森田剛「何者かになろうとしなくていい」成果に焦る時代に “流されるまま”で結果を残せる理由

森田剛「何者かになろうとしなくていい」成果に焦る時代に “流されるまま”で結果を残せる理由

同期や後輩の活躍を見て、「自分も何か成果を出さなければ」と焦る。仕事を続ける中で、そんな気持ちになることはないだろうか。

2026年10月30日(金)公開の映画『見上げてごらん』で森田剛さんが演じるのは、長年、マンガ家のアシスタントを続ける土屋輝一。夢をかなえた人への羨望と、思うようにいかない現実の間で揺れる人物だ。

土屋の気持ちに理解を示す一方、自身が仕事を続けるうえで心掛けていることを尋ねると、森田さんからは「全くないです。僕は流されるまま」という意外な答えが返ってきた。

明快なポリシーを語らない彼は、どんな気持ちで仕事に向き合い、人と作品をつくっているのか。飾り気のないその言葉から、日々の仕事で肩の荷を下ろすヒントを探った。

森田 剛さん

森田 剛さん

1979年2月20日生まれ、埼玉県出身。数々の舞台、映像作品に出演し、卓越した表現力で高い評価を得る。近年の主な映画出演作に『DEATH DAYS 劇場版』『前科者』(2022年)『白鍵と黒鍵の間に』(23年)『雨の中の慾情』(24年)など。舞台では『ロスメルスホルム』『ヴォイツェック』『砂の女』『僕らの時代じゃない』 などに出演

「成果を出さなきゃ」焦りは誰にでもあるもの

森田さんが演じた土屋は、大御所マンガ家のアシスタントを長年務める42歳。

マンガ家デビューした後輩や、人気声優として活躍する別居中の妻に、複雑な感情を抱えながらも、どこか冷めた感情や諦めのようなものを抱えている男だ。

作中画像

「夢をかなえること」の意味を問いかける本作を、森田さんはどう受け止めたのだろうか。

森田さん

作中の「夢を叶えるって、そんなに大事?」というセリフは、彼が絞り出した感じがあるんですよね。いろんな悔しい思いをして、諦めて……でもどこかで、プライドも捨てきれなくて。そういう感情が全て混ざった言葉だなと思いました。

ステップアップを目指さず「現状維持」で生きる土屋の姿勢にも共感を寄せる。

森田さん

現状維持って、素敵なスタンスだと思いますよ。そもそもこの世に生まれたことで、もう十分なはずなのに、それ以上に何かになろうとするって、結局は人間の欲じゃないですか。

そんなことを考えなくても、普通に自由に、楽しく生きられたらいいのになと思います。
一方で、自分がマンガでやっていくと決めた以上は、「一番になりたい」「売れたい」と思う土屋の気持ちもすごく分かるんですよね。

森田剛さん

成果に追われず、楽しく生きたい。それでも、やると決めた仕事で結果を出したい。その両方があるからこそ、土屋の姿は、仕事に向き合う人の心に引っ掛かるのだろう。

取材でも「成果を出さなきゃという焦りがある」と話が及ぶと、森田さんは優しく、噛みしめるように言葉を重ねた。

森田さん

「焦り」は、みんなありますよ。いつの時代も、どんな年代の人もみんな抱えているものです。

だけど、「それでもやっぱり生きていかなきゃいけない」んですよね。今回の映画を通して、そういう部分が観てくれた人に伝わればいいなと思っています。

自分は作品の「コマ」でしかない

土屋の悔しさや焦りに共感を示した森田さん。一方で自身は10代から芸能界の第一線で活躍し、俳優としても数々の作品で存在感を放ってきた。

そんな森田さんは、長年プロとして活躍し続ける上で、どんな信念やポリシーを大切にしているのだろうか。

そう問いかけると、少し間を置いてあっけらかんと笑った。

森田さん

全くないです。「無」です。

森田剛さん

10代から長くこの仕事を続けていながら、ポリシーや心掛けていることも「全くない」と言い切る。その姿勢は、主演を務める現場での立ち位置にも表れている。

森田さん

本当に流されるまま、気付いたらここにいたって感じなんです。例えば今作のように、主演だからといって「現場を引っ張っていこう」みたいな意識も全然なくて。

いろんなスタイルの人がいていいと思うけれど、俺は作品の一部、コマみたいな感覚です。映画はあくまで監督のものなので、僕は「土屋としてそこにいる」ということだけを心掛けていました。

