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JUN/2019

“幸せな家族像”は幻想。一つの正解を求める癖は改めた方がいい【酒井順子×ジェーン・スー】

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結婚して子どもを産むのがスタンダードではなくなりつつある今、私たちにはたくさんの選択肢がある。もはや結婚する・しない、子どもを産む・産まないなんて単純な話じゃない。結婚せずにパートナーと同居することだってできるし、子どもを産まずに養子を迎えることだってできる。

ただ、そう頭で理解はしていても、自分自身が“人と違う道”を進むとなると、話は変わってくる。先駆者がいないからイメージできないし、なんだか怖いような気もしてしまう。

そこで、日本の家族の変遷と今後についての考えをまとめた著書『家族終了』を刊行した酒井順子さんと、“未婚のプロ”であり、ラジオ番組や雑誌で数多くの女性たちの悩み相談に答えてきたジェーン・スーさんの元を訪ねた。

酒井順子 ジェーン・スー
酒井順子さん(写真左
1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆に専念。2004年に『負け犬の遠吠え』(講談社)で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞し「負け犬論争」を呼び起こす。著書に『ユーミンの罪』(講談社)『地震と独身』(新潮社)『子の無い人生』(KADOKAWA)など多数。最新刊は変わりゆく日本の家族スタイルを論じた『家族終了』(集英社)

ジェーン・スーさん(写真右)
1973年東京生まれ。コラムニスト/作詞家。著書に『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)などがある。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のパーソナリティを務める。最新刊は『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)
Twitter:@janesu112 ラジオ:『ジェーン・スー生活は踊る

2人ともパートナーと長く生活を共にしているが、籍は入れていない。「結婚して子どもを産む」という従来のスタンダードとは異なる道をゆく酒井さんとスーさんに、働く女性たちの「結婚する・しない/子どもを産む・産まない問題」を相談してみた。

「結婚する・しない」を決めずにいたら、なんとなく今の生活にたどり着いた

−−お二人とも籍を入れずに、パートナーと長く同居されていますよね。籍を入れないことに何か理由はあるんですか?

酒井さん(以下敬称略):結果的に今の形になっただけで、これといった理由はないですね。

ジェーン・スーさん(以下敬称略):私も完全に結果論です。そもそも「決める」ことが得意ではないんですよ。これまでもこの先も、ビジョンや計画のようなものがない。だから今だって結婚しないと決めたわけではないんです。「結婚する・しない」を決めずに流されていくと、こういう中洲にたどり着くんでしょうね。酒井さんはパートナーと入籍する・しないについて話し合いをしたことはありますか?

酒井:ないですね。相手も特に入籍したいと思っている感じはないですし、本当になんとなくでここまで来たという感じです。

ジェーン・スー:『家族終了』の中に、入院する時に籍を入れておいた方が何かと都合がいいから入籍した、という熟年カップルのエピソードがありましたよね。そういうのもいいなと思いました。利便性を考えると、籍を共にしておいた方が楽だよねっていう選択。

酒井:スーさんは“内縁おじさん”とは何年くらい一緒にいるんでしたっけ?

ジェーン・スー:30代終盤からだから、7年くらいですかね。

酒井順子 ジェーン・スー

酒井:私も今のパートナーは30代末期からの付き合いです。そのくらいの時期ってなんというか……ねぇ?(笑)

ジェーン・スー:分かります、いろんなものに対して「もういいかな」って思う時期ですよね。30代前半は、結婚ができない自分は不完全な人間だと思っていたんですよ。一生に一人の人として誰からも選ばれないだなんて、何か欠陥があるんじゃないかって。でもだんだんと、それで特に問題はないと気づいたし、そこまで自分が結婚したいと思っていないことに気づいた(笑)。

酒井:40代が見えてくると、「普通の道を歩まなくても別にいいか」みたいな気持ちになるんですよ。子どもを産むこともほぼないだろうという気持ちにもなってきて、「まっとうな道」に対する諦めや踏ん切りがつくのかもしれないですね。しかも、「まっとうでない道」は思っていたよりも楽しい普通の道から外れるのは怖くないっていうことは、まずお伝えしておきたいですね。

