カジュアル面談は「選考ではない」って言うけれど……? 採用担当者が転職者に抱く、葛藤と願望

大きな声では言えない本音、ぶっちゃけます!
採用担当者の覆面ガチトーク

表立って聞きにくい「これってどうなの?」という転職にまつわる女性たちの疑問を中途採用担当者に直撃!人事のリアルな見解とは……?

黒川伊保子さん

転職活動をする中で、すっかりメジャーになったカジュアル面談。選考に進むかどうかを決める前の情報収集の機会として、転職者が気軽に参加できる場だ。

ただ、いざカジュアル面談にのぞむとなったときに悩むのが、温度感。

「カジュアル」かつ「面談」とはいえ、これは選考なのだろうか……?

転職者の頭をよぎる疑問を、3名の中途採用担当者に聞いてみよう。

<お話を聞いた中途採用担当者>
●IT系メガベンチャーの採用担当者・加賀さん(仮名)
●大手アパレル企業の採用担当者・中野さん(仮名)
●スタートアップの採用担当者・石田さん(仮名)

建前上は「選考ではない」と言うけれど……

編集部

カジュアル面談について教えてください。「カジュアル」な「面談」ですが、実際のところは選考なのでしょうか?

加賀さん

社内では「カジュアル面談は情報提供の場」というルールを定めていますね。
カジュアル面談では、最初の8割で会社からの情報提供を行い、残りの2割で相手の志向性や当社に対する温度感の確認を行う。

その際、スキルや経験についての確認は一切しません。

編集部

ということは、選考ではない?

加賀さん

「カジュアル面談は選考ではない」と社内には周知しています。

ただ、こちらも人間なので……1対1のコミュニケーションを取った時に、どうしても評価はしてしまいます。

石田さん

建前上は「選考ではありません」と言いますけどね……。

加賀さん

スキルや志望動機で合否を決めることがないのは事実ですが、会話がかみ合わなかったり、横柄な態度だったりする方とは「一緒に働きたくない」と思ってしまう。

カジュアル面談の結果として、「本選考を促すのはやめよう」と判断することは正直あります。

中野さん

反対に、カジュアル面談でめちゃくちゃいいなと思えばこちらからプッシュすることもあります。

良くも悪くも、カジュアル面談の印象は選考に影響しますね

石田さん

スキルを見極める場ではないのは事実ですが、話した感じで「いいな」「うちには合わないな」といったことは分かるもの。

そういう意味で、何も見ていないわけではありません。

そもそもこちらも時間を作って求職者の方とお会いするわけなので、普通に考えれば、選考の要素がゼロなわけないですよね。

カジュアル面談も1次面接も、目的は一緒

中野さん

カジュアル面談も1次面接も、「企業と個人が最初に接点を持つ場」です。それゆえに企業側もラインが曖昧になってしまうことはあって。

例えば、「どうしてカジュアル面談に来てくださったんですか?」という質問も、相手によっては志望動機を聞かれているように感じてしまうこともあるだろうなと思います。

石田さん

候補者と最初に接点を持つ場でのゴールは、カルチャーマッチの確認です。1次面接でも人物面を中心に見ていて、スキル面にはそれほど重きを置かないことも多い。

そう考えると、カジュアル面談と1次面接の違いはそれほどないとも言えそうですよね。

編集部

カジュアル面談も1次面接も「お互いの相性を確認する」という目的は同じだと。

石田さん

そうですね。どちらも相互理解の場であり、カジュアル面談の方が「会社のことを理解してもらう」姿勢が強いだけの話です。

参加する側も、もちろん気持ちの面での違いはあるけれど、「カジュアル面談だから」「一次面接だから」と、あまり意識しすぎない方がいいのだと思います。

どちらも「企業との最初の接点」であり、「自分のために時間を割いてもらっている」のは一緒ですから。

編集部

そうなると、例えば志望動機を聞かれるなど、選考に近い質問をされることも起こりやすいのかなと思います。

その場合はどう対応すればいいでしょうか?

加賀さん

仮に志望動機に近いことを聞かれたとしても、その意図は「相手が知りたい情報を伝えたい」ということだと思いますよ。

「なぜカジュアル面談に来てくれたのか」「どこに興味を持ってくれたのか」を確認した上で会社説明をした方が、相手の理解も深まりますから。

中野さん

カジュアル面談に参加したということは、その企業に興味を持ったポイントが何かしらあるはず。それはこちらとしても知りたいですからね。

その上で、「実際の会社の雰囲気など気になったので、カジュアル面談のお時間をいただきました」と、カジュアル面談で来ていることを強調するといいと思います。

石田さん

「転職するかどうかはまだ検討中です」とはっきり伝えてもらえた方が、こちらとしても助かりますね。

カジュアル面談は「ビジネスのコミュニケーション」の場

編集部

カジュアル面談という名称ではあるものの、選考の要素がゼロではないということは、軽い気持ちで参加するのはあまりよくないのでしょうか?

