安西慎太郎が思う、人生に観劇が必要な理由「演劇は、自分の人生を見つめ直す時間になる」【舞台「野球」飛行機雲のホームラン インタビュー】
プレミアムフライデーに、NO残業デー。働き方改革が進み、プライベートタイムは増えたけど、一体その時間に何をする……? 会社を追われ、行き場をなくし街を彷徨うふらり~女たちへ、演劇コンシェルジュ横川良明がいま旬の演目をご紹介します。奥深き、演劇の世界に一歩足を踏み入れてみませんか?

演劇ライター・演劇コンシェルジュ 横川良明
1983年生まれ。関西大学社会学部卒業。ダメ営業マンを経て、2011年、フリーライターに転身。取材対象は上場企業の会長からごく普通の会社員、小劇場の俳優にYouTuberまで多種多彩。年間観劇数はおよそ120本。『ゲキオシ!』編集長
新しい趣味を探したい。だけど、これと言ってやりたいものが見つからない。そんなふらり~女のみなさんにもっと演劇の面白さを知っていただくために、現在舞台を中心に活躍中の若手俳優にクローズアップ。彼らの言葉を通じて、観劇のきっかけをご提案します。
今回ご登場いただくのは、主演舞台「野球」飛行機雲のホームランが控える俳優の安西慎太郎さん。1944年の日本を舞台に、敵国の競技であるという理由から大好きな「野球」を奪われた少年たちの夏の描く本作。監修にあの桑田真澄さんを迎えることでも大きな話題を呼んでいます。戦火に散った球児たちの「甲子園」という夢――この夏いちばん熱い感動作の幕が、まもなく上がります。

安西 慎太郎(あんざい・しんたろう)
1993年12月16日生まれ。神奈川県出身。2012年、舞台『コーパス・クリスティ 聖骸』で俳優デビュー。13年、ミュージカル『テニスの王子様』に白石蔵ノ介役で出演、一躍注目を集める。以降、数々の作品に出演。近年の出演作に『ゆく年く・る年冬の陣 師走明治座時代劇祭』『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』『四月は君の嘘』『遠い夏のゴッホ』『男水!』など
※記事の後半に、安西慎太郎さんのサイン入りチェキプレゼント企画があります。最後までお楽しみに!
戦火に消えた夢。ただ無心に白球を追いかけた少年たちの生き様を描く
「野球」飛行機雲のホームランは、戦争により甲子園という夢を奪われた球児たちの物語だ。ずっと焦がれていた甲子園の黒土を踏むことなく、予科練(海軍飛行予科練習生)への入隊が決まった少年たちは、捨てきれぬ夢を追いかけ、「最後の1日」に出身校同士で紅白戦を決行する。あらすじだけで胸が潰れるような哀切がにじむが、決して悲劇的なだけではない作品だと安西さんは説く。
「(作・演出の)西田大輔さんの素敵なところは、人が死んでしまったとか、そういった悲しい事実に焦点を当てるのではなく、それまでの間、どう生きたのか、その過程を丹念に描いているところ。今まで何本か西田さんの作品に出させていただいていますが、いつもそこがすごく好きで。今回のお話も、どうにもならない状況の中で少年たちがどう生きたのか、その生き様が力強く描かれていると思います」
安西さん自身、シニアリーグで関東大会ベスト8進出を果たすなど、本格的に野球に打ちこんだ経歴の持ち主。そんな安西さんが演じるのは、ピッチャーの穂積均。その性格を、安西さんはこう分析する。
「人が辛いときに、黙って隣に座れる人。例えるなら、(『ONE PIECE』の)ルフィとか、(『DRAGON BALL』の)悟空とか、ああいう人のために力を発揮できる人です」

