10 MAY/2024

働く女性たちの悩みを聞くスナックママが思う、キャリアにモヤる人に欠けている視点/スナックひきだし・木下紫乃

赤坂で週1回、昼だけオープンする『スナックひきだし』。ママを務める木下紫乃さんのもとには、若手からベテランのミドル層まで、あらゆる年代の女性が集まる。

これまで数々の女性たちの悩みや相談を聞いてきた紫乃ママ。楽しく働いている人と、そうでない人には、どのような違いがあるのだろうか。

ズバリ紫乃ママに聞いてみると、年代を問わず、キャリアにモヤモヤする人の共通点が見えてきた……!

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スナック

株式会社ヒキダシ代表/「スナックひきだし」ママ
木下紫乃さん

1968年、和歌山県生まれ。慶應義塾大学卒業後、リクルートに入社。その後、転職を繰り返し、2006年よりベンチャー系人材開発企業にて次世代経営者リーダー育成研修や、ダイバーシティー推進研修、管理職研修の設計など、大手企業中心に数百の企業研修の設計、運営に携わる。13年 、45歳で慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科へ入学。女性活躍、新しい働き方、テクノロジーと新しい教育について等を研究。16年、中高年のキャリアデザイン支援を目的として人材育成会社、株式会社ヒキダシを起業。活動の一環として、コミュニティーづくりのための『スナックひきだし』を17年より開店。週1日、昼間の開店で延べ1000人以上の来店を迎える。プライベートでは3度の結婚など紆余曲折、盛りだくさん。著書に『昼スナックママが教える 45歳からの「やりたくないこと」をやめる勇気』(日経BP) WebサイトXスナックひきだし

キャリアにモヤる人に欠けている視点

編集部

紫乃さんはミドル女性の支援を行いつつ、スナックでもさまざまな女性たちと接していますよね。

ズバリ、楽しく長く働くには、何が大事だと思いますか?

紫乃ママ

自分の持ち味を生かすことかな。

それができてる人は年齢を問わず、楽しそうに働いている人が多いように感じます。得意な方面に絞り込んでいけるから、知見が蓄積されてお金にもなりやすいしね。

反対に、合わないことをやるのが一番非効率な気がします。

編集部

モヤモヤを抱えてる女性は、持ち味を発揮できていない傾向にある?

紫乃ママ

そんな気がします。自分の持ち味を見いだすことよりも、他人や会社、世の中の価値観を大事にしているように感じることが多いですね。

もちろん自分の市場価値に目を向けることも必要だけど、市場価値は誰かが決めているものじゃないですか。

それよりも「自分はどういう人なのか」を理解することの方が大事だと思います。

スナック
編集部

社会のニーズや情勢によって市場価値の基準は変わるけど、「自分」はそう大きくは揺らがないですもんね。

紫乃ママ

そうそう。そして、「自分はどういう時に、どういう場面で、どういう人たちと一緒にいるときに力が発揮できるのか」は、自分にしか理解できません。

それが分からないから自分に合わない場所に身を置いて、合わない仕事をしてしまう。それがモヤモヤにつながっているんじゃないかな。

それは20代だろうと50代だろうと、同じだと思いますね。

編集部

年齢に関係なく、自分の持ち味が分かってないとモヤモヤしやすい……。

そうなると、早めに持ち味を見つけることが肝になりそうです。

紫乃ママ

そう思います。よく「キャリアの軸を持とう」と言われるけど、私は必ずしも軸がなければいけないとは思っていなくて。極論、食っていければいいわけじゃないですか。

そのためには「〇〇さんはこれが得意だからお願いしよう」と思ってもらえる状態にしておくのが一番

そういう意味でも、自分が得意なことをやり続けられる方がいいと思っています。

スナック
編集部

キャリアの軸がはっきりしない人ほど、持ち味に目を向けた方がいいのかもしれないですね。

紫乃ママ

何より、持ち味を発揮できているときって無理がないんですよ。息を吐くようにできる。

もちろん成長にはある程度ストレッチが必要だから、無理をするのがダメなわけじゃない。

でも、求められているものと自分が発揮できる強みがズレているなら、そこをすり合わせた方がいいんじゃないかなとは思いますね。

持ち味の見つけ方1. 占いに頼る前に、周りの人に聞く

編集部

持ち味ってどう見つければいいのでしょうか。

紫乃ママ

一番簡単なのは、周りの人に聞くこと

「どういう場面で役に立てていますか?」「何が私の強みだと思いますか?」と上司や同僚に質問するといいと思います。

自己診断ツールや占いに頼る前に、「周りの人から自分はどう見えてるのか」をぜひ拾いに行きましょう。

編集部

シンプル……!

