「上司からの指摘がストレス」「自分のことを発信するのが怖い」働く女性たちの悩みに元アイドルの小説家・大木亜希子が回答

2月26日、月曜日の夜。

都内のとあるスナックで、元SDN48の小説家・大木亜希子さんが読者のお悩みに答える対面イベント「大木亜希子のモヤモヤ相談室」が開催されました。

集まったのは、仕事にプライベートに、モヤモヤを抱える3人の女性たち。

大木亜希子のモヤモヤ相談室

Sさん

法務職に従事する女性。上司との関係に悩みがあり、モヤモヤした気持ちを抱えながら働いている

大木亜希子のモヤモヤ相談室

Eさん

会社員としてマーケティング職に就いていたが、現在はキャリアブレイク中の二児の母。家族の時間を大切にしながらエッセー漫画を描き始めるが、自分の体験を発信することに怖さと迷いを感じている

大木亜希子のモヤモヤ相談室

Mさん

人材業界で働く女性。以前、周囲からの結婚へのプレッシャーと大失恋が重なり、どん底に落ちていた時に大木さんの言葉に救われた経験から、「直接会ってお礼が言いたい!」の一心で地方から参加

こちらのレポートでは、大木さんにお悩みを相談したSさんとEさんのモヤモヤをご紹介します。

彼女たちの相談に対して、大木さんはどんな答えを出したのでしょうか。

※当イベントは2024年1月9日〜2月9日まで募集していたWoman typeお年玉プレゼントキャンペーンの「特賞」です
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大木さん

大木 亜希子さん

15歳、女優デビュー。20歳で『SDN48』加入。解散後はWEBメディアで営業担当および会社員記者として3年間働く。編集者も兼任。 現在は作家として独立。『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)、『シナプス』(講談社)が発売中。最新の連載小説は『マイ・ディア・キッチン』(別冊文藝春秋/料理監修 今井真実先生)

Sさんのモヤモヤ:「上司にネガティブなフィードバックばかりをされる……」

Sさんの相談

私は法務として働いていますが、上司からいつもネガティブなフィードバックばかり受けています。

できることには一切触れられず、できないことばかりを指摘される毎日を送っていると、自分の能力のなさを突きつけられている感じがして、どんどんモチベーションが下がってしまいます……。

大木さんの回答

・こちらから「相手を褒める」と、コミュニケーションが変わるかも
・上司のフィードバックの本質だけを受け取って、トゲのある言葉は受け流しちゃおう

Sさん

批判ばかりしてくる上司と、どう接したらいいのでしょう……。

大木さん

できないことばかりに目を向けてしまう人っていますよね……。

そのことを相談できる他の上司はいますか?

Sさん

うちの会社で長年法務の経験を積んでいる人は彼女だけなので、「彼女=うちの会社の法務そのもの」みたいになっていて、誰も指摘できないんですよね。

私も言うべきことは言うようにしてるんですが、私の方がうんとキャリアも浅いし、説得力がなくて。受け入れるしかない状態なんです。

大木さん
大木さん

それはストレスが高いですよね。Mさん、Eさんは、こういうときどうしますか?

Mさん

私は上司にストレートに言っちゃうことが多いです。

「私は褒められて伸びるタイプなので、とにかく褒めてください!」とか「今の言葉、傷つきました」なんてことも直接言っちゃう(笑)

大木さん

すごい!

Mさん

はっきり伝えることで壊れるような関係性じゃないっていうのが分かってるから、言えるのかもしれないけど。

Eさん

私も会社員時代は結構言っちゃってたなぁ。

直接本人に言いづらかったら、違う部門のマネジャーに「上司のコミュニケーションにストレスを感じてしまう」って相談するかな。

それでも変わらなそうであれば、「チームを異動させてほしい」なんてお願いをするかも。

それもかなわなそうだったら、転職も検討すると思う。私は価値観が合わないと思ったらすぐに動いちゃうタイプなので。

大木さん

二人とも、ストレートに伝えるタイプなんですね。

私の体験談ですが、ネガティブな接し方をされるのが嫌だなと思った時、こちらから「褒める」コミュニケーションを取ってみたら状況が良くなったことがありますよ。

Sさん

お世辞を言うということですか?

