまだ少なく、実際に育休後に転職活動をしていた友人が『どうせ二人目を妊娠したらまた休むんだろう』という心ない言葉を面接時に掛けられてしまっていたから」(20代/事務職)

・「育休後に転職をしていきなり時短勤務を要求するのは周りの迷惑になってしまうので、言い出しにくかったり、そもそも理解を得られなかったりするイメージがある」(30代/エンジニア)

・「育休を取らせてもらった会社を辞めることが、現在の会社・希望の会社の双方に不義理と受け取られそう」(30代/事務職)

・「育休を取ることで子どもに時間を割くタイプなんだなと、業務に支障をきたすイメージを企業側に植え付けてしまいそうだから」(20代/営業職)

・「多くの会社はフルタイムできっちり働いてくれる人を求めていると思うので、育児中で時短や遅刻・早退の可能性が高い人をわざわざ選ばないのではないかと思う」(30代/事務職)

「子どもがいることで仕事に支障をきたす」「子どもがいない人の方が戦力になる」などのイメージを企業から持たれやすいがために、育休復帰後の転職活動は不利になるのではないかと懸念する女性が目立った。

「子育て中の女性こそ欲しい」ピンポイントで採用狙う企業も

しかし、ここ数年でワーキングマザーの採用・転職市場にも大きな変化が起きている

「育休復帰後のワーキングマザーを採用しようとする企業は、年々増加傾向にあります」

そう語るのは、人材紹介『type転職エージェント』で企業の採用支援を行う栢沼 恵理子さんだ。

 株式会社キャリアデザインセンター type転職エージェントグループ(営業担当) 課長栢沼 恵理子(かやぬま・えりこ)さん

株式会社キャリアデザインセンター type転職エージェントグループ(営業担当) 課長
栢沼 恵理子(かやぬま・えりこ)さん

前職はアパレル業界にて販売職を担う。2018年キャリアデザインセンターに入社。人材紹介事業を担うtype転職エージェントグループにおいて、営業担当として企業の採用活動をサポートする。2021年課長職に昇進

「ここ10年ほどでワーキングマザーを求める企業は増え続けていて、コロナ禍以降はその傾向がさらに強まっています。

中には、『子育てを頑張っている人を採用したい』と、ワーキングマザーをピンポイントで採用しようとする企業もあるほどです」(栢沼さん)

その背景には、国や企業が女性活躍・ダイバーシティーを推進していることや、人手不足の課題を解決すべく、ワーキングマザーなどの多様な人材の力を生かす経営に取り組む企業が増えてきたことが挙げられる。

また、コロナ禍以降はリモートワークで働ける職場も増え、働く時間・場所に制約のあるワーキングマザーの採用によりいっそう積極的な姿勢を見せるようになった企業も多いという。

「柔軟な働き方が実現できるようになったことで、経験やスキルを持つワーキングマザーを即戦力として採用できる職場が増えてきました。

また、特に注目すべきは、業界・職種未経験のワーキングマザーも応募可能な求人が年々増えていること。

IT業界のエンジニアや金融業界の保険営業職など、さまざまな業界・職種で、ワーキングマザーを採用して育成しようとする動きが活発です」(栢沼さん)

 株式会社キャリアデザインセンター type転職エージェントグループ(営業担当) 課長 栢沼 恵理子(かやぬま・えりこ)さん

また、「育児を頑張ってきた女性をぜひ社員として迎えたい」と採用活動を行う企業の経営者、人事・採用担当者に話を聞くと、「ワーキングマザーの生産性の高さや、共感力の高さを評価する声が目立つ」と、栢沼さんは続ける。

「私が採用のお手伝いをしている人材派遣会社では、『育児中の女性は特に、仕事探しで悩んでいる方に寄り添ってあげられる人が多い』ということで、ワーキングマザーの採用をかなり積極的に行っています」(栢沼さん)

また、特に企業から採用ニーズの高いワーキングマザーは「長く働き続けたい意思が明確な、キャリア志向の強い人」だと栢沼さんは言う。

「企業側も、せっかく採用した人材には長く働いてほしいと考えているので、『子育てと両立してキャリアを築きたい』という気持ちが強かったり、『仕事でこんなことを成し遂げたい、やってみたい』という意思が明確だったりする人は、特に採用されやすい印象です」(栢沼さん)

