SUPER EIGHT 安田章大「慣れた時が一番危ない」病を経て気付いた“仕事をこなさない”ことの大切さ

SUPER EIGHT 安田章大「慣れた時が一番危ない」病を経て気付いた“仕事をこなさない”ことの大切さ

キャリアを重ねるほど、日々の仕事はスムーズに回せるようになるもの。そこから現状維持の延長でただ歳を重ねてしまう人と、自分なりのやりがいを見つけられる人とでは、何が違うのだろうか。

ある程度経験を重ねると出てくる『慣れ』こそが危ない」。そう語るのは、8月28日公開の映画『平行と垂直』で主演を務めるSUPER EIGHTの安田章大さんだ。

本作では、自閉スペクトラム症(ASD)の主人公を演じるだけではなく、企画段階から深く関わってきたという安田さん。なぜ彼は「与えられた役をこなす」だけではなく、自ら仕掛ける側にまわったのか。

結成24年を迎えるトップアイドルグループのメンバーとして、アーティストとして、そして表現者として。常に最前線を駆けてきた安田さんの「こなさない」仕事の信念に迫った。

SUPER EIGHT 安田章大さん

SUPER EIGHT 安田章大さん

1984年9月11日生まれ。兵庫県出身。STARTO ENTERTAINMENT所属。アイドルグループ・SUPER EIGHTのメンバー。2004年、「浪花いろは節」でCDデビュー。俳優としてはMBS・TBS系ドラマ『ドラゴン青年団』(12年)、映画『嘘八百 なにわ夢の陣』(23年)、舞台『アリババ』『愛の乞食』(25年)『ポルノスター』(26年)などに出演

「やりたい」をかたちにする。偶然の出会いから始まった映画づくり

安田さんの「こなさない」姿勢の現在地ともいえるのが、8月28日に公開を迎える映画『平行と垂直』だ。その芽吹きは、2023年12月。安田さんの心を動かした、とある人物との出会いがきっかけだった。

安田さん

本作の原案者であり、脚本を執筆された山野海さんと、対談企画をきっかけにお話をしたんです。

人とのかかわり方や、演劇についての考え方について対話をしていく中で、お互いに共鳴するものがあると感じて、すぐにその場で連絡先を交換して、翌日には電話で作品の構想を語り合いました。

偶然の出会いをそのままにせず、翌日にはアクションを起こす。安田さんの思いを行動に移す速さが、そのまま本作の出発点となった。

安田章大さん

『平行と垂直』は、ASDの兄・大貴(安田さん)と、カウンセラーとして働き、結婚を間近に控えた妹・希(のんさん)を中心に織りなされる物語。

兄妹が人生の節目を迎えたことで、それまで分かち合ってきた過去や未来を思い、お互いの存在がどれほどまでに大きかったか、それぞれに確かめあう日々を描いている。

脚本を読んだ安田さんは、普段から自身が抱いていた「言葉」に誠実であろうとする生き様と共通するものを感じたという。

安田さん

海さんの脚本には、声として発せられる「言語」以上に、表情や瞳、匂いや仕草、人が纏う空気、一つ一つの描写の裏に、たくさんの「言葉」が語られているのを実感しました。

『平行と垂直』は、人の口から語られる言葉以上に、その人の心の奥を知ろうとすることの大切さを、真摯に伝えてくれる作品だと思っています。

「仕事に慣れてきた」は危険信号でもある

俳優としてだけでなく、企画段階から仕事に参画する機会も増えてきた安田さん。近年は主演舞台のキャスティングや世界観をつくる演出面にも携わるなど、クリエイティブな領域への挑戦にも意欲的だ。

安田さん

制作に深く関わらせていただくことによって、作品への愛情も増すし、そのぶん頭を悩ませることも増えます。

今回はオリジナル作品で、伝え方や見せ方も慎重に向き合う必要のある映画でしたが、たくさんの人に力を注いでもらって一緒につくりあげることができました。

僕一人では決して成し遂げられないですし、演じ手としてもやれることを精一杯やり切ろうと、その一心でしたね。

積み重ねてきたキャリアは経験値となり、向かう先々で自分自身の糧となる。それを美徳と捉えることもできるが、安田さんは仕事を「こなしてしまう」ことに強い危機意識を感じているという。

