安藤梢「年齢はただの数字」41歳・サッカー選手と筑波大助教、二足のわらじを実践する彼女の伸びしろしかないマインド
人生100年時代。年齢や常識に縛られず、チャレンジを続ける先輩女性たちの姿から、自分らしく働き続ける秘訣を学ぼう
2011年に行われたサッカー女子ワールドカップで、日本は世界制覇の快挙を成し遂げた。そのメンバーの一人だった安藤梢さんは、現在41歳。
30歳前後でプロを引退する選手も多い中、現役を貫きいまなおピッチに立ち続けている。

2022-23シーズンには、女子のプロサッカーリーグ・WEリーグで所属する浦和レッズレディースを優勝へけん引。『2022-23 WEリーグアウォーズ』ではMVPに選ばれた
写真:(C)URAWA REDS
さらに、2021年には筑波大学体育系の助教に就任。現在はキャンパスに出勤し、授業や研究活動も行う教育者・研究者の顔も持つ。
「年齢は数字でしかない」とあっさり言い切る安藤さん。世間の常識に縛られず、チャレンジを続けられる秘訣は何なのだろうか。
ディフェンス初挑戦で新たな強みを獲得「40代でも成長できる」

(C)URAWA REDS
『2022-23 WEリーグアウォーズ』の表彰式でMVPを受賞できて、最初はドッキリを仕掛けられているんじゃないかと思ってしまうくらい、驚きました。
でも、2022-23シーズンはレッズレディースが優勝することに全てをかけてやってきたので、これまでの挑戦や実績を認めてもらえて、すごくうれしかったです。

『2022-23 WEリーグアウォーズ』授賞式のプレゼンターは、安藤さんにとって憧れの先輩だという澤穂希さん。
「澤さんは2011年のW杯を戦った戦友。授賞式当日は、澤さんから『(年齢なんて気にせずに)やれるところまで現役を続けた方がいいよ』という言葉を掛けてもらいました」(安藤さん)
澤さんはずっと背中を追ってきた選手なのですが、今度は私が若い選手たちにとってのそういう存在になれたらと思っています。
ひと昔前だったら30歳でベテランと言われていましたが、今は41歳の私がいるので、30歳でも「まだまだ若手」って思えるでしょうしね。
これまでの前例にとらわれすぎず、「年齢なんてただの数字」「やりたいことを諦めない」そう思ってくれる女性アスリートがもっと増えていくといいなと思っています。

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また、2022-23シーズン中には、フォワード(FW)からディフェンス(DF)への想定外のポジション変更も経験しました。
これだけ長くサッカーを続けてきた中でも、ディフェンスに挑戦するのは初めてのことだったので、最初は自分に務まるのかどうか不安で、プレッシャーを感じていました。
ただ、昨年行われた男子のW杯でのDFの選手の守り方を見て研究したり、実際に試合でプレーしたりしたことで、その不安も少しずつ払拭されていって。
これまでの自分とは違う新しい視点でサッカーを見られるようになっていきました。
新しいことに挑戦するのは怖いけれど、思い切ってやってみると、40代になった今だってまだまだ成長できるし、自分の強みや武器を増やすことができる。
今もなお「伸びしろしかない自分」を改めて実感できました。
サッカーを辞めたいと思ったことは一度もない

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私、これまで一度も「サッカーを辞めたい」と思ったことはないんですよ。
なぜサッカーを辞めたいと思ったことがないかというと……すごく単純なんですけど、サッカーが好きで、サッカーをやっているときが一番楽しくて、もっとうまくなりたいという気持ちがずっと消えないから。
試合や練習のときにいきおい余って顔からピッチに突っ込んでしまうこともあるんですけど、そういう時ですら「サッカー好きだな。幸せだな~」って思ってしまいます(笑)
また、実際のところ、アスリートとしては肉体面での衰えも引退に影響するわけですが、20歳の頃から取り入れてきた医学・栄養学・生理学などさまざまな分野の知見を取り入れた科学的なトレーニングをずっと継続してきたからこそ、今こうして年齢に打ち勝つパフォーマンスができていると思っています。

