「昭和な会社」の事務職で将来が見えない…をRPAで好転させた女性の挑戦【事務員あーちゃん】

事務員あーちゃん

今の会社で働き続けて、本当に大丈夫だろうか?

でも、転職する勇気はないし、リスキリングといっても腰が重い……。.

そんなモヤモヤを抱える人に、一見どこにでもいる「普通の事務員」として働いていた中で踏み出した小さな一歩がきっかけで、キャリアを好転させたある女性の話を届けたい。

事務職の仕事はコピーにFAXにホチキス止め、女性だけに任されるお茶出し……3年前まで、そんな「昭和な会社」で働いていた“事務員あーちゃん”だ。

彼女は業務の中で、RPA(※パソコン上の作業を自動化できるソフトウエア型のロボット)を学び、Xを通じてIT企業への転職に成功。スキルと自信を手に入れ、人生の幸福度は大幅にアップしたという。

「最初は何が自分に向いているか分からなくてもいい。とにかく興味を感じたことをやってみるのが大事」と語る彼女に、キャリアを変える”最初の一歩”の進め方を聞いた。

事務員あーちゃん

事務員あーちゃん

事務職としてキャリアをスタート。出産を機に転職した2社目の「昭和な会社」で、業務の生産性を向上させるべくRPAを独学で習得し、効率化に成功。Xでの発信がきっかけとなり、2021年にRPAの導入を支援するIT企業に転職。現在はRPAの啓蒙活動などをリモートワークで行う。RPA初心者を対象とした著書『できるPower Automate for desktop』(インプレス)が発売中。新しいことにチャレンジしたり、がんばっている人(=フミダシさん)を呼んだトークイベント『一歩をフミダセTV』を主催。国家資格キャリアコンサルタントを取得し、キャリア相談も行っている。X:@aachan5550note

女性がお茶出し、パワポは印刷…「昭和な会社」で将来は不安

編集部

あーちゃんさんは、どんな会社で事務職として働かれてきたんですか?

あーちゃん

新卒からずっと事務職で、総務・人事を中心とした事務業務を担当していました。

出産を機に地元の製造業の会社に転職して、6年ほど働いていたのですが、ここがとにかく「昭和な会社」で。

編集部

どのあたりが前時代的だったのでしょう。

あーちゃん

まず、お茶出しは女性の仕事でした。男性がお茶を出すのは「良くないこと」という空気があり、仕方なく男性社員が対応したときには、社長が困った顔をしていました。

編集部

困る理由が分からないですね……!

あーちゃん

それから、パワポで作った資料は会議の前にわざわざ印刷して張り出すんです。

しかもカラーコピーはもったいないからと、白黒で出力してどうしても色が必要なところは色鉛筆で塗っていました。その「色塗り」は事務職の仕事です。

編集部

ちょっと信じられないです。令和ですよね……?

あーちゃん

令和ですよ(笑)

実は、社長がパソコンを全く使わない人だったんです。メールは毎朝秘書に印刷させていましたし、製造業の会社だったので社員には「パソコンに向かう時間があったら現場に行け!」と言っていました。

会社自体は300人規模で、立派な工場もあったので、決して零細企業というわけではなかったのですが、パソコンを使っていると「遊んでいるのでは?」と見られるような社風でしたね。

あーちゃんのnoteには「昭和な企業でのRPA奮闘記」も
編集部

その会社にいて、不安になることはありませんでしたか?

あーちゃん

その頃の私は30代半ばで、将来がすごく不安でした。

ただ「この会社は合わないな」とは思っていたのですが、自分が何のスキルもないまま転職しても、今と同じような会社にしか行けない気がしていたんです。

また当時は、子育てに割ける時間が少ないことにも悩んでいました。でも周りに相談したら「仕事してたら皆そんなもんだよ」と言われてしまって、モヤモヤするばかりでしたね。

編集部

そんな中で、何か行動を起こすきっかけがあったのでしょうか?