同時に、そんな言葉だけでは説明しきれない奥行きを、安西さんは感じている。
「決して俺が俺がって前面に出るタイプでもないし、かと言って、どうぞどうぞって周囲に譲るタイプでもない。なのに気づけば自然とみんなの真ん中にいたり。普段は優しくて温かいんだけど、その中で絶対に譲れない自分なりの信念があったり。僕もいまだに穂積がどういう人間かよくわからないんですよ。一言では説明できないというか。穂積均はこういう人間ですって、簡単に断定できないような、そういう不思議な役なんです」
よくわからないからこそ、それが魅力。演じ手としてはステレオタイプではない分、横にも縦にも自分なりに広げていける面白さがある。
「だから今は一切芝居を固めずにやっています。僕が穂積均はこれなんですって固めてしまうと、穂積の魅力がなくなっちゃう気がして。それよりも大切にしているのは、とにかく周りをよく見ること。穂積が真ん中にいられたのって、きっと誰よりも仲間のことをよく見ていたからだと思うんです。だから僕も座組みのことをよく見て、みんなの芝居を受けながら、穂積均という人間を表現していければ」
舞台上で繰り広げられる渾身の試合。役者の全力が、本物の球児に負けない熱を呼ぶ
舞台で野球。演劇に馴染みのない人からすると、「どうやってやるの?」と頭に疑問符が浮かぶのも無理のないこと。確かに広大なグラウンドもなければ、実際にボールが宙を飛ぶこともない。その中で真剣勝負の臨場感をどう表現するのか。自身も野球経験者だけに「難しいところではありますけど」と前置きした上で、きっぱりと「でも必ず試合に見えると思います」と宣言した。
「球場は360°どこからでも見えるけど、舞台は180°しか見えない。その違いをどう埋めるかが演劇のマジック。慣れるのに少し時間がかかる人もいるかもしれませんが、気づいたらアルプススタンドで野球を観戦しているような感覚になれると思う。僕も稽古で西田さんのアイデアを聞くたびに『すげえな!』って感銘を受けています(笑)」
本物のスポーツがある中で、演劇でスポーツを観る意義はどこにあるのか。特別な観劇体験を生むのは、俳優の「全力」芝居だ。
「とにかく全員が下手したら怪我をするんじゃないかって心配になるくらい全力でプレイをしている。比べるのは良くないですが、甲子園で実際に戦っている球児のみなさんに負けないくらい、僕らも全力です。球児の方々は野球という競技に、僕たち俳優は芝居に、それぞれ全力を捧げている。ベクトルは違うけれど、全力という意味では同じ。その全力が、観ている人たちの心を打つんだと思います」

その全力を支えるのが、本作のために行われた野球トレーニング。リアリティを磨くべく、桑田真澄さんから直接指導を受け、キャッチボールにバッティング、ゴロやフライの捕球まで特訓を積んだ。
「現役時代の桑田さんのプレーはもちろん見ていましたし、僕からすると本物の大スター。最初に監修で桑田さんの名前が載っているのを見たときは、驚きすぎて『同姓同名の別人かな?』と思いました(笑)」
印象的だったのは、桑田さんの指導方法。限られた練習時間の中で、瞬時に相手の性格を見抜き、その人その人に合った教え方をしていたことに、安西さんも驚いたそう。

「本当に思いやりの方なんだなって思いました。桑田さん自身も、『野球は“思いやりのスポーツ”なんだよね』とおっしゃっていて。野球はひとりじゃできない。誰かがミスをしても、責めるんじゃなく、じゃあみんなでカバーしていこうぜと声を掛け合うのが野球というスポーツ。そんな野球を愛する桑田さんだからこそ、あんな温かくて優しい心を持っているんだろうなって。実際にお会いして、改めてひとりの人間として尊敬の気持ちでいっぱいです」
ひとりじゃできないのは、野球も演劇も同じ。野球という筋書きのないドラマに多くの人々が熱狂するように、この夏は、俳優たちの全力のお芝居で観客を沸かせてくれそうだ。
「例えば高校野球で言えば、07年の佐賀北と広陵の決勝戦。8回裏、あの逆転満塁ホームランなんて誰も予想できなかったこと。でも、そんな奇跡が本当に起こり得るのが野球というスポーツなんです。演劇も何が起こるかわからないし、野球と同じくらい人の心を揺さぶる魔法がある。そんな野球と演劇が掛け合わされたら、もう最強なんじゃないかってワクワクしています」
演劇は、鞄に入りきらなくて捨てたものと再び出会える時間だと思う
子どもの頃から野球少年だった。中学時代に怪我で野球の夢を絶たれた安西さんが、俳優という新たな夢を見つけたのは、高校3年生のとき。映画『ギルバート・グレイプ』のレオナルド・ディカプリオの演技に衝撃を受け、俳優の道を志した。12年に初舞台を踏み、今年でキャリアは7年目。
「突きつめると、仕事って『なぜやっているのか?』に尽きるなと思っていて。僕は今、ありがたいことに自分のやりたい仕事をやらせてもらっていますが、中にはそうではない方もいる。でも、みんな何かしら『なぜ自分はこの仕事をやっているのか』、その理由はあると思っています」