大木さん

いえ。おべっかを使ったり、お世辞を言ったりする必要はなくて。その人の、いいなと思うところを素直に褒めるイメージです。

刺々しい接し方をしてくる人に対して、私からはポジティブなコミュニケーションだけをとるようにしてみたら、相手の態度がみるみる変わっていったんです。

大木さん
Sさん

なるほど。まずは私の方から歩み寄ってみるってことですね。

大木さん

あとは、相手が伝えたい本質以外の言葉は、真正面から受け止めないようにするのも一つの手かもしれません。

私はアイドルを辞めた後、3年ほど会社員の記者として働いていたのですが、中には「どうせアイドル上がりでしょ」みたいな接し方をしてくる取引先の方もいました。

それが、嫌で嫌でたまらなかった……。でも、嫌味な言い方をされても受け流すようにして、開き直ってニコニコ接していたら、そのうち、何も言ってこなくなりました。

Sさんの上司も、たしかに伝え方は良くないけれど「ここを改善したら、あなたはもっと良くなる」と思ってくれている部分もあると思うので、本当に受け止めるべきこと以外のトゲのある言葉は、受け流しちゃっていいかもしれません。

Sさん

急に鈍感な感じになったら、「キャラ変わったな!」って思われそう(笑)

大木さん

意外と相手も気にしないかもしれないですよ。

デール・カーネギーというアメリカの作家さんの『道は開ける』という本の中に、「人は24時間自分のことばかり考えているから、『相手が自分のことをどう思ってるんだろう』なんてことは、気にしなくて大丈夫」というような一文があって。

それを読んだ時に、救われた気がしたし、確かにそうだなって思ったんですよね。

相手にどう思われようと、自分の精神を安定させる方が大事だから、気にしなくていいやと振り切ることができたというか。

私はいつも、ネガティブなメッセージを必要以上に受け取らないように、相手と接する時のスタンスを決めるようにしています。

Sさん

どんなスタンスですか?

大木さん

これ以上、私を傷つけるメッセージを一切受け取りません」と、見えない境界線を作るんです。

苦手な人に自分のスペースを侵されないように、あえてポジティブな言葉で壁を作ることも重要な気がします。

「こちらが努力しなくても、上司の方がコミュニケーションを改めてくれればいいのに」と思われるかもしれませんが、「自分自身を守るため」に、ライフハックのひとつとして考えてみてはいかがでしょうか?

Sさん

たしかに、真正面から受け止めないのは大切かもしれないですね。

大木さん

Eさんのモヤモヤ:「自分のことを発信して、たたかれるのが不安」

Eさんの相談

私はもともと会社員として働いていたのですが、フリーランスにキャリアチェンジしようと考えています。

エッセー漫画を描き始めたのですが、自分や周りの人たちのことをどこまで描いていいのか分かりません。

親や友人に見られたときにどう思われるかな……と考えると筆が止まってしまいます。

大木さんの回答

・「自分」だけにフォーカスをあてた表現なら、他人が傷つくおそれはない
・傷つけてしまう可能性があるのなら「実話をもとにしたフィクション」にしよう

Eさん

大木さんは自分の話を本にしていますが、「私のこと書いたでしょ」なんて言われたり白い目で見られたりしないか、心配になったことはないですか?

大木さん

文章を書くようになった最初の頃は、ありました。

とくに私小説を書こうと決めた時は、自分の書いた文章が誰かを傷つけたり、迷惑をかけたりしないか悩みましたし、慎重になりました。

実際、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』を出版した2019年は、たくさんのうれしい感想をいただいた反面、めちゃくちゃたたかれましたし。

大木さん
Eさん

どんな風に?

大木さん

「こんな作品、自分が都合の良いように書いているに決まってる」とか、「実話じゃなくてファンタジーだろう」とか、「ササポンなんていうおじさんは本当はいないんだろう」とか。

あとは、「売名行為だ!」というようなことも、しょっちゅう言われて傷つきましたね。

自分としては、あくまで表現活動のひとつとして文章を書いているのに、なんでそんなことを言われてしまうんだろう……って悲しくなりました。

でも、私小説を書き終えたあたりから、自分が書く文章では周囲の人が傷つかないだろうなっていう確固たる自信を持つようになったんですよ。

Eさん

それはなぜでですか?