「両立のための転職」から「思い切り働くための転職」へ。転職者の意識にも変化

さらに、『type転職エージェント』で転職者の支援を行うキャリアアドバイザーの江口 歌奈子さんは、「企業の採用ニーズだけでなく、転職者側の意識にも変化が出ている」と話す。

以前は、育休から復帰した後に「子育てと仕事を両立できる会社」への転職を目指すワーキングマザーが多かったが、最近特に顕著なのは、「もっとキャリアアップしたい」意欲が転職動機になっているケースだという。

株式会社キャリアデザインセンター type転職エージェントグループ(キャリアアドバイザー) 課長 江口 歌奈子(えぐち・かなこ)さん

株式会社キャリアデザインセンター type転職エージェントグループ(キャリアアドバイザー) 課長
江口 歌奈子(えぐち・かなこ)さん

IT業界で営業職を担った後、2018年キャリアデザインセンターに入社。キャリアアドバイザーとして転職者の転職活動をサポート。2023年課長職に昇進。現在はマネジメント業務の傍ら、IT企業への転職サポートをメインに手掛ける
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転職者の意識に変化が生じた背景にあるのは、コロナ禍が後押しした働き方の多様化が大きい。

「以前、育児のために時短勤務で働いていたWebディレクターの方の転職支援をしたことがありました。

彼女の話を聞くと、育休復帰後は、マネジャーなど責任のあるポジションは任されず、アシスタント業務をメインに任されているとのこと。

会社としては育児中の人に負担を掛けまいとしてそのような対応をしていたそうなのですが、彼女の本心は『もっと働きたい』というものでした。

結果的に、彼女はフルリモート勤務ができる会社にマネジャー職として転職。

柔軟な働き方をすることで責任あるポジションで仕事ができるようになり、入社後も『大変満足している』とのことでした。

働き方の多様化とともに、『育児と両立しながらでも思い切り働きたい』女性が希望をかなえやすくなり、『長く働き続けてほしい』『キャリアアップしてほしい』と考える企業側のニーズと合致するようになってきていますね」(江口さん)

将来どんな自分になっていたい? 明確にイメージしておこう

江口 歌奈子さん、栢沼 恵理子さん

育休から復帰した後でも、転職はできる。

それでも、「子どもができる前に、転職した方がいいのか」……そんな焦りを感じてしまう人に対して、江口さんは「焦って転職する必要はない。自分にとってのベストタイミングで決めればいいと思いますよ」と笑顔を見せる。

「ここ数年で、時間に制約がある人の選考通過率はかなり上がっています。

今後、さらに育児中であることのハンデはなくなっていくと考えられるため、『子どもが生まれたら選択肢が狭まるから……』と転職を焦る必要はありません。

自分にとって最適なタイミングで転職してもらうのがいいと思います」(江口さん)

では、将来育休を取得した後も自分らしいキャリアを選択するために、20代のうちにどのような備えをしておくべきなのか。

「先ほどもお話しした通り、『こうなりたい』『これがやりたい』といった意志がある女性が、育休後に理想の転職をかなえている傾向があります。

だからこそ、20代のうちに『なりたい自分』をイメージしておけるといいですね。

なりたい自分から逆算していくと、今何をすべきかが見えてくるはず。得意を伸ばしておいた方がいいのか、苦手を克服しておいた方がいいのか。

今は、仕事か家庭かどちらかを選ばなければいけないなんてことはありませんから、女性はもっと欲張りになっていいと思うんです。

理想のキャリアプランも実現しつつ、ライフイベントも充実させる。おいしいものも食べるし、欲しいものも我慢しない。

そういう『欲しいものを全部手にする人生』を実現するためにはどうしたらいいのか考えて、今やるべきことや身に付けておいた方が良いスキル、積んでおいた方がいい経験を明確にして一つ一つ取り組んでいきましょう」(栢沼さん)

取材・文/光谷麻里