ジェーン・スー:アラサーの人たちから見たら異形の人に見えると思うんですけど、恐れることはないですよ。

「子どもがいないこと」をいつか後悔するときはくる

−−お二人のような生き方も全然アリだと思う一方、親や友人から「結婚したら?」「子ども産んだら?」とプレッシャーをかけられることもあります。そんな中で“普通の道”から外れるのは結構しんどいような……。

酒井:昔も今も、その辺は変わってないんですね。同じ道を皆が通ってきている。だからあなたも我慢しなさいとは言えないですけど、私はそういう外圧があること自体は悪いことではない気もしています。

酒井順子 ジェーン・スー

ジェーン・スー:酒井さんは著作の中で一貫しておっしゃっていますよね、親や周囲からの圧がないとなかなか結婚できないし、それ自体は悪いことではないと。裏を返せば、現代の女性にとって、結婚は「自発的に飛び込みたくなるくらい良いシステム」ではないんだと私は思うんです。新刊の中にも「無理をしないと家族は作れない」とありましたが、同感です。

よほど結婚への憧れがない限り、特に都市部で働いている女性にとって、仕事と結婚・出産の相性は決して良いとは言えない。相手の家から期待される“嫁プレー”の負荷もあります。そう考えると外圧でもない限り、なかなか結婚に踏み切れなくて当然だと思います。「つがう」のは生きていく上で重要だけれど、結婚の動機になることってなかなかない。

酒井:子どもが欲しいと思ったときに、結婚に気持ちが向くのは自然ですよね。結婚してから子どもを産むことが一番ノーマルであることは、これからも変わらないでしょうし。「外圧」がなかったら、そちらの方へ進む人はますます減るのでは。

−−子どもが欲しい・欲しくないっていうのが定まっていればいいんですけど、自分の気持ちがはっきり分からない女性は意外と多いと思います。子どもがいなくても、人生は楽しめますし。ただ、今そういう判断をして子どもを持たずに生きていったら、いつか後悔するのかなぁ……なんて考えてしまいます。

酒井:子どもの存在感は、年齢によって全然違ってきます。若い時は子育ての大変さが目立つので「いなくてよかった」と思いがちですが、子供が育ってくると、今度は頼もしい存在になります。今、私の友人の子供達は成人しつつありますが、立派に育ちあがった子供達を見ていると「それに比べて私は」などと思ったりもする。それをどうにか言い訳しながら生きているわけで、だからこそ私は、産むことができる日年齢の人には軽々しく「産まなくてもいいんじゃない?」とは言えないですね。

ジェーン・スー:私も今のところ後悔はないですけど、いつかする時がくるのかもしれないと、覚悟はしています。先日出した新刊『私がオバさんになったよ』の中で酒井さんと対談させていただいた時に、「子どもがいなくて手が空いているのなら、親のいない子どもの援助をした方がいいんじゃないかって気持ちに駆られる」と話しましたけど、そういう罪悪感はありますね。

ただ、私はどこまで煮詰めても利己的で、自分が一番なんです。だからもしパートナーが産んでくれるんだったら、多分私は軽々しく「子ども欲しい」って言ったと思うんですけど。

酒井:私も、自分が男だったら、相手に何人でも産んでほしい。

ジェーン・スー:子どもは好きですが、自分のお腹の中で人間を育て、産んで、育てて、という流れをイメージできないままこの年になりました。酒井さんも自分の中に無償の愛みたいなものがないっておしゃっていましたね。

酒井:そうなんですよ。植物であろうと動物であろうと、「育てる」ってことが苦手です。

ジェーン・スー:それに関して後ろめたさみたいなものはあるんですか?

酒井順子 ジェーン・スー

酒井:めちゃくちゃあります。「育てる」ことは私に全く向いてないので、そういう意味では子どもを産まなくて正解だったとは思いますけどね。

ジェーン・スー:30歳前後の時は、世の中の人が子どもを持たない理由がこんなにたくさんあることを、全く想像していなかったんですよね。欲しくてもできない人もいれば、向いてないと判断をした人もいるし、私のように自分最優先でいたらいつのまにか、という人もいる。当時は「子どもは持たなきゃいけないもので、いずれは持つもの」って考えだけがあって、そこにたどり着くステップをどうして踏めないんだろうってモヤモヤしていたような気がします。

“幸せな家族”のハードルが上がっている

−−お二人はご両親から「結婚しなさい」とか「子どもを産みなさい」みたいなことを言われましたか?

