「私、ビリギャル卒業します」慶應卒・30歳を迎える小林さやかが“ママの支援”を始めたワケ
日本中から“ビリギャル”と呼ばれた彼女のことを今もまだ覚えている人は多いだろう。
小学4年レベルの学力だった金髪ギャルが、たった1年で偏差値を40上げて慶應義塾大学に合格。その痛快なサクセスストーリーは、累計100万部超のベストセラーとなり、2015年には有村架純さん主演で映画化も果たした。
そんな“ビリギャル”こと小林さやかさんは今、ウエディングプランナーとして働く傍ら、自身の経験を活かして全国の学校で講演活動を行っている。
そしてこの10月、自ら発起人となって、ママのためのスペシャルイベント『渋谷でママ大学』を開催。300人以上の参加者を集め、大成功をおさめた。なぜ30歳を迎える今、“ビリギャル”はママたちのために動き出したのか。
「今の自分はリスクをとって何かに挑戦しているだろうか」
トレードマークの金髪こそ卒業したものの、エネルギーいっぱいの語り口は、映画で観た“ビリギャル”そのまま。その疲れ知らずの笑顔を引っさげて、現在、小林さんは全国を飛び回り、中高生に向けて「仕事の楽しさ」を語っている。
「これからはロボットが人間の職業をどんどん代行していく時代。今、10代の子どもたちが社会に出ていく頃には、自分で考えてゼロからイチを生み出すような仕事しか残らなくなります。
これは、周囲の誰も経験したことがない時代がくるということ。だから、大人たちの言いなりになってちゃダメ。ちゃんと自分で考えて、自分の道を決めなくちゃいけないぞって、そんな話をしているんです」
働く女性にとっても同じ。親からの助言も、上司からの「こうすべきだ」というアドバイスも、“善意”かもしれないが過去の経験則でしかない。
誰も知らない自分の未来は、自分で決断してつくっていくもの。だが、こうしたメッセージを発信し続ける中で、小林さんはふと疑問にぶち当たった。
私はそんなふうに誰かに言えるくらい、何かチャレンジングなことをしているのだろうか、と。
「十何年も前の受験の話をずっとしているだけじゃダメだ。子どもたちに見えるかたちで、何かリスクをとってでも新しい挑戦をしてみたいなと思ったんです」
そこで思いついたのがクラウドファンディングで資金を調達し、1日限定の『渋谷でママ大学』を開校することだった。講演などで子どもたちと接する機会の多かった小林さんにとって、ママに目線が向くことはごく自然な流れだったという。
「いろんな人に力を借りて集まった大事なお金だから、子どもたちが喜ぶことに使いたかった。
で、彼らにとって嬉しいことって何だろうと考えたときに浮かんだのが、ママがもっとハッピーになることだったんです。子どもにとって親が幸せであることは、何より幸せなこと。
だけど、私も日々いろんな親御さんからご相談をいただくのですが、皆さん子育てに悩んでいたり疲れていたり、何だかすごく大変そう。
だから、足を運んだお母さんたちが、子育てしながらワクワクできるような場をつくりたくて、『渋谷でママ大学』をやろうと決めたんです」
小林さんの呼び掛けに、多くの賛同が集まった。クラウドファンディングは見事成功し、『渋谷でママ大学』はママたちの笑顔で溢れ返った。
「幸福度=自己肯定感」信じてくれる人がいると、自分の可能性を信じられる
“ビリギャル”のイメージから卒業し、新しい一歩を踏み出した小林さん。その笑顔は、とてもポジティブだ。いつも前向きでいられる秘訣は何なのだろうか。
「『幸福度=自己肯定感』というのが私の持論。私は自分のことを自己肯定感の塊だと思っています。“Hi,Mike”という英文を『ヒー、ミケ』と読んでいた私が慶應大学への進学を目指せたのも、この自己肯定感の賜物。
普通の人なら『無理!』って言うところを、私は『慶應だったら行ってみてもいいかな』っていう謎の上から目線だったので、そういうところに塾の講師だった坪田先生は可能性を感じてくれたみたい(笑)。
