下北沢で過ごす“衝撃的な夜”。平凡な毎日に刺激を与えてくれる1本/柿喰う客2018年本公演『俺を縛れ!』
プレミアムフライデーに、NO残業デー。働き方改革が進み、プライベートタイムは増えたけど、一体その時間に何をする……? 会社を追われ、行き場をなくし街を彷徨うふらり~女たちへ、演劇コンシェルジュ横川良明がいま旬の演目をご紹介します。奥深き、演劇の世界に一歩足を踏み入れてみませんか?

演劇ライター・演劇コンシェルジュ 横川良明
1983年生まれ。関西大学社会学部卒業。ダメ営業マンを経て、2011年、フリーライターに転身。取材対象は上場企業の会長からごく普通の会社員、小劇場の俳優にYouTuberまで多種多彩。年間観劇数はおよそ120本。『ゲキオシ!』編集長
ほどよく経験を重ね、それなりに自信も持ちつつあるのが、アラサー世代の働く女子たち。だけど、そんな自分にちょっと飽きを感じていたりしませんか? 既定路線に乗っかって、はみ出さずに生きている自分に「大人になったなあ……」とぼんやり感じることはありませんか?
そんなオール80点の毎日にちょっと刺激と衝撃を求めたいあなたにオススメしたいのが、本日より開幕の柿喰う客『俺を縛れ!』です。
柿喰う客2018年本公演『俺を縛れ!』

Point1:同世代のトップランナーが、敢えて自らの恥部を赤裸々に暴き出す!
まずは「柿喰う客って……?」というあなたにご説明。柿喰う客とは今年結成12年を迎えた中堅劇団。作・演出を務める主宰の中屋敷法仁さんは、早くからその才能を認められ、『無差別』(2012年)で「演劇界の芥川賞」と謳われる岸田國士戯曲賞の最終候補作にノミネート。柿喰う客も『天邪鬼』(2015年)で動員5000名を突破しました。この数字、いわゆる劇団公演としてはなかなか驚異的な記録で、テレビで活躍するような有名芸能人を迎えず、劇団だけでこれだけの動員をあげるのは至難の業。同世代の劇団にとって、柿喰う客は常に世代をリードするトップランナーなのです。

(柿喰う客『「虚仮威」』より ※撮影:引地信彦)
つまり、会社で例えるなら同期の出世頭のようなもの。そんな柿喰う客の最新公演が『俺を縛れ!』です。ところが、この『俺を縛れ!』、何やら一癖も二癖もあるシロモノのようで。主宰の中屋敷さん曰く、今まで発表してきた中で「振り返るのが最も恥ずかしい作品」なのだとか。初演は2008年。現在33歳の中屋敷さんが24歳のときに書いた作品です。「自分の才能を過信していた」頃に書いたイタい作品を、10年の封印を破って、今ここに復活させようというその心意気。それが、今回、Woman type女子にオススメする最大の理由です。
Point2:安パイを選ぶ自分をぶち壊せ。仕事において大切な“初期衝動”を取り戻す1本
皆さんも、ノリにノッてる後輩を見て、「私もこんな時代があったなあ…」なんて思ったりしませんか? とにかく仕事にガムシャラで、ノウハウも知識も何もないけど、若さとパワーで一点突破。それでいて、ちょっと調子に乗りはじめて、何でも自分でできると思い込んでいる。往々にして、そういう状態は長くは続かず、大きなしっぺ返しが待っているものですが、それもまた経験。若さの特権です。なぜなら、自分はもうそんなふうに向こう見ずにはなれないから。失敗するのは怖いし、恥をかくなんてまっぴら。キャリアを重ねるほど、人はそうやって保守的になるものです。
でも、私の仕事人生、本当にそれいいの? 人生100年時代、これからもずっとキャリアが続くと思えば、10年程度の経験なんて登山で言えばせいぜい二合目あたり。それなのに転ぶことを恐れ、舗装された道ばかり選んで本当にいいの?
柿喰う客主宰の中屋敷法仁さんも、あるインタビューで、最近、自信満々の表情で本番初日を迎えることに対し、「今回も上手くいったという安パイな感覚で作品を着地させるのは、年をとった証拠」と本音を語っています。この感覚、頷く人も多いのでは。

