30前後の女は“不幸”がデフォルト「若いうちはもっとジタバタしましょうよ」【酒井順子×ジェーン・スー】

日本の家族の変遷と今後についての考えをまとめた著書『家族終了』を刊行した酒井順子さんと、“未婚のプロ”であり、ラジオ番組や雑誌で数多くの女性たちの悩みに答えてきたジェーン・スーさんに、働く女性たちの「結婚する・しない/子どもを産む・産まない問題」を相談する本企画。後編では結婚しないこと、子どもを持たないことによる孤独をテーマにお話を伺った。

>>【前編記事】はコチラから

酒井順子 ジェーン・スー

ジェーン・スーさん(写真左)
1973年東京生まれ。コラムニスト/作詞家。著書に『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)などがある。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のパーソナリティを務める。最新刊は『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)Twitter:@janesu112 ラジオ:『ジェーン・スー生活は踊る
酒井順子さん(写真右)
1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆に専念。2004年に『負け犬の遠吠え』(講談社)で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞し「負け犬論争」を呼び起こす。著書に『ユーミンの罪』(講談社)『地震と独身』(新潮社)『子の無い人生』(KADOKAWA)など多数。最新刊は変わりゆく日本の家族スタイルを論じた『家族終了』(集英社)

今は「ロマンチックラブ」ではなく、「目的」を持って結婚できる時代

−−結婚したい理由の一つには、孤独が嫌というのもあると思います。「一生このまま一人で生きていくのかな……?」と不安に駆られて結婚を考える女性は少なくないと思いますが、この点についてはどう思われますか?

ジェーン・スーさん(以下、敬称略):酒井さん、寂しさに対する耐性はいかがですか?

酒井さん(以下、敬称略):強いと思いますよ。一人は得意。とはいえ何かがあった時のために誰かと一緒にいた方がいいという「パートナーはいた方がいい」主義です。

ジェーン・スー:私も同じです。寂しいという感情はありますが、一人だからという理由でどうしようもなく寂しくなった記憶があまりない(笑)。ただ、自分一人ではどうにもならないことがあるのは分かっているんです。些細な話だと、1日誰とも喋らないと口が回らなくなるし、心身の健康を維持するという意味でも誰かと一緒にいた方がいい。

酒井:誰かのために何かをするっていう行為は、心身の健康のためにいい気がするんですよ。自分のためだけに生き続けていると、次第に「これでいいのか」と罪悪感が募ってくる。多少なりとも同居人のために料理なり掃除をなりをすることで、子どものいない自分でも、「他者のためになりたい」という欲求が充足するっていうのはありますね。

ジェーン・スー:性格の違いでしかありませんから、常に誰かと一緒でないと寂しいとか、誰かに何かしてあげないと落ち着かない人もいて当然だと思います。結婚相手を見つけたいなら、結婚相談所に登録するなり親戚に頼るなり、あらゆるところから縁を探ってみるという手もありますよね。

酒井順子 ジェーン・スー

酒井:若い女性たちは、もっとジタバタしてもいいのに。ぼーっとしているだけでは結婚も出産もできないというのは今や常識。頑張るのが恥ずかしい、という気持ちもわかりますが、ある程度の努力が必要なのは、仕事も結婚も同じではないでしょうか。

ジェーン・スー:子どもが欲しいのに夫が子作りに積極的じゃないという理由で、結婚して1~2年で離婚した女友達が2人います。2人とも比較的早く次の夫を見つけて子どもを持ちました。目的がはっきりしている人は、単純な好き嫌いだけではなく、「自分の叶えたいプロジェクトのパートナーとして適任か」という点で判断できるんですね。

酒井:私が若いころは“ロマンチックラブ・イデオロギー”が強かったから、「女の幸せは愛されること」とか「運命の人と出会って結婚するのが女の幸せ」って思想が強かった。でも今は子どもが欲しいとか一人は寂しいとか、結婚の目的を前面に押し出すことが認められていると思うんです。ほんわかした気持ちでなんとなく、ではなくて、「自分はこうしたい」という意志を持って結婚すると、たとえ失敗しても傷が癒えやすいし、次の道も探しやすいのでは

酒井順子 ジェーン・スー

結婚したいかどうか分からないなら、一度死ぬ気で婚活した方がいい

−−「自分はこうしたい」って意志がよく分からなくなることもあります。明確に結婚したいわけでも、結婚したくないわけでもないし、結婚に向いているかどうかも分からない。そんな人はどうしたらいいのでしょうか……?

ジェーン・スー:フフフ。どうしたらいいのか分からないと言う人ほど、家で膝抱えて何もしないんですよね。ラジオの悩み相談で、私はよく「自分の欲望をなめるな」って言うんです。これは「向き不向きをなめるな」っていうことでもあって。何がしたいのか分からないのであれば、とりあえず全部やってみて、どの時の自分が一番頑張れるか、満足するのかを探ってみるのはどうでしょうか。

酒井:体力があるアラサー世代は、動き時ですよね。向いてないと思っていたことが意外と楽しかったり、やってみたら案外頑張れたりっていうこともあるものですし。

ジェーン・スー:30代半ばに一発逆転しようと思って、無理して女らしい格好や振る舞いをしたことがあるんですよ。結婚すれば全てがうまくいくと思って、当時お付き合いしていた方と式場仮押さえの段階までいきました。でも、結婚にはたどり着けませんでした。結婚より自分の方が大事で、あー今回は無理だなと思いましたね。

