10 APR/2019

専業主婦から48歳で再び会社員になった女性が「私を生きる」をテーマに掲げる理由【先輩3:チェンジウェーブ・鈴木 富貴さん】

人生100年時代はチャレンジの連続!
『教えて、先輩。』

人生100年時代。これまで言われてきたような「歳相応」の生き方なんて、これからの未来を生きる私たちにはまったく当てはまらない。そこでこの連載では常識に縛られず、チャレンジを続ける先輩女性にフォーカス! 彼女たちの生き方を覗かせてもらいます。

企業を人材育成や組織開発の観点から変革するコンサルティング会社、株式会社チェンジウェーブで働く鈴木富貴さん。彼女が会社に勤めるのは、実に12年ぶりのことだ。

静岡で報道記者として仕事に打ち込んでいた鈴木さんは、33歳で結婚し、間もなく妊娠。36歳で産育休から復帰したものの、夫のアメリカ転勤を機に退職し、それ以来約7年間、専業主婦として生活していた。

3年間のアメリカ生活を経て40歳で帰国してから、48歳でチェンジウェーブに入社するまでの期間を「本当に悩んだ」と振り返る。専業主婦から迷いに迷って再び会社員になった今、鈴木さんは何を思うのだろう。

チェンジウェーブ

株式会社チェンジウェーブ 
マネージャー/チェンジプロデューサー
鈴木富貴さん

中央大学法学部卒業後、静岡放送株式会社入社。報道記者・ディレクターとして15年勤務した後、夫の転勤を機に退職、渡米。帰国後、専業主婦を経てキャリアジャーナリストとして活動を開始。働き方改革、ダイバーシティ経営等の取材を行うほか、トークセッションのモデレーターを務める。取材を通して見た、形骸化する働き方改革やモチベーション頼みの研修に疑問を感じ、ロジカルな変革の伴走者でありたいとチェンジウェーブに参画。テレワークを活用し、静岡と東京、2つの拠点から人生100年時代のキャリアを広げている

子どもはどんどん大きくなるのに、私は退化していくだけ?

私は37歳から44歳までの7年間、専業主婦として暮らしていました。母が専業主婦で、家に帰れば必ず誰かがいたので、私もそんな家庭を築きたいと思っていたんです。だから一生働くイメージは元からなくて、夫のアメリカ赴任が決まったタイミングで会社を辞めました。15年間報道記者として働いて、「やりきった」っていう感覚もありましたしね。

主婦の生活は好きだったし、全然嫌ではありませんでした。特にアメリカにいる期間は3年と決まっていたから、長い休みだと割り切って楽しみました。、でも、帰国して生活が落ち着いたら、「このままでいいの?」って疑問を持つようになって。

なんだか、成長していない気がしてしまったんですよ。子どもはどんどん大きくなるのに、私は退化してくだけなんじゃないか。若い頃は40歳なんてもう“上がり”だと思っていたけれど、いざ自分が40代になったら、尻すぼみしていくにはまだ早いことに気付きました。

夫は「妥協せず、やりたいと思う道を進めばいい」と言ってくれて、ありがたかったんですけど、「それが分からないから悩んでるんじゃない!」って喧嘩にもなって(笑)。その頃は一番つらかったですね。やりたいことも、何を目標にしていいかも分からなかった。「四十にして惑わず」なんて言いますけど、惑いっぱなしの40代でした。

報道記者とは違う働き方をしたかったので、まずはとにかく人に会ってみよう。そう思って、しばらくはいろんな人に会って、さまざまな仕事をしました。伝統工芸品の企画や広報、英会話学校の先生、リサーチ会社のカスタマー調査……。ただ、どれもこう、しっくりこなくて。

生活を大切にしながら働きたいって言うと、その当時は補助的な仕事しか見つけられなかったんですよね。女の人が一回仕事を離れると、どうしてこんなに戻るのが難しいんだろう。そんな疑問を抱いていた頃に女性活躍の動きが始まったこともあって、45歳の時に働き方に関する取材を始めました。

個人事業主として活動を始めて、行政からもお声掛けいただくようになって、ありがたいことに軌道に乗ってはいました。それはそれで楽しかったけれど、ただ、成長という意味だとちょっと違う。余裕を持って仕事をしている感覚があったんです。心地良い反面、このまま成長がないまま、ゆっくりと下降していくのかな、って感じだったんですよね。

50歳は意外と楽しいし、新しい仕事にチャレンジすることだってできる

そんな時に「一緒に働く仲間を募集しています」という、チェンジウェーブ社長の佐々木の投稿をたまたまFacebookで見ました。

面識はなかったけれど、会社のことは知っていて。働き方に関する取材をする中で、上辺だけの働き方改革に疑問を持っていたんです。リアルに会社が変わる必要性を感じていたので、組織を変革するためのコンサルティングや研修プログラムを提供し、しっかりと結果にコミットするチェンジウェーブの姿勢に興味を持っていました。

