「自由に働く人」だらけのチームでも、パフォーマンスが上がるワケ【メルカリ・メンバー座談】

「D&I推進企業」を名乗る企業は数あれど、外からだとその実態は見えづらい。会社の取り組みが現場に根付いている企業には、一体どのような特徴があるのだろう? そんな企業で働くことで、私たちのキャリアはどのように変わっていくのだろうか?
日本で初めてジェンダー平等に関するグローバル認証『EDGE Assess(エッジ・アセス)』を取得した「メルカリ」の事例をもとに、真のD&I先進企業の「現場のリアル」を見てみよう。
リモートワークやフレックスタイム制など、時間や場所に縛られない「柔軟な働き方」をしたいと考える人は多い。しかし、働き方の自由度が高くなればなるほど、自分を律する力も求められる。
では、「柔軟な働き方」をしながら、高いパフォーマンスを発揮する人にはどのような特徴があるのだろうか。
そのヒントを探るべく、「D&I先進企業」メルカリで実際に自分らしいワークスタイルを体現しているメンバーたちに話を聞いてみた。
今回インタビューしたのは、こちらの3名。
■末永麻衣(すえなが・まい)さん 国内大手法律事務所で企業法務の経験を積んだ後、国内銀行法務部を経て、2017年7月からメルカリに参画。現在はBiz & Corp Legalのマネージャーを務めながら、シティライツ法律事務所にも所属。22年3月から、株式会社あしたのチームの社外取締役。22年11月から産休・育休を取得し、23年5月にフルタイムで復帰
■緒方史乃(おがた・しの)さん 新卒で証券会社に入社し、その後コンサルティング会社でのIR業務を経て、2018年からメルカリにてIR担当として従事。22年より立教大学大学院ビジネスデザイン研究科(MBA)に在籍
■菱井康生(ひしい・やすお)さん インフラエンジニアやアプリケーションエンジニア、PMを経て、2018年7月からメルカリに参画。現在はプロダクトマネージャーとして機能開発や分析を推進中。19年、23年にそれぞれ2カ月間ずつ育児休暇を取得
自己成長を追求した結果、たどり着いたそれぞれの働き方
—— まずは現在の皆さんの働き方を教えてください。
末永:私はメルカリのリーガル(法務)チームでマネージャーとして働きながら、弁護士業を行ったり、スタートアップの社外取締役として活動したりしています。いわゆる「パラレルワーク」を実践しつつ、プライベートでは2023年に出産し、今は一児の母です。
緒方:私はIR(ファイナンス)チームで働きながら、22年からMBA(経営学修士)資格取得に向けて大学院に進学しました。年明けに修士論文を提出したばかりで、24年春に卒業予定です。
菱井:僕はプロダクトマネージャーとしてフルタイム勤務をしていますが、19年、23年にそれぞれ2カ月間の育休を取得しました。現在はフルリモート・フルフレックスで働きながら、妻と分担して育児と仕事に取り組んでいます。
——パラレルワークや大学院での学び直し、育児との両立と働き方もそれぞれですね。皆さんが現在の働き方を選択したのには、どのような背景があったのでしょうか?
末永:私は弁護士資格を持っているので、起業している知り合いから法律関連の相談を受けるようになったことがきっかけです。
「弁護士に相談したいんだけど知り合いがいないから、相談してもいい?」と声を掛けられることがよくあって。
メルカリでは副業も認められていますし、夢に向かっている人をサポートしたいという気持ちで始めたんです。社外の仕事に触れることで自己成長につながるかなという思いもありました。

