不妊治療、子育てと仕事の両立…働く女性が抱く「キャリアの三大不安」への対処法【福田恵里・金井芽衣・秋本可愛】

金井芽衣・福田恵理・秋本可愛

ライフステージの変化に影響を受けやすい女性のキャリア。

一般的に「結婚・出産適齢期」と言われる20代後半~30代前半の時期は、責任のある仕事を任されるようになるなど、仕事が楽しくなってくる時期でもあります。

一方で、周囲と自分を比較して焦ったり、妊娠・出産や子育てとの両立に悩んだり。不安な気持ちが押し寄せてくるもの。

そこで今回は子育てと仕事を両立しながら企業経営を行う、ポジウィル代表取締役の金井芽衣さん、SHE代表取締役の福田恵里さん、Blanket代表取締役の秋本可愛さんの三人にインタビューを実施。

1990年生まれで同い年の三人は、仕事で充実する日々を過ごす一方、20代後半~30代前半にかけて、不妊治療や妊娠・出産を経験しています。

この世代ならではのキャリアの悩みに直面した場合はどんなふうに対処するとよいのか、三人の経験談や考えを聞いてみました。

金井芽衣・福田恵里・秋本可愛

【写真左】ポジウィル代表取締役 金井芽衣さん
1990年群馬県生まれ。埼玉純真短期大学で保育士・幼稚園教諭の免許を取得した後、2010年に法政大学キャリアデザイン学部に編入。13年、リクルートキャリアに入社し、法人営業を経験。17年に国家資格キャリアコンサルタント登録。同年8月にポジウィルを設立し、同社代表取締役に就任。キャリアのパーソナルトレーニングを提供する『POSIWILL CAREER』などを運営。一児の母'


【写真中央】SHE代表取締役 福田恵里さん
1990年生まれ。大阪大学在学中、サンフランシスコ・韓国に留学。帰国後、ウェブデザイナーとして制作会社でインターンをする傍ら、初心者の女性限定のウェブデザインスクール「Design Girls」を立ち上げる。2015年リクルートホールディングスに新卒入社。ゼクシィやリクナビのアプリのUXデザインを担当。17年、SHEを設立。女性向けキャリアスクール『SHElikes(シーライクス)』は累計受講者17万人以上を突破。20年、同社代表取締役/CEOに就任。二児の母


【写真右】Blanket代表取締役 秋本可愛さん
1990年生まれ。大学時代に認知症予防につながるフリーペーパー『孫心』を発行し、全国の学生フリーペーパーコンテストで準グランプリを受賞。2013年4月の大学卒業後にJoin for Kaigo(20年、Blanketに社名変更)を設立し、若者が介護に関心を持つきっかけづくりや、若者が活躍できる環境づくりに注力。超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ『KAIGO LEADERS』を運営。一児の母

【1】不妊治療と仕事の両立への不安

編集部

皆さんは20~30代女性の仕事・キャリアに関する悩みを社内外で耳にすることが多い立場だと思います。特に印象的なものは何ですか?

金井

『POSIWILL CAREER』に相談にいらっしゃる20〜30代の方でいうと、不妊治療と仕事の両立に悩んでいらっしゃる方は多いですね。

妊娠・出産という目に見えるライフステージの変化とは違って、妊活は職場でまだ理解されにくい現実があると感じます。

不妊治療中は週に何度も通院しなければいけなかったり、急に通院の予定が決まることがあったりするので、「他の人に迷惑がられているのではないか」「職場に迷惑をかけているのではないか」と思ってしまう人も多いし、そのせいで仕事を辞めようかと真剣に悩んでいる人も少なくありません。

金井芽衣
福田

不妊治療って、頑張ったら成果が必ず出るものではないからこそ「いつまでに終わる」とは言えないのが当事者としてはつらいところですよね。

数カ月で妊娠できて治療を終える人もいれば、5年、10年と続ける人もいるわけで、そう簡単に「次で終わり」と諦められるものでもないから、キャリアの面でも身動きがとれなくなってしまう。