大木さん

執筆活動をする上で、「自分にしかフォーカスをしない」って決めたからですね。

物語というのは、当然ひとりの登場人物だけでは回らないので、他人が出てきます。でも、その人について批判したり、悪く言ったりするような表現は、極力避けるようにしたんです。

どういうことかと言うと、「その人と関わった時、私はこんなことを思った」なんていう具合に、常に矢印を自分側に向けるようにしたんです。

物語を、「人にこんなことをされて嫌だった」と打ち明けるための手段にするのではなく、あくまで一人称視点で、「こんなことがあって、その時、自分はこう考えた」という点だけに注目したというか……。

Eさん

それでも、自分について勝手に描かれるのは嫌だと思う人もいる気がしちゃう……。

大木さん
大木さん

そういう心配がある時は、もちろん脚色を加えるようにしています。

伝えたいことがちゃんと伝わる範囲で、相手の属性やバックグラウンドなどをしっかりと変えて、人を特定できないようにすることも大事ですよね。

Eさん

「実話をもとにしたフィクション」にするってことですか?

大木さん

そうです、まさに!

Eさんは、どんな漫画を描こうと思ってるんですか?

Eさん

今、我が家は夫婦ともに無職なんですよ。夫も私も、一度立ち止まって今後のキャリアを冷静に考えたかったんです。あと、育児に思い切り専念したかった。

なので二人でお金の計算をして、「1、2年なら大丈夫だね」と計画を立てて一緒に仕事を辞めました。

そんな選択をした私たちの生活をエッセー漫画として描いてみたいなって。

大木さん

計画的に無職を選択されたんですね! 勇気が必要なご決断、すばらしい……。

そういう選択をしている人がいることを知ることで、「自分も今後の生き方について考えてみよう」って思う人はすごく多そうです。

大木さん
Eさん

共働きをしているご夫婦は身の回りにたくさんいるんですけど、みんなすごく仕事を頑張っていて、お金は稼げるけど疲れちゃうっていう声を聞くんです。

なので、違うキャリアの築き方はないかなと思って、実践して発信しようと思ったんです。

大木さん

そう思うようになったきっかけは何かあったんですか?

Eさん

知り合いで病気になってしまう人がいたり、早く亡くなってしまう人がいたりして、人生何があるか分からないなと思って。

それなら、今から自分らしく生きたいなと思ったんですよね。

今はバリバリ働いて老後に自由な時間を過ごす人も多いと思うけど、老後は子どもも家を出ちゃってるだろうし、体力も落ちてると思うから、老後の時間を前借りして、今満喫してるイメージです。

ファイナンシャルプランナーにお金の面も相談して、「老後にこのくらいお金が余るから、その分を今に回そう」と具体的に計画を立てました。

Mさん

そんな生き方、考えたこともなかった!

そういう選択肢もあるんだっていうのを教えてもらえるのはすごくありがたい。

大木さん

こういう選択に励まされる人は多いと思うので、ぜひ漫画にして描いてほしいです!

一人称視点で「夫婦でファイナンシャルプランナーにどんな相談をしに行ったのか」とか、「休んだあとにどうやって仕事を探したのか」とか。もう全部知りたいことだらけです。

数年たって、「頑張って働かなくても生活をしていける方法を見つけた!」 みたいな新しい選択肢が生まれたら、ますます興味がありますし。

Sさん

再現性があったらマネできるし、なくても選択肢を知れるだけでもすごく参考になります。

参考にした上で、どう自分の人生に生かすかは自分で考えればいいですもんね。

大木さん

私の経験上、どんなに人を傷つけない漫画を描いても、「バズ」が起きて注目を集め始めたら、ネットでなんやかんや言う方々は一定数、現れると思います。

もちろんそれは怖いことですが、それ以上に共感する人や、「そんな選択肢があるならやってみよう」と思う人も出てくるはずです。

なので、発信前に「どこまで作品の中で、プライバシー情報を公開するか」とか、「どうしたら周囲の人を傷つけずに済むか」ということをよく考えて、「読者に伝えたい思い」だけにフォーカスをするようにしてほしいですね。

多くの人に希望や勇気を与えられる仕事だと思うので、ぜひ恐れずにやってほしいと思います。

大木さん

属性や悩みもそれぞれ異なる女性たちが集った今回のイベント。

相談を終えた彼女たちは、すっきりした表情で、足取り軽くスナックを後にしていきました。

Woman typeでは今後も、「明日からまた頑張れる」そんな活力が湧くようなコンテンツを発信していきますので、ご期待ください!

文/光谷麻里(編集部) 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)