【柏木由紀】AKB歴17年「結局32歳まで」アイドルを続けたキャリア決断の裏側
「AKB48の卒業を初めて考えるようになったのが、28歳の頃。『これからどうしよう』って、一番悩んだ時期でした」
そう打ち明けてくれたのは、元AKB48でタレントの柏木由紀さん。
柏木さんが同グループを卒業したのは、2024年4月のこと。15歳から32歳まで、17年間もの時間を、AKB48(以下、AKB)の一員として過ごしてきた。
柏木さんの在籍期間は、AKBの中でも歴代最長。20代で卒業を決めるメンバーが多い中、30代の最年長メンバーとして活躍した。
彼女はなぜ、「一つの場所で、長く働き続ける」ことを選び、実現できたのだろうか。
「辞めたい」わけじゃないのに、辞める必要はない
私がAKBを卒業することを意識し出したのが、ちょうど28歳の頃でした。
自分と同じくらいの時期にAKBに入ったメンバーが次々に卒業していって、「もしかして、私もそろそろ辞めないといけないの?」って思うようになったんです。
でも、仕事はすごく楽しかったし、グループのみんなのことも大好きだったから、「辞めたい」とは一切思っていなくて。
それでも、周りの子が卒業していくんだから、自分もそうなのかなって思い始めたんですよね。
そんな時に、プロデューサーの秋元さんから、「柏木、30歳まではいてみたら?」って言ってもらって。
別に嫌なことがあるわけじゃないんだし、そう言ってもらえるなら続けてみようかなということで、「30歳まではいます」って公言するようになりました。
結局、32歳までいたんですけどね(笑)
30歳を迎えるまでにいろいろ考えたんですけど、やっぱり、「みんなが辞めるから辞める」っていうのは嫌だなって思ったんですよ。
本当は「楽しい」って思ってるのに、みんなが辞めるから辞めるっていう選択をしてしまったら、すごく後悔するかもしれない。
もし後悔することになったら、人のせいにしてしまいそうなのも嫌だった。
最後まで「自分が決めたことだから」と思えた方が絶対にいいので、グループの中で最高齢だろうと、歴代最長の在籍期間だろうと、納得するまでここで頑張ろうと決めました。
一つの場所に長くいたら「最高に楽しい」瞬間が訪れた
ただ、30代まで残るからには、自分にしかできないことをする必要があるとも思いました。
キャリアも年齢も一番上の人になったからこそ、後輩育成だったり、グループをもっと良くしていくためのプロデュースだったり、これまでとはまた違ったかたちで貢献できるような仕事をしていこうと決めたんです。
それで、「30歳まではやってみなよ」って言ってくれた秋元さんに、「だったら私、こういうことをやってみたいんです」って自分の希望を伝えたんですよ。
それまでは、自分にそんな「やりたいこと」なんて言う権利はないと思っていたんですけど、最高齢の私がやらずに誰がやるんだ! って思って(笑)
結果的に、グループのコンサートのプロデュースを任せてもらえるようになったり、後輩育成にももっと注力させてもらえるようになったりして、自分が「こうなったらいいのに」と思っていたグループに近づけていくことができるようになりました。
それがもう、最高に楽しくて。
当時は、「こんなに長くよくいられますね」って言われることもあったんですけど、個人的には卒業する前の数年が自分のキャリアの中でも一番やりがいがあって、一番「青春」を感じている時期だったんですよ。
そういう感覚を味わえたのは、一つの場所で長く働き続けてきたからこその特権。
30代になっても「ずっといた場所で、こんなにも生き生きと働ける」っていうのは自分にとってもすごく貴重な発見でしたし、ちゃんと「やりたいことをかたちにする力」が身についていたことにも気付きました。
周囲に流されず、自分でちゃんと選んで「ここに残る」ことを選択できて、本当に良かったなと思います。
30代で頭をよぎった、結婚・出産の選択肢
一方で、32歳でいよいよ卒業することにした理由はいくつかあるんですけど、「結婚、出産」を考えたこともそのきっかけの一つです。
30歳になる頃までは、結婚願望すらなかったんですけど、31歳になってからふと「このままAKB48にいたら、結婚・出産という選択肢は将来的にも持てないんだろうな」って思うようになって。
結婚も出産も、相手がいるものだし、望んだところで絶対にできるものではないのは分かっているんですけどね。
それでも、そういう選択ができる可能性すらない状況にい続けるのは、これからの自分の人生にとって、どうなんだろう……と。
もしかしたら、私にだって、結婚して子どもを持つ人生もあるのかもーー。そう思ったら、少なくともその選択肢をとれるスタート地点に立ってみたいと思いました。
そして、将来的に出産することを考慮すると、年齢的にもあまり先延ばしにしない方が、自分の選択肢が広がりそうだと思ったので、32歳で卒業することを決めたんです。