緒方:私は、株主や投資家の方々と相対するIRという仕事をしているので、対外的により適切な説明ができる力を付けるために、経営戦略やマーケティングなどの知識を体系的に学ぶ必要があると思い、大学院進学を決断しました。
もともと当社が手掛けるサービスは、フリマアプリの『メルカリ』だけでしたが、2019年からメルペイやメルコインなどのFintech事業が新たに始まったことで求められる知識の幅も広がったため、自分の知識不足を感じるようになっていて……。
——お二人とも自己成長が主な理由だったんですね。菱井さんは現在はフルタイムで働かれていますが、2度の育休を取得されているんですよね。
菱井:そうですね。2回とも2カ月間取得しました。
メルカリでは会社全体として「男性の育休取得」が当たり前の雰囲気が醸成されていて、取らないと周りから「取らないの? なんで? 大丈夫?」と驚かれるくらいなので、温かく送り出してもらえましたね。
一度目の育休を取得した時、家族との貴重な時間を過ごせたことと同じくらい良かったなと思うことがあったんですよね。それは、会社や仕事へのエンゲージメントが高まったこと。
当然のように送り出してくれたチームや会社への感謝の気持ちから、「復帰後はもっと会社に貢献したい」という思いが強くなったんです。この心境の変化には、僕自身も驚きましたね。
育休を取得することで、より働くことへのモチベーションが高まるというのはうれしい発見でした。

「事前準備の徹底」「こまめな情報共有」が両立のコツ
—— ここからは、多様な働き方を実践している皆さんの「仕事のパフォーマンスを上げるコツ」を教えてください! 事前にお伺いしたところ、皆さん共通して以下の二つを意識しているとか。
②お互いの状況をこまめに共有
末永:やはり、一番苦労しているのは「タイムマネジメント」です。限られた時間の中、いかに効率や生産性を落とさず、パフォーマンスを発揮し続けるか。それは今も悩みながら模索しているところです。
そんな中で私が心がけているのが「①ミーティングなどの事前準備の徹底」。
1on1やミーティングを最大限に有意義な時間にするためにも、資料などの事前準備は不可欠です。ちょっとしたスキマ時間を活用して、議論したい内容をできるだけしっかりドキュメントに整理するようにしていて。そうすることで、私以外のメンバーが見てもすぐに議論すべきポイントが把握できるようにしています。
何事もドキュメント化して共有するメルカリのカルチャーは、リモートワークと元々相性が良かったのかもしれません。
菱井:それは僕も同感ですね。
マネージャーという立場で長期間の休暇取得やフルリモート勤務をする上で意識しているのは、「自分がいなくても仕事が成立する状況を作っておく」こと。
そのためにも自分の仕事内容は細かくドキュメント化し、ミーティング前の準備も抜かりなくするようにしています。
緒方:私は「②お互いの状況をこまめに共有」することを特に大切にしています。自分の状況をチームメンバーにしっかり、こまめに伝えることが大事だな、と。
私は本業の繁忙期と大学院の修論の時期が重なってしまったんですが、あらかじめ「このタイミングで忙しくなるかもしれない」と伝えておいたので、チームでしっかり対策が取れました。

菱井:あらかじめ状況を伝えておくのは、本当に大事ですね。
僕は開発チームのマネジメントを担っているんですが、中にはインドの開発拠点からリモートで勤務しているメンバーもいます。
時差がある中で一つのプロダクトをみんなで作っていかなければならないので、一日のうち15〜30分程度はすべてのメンバーが一堂に会する場を設けて、プロダクトの進捗やお互いの状況を共有するなど、コミュニケーションを大切にしています。
緒方:メルカリでは「Workstyle Sync(お互いの働き方を話し合う会)」という施策も設けていて、お互いのことを共有し合い、理解し合おうという意識が強いですよね。