あーちゃん

子どもに習い事をさせようと思って、プログラミング教室に連れて行ったんです。

そこで子どもたちがどんどんプログラミングができるようになるのを見て、将来はこういう人たちと一緒に働くことになるんだと思うと「今のままではまずい」と思わざるを得ませんでした。

それで最初は、事務職として何かスキルを身に付けようと、VBA(※Microsoft Office製品を自動化するためのプログラミング言語)の勉強を始めてみたんです。

でも、どれだけやっても、私には教科書の内容が呪文にしか見えなくて(笑)、これは2カ月で諦めました。

編集部

そうだったんですね。RPAとの出会いは、その後に?

あーちゃん

そうです。ネットで「近い将来、事務職の仕事はなくなる、RPAがその代わりになる」という記事を見ました。

RPAって一体何なんだと調べてみると、コードを書けなくても業務を自動化できるツールだと分かって。

「VBAは無理だったけど、これなら私にもできるかも?」と思い、本を買って勉強を始めたのがきっかけです。

「お金かける意味あるの?」3カ月かけて上司を説得

編集部

RPAに出会ってからは、どうやって学んでいったのでしょうか。

あーちゃん

RPAは会社にとってもメリットが大きいはずなので、会社で導入してもらって実際の業務の中で学ぼうと考えました。

2カ月ほど独学で勉強したあとに、上司を説得し始めたのですが、どうも前時代的な考えの経営層は「ITは無料で使えるもの」という思い込みがあるようで……。

「RPAなんて使いこなせない」「お金かける意味あるの?」と言われ、なかなか取り合ってもらえませんでした。

編集部

でも、そこで諦めなかったのですね。

あーちゃん

はい。無料で使える範囲で自分でRPAを組み立ててみて、その様子を動画に撮って上司に見せたり、具体的にどれぐらいの時間やお金が削減されるかを数字で示したりして、説得し続けたところ、なんとか10万円分の予算をもらえました。

説得に3カ月ぐらいかけて、やっとトライアルを許してもらえたんです。

編集部

実際にRPAを使って、どんな効率化ができたのでしょうか?

あーちゃん

社内システムから取引先に出す伝票を出力する作業や、それをメールで送る作業など、相当な業務量が自動化されました。

今までエクセルを見ながらいちいちコピペしたり、ダウンロードボタンを何百回も手動で押していた作業が、丸ごとなくなったんです。

編集部

おお。かなりの業務効率化ですね!

あーちゃん

その評判を聞いた他部署の社員から「便利そうだからうちの部署でもやりたい」と言われて、経理部や購買部のメンバーと私の3人でRPAの導入をコツコツ進めていきました。

その結果、トライアル期間終了後も継続してRPAを使えることになったんですよ。

編集部

すごいですね。社内に仲間も増えて、かなり風向きが変わったのではないですか?

あーちゃん

そうですね。RPAに期待してくれるようになったのはうれしかったです。ただ、今度は期待が過剰になってしまって

社長が新聞で大手のRPAの事例を見たようで「どうして他社は4000時間分の業務を削減できたのに、うちはできないの?」とか言うんですよ。

素人の私がゼロから勉強を始めたばかりなのに、そんなことできるわけないじゃないですか!(笑)

編集部

ITを作る側の苦労も、分かってほしかったですね……!

あーちゃんのnoteには「昭和な企業でのRPA奮闘記」も

あーちゃんのnoteには「昭和な企業でのRPA奮闘記」も

「もう辞めてやる」投稿がX転職のきっかけに

編集部

社内でRPAのスキルを順調に伸ばしていた中で、結果的に転職することを決めたきっかけは何だったんでしょうか?

あーちゃん

コロナ禍で会社の工場が大幅にストップして、自宅待機になってしまったんです。人が余っている状況で、業務効率化は優先されなくなってしまい、RPAの予算もカットに……。

もう本当に悲しくて、私終わったなと思いました(笑)。その想いをXに投稿したんです。

そうしたら現職から「月5000円で使えるRPAがあるので、乗り換えませんか?」という連絡が来て。

編集部

それまでもXへの投稿は頻繁にしていたのですか?

あーちゃん

はい。リアルの世界にはRPAについて話せる人がおらず、孤独のあまりXへの投稿をはじめました。そして毎日の振り返りとして、RPA業務の進捗をXにポストしていたんです。

当時使っていたRPAに比べ、約1/10のコストでできることが分かり、導入しない手はないと思って会社を説得したら「月5000円ならいいよ」と、RPAを続けられることになりました。

編集部

それは本当によかったですね。

あーちゃん

はい。ただ、もうこの会社にはいられないなと思いました。

編集部

どうしてですか?