働く場所も時間も問わないと記載があったので、それなら静岡在住の私でもやれるかもしれない。そう思って連絡をして、半年の業務委託期間を経て社員になりました。仕事の状況に応じて、静岡でのリモートワークを活用しながら、週2〜4くらいで東京に来ています。いわゆる会社員らしい働き方ではないですけど、36歳で会社を辞めているので、12年ぶりの正社員です。

現在はチェンジウェーブの広報業務、企業へのコンサルティングや、女性が営業変革を目指す異業種プロジェクト『新世代エイジョカレッジ』の運営に携わっています。

チェンジウェーブ

エイカレサミットで司会をする鈴木さん

私は今年50歳になりますが、20代の頃に抱いていたイメージからすると、思ったより動ける(笑)。意外と楽しいし、50歳からでも可能性は広がるなと感じています。体力の衰えは感じますけど、これまでの経験を元にシフトしながら新しい仕事にチャレンジすることはできる。

潰しがきかないと思っていた報道記者のスキルも、子育ての経験も、思いもよらないところで役立つ瞬間があるんです。子育ての経験が仕事に役立つってよく言われますけど、正直、綺麗事だと思ってたんですよ。でもこれが意外にも本当で、マルチタスクや予定が変わることへの順応性、ママ友への根回しなんかは仕事にも役に立つ(笑)

会社に入ってからは、「これ得意なんじゃない?」って、周りが私の可能性を引き出してくれているのに感謝しています。「これは違う」っていう違和感は自分で気付けるけど、自分の適性や得意なことは、案外自分では分からないんですよ。だからこそ、「できない」って決めつけないことが大切だと実感しています。もし私が「報道記者の経験しかないから他の仕事はできない」と思い込んでいたら、今の仕事にはたどり着けなかっただろうなと思います。

何が役立つかなんて分からないからこそ、自分の感覚を大事にして

特に若いうちは基礎を作る時期ですから、いろいろ試してみるといいですよ。20代で経験やスキルを積むという意識は持っていた方がいいんじゃないかな。何が役立つかなんて分からないし、無駄だと思ったことが意外な形で生きることもある。だからこそ、やりたいとか、楽しいとか、自分の感覚を大事にしてほしいですね。

私は会社員から専業主婦を経てフリーランスになって、再び会社員に戻りましたけど、今はそういう行き来がしやすくなりました。いきなり働き方や仕事内容をガラッと変えるのは難しいけれど、組織にいながら副業もできるし、小さいチャレンジがしやすくなったように思います。そうやって試してみて、ダメだったら辞めればいい、くらいに思うと楽になります。

チェンジウェーブ

実際に行動を起こさずとも、少なくとも意思表示はした方がいいと思います。やりたいこと、やりたくないこと、分からないこと、思っていること。やっぱり口に出さなければ伝わりません。言葉にすれば応援してくれる人が現れるかもしれないし、アドバイスがもらえるかもしれない。自分の新たな可能性に気付けるチャンスは広がります。私は割とためこんでしまうタイプだったんですが、これ、今の会社で学びました。家族と家事の分担をする時にも心掛けています。

目の前のことをやり切れば、転機は自ずと見えてくる

先は長いし、結果なんてすぐに出ないから、焦らなくていい。自信だってなくていいんですよ。何とかなるから心配しなくて大丈夫だし、自分の得意・不得意を決めつける必要もありません。大切なのは、今を大切に、目の前のことをやり切ることだと思います。

小さな一歩を重ねることが次のステップにつながるし、そうやって仕事に取り組んでいると、自然と「新しいことにチャレンジしてみよう」とか、「もう卒業してもいいかな」と思える瞬間がくるものです。逆に迷っているのなら、まだそのタイミングではないんじゃないかな。

私がこれまでの選択に後悔したことがないのは、その時々でやり切ったからだと思うんですよ。私は専業主婦願望が強かったこともあって、20代は「太く短く働ければいい」と思っていました。実際に一通りやりたい仕事をやって燃え尽きた感覚があったからこそ、「よし、次に行こう」と思えた。

チェンジウェーブ

チェンジウェーブの皆さん

専業主婦から思ったように仕事に戻れなかった頃はすごく焦りましたけど、子どもと一緒にいる時間を十分楽しんだから、「どうして専業主婦になったんだろう」と思うことはありませんでした。まぁ今思えば、「細く長くキャリアを築く」という意識があるのとないのでは、仕事に復帰するときに必要なパワーが全然違いますから、20代の頃の私のような考え方はあまりオススメできませんけどね(笑)

そうやって次のステージを迎えた今のテーマは、「私を生きる」です。「お母さんだから」とか「妻だから」とかになっちゃうと「自分」がなくなるんですよ。余計な負担を自ら背負ってしまう。「自分」ではなくて「周り」に合わせて生きてしまいがちです。

そうではなくて、これから働く女性には「私」を生きてほしい。そのためにも、働きたいように働ける世の中になってほしいと思って、この会社にいます。自分自身もそういう女性であり続けたいし、「私を生きる」というメッセージを伝え続けていきたいですね。

取材・文・構成/天野夏海