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もちろん、瞬発力や持久力だけを切り取ったら、20代の頃より今の方が衰えている部分はあると思いますが、サッカーはそれだけじゃないのが面白いところ。
プロリーグで現役としてやっていくには、技術、戦術、メンタルの強さも必要だし、肉体的に優れていることだけで優劣は決まりません。
今の自分がチームに貢献できる部分を伸ばせば絶対に役に立つことがあるし、練習や試合の数だけ自分自身の成長を実感することができるので、「まだ続けたい」って思うんです。
「毎回、教室に行くのが怖かった」二足のわらじで見つけた新たな目標
さらに、先ほどお話しした「科学的なトレーニング」ですが、本格的に理論や事例を学ぶために筑波大学に入学し、18年には体育科学の分野で博士号を取得しました。
今日、筑波大学で博士(体育科学)の学位を取得しました!
選手と研究者の2つの視点でサッカーを学べた事でたくさんの気づきがありました!
両立で大変でしたが、大学の先生、先輩、後輩、家族、周りの方達に支えられ無事に取得でき、感謝の気持ちでいっぱいです。 pic.twitter.com/p4buJ3idrt— 安藤梢/Kozue Ando (@kozue_ando) September 25, 2018
その後、21年に筑波大学人間科学学術院の助教に就任し、二足のわらじ生活をスタート。
大学に入学した当初は、「世界で戦い続けられる心と体づくり」を学んで自分を実験台にしながら試してみることが目的だったのですが、今では教員となり学生を相手に授業をする機会も持たせてもらえるようになって、これもまた想定外のことでした。
教員になったばかりの頃は不慣れなことばかりで、教室に行くのが毎回「怖い」と思っていたくらい。授業をすることに少し慣れてきた今もまだ緊張はしますし、プレッシャーは感じていますけどね(笑)
それでも、こうやって大学で教育を行う立場になってよかったです。
授業でいろいろな学生と議論し合う中で、私自身学ばせてもらうことがたくさんありますし、学生の疑問に答えていて気付かされることも多くあります。
サッカーの現場でも、若い選手たちと意見を言い合ったり、自分の経験を伝えたりするときに大学での活動が生かされていますし、サッカーだけでなくいろいろな競技のアスリートの現状に目を向けるきっかけにもなった。
自分の視野が広がって、日本全体で女性アスリートがもっと活躍できるような環境づくりをどうやっていくべきかなど、スポーツ全体のことを考えるようにもなりました。

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それもこれも新しいことに挑戦したからこそ得られたものだし、大学でもまた「自分の伸びしろ」を実感する毎日を過ごせています。
最初は怖くて苦しくても、まずチャレンジしてみる。すると、そこからもっと学びたいことややってみたいことを発見することができる。
このサイクルがあるからこそ、長く仕事を続けられるし、仕事に楽しみを見いだせるんじゃないかと思います。
人生100年時代は、新しいことを拒絶しないマインドで

(C)URAWA REDS
今は人生100年時代と言われていますけど、これからの時代に長く働き続けていくためには、自分なりの目標があることってやっぱり大切なんじゃないでしょうか。
目標といってもそんなに大それたことじゃなくてもよくて、「●●をもっと深く知りたい」とか「●●をもっと上達させたい」とか、自分なりに「やりたい」「そこに向かいたい」と心から思えるようなこと。
私の場合は「サッカーが好きだから、もっとうまくなりたい」「世界で通用する選手になりたい」というシンプルな目標が、原動力になっています。
ただ、現実には目標がなかなか見つからないという人もいますよね。「好きなこと」「やりたいこと」が見つからないという声もよく耳にします。
そういう人に私から一つお伝えするとすれば、「新しいことを拒絶しないで」ということでしょうか。
会社員でもアスリートでも、自分以外の人が「●●さん、これやってみない?」って声を掛けてくれることってあると思うんです。
私にとってはそれが「教育の仕事」だったり、サッカーで言えばこの歳になって初めて挑戦した「ディフェンスのポジション」だったり。
最初は「え、私が?」と思うことも、やってみると思わぬ興味の扉が開くことも、自分の視野が一気に広がることもあります。
最初は渋々だったとしても、取りあえず新しいことに挑戦してみたら、「思ったより楽しかった」「もっと学んでみたくなった」ということは往々にしてあるはずなんです。

(C)URAWA REDS
なので、自分らしく働いて、生きていく道を見つけたいと思っている人ほど、新しいことを拒まない方がいい。
「取りあえずやってみるか」くらいのポジティブマインドで、何でもやってみたらいいと思うんですよね。もちろん、そこで「やっぱり違うな」と感じたら、それはそれでやめていい。
失敗したり、うまくいかなかったりしても、その取り組みの中で次につながる何かが一つでも見つかればもうけものですから。
私のサッカー人生も、思うようなプレーができなかったり、結果が出なかったりしたことの方が多かったくらいです。
でも、うまくいかなかったことがあるから、今がある。チャレンジして失敗した方が、その後で得られるものはずっと大きいのかなと思います。
今月41歳になりましたが(23年7月)、この先も大好きなサッカーをプロとしてずっと続けていくこと自体が私にとっての挑戦です。
日本の女子サッカーの世界ではまだ誰も成し遂げたことがないことだから、自分がどこまでやれるのかは分かりません。でも、失敗を恐れず、前向きに。やれるところまでやってみる。
これからの伸びしろ、成長を思う存分楽しみながら、皆さんをあっと驚かせるようなプレーを見せていきたいです。

(C)URAWA REDS
取材・文/モリエミサキ
『教えて、先輩!』の過去記事一覧はこちら
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