正直、そう決断したからといって将来どうなるかは全く分からないけど、いまはその選択ができる環境に身を置くことができたことで、満足はしています。
あとは、当時のAKB48の後輩たちが大好きだったので、その子たちに送り出してほしかったんですよね。
それに、彼女たちにだったら「AKBを任せられる」と思えたことも大きかった。
「やりたいことは全部やり切った」「ここで卒業しても、全然悔いがない」そうきっぱり言い切れるくらい清々しい気分でいられたことも、個人として新しいスタートを切る決意を後押ししてくれました。
「いつ辞めてもいい」と思っていたから、長く続けられた
何でこんなに長くアイドルを続けられたの? って、よく聞かれるんです。アイドルなんて、大変でしょう? って。
確かに、アイドルをやっていなければ悩まずに済んだようなことに悩むことだってあるし、忙しいし、SNSを開けば自分への誹謗中傷が目に入ったりすることもあるし、気持ちが休まる日なんて1日もなかったような気がします(笑)
でも、大前提として、私はアイドルの仕事が大好きだったから続けられました。
こんな自分でも、ファンの皆さんが会いに来てくれて、応援してくれて……とにかくファンの皆さんが喜んでくれることをすることが、私の生きがいでした。
とにかく無趣味な人間なので、仕事がなければ何をしていいか分からないという面もあって(笑)。仕事が趣味みたいなもので、もう、ずっと「仕事をくれ!」って思うほど。
一方で、心の奥底では「嫌だったらいつでも辞めてやる」っていう気持ちは持っていたんですよ。最初から最後まで。
実は、これがすごく良かったんだろうなって思っています。
いつも真面目に、完璧にやろうとすると、うまくいかないときにどうしても苦しくなってしまうと思うんです。常に100点をとる働き方を目指してしまうと、ほとんどの人は長続きしません。
私の場合は、「頑張るときはすごく頑張って120点をとる」けど、普段は「70~80点くらいで、及第点をとれればいいか」くらいの考え方で仕事をしていて。
そういうちょっとした気持ちのゆとりを持っていたから、メンタルの浮き沈みに左右されずに長く仕事を続けてこられたのかなと思うんですよね。
長く働く秘訣は「モチベーションの源泉」を知ること
個人で仕事をするようになった今も、その考え自体は変わりません。仕事を楽しみながら続けていく秘訣は、完璧を目指しすぎないこと。
17年間、AKB48で仕事をしてきて、自分が元気でいられる働き方のバランス感覚をしっかり身につけることができたので、マイペースに働いていけたらと思っています。
あと、いま意識しているのはちゃんと休む時間もとることと、プライベートの時間も充実させること。
私ね、休日の過ごし方が本当にひどいんですよ(笑)。基本は寝るだけ。起きていても、携帯をいじるだけ。
しかも、いつまでも寝ちゃうから、だいたい起きると真っ暗で……。「あぁ、今日も何もできずに終わった」っていう日が続くと、さすがに自己肯定感が下がります。
だから、語学の勉強とか運動とか、自分磨きにつながるようなことも生活の中に組み込んでいけたらいいなと思っているところです。
そして、仕事の面では引き続き、私を応援してくれるファンの皆さんの期待に応えるような仕事をしていきたい。
それが私自身が一番やりがいを感じることだし、仕事を頑張るモチベーションの源泉になっているから。
AKB時代には、本当にいろいろな仕事をさせてもらいました。
時には、「アイドルなのになんでこんなことまでやらないといけないんだろう?」と思うような、体を張るような仕事だって、全力でやりましたよ(笑)
でも、だからこそ、自分自身が何に喜びを感じるのか、やりがいだと思うのかをよく知ることができました。
結局、いろいろなことを試してみないと、自分が何を楽しいと思うのか、嫌だと思うのか、何のためなら頑張れるのかは分からない。
20代で本当にいろいろな仕事に挑戦させてもらえたからこそ、30代以降は自分自身をご機嫌に保ちながら長く働けるようになったのかなと思います。
自分のためよりも、誰かのためにーー。私はその方が頑張れるから、今後も皆さんに望んでもらえることは何でもやってみたいし、ステージにも立ち続けていきたいですね。
1991年7月15日生まれ、鹿児島県出身。2024年4月をもって17年間在籍したAKB48を卒業。“ゆきりん”の愛称で親しまれ、バラエティー番組で見せる飾らないキャラクターが人気。YouTubeやファッション・美容誌で大好きなメイクとコスメについて熱く語る姿が幅広い世代の女性から支持を集めている。22年に日本化粧品検定1級に合格し、23年には自身がプロデュースするコスメブランド『upink(ユーピンク)』を立ち上げた
書籍紹介
『メイクで見つける可愛いの法則』(柏木由紀/宝島社)
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取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)