安田さん

どの職種にも共通すると思うんですが、ある程度経験を重ねると、慣れが出てきてしまう。その慣れの先にあるのが「こなす」という感覚だと思うんです。

仕事をこなしていくようになると、「もう自分は十分やれている」という勘違いを招く。その悪循環にハマると、自分を客観視できなくなってしまうんです。

安田章大さん

そんな「仕事をこなさない」という指針を得たのは、2017年に脳腫瘍の一種である「髄膜腫(ずいまくしゅ)」の摘出手術を受けた闘病経験がきっかけだった。

安田さん

やっぱりあのとき病気を経験したからこそ、立ち止まって考えることができたんですよね。改めて目の前の仕事に対して「自分にできることはもっとあるんじゃないか」って、もっと向き合えるようになった。

後遺症で光に過敏になった瞳を守るため、日常生活でサングラスが手放せなくなった安田さん。そんな自身の境遇から、アイウェアブランドとのコラボレーション商品の企画も生まれた。自らの人生を見つめ直し、新たなキャリアの可能性を開拓した結果だ。

安田さん

自分の中に、うまく言葉にできない渦巻く感情があったら、きっとそれは「こなしている」ってことだと思うんです。

仕事だけじゃなく、生きることにおいても、全て当たり前に感じていたら、こなしてしまっているサインじゃないかなと。

仕事をこなしていくことは、本来そこに伴うべきだった向上心や、成長の機会を奪う。表現や仕事と向き合い、30年もの月日を重ねてきた彼の言葉には、たしかな説得力が宿っていた。

仕事、言葉、生きることに誠実であり続ける

安田さん

僕は、どんな仕事においても、こなそうとしないこと、一生懸命であり続けることを意識しています。

動物の子どもが、言葉を持たなくても母親の背中を見て、どう生きていくかを学ぶように。僕自身が懸命であり続けることで、背中で姿勢を語る人間でありたいと思っています。

生きることを、こなしてしまわない。そんな安田さんの志を体現している人物が、『平行と垂直』で彼自身が演じる主人公・日向大貴だった。

劇中画像
安田さん

大貴は、とにかく生きることに真摯で、まっすぐな人。言語的にいえば、他の人より少し伝えるのが遅かったり、表現方法が異なっていたりするかもしれないけれど、僕たちと同じように思考や気持ちが巡っていて、自分なりの方法で思いを届けようとしているんです。

大貴役を演じるにあたり、安田さんは役柄の理解を深めるために、発達障がいなどで支援を必要とする人が通う塾に幾度も足を運んだ。4歳から社会人まで、多様な塾生の方々と交流を深めていく中で、人の真似ではなく大貴というキャラクターを生きようと努めた。

安田さん

僕たち自身も、知らず知らずのうちに誰かから寛容さを受け取っているはずなんです。与えられているはずのやさしさを、当たり前にしてはいけないと思う。

一緒に作品づくりに取り組む仲間だったり、知らない世界を教えてくださった当事者の方々だったり、お一人おひとりに対して誠実に、そして仕事や人生に対しても誠実であり続けたいと思っています。

仕事に慣れることは、決して悪いことではない。けれど慣れの中で、目の前の人の言葉にならない思いや、自分自身の違和感を置き去りにしてしまうことがある。

仕事や対話、人生に向けられた、丁寧さや誠実さ。それこそが安田さんの語る「こなさないこと」であり、彼を彼たらしめる所以なのだろう。

取材/秋元祐香里(編集部) 文/神田佳恵

作品情報:映画『平行と垂直』 2026年8月28日(金)より全国ロードショー

自閉スペクトラム症(ASD)の兄・大貴(安田章大)と、カウンセラーとして働き結婚を間近に控えた妹・希(のん)。人生の大きな節目を迎えた兄妹が、これまで分かち合ってきた過去や未来に思いを馳せ、お互いの存在の大きさを確かめ合う日々を丁寧に描く。人の口から語られる言葉以上に、その人の心の奥を知ろうとすることの大切さを真摯に伝える、心温まる物語。

映画『平行と垂直』ポスター

原案・脚本:山野海
監督:小林聖太郎
出演:安田章大 のん
伊島空 高山トモヒロ 谷村美月 福田転球 芦川誠 早織 久保田磨希
河野咲良 高田幸季 武藤凪 林英世/神野三鈴 菅原大吉

主題歌:浮 with 安田章大「話そう」
配給:東映ビデオ
©2026「平行と垂直」製作委員会
公式サイト:https://www.toei-video.co.jp/heikoutosuichoku/