中野さん

そんなことないですよ!

気軽にカジュアル面談に来ていただきたいのはまぎれもない本音です。少しでも興味があるならぜひ参加してほしいですね。

石田さん

特にスカウトメールをきっかけにカジュアル面談に参加する場合、企業から声をかけているわけですから、フランクに来てもらって全然構いません。

ただ、企業側が忙しい中カジュアル面談の時間を割いているのは事実。そこを尊重する気持ちが持てないのであれば、参加しない方がいいのかなとは思います。

中野さん

全く準備をせずに参加するのは、得策とは言えないですね。

結果的に、自分の印象を下げることにもなりかねません。

加賀さん

カジュアル面談で聞きたいことくらいは用意してほしいなと思います。

私は過去に「なぜカジュアル面談に来てくれたのですか?」と聞いたら、「特に理由はない」と言われたことがあって……。

中野さん

うわぁ……。

加賀さん

確かにこちらからカジュアル面談を打診するスカウトメールを送りましたが、「この時間、意味なくない?」と思ってしまいましたね。お互いの時間が無駄だったなって。

石田さん

あくまでビジネスのコミュニケーションですから、いち社会人としてどう振る舞うべきかは意識してほしいなと思いますね。

自分のために時間を作ってくれた相手のことを思えば、会社のことを簡単にでも調べるなど、おのずと最低限の準備をしようという発想になるじゃないですか。

編集部

確かに、普段の仕事でもお客さま先に行くとなったら最低限ウェブサイトくらいはチェックしますもんね。

人事の葛藤「本当はカジュアル面談はやりたくない」

編集部

そもそもの質問ですが、企業はどういう目的でカジュアル面談をやるんですか?

石田さん

面接まで踏み切れない人にまで採用の裾野を広げるためです。自社を知ってもらう機会を増やす意味合いが強いですね。

特にうちは知名度の低いスタートアップなので、「ちょっとでも興味があるなら1回話しましょう」ぐらいの気持ちでカジュアル面談をやっています。

中野さん

母集団形成をいかにするかが人事の課題。

だから「転職するか分からないけど、もしかしたら近い将来動き出すかも」という転職予備軍の人とはぜひ接点を持ちたいと思っています。

加賀さん

あとは、自社のリアルな情報を伝える機会でもありますね。

当社は知名度のあるメガベンチャーゆえにイメージが一人歩きしてしまっている面もあるので、カジュアル面談で実態をきちんと知ってもらいたい思いもあります。

編集部

将来的に転職するかもしれない人と接点を持つことと、自社のアピールをすること。この二つがカジュアル面談の目的なんですね。

石田さん

ぶっちゃけると、本当はカジュアル面談はやりたくないんですよ。できることなら、自社に興味を持って応募をしてくれた人と面接をしたい。

加賀さん

分かります。「1年後に転職したいんです」みたいな候補者とのカジュアル面談、めちゃくちゃ複雑な気持ちになるんですよね……。

1名枠のポジションも多いから、1年後に同じ枠が空いているかも分からないですし……。

中野さん

「もしかしたら転職時期が前倒しになるかも……!」って前向きに考えるしかないですよね。

加賀さん

カジュアル面談の結果、「思った以上に面白そうだから、やっぱり転職を考えます」と気持ちが変わる可能性はゼロじゃない。
だから「意味ないかもな」と思いながらも、カジュアル面談をやめることはできないんですよね……。

石田さん

私は「未来のための採用活動だ」って自分に言い聞かせていますね。

「先々で採用につながるかもしれない」「この人がうちの会社を誰かにお勧めしてくれるかもしれない」

そういう未来の可能性を信じて、自社に対して良い印象を持ってもらえるように、カジュアル面談で頑張って話をしています。

編集部

採用担当の皆さんもまた、カジュアル面談に対して複雑な気持ちを抱えているのですね。

選考ではなくカジュアルな面談とはいえ、対応してくれる人への敬意と思いやりを持って臨みたいと思います……!

企画・取材・文・編集/天野夏海