「周囲と自分を比較するのは不毛でしかない。不完全な自分を楽しんで」/首相夫人・安倍昭恵さんインタビュー【後編】

5周年記念

Woman typeが実施した読者アンケートによれば、働く女性の8割以上が現状の日本社会に“生きづらさ”を感じている。世界各国のメディアでも、日本社会で女性が働いていくことのしんどさについては度々取り上げられてきた。何となくこの国に蔓延しているしんどさの原因は何なのだろう……? どうすれば、私たちはもっと心地よく働き、生きていくことができるのだろうか――。「時代の常識を変える」パワーを持つ、各界の識者たちにその答えを聞いた。

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前編では、自身の体験も交えながら、「生きづらさ」を抱えている現代女性を取り巻く現状について考察を語ってくれた安倍昭恵さん。後編では、女性たちが心地よく働き、生きていくために今日からできるマインドセットやアクションについて、自身が実践されていることを事例に教えていただいた。

安倍昭恵さん

1962年東京都生まれ。聖心女子専門学校英語科卒業。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修了。電通を経て、87年、安倍晋三氏と結婚。2006年および12年、安倍氏の第90代、第96代内閣総理大臣就任に伴い、ファーストレディーに。近著に『「私」を生きる』(海竜社)などがある

自分ことは、自分で決める。自分の欲求に素直になるための訓練を

この国で女性たちが感じている漠然とした生きづらさを解消していくためには、「他人の期待に振り回されず、自分の心に素直に行動することが大事」というお話をしました。でも、それが意外と大変なんですよね。自分のことが一番よく分からなかったりするものです。仕事も忙しいし、毎日が何となく過ぎ去ってしまう。日々、目の前のことをこなしていくことで精一杯で、自分の心と向き合う余裕も持てない女性が多いかもしれません。

それでも、後悔のない人生を歩みたいなら、自分の内面を見つめ、自分で決めるという行為を怠ってはだめ。「自分は何を考えているのか」、「何がしたいのか」、「どういうことが自分にとって幸せなのか」……本気で考える時間を意識的に設けてみてください。

安倍昭恵さん

それが難しいなら、小さなことからでもいい。自分のことは自分で決めるという訓練を積んでほしいと思います。「今日、何が食べたいか」、「何を買いたいか」、誰かに決断をゆだねるのではなく、本当に自分が望んでいるものをよく考えて決めてみる。そういう訓練付けをすることも一つの手ですね。

ないもの探しより、あるもの探しをすること。真の豊かさは「自分が持っているもの」に気付いた先にある

そしてもう一つ大切なことは、「自分は自分、他人は他人」と思い切って割り切ること。他人と自分を比較してあれこれ考えることをやめると、一気に生きやすくなります。

私がそう思うようになったきっかけは、07年に主人が総理を辞職した時がきっかけ。「昭恵さんはいつも楽しそうで幸せそうでいいよね」と悪気なく言ってくれる人がいますが、その時はひどく落ち込んだものです。もともと私たちを批判してきた人たちから批判される分にはまだいいのですが、もともと応援してくださっていた人たちからも「がっかりした」、「無責任だ」といった批判をされるようになって……。主人も私も、ここまで頑張ってきたのにと思うと、本当につらかった。

当時、主人は病院にいて、私は住んでいた首相公邸を出る準備をしなければなりませんでした。マスコミは病院の前に詰めかけているし、まだ秘書官の方やSPさんがいたので、私がしっかりしなきゃいけなかった。そうした状況の中、道で笑っている人を見るだけで、「何でこの人たちは楽しそうに笑っているの? 私はこんなにつらいのに」と涙が込み上げてきました。それって、今思うと異常なことですよね。でも、それぐらい精神的に追いつめられていて、気持ちが不安定になっていたのだと思います。

安倍昭恵さん

その他の場面でも、当時は周囲の人と自分を比べて、「何であの人は器用にできることが、自分にはできないんだろう」とか、「何で私はうまく努力できないんだろう」とか、「なんであの人は成功しているのに……」などと思い悩んでしまう時もありました。でも、周囲と自分を比べることは不毛です。どんなに卑屈に考え込んだところで、人生は何も変わりませんでした。

一方、本当につらい時期は時が解決してくれて……。物事を前向きに考えられるようになった時、これまでの自分があまりにもないものねだりばかりをしていたことに気付きました。ないものはないのだから仕方ない。自分が持っているものに目を向けて、それを大切にしていこうと腹を括ったら、生きていくのが随分と楽になり、人生が豊かになったと感じました。

私は、目標を定めて努力して達成するということができないタイプ。昔はそういうことに対してもいろいろとコンプレックスを抱いていましたが、最近はこれでいいと思っています。できないことをできないと素直に認めると、私が持っていないものを持っている人たちがいっぱい集まってきてくれて、補ってくれるようになりました。それってすごいことですよね? 足りないところを互いに補い合えば、人と競い合わなくていい。自然と、良いチームができていくようになったのです。

「こうあるべき」、「こうしなきゃ」は捨てていく。変化する時代を楽しみながら生きていけるかどうかは考え方次第

安倍昭恵さん

後は、自分の未来を目標でがちがちに固めないことも心地よく生きるためには大事でしょうね。時代や社会は変わっていくものですから、それに合わせて目標だって適宜変えていかないと。

「こうしなくちゃダメ」と決めてしまうと、そうなれない自分にまたイライラしてしまう。その時々で自分が大切にしたいことを大事にしながら、自分なりにステップアップしていけばいいんです。その方が、毎日をワクワクして生きられるようになります。物事は考え方や捉え方によって良くもなるし悪くもなるものです。

私自身もまだ分からないことばかりで、皆さんにアドバイスできるような立場ではないと思うのですが、少し年齢を重ねた先輩として、これだけは言いたい。「自分らしさを失ってまで、誰かの期待に無理に応えようとしたり、完璧を目指さなくていい。時代の変化や、自分の不完全さを楽しむ余裕を持って」と。これが私から働く女性たちへのメッセージです。

取材・文/柏木智帆 撮影/竹井俊晴

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