「ミスしてしんどい」気持ち、どう切り替える? TikTok僧侶・古溪光大が送る「而今」の教え

TikTokで仏教を発信したり、YouTubeで般若心経をラップにして配信したり。
若い人たちにもなじみのあるツールを活用して、仏教の教えを「短く、楽しく、分かりやすく」伝えている“現代のお坊さん”こと、古溪光大(ふるたに・こうだい)さん。
古溪さんは出家する前、会社員として営業職に就いていた経験がある。
「会社員経験のある僧侶」による働く女性のお悩み相談・第二弾は、「大きなミスをした時の気持ちの切り替え方」について聞いてみた。
>>前回の記事:TikTokで仏教を発信する“現代のお坊さん”古溪光大さんにお悩み相談「営業職のノルマや競争がつらい」
20代事務職女性の悩み「大きなミスをして、出勤するのがつらい……」
(20代・事務職)
職場で大きなミスをしてしまい、上司や同僚に迷惑を掛けてしまいました。
謝罪はしましたが皆にあきれられているように感じ、出勤するのがつらいです。
どんな風に気持ちを切り替えればいいでしょうか。
仏教には「而今(にこん)」という禅語があります。
現代語に直訳すると「今、この瞬間」。
過去は変えられないし、未来も思い通りにできない。できるのは、「今」この瞬間の行動を変えることのみという意味を持ちます。
Mさんが失敗してしまった過去は変えられない。できることは今この瞬間に集中することだけ。
過去の失敗に引っ張られてネガティブになるのはコスパが悪いと思うんです。なぜなら、過去は変えられないから。どんなに思い悩んでも、事態は変わらないんです。
みんなからあきれられているかもしれないけれど、出勤するのがつらいかもしれないけれど、今できることを真面目に一つ一つやることしかできないんですよね。
……なんて偉そうなことを言いましたが、実は僕も同じような経験があります。
それは、新卒入社した帝人株式会社で営業職に就いたばかりの頃のこと。

お客さまから頼まれている作業を終えないまま休暇に入ってしまい、僕がいない間にお客さまから問い合わせがあり、営業所中に大迷惑を掛けたことがありました。
あとからでも何とかなるだろうと、特に引き継ぎをしていなかったんですよね。
自分が引き起こしてしまったことの重大さを認識し、血の気が引きました。迷惑を掛けた上司や同僚に合わせる顔がなく、休暇明けにどうしても出勤できなくて。
結果、無断欠勤をしてしまったんです。
営業所からかかってくる電話にも出られない。でもこのままだともう会社に行けなくなる。意を決して家を出たものの、家や職場の周りをウロウロして、やっと営業所のドアを開けられたのは、21時をまわった頃でした。
あの時はもう消えてしまいたいとすら思いました。
でもそんな自分を上司や同僚は心配してくれていたんです。深い愛情で包み込んでくれたおかげで救われたのを、昨日のことのようによく覚えています。
あの一件以来、引き継ぎを丁寧に行うようになりました。ミスをしたらすぐに誠心誠意謝る。できる限りの対応を取った後は萎縮しすぎない。
そんな風に行動を変えることで、一回り成長することができました。
失敗を失敗で終わらせない大切さを学ぶことができた貴重な経験だったなと、今となっては思います。
あなたが気にするほど、他人はあなたに関心がない
「頭では分かっていても、どうしても周りの目が気になってしまってつらい」ということもあるかもしれませんね。
でもそれって、自分のものさしでしかその出来事を測れていない可能性があります。
Mさんは「周囲の人たちが自分にあきれ返っているのではないか」と気になってつらくなってしまっていますが、周囲の人はそこまで関心を持っていないこともあると思うんです。

逆の立場の場合を想像してみてください。同僚がミスをした時に、Mさんはあきれ返り、その人を見る目が変わりますか? そこまで気にならないのではないでしょうか。
もしMさんが、「他人の失敗を見たら、その人自身を見る目が変わってしまう」としても、皆が皆Mさんと同じタイプとは限りません。
自分がどう見られるかは気になるけれど、他人が何をしたかなんてさほど気にしない人もたくさんいます。むしろ、自分のことでいっぱいいっぱいな人の方が多いかもしれません。
そう考えれば、自分だけのものさしで必要以上に他人の目を気にして、変えられない過去を思い悩むのは、やっぱりコスパが悪いと思います。
ミスをした時に大事なのは、やってしまった後にどう対処するのか。そこに人間性が表れますし、その対応次第では逆に信頼を得られることもあります。
今できることを全力でやれば、「今」を変えていくことはできる。「而今」の教えをぜひ、参考にしてみてください。

僧侶
古溪光大(ふるたに・こうだい)さん
1994年、龍我山雲門寺に生まれる。大学卒業後は、帝人株式会社で営業職に従事。2021年より、大本山永平寺にて修行生活を送る。現在は、僧侶、TikToker、ラッパー、起業家として既存の枠にとらわれない活動を通して仏教を広める。公式LINEにてお悩み相談も受付中。
書籍情報

『君と僕と諸行無常と。』(徳間書店)
SNSで大人気の曹洞宗雲門寺の僧侶ラッパーふるたにによる若者から寄せられる悩みや仏教の教えをまとめた問答集。
取材・文・編集/光谷麻里(編集部) 撮影/竹井俊晴