そこまで一気に話したあと、ひと息ついて、安西さんは「今、24歳の安西慎太郎が考えとして」と、こんな例え話をしてくれた。
「人生という鞄があったとして、そこに何を詰め込むかは人それぞれ。人によってサイズはバラバラだけど、いろいろ放り込んでいくうちに、必ずどこかで中身がいっぱいになって、何も入らないときが来ますよね。そのときにじゃあ何を捨てるかが、その人の人生。人によっては恋愛を捨てることもあれば、仕事を捨てることもあるだろうし。そうやって選択をしていきながら、人は自分だけの鞄を抱えて生きていくんだと思います」
確かに人生は取捨選択の連続だ。子どもの頃はオモチャもお菓子も好きなだけ鞄に詰め込んでいられたけれど、年を重ねるにつれてそうはいかない現実が立ちはだかる。私たちはいろんなものを諦めたり捨てたり忘れたふりをしながら、大人になってきた。
「でも、演劇にはそうやって一度捨てたものを、再び拾い上げさせる力がある。そうやって人の心を動かせることが嬉しくて、僕は俳優という仕事をやっているんです」

スマホをタップすれば、好きな時間に好きな動画を見られるこの時代に、演劇はわざわざ決められた時間に劇場という場所まで足を運ばなければいけない。でもそのアナログさが、自分と向き合う時間をくれる。
「演劇って演者が一方的にやるものじゃないんです。僕らが投げかけたメッセージに対して、お客さんも自分の意見を反応として返せる“話し合い”の場。これだけ慌ただしい毎日の中で、演劇はお客さんが自分自身を見つめ直せる貴重な時間なんじゃないかな、と。人間はみんな幸せになりたい生き物。形は人それぞれだけど、人が幸せを求めていく上で必要な材料を、演劇は提供してくれるんだと思います」
端正な顔立ちと品のある目元。その涼やかな容貌とは一転、安西さんの語り口は熱い。作品のこと、演劇のこと。語り出すほどに迸る熱量は、いかに安西さんが芝居に対して真摯に向き合っているか、その証でもある。最後に「楽しいですか」と問いかけると、はちきれんばかりの笑顔で答えが返ってきた。
「楽しいというか、もう幸せですよね。一番は、待ってくださっているお客さんたちがいること。それがもう本当に幸せです。僕はこの舞台を絶対に満員にしたくて。それはなぜかと言うと、できるだけ多くの人に観てほしいと心から言い切れる作品だから。きっと観たら、何か変化が生まれる作品になっている。ぜひたくさんの人に、この作品を観てほしいです」

そうストレートな言葉で締め括った。彼の瞳はいつだって濁りがなくて澄み切っている。そんな透明な瞳で言い切られたら、もう信じるしかないだろう。あの日、鞄に入りきらなくて捨てた大切な何かにもう一度出会える。そんな物語が、もうすぐ始まる。劇場に響き渡るプレイボールのサイレンと共に。
取材・文/横川良明 撮影/岩田えり
公演情報
舞台「野球」飛行機雲のホームラン

■作・演出
西田大輔
■野球監修
桑田真澄
■音楽
笹川美和(cutting edge)
■キャスト
安西慎太郎/
多和田秀弥 永瀬匡 小野塚勇人 松本岳 白又敦 小西成弥 伊崎龍次郎 松井勇歩 永田聖一朗 林田航平 村田洋二郎 田中良子/
内藤大希(友情出演・Wキャスト)/松田凌(友情出演・Wキャスト)/
藤木孝
※内藤大希の出演は7月27日(金)~31日(火)の東京公演となります。
※松田凌の出演は8月1日(水)~5日(日)の東京公演と25(日)・26日(日)大阪公演となります。
■日程・会場
<東京公演>
2018年7月27日(金)~8月5日(日)
サンシャイン劇場
<大阪公演>
2018年8月25日(土)~8月26日(日)
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
プレゼント情報

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