「自信も余裕も全くない」“目立たない社員”だった私がサイバーエージェントのトップ営業になるまで
相次ぐトラブルや延々と終わらないメール処理。データ分析に、資料作成……。「もうこれ以上は限界! 」口から悲鳴が飛び出しそうになるのをぐっとこらえて、多くの女性が今日も仕事に励んでいるかもしれない。
株式会社サイバーエージェントで女性唯一のシニアアカウントプランナーとして活躍中の北住まいさんも、かつてはそんな“キャパオーバー女子”の一人だった。

北住 まい さん
2011年、株式会社サイバーエージェントに中途入社。インターネット広告事業本部にて営業に従事。営業職において現在女性で最高位にあたるシニアアカウントプランナーとして活躍中
今や社内のベストプレイヤー賞に輝くなど、インターネット広告事業本部内で約120人いる女性営業の先頭をひた走る北住さん。「パンク寸前だった」という人生のどん底期を、どうやって乗り越えたのだろうか。北住さんに訪れた転機から、長く仕事を続けていくために欠かせないセルフコントロールの方法を学びたい。
結婚、引越し、転勤……
新しいこと尽くしの毎日でキャパオーバー状態に!
今から3年ほど前のこと。大阪支社に勤務していた私は、結婚を機に東京へ異動しました。頼れる家族も友達もいない中、担当顧客も一新となり、心機一転、新たな生活が始まりました。環境が激変したことで自分自身の余裕がなくなってしまい、新たに担当することになったお客さまとのご要望にもなかなか応えることができず、葛藤が募っていきました……。
ちょうどこの時、生活環境が変わって、周りに本音で話せる友達がまだ少なかったことも影響していたかもしれません。家に帰ったら家事もしなきゃで、マルチタスクをこなすことが元々苦手な私はもう完全にキャパオーバー。大好きな営業という仕事が、苦しくなっていきました。
「このままじゃ潰れてしまう……」
そう思った私が取った行動は、一度立ち止まって自分自身を内省する時間をとることでした。そして、思い切ってお休みを取り、自分と向き合う時間に充てました。

弊社にはリフレッシュ休暇という制度があるんですけど、それと有給を掛け合わせて、土日含め約2週間の休暇を取得し、地元の兵庫へと戻りました。2週間の休暇中にしたことは、自己分析です。これからも仕事を続けていく上で、まずは自分自身のことをよく理解することが大事だと思ったんです。
・私は、どんな人になりたいのか
・何が好きなのか/何が嫌いなのか
・仕事をしていてモチベーションが上がるとき/下がるとき
こういった項目を立て、ノートに書き出していきました。そうすると、自分でも認識できていなかった思考のクセが見えてきたのです。
例えば、私は自分主導で仕事を進めたり、新しいプロジェクトに挑戦できるとテンションが上がるタイプ。逆に、自分が把握し切れないところで勝手に物事が進んだりすると、ストレスを感じてモチベーションが低下する傾向があるんだな、とか。冷静に分析しているうちに、私の場合は働き方において、まずは「自分自身がちゃんと裁量を持てる」ことが重要なんだということが分かりました。
自分がこの先どうなりたいかもいろいろ考えました。それまでは社内でも全然目立つタイプではなかったのですが、どうせやるなら社内外から頼られる、存在感のある人になりたいという憧れはあって。本来大好きだった営業という仕事に、このタイミングで行き詰まりを感じてしまったのも、そもそも自分に自信がないことが大きな要因だったと気づくことができました。

