綾瀬はるか「私が間違っているのかも」で蓋をしない。“自分の気持ち”を置き去りにしない働き方

綾瀬はるか「私が間違っているのかも」で蓋をしない。“自分の気持ち”を置き去りにしない働き方

女性だからという理由で役割を決めつけられたり、不公平な扱いを受けたりしたとき。

自分の中に生まれた違和感を、「私が気にしすぎなのかも」と、なかったことにしてしまうことはないだろうか。

綾瀬はるかさん主演の映画『ファーストボイス』が描くのは、職場で理不尽な扱いを受けた女性と、その声を受け止め、前例のない裁判に挑む女性たちの物語だ。舞台はバブル絶頂期の時代だが、周囲の“当たり前”に異議を唱える難しさは、今の働く女性にも通じるものがある。

綾瀬さん自身も、何か違和感があっても「自分が間違っているのかもしれない」と、その気持ちを消してしまうことがあるという。

声を上げる勇気が、すぐには持てなくても。自分の感じたことまで否定しないために、何ができるのだろう。役柄への思いと自身の経験から、綾瀬さんが語ってくれた。

綾瀬はるかさん

綾瀬はるかさん

1985年生まれ、広島県出身。2000年に芸能界入り。主な出演作に、日曜劇場『天国と地獄 〜サイコな2人〜』(21年TBS系)、『元彼の遺言状』(22年フジテレビ系)、映画『リボルバー・リリー』(23年)、『ルート29』(24年)、『海街diary』年(15年)、『人はなぜラブレターを書くのか』『箱の中の羊』(26年) Instagram

誰かのために動ける人は、強い

映画『ファーストボイス』は、実際の「福岡セクシュアル・ハラスメント裁判」に着想を得たフィクションであり、世間の“常識”に挑む女性たちを描くリーガルエンターテインメント。

綾瀬さんが演じるのは、困っている人を放っておけず、お金にならない案件も引き受けてしまう、お人好しの弁護士・朝日道子だ。

綾瀬さん

朝日は賢い弁護士なのに、ちょっと抜けているところもあって、すごくチャーミングな女性です。

依頼してきた方の話をちゃんと聞いて寄り添える優しさや、諦めない粘り強さもあって、女性としても人としてもかっこいいなと思いました。

朝日は、職場でハラスメントを受けて仕事を奪われた女性・恵(ファーストサマーウイカ)から相談を受け、会社と上司を相手にした裁判へと踏み出す。

作中画像

自身との共通点を尋ねると、「のんびりしているところは、ちょっと似ているかもしれないですね」と、笑顔を見せる。

ただ、朝日の穏やかさの奥には、一度引き受けたことを諦めない強さがある。綾瀬さんは、物語の舞台である平成初期の価値観の中で、自分の決めたことを貫く朝日の姿にも心を引かれた。

綾瀬さん

きっと今よりも、家事や育児は女性がやるものだという思い込みが強くあった時代。その中でどうやったらあんなふうに働けたんだろうと、本当に不思議に思うぐらいです。

自分がやると決めたことには、隙間を見つけて突き進む強さのある女性ですね。

作中画像
綾瀬さん

どうなるか分からないからこそやってみよう、これはチャンスだと、すぐにプラスに変えられる発想力もすごいなと思います。

自分のためだけではなく、誰かのために動ける強さや、人の心に寄り添って親身になれる優しさは、すごく見習いたいなと思いました。

「みんなもそうだし」で自分の気持ちを消さないで

綾瀬はるかさん

朝日のように話を聞いてくれる人がいたら、心強い。けれど実際は、誰かに話す前に、自分の気持ちを打ち消してしまうことは少なくないはずだ。

インタビューでこうした「声の上げづらさ」について尋ねると、綾瀬さんは、周囲の反応に加えて、自分の中にある思い込みについても語ってくれた。

綾瀬さん

誰かに言われるわけではなくても、女性はこうするものだと、たぶん自分の中にも植え付けられているものがあって。何かおかしいなと思っても、みんなもそうだし、と流してしまうことはあるんじゃないですか。