結局、不妊治療を理由に仕事を辞めてしまう人もいますよね。

秋本

実は私も不妊治療を経験していて、体外受精で第一子を授かることができました。

治療中は多い時で週に3日は通院して、「じゃあ、次はまた明後日来てください」という感じで次の予定が決まっていくので最初はびっくりしましたね。

噂では「通院が大変だ」っていう話を聞いたことはあったけれど、自分が体験してみてこんなにスケジュールに影響が出るものなのかと痛感しました。

福田

しかも、1回病院に行ったら採血して、その結果を待って……という感じで、2~3時間はかかるじゃないですか。

シフト勤務の方や出社がマストの働き方をしている方だと会社の理解なくして不妊治療と仕事を両立するのはかなり難しいことなんだなと感じました。

秋本

まさに。私も自分のスケジュールを自分でコントロールできる立場だったから両立できましたけど、それができない立場だったらすごく悩んだだろうなと思います。

編集部

皆さんはマネジメントに携わる立場ですが、不妊治療と仕事の両立に悩んでいるメンバーがいたらどうします?

金井

妊娠・出産って自分の人生においてすごく大事なことだし、ないがしろにしていいものじゃないと思うから、遠慮なく励んでほしいですね。

だから、「こんなこと言っていいのかな?」って思う人もいるかもしれないけれど、私としては上司にぜひ相談してみてほしいです。

秋本

私もそう思いますね。

自分一人で抱え込まずに然るべき人に相談しておいた方がスケジュールの調整もしやすくなるし、自分の状況を理解してくれている人が側にいると思えるのは心理的にも安心できるはずです。

福田

経営者やマネジャー側からすると、早めに相談してくれるとありがたいですよね。

言ってくれさえすれば、その人が安心して働けるような環境をつくるにはどうしたらいいか考えたり、もしも育休に入ることがあったらチームの体制をどうすべきか考えておけたりもするし。

だから、「今度、妊活始めようと思うんです」みたいな話を、ぜひしてほしいと思います。

編集部

信頼して相談できる上司がいればいいですが、そうじゃない場合もありそうです。その場合は………?

金井

もしかすると「言ってみたら意外と力になってくれた」みたいなケースもあるとは思います。だから、まずは決めつけずに相談してみることが大切。

ただ、職場に男性ばかりで不妊治療や妊娠・出産に関する知識のある人がほとんどいない環境だと、やっぱり言いづらい面もあるはず。

それに、最初にお話しした通り不妊治療への理解がない職場もまだまだ多い面もありますよね。

そんな中で、勇気を出して相談したのに「いま妊活なんてあり得ない」「仕事を蔑ろにするな」みたいなことを言われたりするようなら、そもそもそういう職場にいていいのか問い直すタイミングなのかも。

【2】子育てと仕事の両立への不安

編集部

福田さんは、SHEの代表取締役に就任されたばかりの時に産休に入られましたよね。ご自身のキャリアにとっても会社にとっても大きな決断だったと思いますが、迷いませんでしたか?

福田恵里
福田

代表交代については就任が決まる前に約1年かけて議論してきたことだったので、そこまで迷いませんでした。

それに、「この人たちになら任せられる」と思えるメンバーがそろっていたので、私は安心して産休期間を迎えられましたね。

当時は大変なこともいろいろありましたけど、今ではあの時期を乗り越えられて良かったと思います。

編集部

子育てとスタートアップの経営を両立している女性はまだ多くありません。いざ両立生活を始めてみて実際いかがでしたか?

福田

自分が子どもを産む前は、生活がどう変わるのか全く予想できていなかったんです。だから漠然とした不安がありました。

だけど、いざやってみると「意外とやれるもんだな」というのが私の感想。

家族、保育園、ベビーシッティングサービス、行政のサポートなど使えるものはなんでも使って仕事と両立しています。

編集部

出産後も働き続ける女性は増えていますが、それでもまだ「子どもができたら今の仕事と両立できるのか」「自分に両立できるのか」と不安を感じる女性も多い印象です。

福田

はい、『SHElikes』で学んでいらっしゃる20〜30代女性の中にも、そういう方はたくさんいらっしゃると思います。

ただ、私もそうだったように出産前に不安だった理由は、両立するためのいろいろな選択肢を具体的にイメージできていなかったからだと思うんですよね。

秋本

少し前に、学生さんとお話しする機会があったんですけど、まだ就職前の彼女たちですら「子育てと仕事の両立に不安を感じる」と口にしていて驚きました。

秋本可愛
秋本

最近「子育てペナルティ」というキーワードがSNSなどのメディアで話題になりましたけど、育児と仕事の両立の「大変さ」とか、ネガティブな面がフィーチャーされすぎている気もしています。