自信がないから、お客さまと意見が違ったときに、お客さまにとって本当に必要な言うべきことが言えない。
お客さまにとって最善と思うことを伝えられず、モヤモヤした気持ちを抱えてしまう……。
そういう弱い自分から脱却するのが一番の課題。そのためにも、ちゃんと自信を持って働ける人になりたいという目標が私の中で明確になりました。
当時の私は、毎日慌ただしく仕事に追われていて、落ち着いて自分のことを考える余裕がありませんでした。人によってはもちろん、走りながら考えていける人も多くいると思います。ただ、私は器用な人間ではないので、より良いパフォーマンスを出すために、しっかり立ち止まって自分と向き合う時間をつくったんです。
自ら決めたこの“立ち止まる時間”が、振り返ってみると私の人生の転機になった。自分が今何をすべきかが分かったから、悩まずにまっすぐ仕事に向かっていけるようになったんです。
「これはしたくない!」より、「もっとこうしたい」を上司に伝えて
そうして復帰を遂げた私ですが、今、もし仕事で苦しい状況にある人たちのために、そこからどんなふうに働き方を変えていったかということを、もう少しだけお話しさせてください。
私は、自分の手の内が及ばないところで物事が進む状況に弱いということは重々理解できていたので、復帰後はまず上司に、目指す営業スタイルと、自分のパフォーマンスが発揮しやすいような仕事の進め方について提案し、相談させてもらいました。自分と向き合った時間で、自分の強みと弱みを改めて知ったのでしっかりとその強みを伸ばせるような営業のスタイルにパワーを集中させたのです。
それからは、お客さまの課題解決に繋がる広告プランを次々と提案し、効果がどんどん伸びて、社内のナレッジ共有会でも自分の事例が取り上げられるようになりました。今までそんなふうに評価してもらったことがなかったので、すごく嬉しかったですね。休暇中に頭の中で描いていた「社内外から頼られる、存在感のあるビジネスパーソン」というイメージに一歩近づけた気がしたし、ゼロだった自信も徐々についてきました。

こうした働き方のシフトチェンジができた背景には、もちろん弊社の組織が柔軟だということもあるのですが、一番の要因は上司との関係性が変わったことにあるような気がします。自分が何を目指しているのか。そのためにどういう環境を望んでいるのか。包み隠さず本音で伝えるようになったおかげで、最適なアシストをしてもらえたと思っています。
こうお話しすると、誰もが上司との関係に恵まれているわけではないと思うかもしれませんね。私自身も会社員生活の中で、自分の未熟さゆえに上司との関係にとても悩んでいた時期もありました。自分のことを理解してもらえている気がしないし、自分の本音を言いたいと思えるような環境ではないと思った時期もあったのです。でも、そういう考え方自体が、そもそも間違っていたと今では思います。
当時の私は上司に対して「自分のことを分かってくれていない」と相手や環境のせいにしていたけれど、私自身が分かってもらうための努力を怠っていたことも事実でした。上司と言っても、赤の他人。何も言葉にせずに、「全部察して」なんて思うのは、私のわがまま。小さなことでもちゃんと自分から伝えないと伝わらないものですよね。
また、上司と話すときは「これはしたくない!」っていう愚痴として伝えるのではなく、「もっとこうしたい」というポジティブな要望に変換して伝えた方が、応援してもらいやすいことにも気づきました。同じことを言っていても、受け取られ方は全然違います。
上司は、自分の望むワークスタイルを実現するために味方になってくれている人なんだと捉えられるようになってからは、ずっと仕事がしやすくなりました。
自分をよく知るタイミングに、遅いことはない

今振り返ると、当時の私は、「何でもかんでも一人でやらないと気がすまない」抱え込み型人間だったんです。その結果、キャパオーバーになってパンクして、勝手に自分を追いつめてしまいました。でも、会社という組織で働いている以上、私しかできない仕事なんてない。大抵のことは周囲の人にもっと助けを求めていいんです。そう気づいてからは、なるべくチーム全体で仕事を最適化するよう心掛けています。
自分と向き合う時間を取ると決めたときは、「営業成果を出せていない自分が休みなんて取っていいのかな」とか、「自分がいなくなったせいで抱えているプロジェクトに支障が出たらどうしよう」なんて心配もしていました。けれど実際は、大きな支障なく会社は普通にまわっていたし、周囲の皆も相変わらず優しかった。一人で抱え込んで仕事が成り立っていたわけではなく、チームとして仕事がまわっているということに気づけたのも、一度立ち止まって内省できたからです。
今の世の中は、女性も一生働き続けることができる社会。若いうちに体を壊してしまって“働けない”なんてことになってしまったら、元も子もありません。だから、自分を見失いそうになったら、ちょっと休んで、深呼吸をする時間を取ってみることも、長い人生の中であってもいいと思います。私は自分と向き合う時間を設けたことで、しっかりとエネルギーを蓄え軌道修正し、大好きな営業にまた向き合うことができましたから。
もしまた仕事で躓いてしまうことがあっても、その都度、自分の心と向き合って答えを出せばいい。そう思えるようになったら、不安も一気になくなりました。自分なりの立ち直り方を知っているって、とても大事なことですね。
取材・文/横川良明 撮影/大室倫子(編集部)