「Workstyle Sync」では、一緒に働くメンバーと定期的に「理想のワークスタイル」や「仕事・プライベートの状況」などを共有し合っている。自分の状況を罪悪感なくさらけ出せる「心理的安全性」を高めることで、コミュニケーションが取りやすくなり、結果的にチーム全体のパフォーマンスも上がっているという。図は「Workstyle Sync」の質問の一例
末永:「Workstyle Sync」だけでなく、子どもの送り迎えや通院などのスケジュールは共有カレンダーに入れて可視化するようにしたり、Slack(オンラインチャットツール)のステータス欄に「○時以降NG」と明記したり、自分の状況を誰もが分かるようにしているので、コミュニケーションは取りやすいですね。
自由に働きたい人=成果にシビアな人
—— 皆さん工夫をしながら働いているんですね。工夫をすることで、仕事のパフォーマンスに変化はありましたか?
末永:時間あたりでのパフォーマンスは上がったかもしれません。時間を有効活用しようという意識が高まっているからこそ、短期集中で濃い仕事ができているんじゃないかな。
メルカリでは大半の人が柔軟な働き方を選択していますが、だからこそチームのパフォーマンスも高い気がしますね。
—— 限られた時間で働いているメンバーが多いと、チームのパフォーマンスは下がると考える人も多そうですが、上がっているんですね。
緒方:メルカリで柔軟な働き方を望むメンバーって、「ただ自由にやりたい」のではなくて、「今のパフォーマンスは落としたくない」と考える人が多いんですよね。
限られた時間で成果を出すために、無駄を省きたくてリモートワークやフレックス制を望んでいる人が多いと思います。
末永:評価制度も、働き方や時間が基準ではなくて「成果」にシビアですしね。
菱井:僕がマネジメントしているチームは、先ほどお話ししたように時差のある外国人メンバーをはじめ、柔軟な働き方を必要とする人が多いのですが、彼らはみんな「無駄を削って、成果を出すために全力を注ぎたい」という気持ちを持っている。なので、すごく生産性が高いんです。
ミーティング一つとっても、事前にアジェンダをドキュメントにまとめておき、当日はどういう流れで話を進めていくか想定しておく……なんていうことをメンバーみんながやっています。
30分のミーティングをどれだけ意味のあるものにするのか、という共通認識がありますね。

—— 「自由なワークスタイルを選びたい人=成果を出すために全力を注ぎたい人」だからチームのパフォーマンスが上がると。
末永:そう思います。メルカリでは採用の段階から「成果にコミットできるタイプかどうか」を見ているんです。
ただ自由に働きたいだけだと、働き始めてから厳しいフィードバックをもらうことになるかと思います。
菱井:ほんとに、時間は関係ないですよね。評価の基準は「できたか、できなかったか」だけなので。この考え方を持てる人は、どんな柔軟な働き方をしてもパフォーマンスを上げられると思いますし、こういった人たちが集まったチームは強いと思います。
—— 自由度高く働きたいけれど、自分を律してパフォーマンスを上げられるか不安……という人は、まず何から始めたらいいでしょうか。
菱井:まずは、なぜ自分が柔軟な働き方を望んでいるのかを考えてみて、そこに「成果を出すために無駄を省きたい」という思いがあるのかを確認してみるといいと思います。
僕は毎日仕事を終えるときに、「今日一日全力でできたかな?」と振り返っています。「あの時間ちょっと無駄だったかな」など反省したことは、次の日に生かしてますね。
末永:目的を「コト」に置けるといいですよね。
1日8時間働くことを目的にするのではなく、たとえ2時間でも圧倒的に成果を出せるなら多分みんなそれを認めると思うので。
緒方:あとは繰り返しにはなりますが、チームメンバーとのコミュニケーションですよね。自分の状況を気兼ねなくシェアできるようなカルチャーを自分から作っていけるといいです。話し合いの場を設けてみるとか、まずは自分がチームメンバーたちの声に耳を傾けてみるとか。
「成果を出す」というゴールに向けて、自分やチームにとって最適な環境を作っていくことが、パフォーマンスを上げるための一番の近道になると思います。

取材・文/安心院 彩 撮影/吉永和久 編集/光谷麻里(編集部)
『D&I先進企業「メルカリ」大解剖』の過去記事一覧はこちら
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