紫乃ママ

でも、結構聞いていない人が多いんですよ。日本企業の上司は褒めない人も多いけど、それならこちらから聞きに行ったらいい。

他にも、家族や長い付き合いの友達は自分のことを定点観測している人だから、自分の特徴を時々聞いてみるとかね。

スナック
紫乃ママ

人間は多面的だし、周りと影響し合うから、いろんな面がある。職場にいる自分と、プライベートの自分は全然見え方が違うかもしれない。

だからこそ、いろいろな人との対話の中から発見できることはたくさんあると思いますよ。

編集部

特定の場所だけではなく、いろいろな場面での自分について、周りの人にヒアリングするわけですね。

紫乃ママ

自分が理解している自分は、他の人から見たら違う風に見えているかもしれないからね。そこを確認するのは大切だと思います。


編集部

自分ではコミュニケーション能力が低いと思っていたけど、周りの人から見たら高かった、みたいなこともありそうですね。

紫乃ママ

あると思いますよ。そうやって情報を拾いに行って、自分の認識を修正していけばいい。

その蓄積によって無理をする自分を減らしていけば、持ち味は見えてくるんじゃないかな。

編集部

そうやって自分の特性を理解していくわけですね。

紫乃ママ

ただし、「自分はこういう人間だ」って決めつけないのも重要です。「現時点ではこうなんだな」「この場にいるときはこうなんだな」くらいに考えること。

世の中も自分も変化するから、固定すると生きづらくなっちゃうからね。柔軟性も必要だと思います。

スナック

持ち味の見つけ方2. 「人より得意かも」をためよう

紫乃ママ

あとは、振り返った時に「どんなことで褒められるか」にもヒントがあると思います。

ささいに思えることでもいいから、「周りの人よりちょっと得意なのかも」と思えるものを自分の中にストックしておく。

それらのパーツのつなぎ合わせが、自分の持ち味になっていくんだと思います。

編集部

例えばどんなことですか?

紫乃ママ

なんでもいいですよ。「資料がきれい」「コツコツ仕事ができるね」「それっぽく話すの上手」「誰とでも初対面で話ができるね」とかね。

20代で経験が浅くても、人との違いはなんとなく分かるじゃないですか。「ここは駄目だけど、ここはできる」っていろいろな人たちと比較をするのが大事だと思います。

編集部

つい人と比べてダメなところばかりに目を向けてしまって、良い面に意識を向けるのを忘れがちな人は多いかも……。

紫乃ママ

できないことばかりにフォーカスして落ち込んだり、できない部分を磨こうとしたりする若い人は多いけど、物事は表裏一体です。できないことがあるのなら、できることも絶対にある。

それに、自分が当たり前にやっていることは、他の人にとっては難しいことかもしれません。そうやって疑うためにも比較は重要。

紫乃ママ

特に私は専門スキルがないから、どこでも通じるポータブルスキルで渡り歩いていくしかないと思っていて。若い頃から「人より得意かも」と思えるものを意識的に蓄積してきました。

そうやって10〜20年仕事をすれば、なんとなく自分の持ち味が分かってくると思いますよ。

スナック

『スナックひきだし』の壁には引き出しがずらり

編集部

「専門性をつけなきゃ」とあせる人は多いですが、そういうスキルの磨き方もあるんですね。


紫乃ママ

もちろん身に付けたい専門性があるなら頑張ればいいけれど、そこに興味のかけらがあることが大事だと思うんです。

専門性を付けることだけを目的に自分の関心が向かないことをやるのは、私はあまり意味がないと思っていて。

なかなか続かないし、その専門性が時代の変化によって役に立たなくなった時に「何のために勉強したんだろう」って思っちゃう気がするんです。

編集部

関心が向かないことをやるのは、持ち味を生かすことからも遠のきそうですもんね。

持ち味の見つけ方3. 「自分を大事にできる場所」を選ぶ

紫乃ママ

スナックに来る20代の子の代表的な悩みは「今の会社が合わない」だけど、自分の持ち味が生かされる場所を探すのも重要だと思います。


「このスペックじゃないとこの組織では駄目」というものがあって、自分がそこを満たせそうにないのであれば、場所を変えればいいだけ。世の中には本当にいろいろな仕事があるからね。

そうやって「ありがとう」と言われる回数が増える場所に身を置くのは大事だと思います。

編集部

確かに、合わないまま我慢しちゃっている人は多いかも……。

紫乃ママ

前回も言ったけど、「この状態では自分を大事にできない」と思ったらちゃんと口に出しましょうね。

自分を大事にできない=パフォーマンスが落ちる」わけで、それは組織にとってもうれしくないこと。そうやって自分に言い聞かせるといいと思います。実際その通りだしね。

編集部

自分がハッピーでいることが、結果的にチームのみんなを幸せにする……?

紫乃ママ

当たり前じゃない! 不機嫌な人がチームにいたら困るでしょ?