だから余計に、まだ経験していない女性たちが必要以上に不安をあおられてしまうというか。

だけど、福田さんもおっしゃっていた通り、実は「頼れる先」っていっぱいあって、うまく人の力を借りて「いつも完璧に」なんて思わなければ、意外とできるもんだなってなると思うんですよね。

金井

まさにそうですね。私も今こどもが1歳なのですが、自分がその立場になって初めて「こんなにいっぱい頼れるところがあるのか」と思いましたね。

逆に、産休・育休を女性だけが長くとって人の力を借りずにずっと子どもと二人きりで過ごしていると、孤独を感じたり、産後うつになってしまったりするリスクが高まると思います。

福田

私が出産後に職場を離れていたのはだいたい2カ月くらいでしたけど、それでもすごく大変で……。「仕事の方が子育てより楽だ」と思ってしまったこともありました(笑)

それに、こんなこと思う必要は全くないんですけど、子どもと家にこもっていると「自分は社会の役に立っていない」みたいな無力感すら湧いてきて、社会とのつながりが実感できなくなったのも辛かった。

福田

職場に復帰したらしたで両立する大変さはあれど、自分の承認欲求が満たされたり、社会に貢献できている感覚を取り戻せたりもできて、私自身は元気になれました。

みんながみんな私みたいなタイプではないとは思いますけど、仕事が好きな人であれば、「両立する」と決めてしまえば「じゃあどうすればいいかな」って具体的に考えられるようになると思うので、あまり不安視する必要はないのかなと思います。

金井

自立って依存先がたくさんあることだってよく言うじゃないですか。そういう意味でも、家庭だけじゃなく、職場という依存先があることで減るしんどさもある気がしますね。

【3】漠然とした将来への不安

編集部

出産や子育てとの両立に限らず、先々の未来に漠然とした不安を感じている女性も多いと思います。

福田恵里・秋本可愛
福田

そうですね。

先ほどの話にもつながりますけど、やっぱり具体的にイメージしづらいことには不安を感じやすいと思います。

そういう意味では将来のキャリアも全てをコントロールするのは不可能だし、何が起きるか分からないものだから、不安を感じて当然です。

福田

そんな中で少しでも不安を軽減させようと思ったら、やっぱり「何が起きても自分は大丈夫だ」と思えるような選択肢をたくさん持っておくことが大事なんじゃないでしょうか。

例えば、最近話題の卵子凍結って、いつ子どもを産むか分からないけどその「いつか」が来たときに後悔しないために選択肢を増やす行為じゃないですか。

キャリアも同じで、未来の自分が「このスキルがあれば食っていける」とか「自分らしいワークスタイルが築ける」と思うような選択肢をいかに増やしていけるかが大事なのかなと。

福田

仮にいま、販売の仕事をしている人がWebデザインのスキルを習得するために学び始めたからと言って、この先Webデザイナーに絶対にならなきゃいけない、なんてことはありませんよね。

でも、もし販売の仕事を続けるのがいざ困難になってしまったときに、「私にはWebデザイナーで食っていく道もあるし」って思えたらだいぶ不安が軽減される。

必ずキャリアチェンジする前提で動き出すとハードルが上がってしまいますが、未来の自分の選択肢を増やすために「新しい経験を積んでみよう」「学んでみよう」って思って行動するのは気軽だし、心の安寧につながるのではないでしょうか。

秋本

あと、将来のことを考える中で、自分の体のことを知っておくことって大事だと思うんです。

女性って20後半ぐらいから体の変化が大きいから、長く働き続けるためには不調への対処法もちゃんと知っておきたいところ。

先の話に戻りますが、もしいつか子どもが欲しいと思っているなら、早めにブライダルチェック(※)を受けて自分の状態を知っておくといいと思います。

いざ妊娠出産をと思った時に「手遅れだった」ということがないように、行動して自分の現状を知っているだけでも、漠然とした未来への不安も軽減されそうですね。

(※)ブライダルチェック:結婚を控えている女性や、妊娠・出産を希望する女性を対象とした婦人科検診です。妊娠や出産に影響を与える可能性のある病気や異常を早期に発見し、治療する目的で行われる

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取材・文/栗原千明(編集部)撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)