私がそんなふうに思えたのも、全部お母さんのおかげ。私のお母さんは、いつも私が家に帰ってくるだけで抱きしめて褒めてくれるような人で。
中3のとき、学校に煙草を持っていたのが先生に見つかって怒られたときも、先生に対して『間違いはおかしたけれど、こんないい子はいないです』って言ってくれた。
いつもお母さんが私のことを信じてくれたから、私も自分のことを信じられたんだと思う」
子育ては難しい。自分もかつては親の小言に反発していたはずなのに、自分が親の立場に立つと、子どもの将来を思って口やかましく言ってしまうのが性だ。
「日本のお母さんって、子どもが家に帰ってきたら『手を洗いなさい』『勉強しなさい』って言ってしまいがち。英語に直すと、『You must study』。つまり、主語が全部『あなた』なんです。
でも、そういうメッセージばっかり押し付けると、子どもは次第に親の顔色をうかがって嘘をつくようになるし、避けるようになる。
大事なのは、“Iを主語にしたメッセージ”。『I love you』ってちゃんと言ってあげることが、子どもの自己肯定感を育む一番の栄養になると思います」
『ビリギャル』は決して受験の話ではなく、「家族の話」なのだと小林さんは解説する。
「よくネットではもともと私が進学校にいたからと書かれたりしますが(笑)、そんなことははっきり言ってどうでもいい話。私が慶應に合格できたのは、お母さんが私のことを信じてくれたから。
それに尽きます。子どものことを愛することはできるけど、信じ切るのはすごく難しい。でもそれがとても重要なんです。そんなことを講演会や『渋谷でママ大学』のような活動を通じて発信していきたいなと思っています」
子どもにとっての一番の英才教育は、親がイキイキと人生を楽しむこと
子どもでもなく、親でもない。そんな中間の立場にいる自分だから伝えられることがある。
そう小林さんは語る。今、子育て中のママたちへ、そしていつかママになる女性たちへ、小林さんが伝えたいことは1つだ。
「一番大切なのは、自分自身がイキイキと過ごすこと。子どもの世界ってすごく狭いんです。周りにいる大人は先生と親だけって子も多い。
正直に言うと、私は中高の頃、こうなりたいと思えるような大人が周りに一人もいなくて、ずっと大人になるのが嫌だった。でもこうやって社会に出てみたら面白い大人がたくさんいて。
もっと若いときにこういう素敵な大人たちと出会っていたら、間違いなくもっと楽しい人生になっていたんだろうなって思う。
子どもにとって一番の英才教育は、最も身近な大人である親が自分の人生を楽しんでイキイキすることだと思います」
それは何も特別なことじゃない。身近な一つ一つのことから楽しむ気持ちが重要なのだ。
「例えば『初めて梅干しを漬けてみた』、でもいいと思います。
もちろん失敗したって全然オッケー。それよりも試行錯誤しながら何かに挑戦したり、一生懸命何かを楽しもうとしている姿を見せる方が、100回『勉強しろ』って言うよりも、子どもたちに『自分も何かやってみよう』と思わせることができます。
大切なのは、正しい子育よりも“楽しい子育て”。そう伝えたいですね」
小林さんもまたそんなふうに新しいチャレンジを楽しんでいる大人の一人だ。
「今一番やりたいのは、本を書くこと。私、まだ自分で本を書いたことがないんです。
だからいずれやってみたいなって。そのときは、自分で考えて行動を起こせば、いかようにでも道は開けるということを伝えたい。やりたいことは他にもいっぱい。
私自身が、皆さんに胸を張ってお話しできるよう、いつまでも自分の人生にワクワクしていたいです」
そう締め括った小林さん。過剰なまでに正しさを求められる今の時代だからこそ、小林さんの語る「正しいより、楽しいことを大事にしたい」というスタンスを見習ってみると、もっと毎日が輝いて見えるのかもしれない。