スナック
編集部

でも、仕事をしていればしんどいこともあるし、耐えなきゃいけない場面もありますよね。

紫乃ママ

もちろんそうです。ただ一つだけ強く言いたいのは、体が拒絶していることは絶対に辞めた方がいいってこと

体に不調が出るというのは、生物としての拒絶反応です。自分の弱さでも何でもなく、ただその環境が合わないだけ。

それなのに無理して我慢しすぎるあまり、休職や退職につながってしまうのはあまりにもったいないですよ。

編集部

そこから立て直すには時間も掛かりますもんね。

紫乃ママ

そう。心まで壊れちゃう前に、場所を変えましょうね。自分の持ち味を生かせる場所は絶対にありますから。

持ち味の見つけ方4. 「人生無駄なし」の意識をインストールする

紫乃ママ

ただ、合わない場所にいたとしても、休職や退職をしてしまったとしても、その経験は決して無駄にはなりません。

「うまくいかなかった」「逃げた自分は駄目なんだ」という面に焦点を当てると苦しくなるから、そこから学んだこと、得られたものに意識を転換して、言語化するのはとても大切です。

スナック
紫乃ママ

私には黒歴史が山のようにあるけど、「これは苦手なんだな」「こういう人と一緒だとパフォーマンスが発揮できないんだ」って分かったことは大きな収穫でした。

そうやってマイナスに思える経験から「絶対に学びを吸い取る」って意志はものすごく重要ですよ。

編集部

「人生に無駄なことはない」とよく言われますが、まさにその意識ですね。

紫乃ママ

というか、そう思わないと損ですよ。無駄がある人生なんて悔しいじゃない!

私は人生には成功か学びしかないと思っているんです。うまくいったら成功だし、違ったなら「この経験から何を学べるかな」って考えればいい。

失敗を重ねた方が強くなるし、失敗だって捉え方によっては「これをこうしたからうまくいかなかった」っていう経験だからね。

全ては「無駄にしない」っていう自分の意思と、物事の捉え方次第だと思いますよ。

編集部

そうやって失敗の考え方を切り替えられれば、「失敗」の存在自体がなくなる……!

紫乃ママ

傷ついたばかりの時は痛いけど、傷がふさがったら、その過去が自分の人生にどう影響を与えたのか、ストーリーとして話せるようになるといいですよね。

スナックに来るモヤモヤしている人たちは、それができていないことが多い気がします。

スナック
編集部

そういう意味でも、失敗から得たものを言語化するのが大事ですね。

紫乃ママ

ご都合主義みたいに聞こえるかもしれないけれど、「あの失敗や傷があったから、今の自分がある」って自分の人生を正当化することが、長く楽しく働くためには重要なんだと思います。

例えば、40〜50代のミドル女性から一番よく聞く後悔は、「会社を辞め損ねた」「転職を経験すればよかった」というもの。

1社で長年キャリアを積んでから転職するハードルが高いのは事実だけど、一つの会社でキャリアを全うするのも能力だし、辞めなくて済んだっていう見方もできる。

つまり、どちらが良い悪いって話ではありません。

編集部

確かに。

紫乃ママ

他にも、「子どもがいたらよかった」と話す人もいれば、逆に「子どもを持たない選択肢もあったのかな」って遠い目をしながら言う人もいる。

結局、物事は捉え方次第。だからこそ、良い面を見る練習をするのが大事だなと思います。

市場価値の高い人材よりも「自分のプロ」になろう

編集部

こうやってお話を聞いていくと、20代は持ち味のかけらを集める期間なのかもしれないですね。

それらを蓄積していって、「これが自分の持ち味である」ってはっきり見えてくるのが30〜40代なのかも。

紫乃ママ

そうそう。持ち味に意識を向ければ、自分の得意なことはどんどん研ぎ澄まされていくからね。

スナック
紫乃ママ

そうやって40代以降、自分が息を吐くようにできることで世の中や周りの人に貢献して「ありがとう」って言ってもらえたら最高じゃない?

そのためにも、「自分はこういう場面で人に貢献しやすいんだな」っていうのを年を重ねる中で意識したらいいんじゃないかな。

編集部

ついマイナスを埋めることばかり考えてしまっていました……。

紫乃ママ

全部のことができる必要はないんですよ

私も20〜30代の頃は一人で完璧になろうとしていた気がするけど、いろいろな強みを持った人たちの力を組み合わせればいい。その方が大きなパワーにもなります。

その意味でも、「自分は何ができるのか」を知っておけるといいですよね。

編集部

「積極的であれ」「リーダーシップが大事」など、良しとされる人物像もあるけれど、必ずしもそこを目指す必要もない?

紫乃ママ

ないない! そういうの、実は結構適当だからね。

スナック
紫乃ママ

リーダーシップの本を売るためにそう言っているのかもしれないし、「会社にとって都合の良い人材像」なだけかもしれない。

だから私は「こうあるべし!」みたいな考え方が出始めたら、「誰がもうかっているんだろうな〜」って考えるようにしています。踊らされちゃダメですよ。

編集部

だから書店のビジネス書コーナーに相反するタイトルの書籍が並んだりするわけですね(笑)

紫乃ママ

そういうこと。「こうならなければいけない」と思い込んでいることに対して、「誰にそう思わされてるのか」は考えた方がいいと思います。

そこに考えを向けられるだけの気持ちの余裕は持っておきたいですね。

編集部

ますます世の中の価値観より「自分」に目を向けることが大事ですね。

紫乃ママ

自分の人生は自分にしか生きられない。そう考えれば、みんな「自分のプロ」です。

自分に対する理解を深めながら、自分に対するプロフェッショナリティーを上げていきましょう!

>>木下紫乃さんのストーリーはこちら

取材・文・編集/天野夏海(写真はご本人提供)