誰かに我慢を求められなくても、自分で自分を納得させてしまう。そのとき根拠にしている「みんなもそう」は、本当にそうなのだろうか。

こうした「当たり前」への思い込みは、仕事の中にもある。綾瀬さんにも、自分では当然だと思っていたことを人に話し、意外な反応が返ってきた経験があるという。

綾瀬さん

これまで「仕事は全て頑張らなきゃ、もっと努力しなきゃ」と思って頑張ってきましたが、意外とみんな、もっと休んでいるんだなとか、もっと自由にやっているんだなとか。そんなに自分の意見を言っていいんだ、と思うことは結構ありますね。

綾瀬はるかさん

自分にとって当然だった頑張り方が、周囲にとってはそうでもなかった──。

誰かとの会話は、自分だけでは疑わなかった“当たり前”に気付く機会にもなる。綾瀬さんは普段から、迷っていることを親しい人に話し、意見を聞くことが多いそうだ。

綾瀬さん

私はこの仕事だけをずっとしてきたので、いろいろなことについて、これで合っているのかなと迷うことが多くて。自分の考えを話して、やり方や伝え方について相談することが多いです。

自分が正しいと確信できてからでなくても、疑問を誰かに話してみることはできる。「みんなもそうだから」と収めていた気持ちにも、別の見方があると分かるかもしれない。

声にする勇気がなくても、違和感まで消さなくていい

綾瀬はるかさん

では、仕事の相手に直接意見を伝えるときは、どうしているのだろう。綾瀬さんは撮影現場で疑問を感じたら、「私はこう思ったんですけど、どうですかね?」と、自分の受け取り方を伝え、相手の考えを尋ねるようにしているという。

綾瀬さん

お芝居の正解って、あるようでないものです。自分には違和感があっても、監督とは見ている角度が違うし、みんなそれぞれ違うから、自分が思う疑問は一応ぶつけてみる。話を聞いて私が納得することもあれば、監督が同意してくれることもあります。

ただ、作品について意見を交わすことと、不公平な扱いに異議を唱えることでは、置かれる状況も異なる。誰にでも、同じように話せるわけではない。綾瀬さん自身も、感じたことを伝えられずにいるときがあるという。

綾瀬さん

自分の意見を言うって、ちょっと勇気がいること。私の場合は、お芝居以外だと「自分が間違っているのかもしれない」と思って、その気持ちを消してしまうことも少なくないんです。

でも、違和感をちゃんと持っていて、誰かに話してみると、同じように感じていた人がいると分かることもある。今回の映画のように、それが世の中を変えることにつながっていくこともあるんですよね。

自分の感じ方を疑ってしまう気持ちを知っているからこそ、綾瀬さんは、言葉にする前の違和感を大切にしたいと話す。

すぐに答えを出せなくても、その気持ちを持っていていい。誰かと分かち合えたときに、初めて見えてくるものもある。

綾瀬はるかさん
綾瀬さん

違和感を見過ごさないことは、自分を信じてみることでもあるのかなと思います。

自分の気持ちに素直に、気になったり、引っ掛かったりすることがあったら、一歩踏み出してみる。それが、何か景色を変えるきっかけになるのかなと思います。

今すぐ声にできなくても、自分が感じたことまで、なかったことにしなくていい。その気持ちを大切にすることが、自分を大切に扱う小さな始まりになるのだ。

取材・文/大室倫子 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)

作品情報:映画『ファーストボイス』絶賛上映中

ファーストボイス

舞台は、バブル絶頂期。お人好しの弁護士・朝日道子(綾瀬はるか)のもとに、職場で理不尽な嫌がらせを受け、大好きな仕事を奪われた恵(ファーストサマーウイカ)が訪れる。

会社と上司を訴えたいという依頼に、新人弁護士の栞(松本穂香)は勝ち目がないと反対するが、朝日は未来につながる裁判だと信じて立ち上がる。

実際の「福岡セクシュアル・ハラスメント裁判」に着想を得たフィクションであり、世間の“常識”に挑む女性たちを描くリーガルエンターテインメント。

出演:綾瀬はるか、ファーストサマーウイカ、松本穂香 ほか
監督:前田哲
脚本:橋本裕志
配給:松竹/ワーナー・ブラザース映画
主題歌:「History」ちゃんみな NO LABEL MUSIC / Sony Music Labels Inc.
公式サイト
©2026「ファーストボイス」製作委員会