「コマ」という表現からは受け身な印象も受けるが、なぜそこまで素直に求められた役割に応えられるのだろうか。その理由は、至ってシンプルだった。

森田さん

これをしゃべれって言われたらしゃべるし、朝のこの時間に来いって言われたら行く。それができるのは、結局好きだからじゃないですか。

嫌いだったら、もう「ふざけんなよ」ってなっちゃうでしょ。僕も表現が好きだからこそ、求められたことには素直に応えたいし、それが結果的にいい作品をつくることにつながると思うんですよね。

森田剛さん

主演だからといって、自分が先頭に立つ必要はない。監督が描く世界を実現するために、自分に求められた役割を全うする。それが森田さんなりの、良い作品をつくるための向き合い方なのだ。

流された先でも「案外良い場所に辿り着ける」

作品の一部として、役を生きる。そんな森田さんは、現場で一緒に働く人たちとどう関わっているのだろうか。

森田さん

僕ももう47歳になったので、自分にできること・できないことが分かってきたんですよね。そして自分のことが分かると、周りも見えてくるというか。

周りが見えると「ここは自分が出た方がいいな」「ここは引いた方がいいな」って、全体のバランスを取れるようになるんです。そういう「出たり引いたり」っていう動きは、10代の頃から感覚でやってきたことでもあるので、身に付いているのかもしれません。

森田剛さん

常に自分が前に出て引っ張るのではなく、周囲を見ながら、出たり引いたりする。森田さんが目を向けているのは、自分の役割だけでなく、共に作品をつくる人たちが力を発揮できることだ。

森田さん

みんなで作品を作る時間って、本当に一瞬。すぐにそれぞれ違う道に分かれちゃうから。だからその一瞬だけでも、楽しく、みんなが自分の力を出してくれる環境っていうのをつくれたらいいですよね。

一つの作品をつくるために集まり、終わればそれぞれの現場へ向かう。その限られた時間を共にする人たちから、森田さん自身も多くのものを受け取ってきた。

森田さん

この仕事をしていて、僕の一番の宝物は「人との出会い」なのだとつくづく思います。僕の周りには本当に魅力的な人がたくさんいて、そういう素敵な人たちから受けた刺激や影響が、今の僕をつくってくれているんですよ。

人と出会い、一緒に仕事をする。その積み重ねの先に、次の仕事もある。

では、オファーをもらえる自分でいるためには、何が必要なのだろうか。取材の終盤、そんな問いを投げかけると、森田さんは「結局、人間性だと思うんですよね」と話した。

森田さん

お仕事をいただくのも、現場で助け合うのも、やっぱり最後は「人」だと思います。人は一人では絶対に生きていけないから、誰かを助けられたり、助けてもらえたりする自分でいることです。

焦る気持ちがあっても全然いい。はっきりした目標や強いポリシーなんて無理に持たなくたっていい。目の前の好きなことに向き合って、周りの人とちゃんと付き合っていけば、流された先で案外良い場所に辿り着けるんじゃないかなと思います。

森田剛さん

「何者かにならなければ」と焦る時、自分にはまだ何もないように思えてしまう。

けれど、森田さんのように「好き」だと思えることや、期待に応えたい相手がいることも、仕事を続ける確かな理由になる。立派な答えを探す前に、日々どう仕事に向き合うかに、その人らしさは宿るのだろう。

取材・文/根津香菜子 撮影/笹井タカマサ 編集/大室倫子(編集部)
ヘアメイク/AMANO スタイリスト/Satoshi Yoshimoto

映画『見上げてごらん』
2026年10月30日(金)よりテアトル新宿他全国順次ロードショー

映画『見上げてごらん』

出演:森田剛 森川葵 川上友里/阿部寛 松本まりか 武田鉄矢
早瀬憩 前田航基 吉田晴登 伊島空 上田遥
監督:森本晶一&佐藤快磨 原案・脚本:森本晶一 配給:ギャガ
©2026「見上げてごらん」製作委員会
公式HP: https://gaga.ne.jp/miagetegoran
公式X:@_miagete_goran_