ジェーン・スー:一切なかったです。父からは「結婚はしなくてもいいけど子どもはいた方が楽しいんじゃない?」と言われたこともありましたけど、圧力はほぼゼロですね。母は私が24歳の時に亡くなりましたが、病気で倒れた時の最初の言葉が「仕事は辞めるな」でしたし、やはり結婚しろっていうのはなかった。

酒井:なんで自分がこうなったんだろうと考えると、やっぱり育った家庭が原因なんじゃないかという気がしてなりません。自分の親みたいな家庭を作りたいと思えなかったことが、自分の乾いた家族観に繋がってるんじゃないかなと、と。

ジェーン・スー:やっぱり“幸せ家族”のバリエーションが少なすぎるから苦しくなるんじゃないかな。子どもが複数人いて、家族の仲が良くて、ママ友パパ友とコミュニケーションがあって、休日はバーベキューして……っていうのは、なし得なければならないことが多すぎるというか。私はそういうのが向いていないという自覚があるから、そこに参戦しなくて良かったっていう思いはありますね。

酒井:“幸せな家族”のハードルも上がっていますよね。有名な大手企業に総合職として勤めていて、結婚して子どももいる女子と話していたら、「私なんか全然後輩のロールモデルにならない」って言うんです。なんで?って聞いたら、子どもが1人しかいないからって。

酒井順子 ジェーン・スー

ジェーン・スー:「子どもはいつ作るんだ」「2人目はいつなんだ」って、結婚したあとも勝手に次のゲートがバンバン開いていっちゃうらしいですね。もう全然走り終わらない。こういう状況を変えるためにも、やっぱり正解を一つに求め過ぎるのは厳しいかと。

結婚してる・してない、子どもがいる・いない。どちらが良いという話ではなくて、個々人の事情によるものだと思うんですよ。私も酒井さんも結婚していなくて子どももいないですけど、そうなった理由はそれぞれ違うし、正解があるわけでもない。私の場合は利己的な性質の結果として今の生活に到達したわけですが。

−−結婚や出産に向き・不向きがあるということは、母親や祖母の世代の女性の中には無理して妻や母としての役割をこなしてきた人がたくさんいるとも言えるんでしょうか?

ジェーン・スー:いたと思いますよ。ものすごく負荷が掛かっていたでしょうし、考えただけで涙が出てきます。

酒井:誰かにものすごい負担をかけることによって、日本の理想とする家族制度というものは繋がってきたわけですが、その負担を引き受けてきたのは大部分が女性。しかし女性達が「もう無理!」と悲鳴を上げられる世の中になってきたのではないでしょうか。そういう意味では、「母親と同じようにできない」ことに悩む必要もない。一つの家族像に正解を求めるのは、幻想だったのではないでしょうか。

ジェーン・スー:正解がないこと、ロールモデルがいないこと、先が分からないこと。この先の時代がどうなるかを考えたときに、少なくともこの3つは確定だと思うんです。そうなると、その都度自分で考えて、自分で決めていくしかないんですよね。

酒井:これまでの家族は、定食とかコースメニューみたいに「こういうもの」と決まっていました。けれど、これからは、アラカルトとかプリフィクスのような選択性になっていくでしょう。面倒ではあるけれど、自分の責任で好きな物を食べられる自由があるっていうことでもありますよね。

>>後編【30前後の女は“不幸”がデフォルト「若いうちはもっとジタバタしましょうよ」】もあわせて読む

取材・文・構成/天野夏海 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) 企画・編集/栗原千明(編集部)


『家族終了』(酒井順子/集英社)
酒井順子 

親が好きですか? 子供が好きですか? 夫婦で同じお墓に入りたいですか? 帰りたい家はありますか? 一緒に暮らしたいのは誰ですか? 毒親からの超克・「一人」という家族形態・事実婚ってなあに?
他、日本の“家族”を考える全18章。

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『私がオバさんになったよ』(ジェーン・スー/幻冬舎)

私がおばさんになったよ

人生、折り返してからの方が楽しいってよ。先行き不透明であたりまえ。ネガ過ぎずポジ過ぎずニュートラルに。ジェーン・スーさんと、わが道を歩く8人が語り尽くす「今」。
ジェーン・スー、光浦靖子、山内マリコ、中野信子、田中俊之、海野つなみ、宇多丸、酒井順子、能町みね子。
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