「フリーランスになったけどやっぱり会社員がいい」考え方が変わることは失敗や挫折ではありません
長く仕事は続けていきたい。でも、どんな仕事が自分に合っているのか、そもそもどんな人生を送りたいのか、自分のありたい姿が明確にならない女性も多いはず――。そこでこの連載では、さまざまな人生経験を積んできた『育キャリカレッジ』のメンターたちが、“豊かなキャリア”を描いていくためのヒントを後輩女性に向けて送ります
最終回となる今回は、メンターとしてさまざまな相談者の方とお話する中で、特に印象的だった相談をご紹介します。皆さんのキャリアについて、一緒に考える時間となればいいなと思っています。
その相談というのは、「フリーランスとして仕事をしているけど、やっぱり企業に勤めるという働き方に戻りたい」というものです。
自分はフリーランスじゃないから関係ない、と思われる方もいるかもしれません。でも、この相談からは、働くということ全般に通じる気付きが得られます。
実際、相談者と同じように考えるフリーランスの方は男女問わず近年多くなっているようです。その理由はさまざま。もちろん思うように仕事が得られずフリーランスから会社員に戻るという方もいらっしゃると思いますが、例えば「保育園に就業シフトを毎月作って提出しなければならない」、「在宅での仕事は家事育児に追われ結局できない」、「家で仕事をすることが多くて家族に迷惑をかける」など、フリーランスで働いてみて初めて、働き方が自分のライフスタイルに合っていないと感じる方が多いようです。
ここで重要なのが、これを選択ミスや失敗、挫折と考えないということです。これは経験したからこそ得られた学びで、後悔することではないのです。その上で、次のステージに進むためにどう布石を打てるかがカギになります。
「セルフキャリアドック」を実施してみよう
そのために知っておくといい考え方を2つお伝えしたいと思います。
まず1つ目は、「セルフキャリアドック」です。
30代くらいから健康診断で人間ドックを定期的に受けるようになりますよね。それと同様に、自分自身のキャリアについても定期的に点検しようという取り組みです。自分のキャリアになんとなく悩んだり考えたりすることはあるかもしれませんが、これを「点検」として意識的に捉えなおすことがポイントです。最近では全従業員を対象に実施する企業も出てきました。
セルフキャリアドッグは本来、キャリアの節目となるようなときに、キャリアコンサルティング面談やキャリア研修などと組み合わせて自身の働き方や目標などを考えるものとされています。ですが、私は2~3年のスパンで自発的にこのような機会を設けることをお勧めしています。
国立女性教育会館の調査によると、入社2年目で女性は昇進を諦めるというデータが出ています。2~3年間のうちにさまざまな女性特有の壁にぶつかることは、働いている皆さんは十分に感じ取っていらっしゃるのではないでしょうか。
2つ目は「キャリアは一つでなくていい」ということです。
以前は履歴書に職歴が何個も並ぶとマイナスになるというイメージがありましたが、今やそういう時代ではなくなってきています。重要なのは、それらの経験からどんな学びを得て次に生かせるか。
話題の書籍『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)では、生涯で複数のキャリアを経験する「マルチステージ」という考え方が紹介されています。従来の「教育→仕事→引退」といった3ステージの人生ではなく、むしろ生涯で転身を重ねて複数のキャリアを経験していくことで、「100年時代」の人生を豊かにできるというのです。
一般的になってきたパラレルキャリアの考え方と同様、人脈や知識といった無形資産が転身には非常に大切な要素であるとも指摘されています。会社員→フリーランス→会社員と転身を重ねることは、元に戻ることでも後ろ向きに受け止めることでもありません。こういったキャリアチェンジが自分の人生を豊かにする選択になり得るのです。
「キャリア」という言葉はさまざまな意味を含みますが、その人の生活や生き方、生きがいなどを含めた「人生そのもの」と捉えるべきだと私は考えます。ですから、現在仕事をしていない方、専業主婦の方、仕事を探している方、どなたにもセルフキャリアドックによって定期的に自分のキャリアについて考える時間を持ってほしいと思います。
今いる自分の場所を確認することは、次のステージに移行する前の非常に大切なプロセスです。
活躍している人としていない人、一番の違いは「キャリア自律」
そして、この自発的なキャリアの見直しにとても有効なのが、一歩先行く先輩であるメンターへの相談です。人間ドックが医師の力を必要とするように、キャリアも自分自身で客観的に見つめ直すのは実はすごく難しい。人は他者からの問いかけや質問によって自分の考えが深まり、他者に語ることで自分の考えが整理されます。自問自答では新しい視点が取り入れらず堂々巡りする場合があり、対話が必要なことがあるのです。
また、これは女性特有の傾向ですが、自分のキャリアについて親しい間柄の相手には話しにくいという方が多くいると私は感じています。キャリアアップセミナーなどに参加することさえ人に知られたくない、という声も耳にします。それなら、外部のメンターの存在が心強いのではないでしょうか。現に私もそのような理由でメンターを引き受ける事が多くあります。
フリーランスで仕事をしているけど企業勤めに戻りたい。冒頭の相談を受けたとき、私がお伝えしたのがここで挙げた2つの考え方です。その上で、第2回でご紹介した「過去の自分自身のキャリアを丁寧に振り返り、自らの言葉で語り直す」というナラティブアプローチを用いて、自分自身の軸を再確認して頂くお手伝いをしました。ちなみにその方は、いまでもフリーランスとして活躍されています。
その方を含め、私が起業やフリーランスを目指す多くの方の相談を受けてきた中で逆に私が学んだことを、今回の連載の最後にお伝えしたいと思います。それは、活躍されている方とそうでない方の一番の違いはどこにあるか、ということです。
私はその違いは「キャリア自律」にあると思っています。
キャリア自律とは自分のキャリアを自分の意志で主体的に育むことです。それって当たり前のことだと思うかもしれませんが、これが言葉にするのは簡単ですが、実はなかなか難しいのです。
例えばやるべきことがあるのに「数字が苦手で……」とか、「時間がなくて……」となかなか着手できないことがあるかと思います。3歳半の双子の育児に振り回されている私にももちろんあります。そのときに私自身も立ち返るのが、このキャリア自律という考え方です。
キャリア自律は突き詰めれば「言い訳をせずに自分で決めて自分でやる」ということだと思います。自分自身のキャリアに責任を持つという意味でも、起業されている方は特にこの意識が強く感じられます。もちろん、企業や組織の中で活躍されている多くの方にも共通しています。
でも、頭では理解できてもなかなか難しいですよね。ですから、私はメンターとしてその人のキャリアを応援するとき、最終的にはこのキャリア自律に気付いてもらえることを意識しています。メンティーが本当の意味で自分の意思で行動を起こすために、どうポジティブに転換すればいいかのヒントをつかんで頂ければと思っています。
私のコラムは今回で最後です。3回の連載を通じてお伝えしたかったことは、どのような働き方をしていても生かすことができるコツのようなもの。このコラムを通して、仕事だけではなく人生そのものである皆さんのキャリアが豊かになるお手伝いが少しでもできたなら、とても嬉しく思います。
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