(柿喰う客『無差別』(柿喰う客フェスティバル2017)より ※撮影:引地信彦)
経験を積めば積むほど、取りかかる前からその仕事がどれくらいの成果を出せば成功かなんて、簡単にシミュレートできてしまう。そして、その試算を外さない程度のスキルだって優に持ち合わせている。もちろんそれはとても素敵なことだけど、時に危うげなことにも突っ込めた恐れ知らずの自分を懐かしく思う気持ちも否めない。
確かな地位と評価を築きつつある今だからこそ、そんな現状を自らの手で破壊しよう。奇才・中屋敷法仁さんにとってその一手が、この『俺を縛れ!』なのです。恥多き初期の作品を、キャリアを培った自分がやることで、物事に取り組む上で最も大切な“初期衝動”を思い出そうとしているのでは。そんなふうに感じています。
そして、そのエネルギーは、たとえ演劇のことはわからなくても、きっと働く女子の胸にも突き刺さるはず。だからこそ、1年が始まったばかりのこの時期にこの作品を観て、みなさんにも忘れていた“初期衝動”を取り戻してほしいのです。
Point3:荒唐無稽で上等! わけがわからなくなる状態を思い切り楽しんで
物語の舞台は、江戸時代。横暴な幕府に忠義を尽くす田舎大名を中心としたチャンバラ時代劇のようですが、本作に限って言えばあらすじを追うことよりも、この荒唐無稽なワールドを楽しんみるのがオススメ。異常なほどのテンションとエネルギーで暴れ倒す人たちに、ただひたすら圧倒される時間というのも、それはそれで面白いもの。

(柿喰う客『八百長デスマッチ』(柿喰う客フェスティバル2017)より ※撮影:引地信彦)
筋道立てて物事を説明するのが当たり前。ロジックが通らないものは一切NGがビジネスの掟です。でも、世の中を見渡せば、とても論理的には説明できない出来事で溢れているはず。人生とは、しばしばそういうものなのです。だからこそ、わけのわからないことを楽しむ心のあり方を学ぶことって、人生をエンジョイする上で大切なこと。観終わった後、綺麗な感想が言えなくてもOK! むしろ「よくわかんないけど、何かすごかった!」っていう感覚を味わいたい人は、今すぐ劇場へ!
音楽界で例えるなら、売れっ子バンドがインディーズ時代の迷曲を日本武道館でわざわざプレイしようとしているのが、この
]『俺を縛れ!』。そんなイタさ全開の自分と正面から向き合うことで、妙に優等生然とした振る舞いを覚えはじめている自分に喝が入るはず。何とも言えない閉塞感の中にいるあなた、この『俺を縛れ!』を観て、自分を縛っている無言のロープから解き放たれてみては。
<公演詳細>
■あらすじ
幕府の大御所・徳川吉宗が大往生を遂げたことをきっかけに
悪名高き将軍・徳川家重は奇妙な難題を諸大名に突きつける!
横暴な幕府にも、心を削り身を削り一途な忠義を貫き通すのは
「三度の飯より主君が命」を信条とする弱小田舎大名・瀬戸際切羽詰丸!
その過激な滅私奉公は、やがて天下を揺るがす大騒動に発展する!?
■作・演出
中屋敷法仁
■出演
永島敬三/牧田哲也/加藤ひろたか/田中穂先/宮田佳典/守谷勇人/とよだ恭兵/村松洸希
七味まゆ味/葉丸あすか/長尾友里花/淺場万矢/北村まりこ/永田紗茅
宮下雄也/平田裕一郎/神永圭佑/清水 優
■日程
2018年1月24日(水)~2月4日(日)
■会場
本多劇場 ※小田急線・京王井の頭線「下北沢駅」南口より徒歩2分
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『ふらり~女の夕べ』の過去記事一覧はこちら
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