あーちゃん

その後、一緒にRPAを進めていた後輩が昇格したんですけど、私は昇格できなくて。RPAの関連で、いろいろと会社に強く言い過ぎてしまったのかもしれませんね……。

この時ばかりはショックで、会社のトイレに駆け込んで「もう辞めてやる!」とXにポストしました。

すると現職がまた連絡をくれて「もしよかったら、当社で働きませんか?」と言ってくれたんです。

編集部

何だかドラマみたいな展開ですね……!

あーちゃん

はい、「マジかっ!?」と思いました。現職は、ローコードツールの導入支援を行う山形県のIT企業で、全く畑違いだったので。

編集部

未経験のIT業界への転職ということですよね。

あーちゃん

正直ものすごく不安だったんですが、RPAを始めた頃からつながり始めていた友人に相談したら、「こんなチャンスはないよ!」と言ってくれて。

それに会社は家から数百キロ離れているので、リモートワークで働けると聞き、それなら子育てに時間が割けない悩みも解決するかもしれないと、決断することができました。

迷ったら「目の前の仕事に活かせること」を考えて

編集部

今はどんなお仕事をされているのでしょうか?

あーちゃん

RPAツールを導入したい企業さまを支援をしたり、RPAに関するセミナーを行ったり、転職先ではいろいろなことをさせてもらっています。

編集部

転職後は書籍を出すなど、大車輪の活躍ですね。

あーちゃん

時流に乗っていたなとは思います。乗り換えたRPAツールがMicrosoft社に買収されたあと、無償提供が開始して注目を集めるようになり、数少ない「実務経験を持っている事務員」として希少性が一気にあがりました。

その後はデジタル庁から「デジタル社会推進賞2021 デジタルの日奨励賞」の表彰を受けたり、Microsoft MVPに選ばれたり、何だか信じられないことばかりでした。

2021年には書籍『できるPower Automate Desktop』、23年には『できるPower Automate for desktop』を執筆するまでになって。かつての私のように、特別なITスキルのない事務職でも分かるように、請求書作成や売上データ入力など実務で即使えるテクニックが学べる書籍にしました。

あーちゃんのnoteには「昭和な企業でのRPA奮闘記」も
編集部

将来が不安だった事務員時代からは、想像もつかないのではないでしょうか。

あーちゃん

そうですね。自分のスキルに自信を持てなかった時期に、「みんなそんなもんだよ」という周りの声に流されることなく、何とかしなきゃともがき続けた自分のことは褒めてあげたいです。

今振り返ると、「目の前の仕事に活かせそうなことをとりあえずやってみる、仕事の中で実践し経験を積む」ことが本当に大事だったなと思いますね。

編集部

RPAの前にはVBAにも挑戦されていましたもんね。

あーちゃん

はい。実はその前に、Web記事を書く副業にチャレンジしたこともあるんです。でもこれも全然うまくいきませんでした。

RPAに取り組んで気付いたのは「仕事に活かせるスキルじゃないと、結局続かない」ということ。

今、目の前の仕事に使えることなら、スキルを高めやすいですし、やってみた経験がそのまま実績にもつながりますよね。結果的にキャリアに活かせたので、目の前の仕事は侮れないなと思います。

編集部

SNSでの発信も、大きなチャンスにつながりましたね。

あーちゃん

そうですね。日々の振り返りにXを使い、そのまとめをnoteに記載していたのですが、それを書籍の編集部の方が見ていてくれたおかげで、書籍出版のきっかけを掴めました。

そもそも転職できたのもXのおかげですし、発信を続けてきて本当によかったです。

編集部

今後についてはどう考えていますか?

あーちゃん

事務職の頃は「このままではこれからのテクノロジー社会を生きていけないんじゃないか」と思って、毎日不安でした。でもRPAを勉強してからは自分に自信がついて、今は休日も含めて心から楽しめています。

今まで不安に過ごしてきてしまった分、これからは人生を楽しみたいですね。そしてかつての私と同じようにモヤモヤしてきた方のために、少しでも力になることをしていきたいなと思います。

取材・文/一本麻衣 編集/大室倫子(編集部)