酒井順子 ジェーン・スー

ジェーン・スー:それに、自分で自分を充足できていない時は、何をやっても同じだとも思いました45年ぐらい生きて分かったのは、コンプレックスや罪悪感、認められたいっていう気持ちを人で埋めようとすると絶対に失敗するっていうこと。例えば3高(高収入・高学歴・高身長)の人との結婚を目指したとしても、それで自分を幸せにはできなかったなぁと、個人の感想としては思いますね。

酒井:ジェーンさんは式場予約をするところまで努力されたわけですけど、何事もそうやって一回試してみて、本当に向いてないとわかったら、止めればいいんですよね。例えば私、マラソンはどうしてもできないんですけど、卓球なら頑張れるんですよ。両方やってみると、より向いている方がわかる。

ジェーン・スー:すっごく説得力があります。酒井さんみたいに家庭教師を付けて卓球をしてらっしゃる方はなかなかいないですよ(笑)

酒井:仕事も同じで、会社員も1回はやってみようと思って就職したけれど、やっぱり無理で辞めました。でも一人でひたすら書くことだったら割と頑張れたから、この道で生きてます。いろんな努力を一度は試みて、「これならあまり苦にならないな」っていうところに進めばいい気がしますね

酒井順子 ジェーン・スー

ジェーン・スー:酒井さんと私が正解というわけでは決してないんです。そうじゃない人もいるし、どちらが正しいということではない。実はそんなに恋愛に向いてないっていう人もいますしね。ただ、頭で考えただけで判断するのは難しいから、私はまずやってみるしかないと思って。「結婚しなければ」と思うのであれば、一度は本気で婚活してみた方がいいかもしれませんね。

酒井:それこそ仕事と同じくらい頑張ってみた方がいいですよね。

一人に慣れて強くなることを後ろめたく思うのは「社会のバグ」である

−−20~30代にかけて試行錯誤をしてもがいた先に、自分にとっての幸せや、向き・不向きが分かってくるのでしょうか?

酒井:30歳過ぎの女性って、たいがい不幸なんですよ。だからその不幸にびっくりしないで、全身で味わってみてほしい。その不幸を乗り越えたら、何かが見えてくると思いますよ。

ジェーン・スー:なぜ不幸なのかっていうと、エネルギーが過剰だからでしょうね。本来なら出産や子育てに使われるエネルギーが余っているから、たくさん悩んだり考えたりしてしまう。そういう人はとりあえず、仕事に打ち込めばいいと思います(笑)。仕事の経験は自分に蓄積されていきますから。40代になるとエネルギーが枯渇して、眠くなって余計なことは考えられなくなっていきますので。

酒井:30代で一度どん底まで落ちてみるといいですよね。50代でどん底に落ちちゃうと、這い上がるのは苦しいけど、そのくらいの年齢ならまだ大丈夫。「ここまでなら耐えられる」という地を一度踏んでみる実験だと思ってはどうでしょう。

ジェーン・スー:ダーン!っと這い上がれますよ。アラサーはグロリア・ゲイナーの『I Will Survive』が一番似合う年代ですからね。

酒井順子 ジェーン・スー

−−そうやって試行錯誤の末に「やっぱり結婚に向かないな」って思ったとしても、今度は一人に慣れて強くなっていくことに対して、なんだか罪悪感というか、後ろめたさを覚えてしまうような気もするのですが……。

ジェーン・スー:これだけは断言したいんですけど、自分の能力を高めたり、寂しさやつらさへの耐性がついたりすること自体に後ろめたさを感じるのは、社会のバグです。絶対に気にしなくていいし、「その落とし穴にだけは落ちるな部門ナンバー1」ですよ。完全に無視しましょう。「女の人は誰かの庇護のもとにあるべき」みたいな考え方は女の人から力を奪っていきますし、無理に従来の“幸せな結婚”の型にはまろうとしたって、今はもう女性の方が自分を騙せないですからね。

酒井:その不安を何かしらの力に変えられるといいですよね。私も一人が苦にならないとはいえ、寂しいと感じる瞬間はある。けれど、それを何かの原動力にするのは悪いことじゃないっていうのが経験上分かってきました。スキルアップでもいいし、それこそ婚活でもいい。不安を感じてぼーっとしているだけと、あっという間に時が過ぎていきますから、一人で動ける時間を天の恵みだと思って、何かしてみましょう。

必ずしも恋愛を軸にパートナーを探さなくてもいい

−−最後に「結婚する・しない/子どもを産む・産まない問題」に直面している働く女性たちにメッセージをお願いします。

酒井:結婚するかどうかはさておき、パートナーはいた方がいいとは思います。若い独身女性にはまだ想像もできないと思いますけど、両親は高い確率で先に亡くなりますし、それは思っているより早いかもしれません。

私は30代で父を、40代で母を亡くし、一昨年に兄も病気で亡くなって、家族が全員いなくなりました。まさに“家族終了”ですが、もしも兄が亡くなった時にパートナーがいなかったら、膝を抱えて動けなかったんじゃないかなと思うんです。

ジェーン・スー:酒井さんは著書の中で、性愛やロマンチックラブ、運命じゃない関係性のお話をしてくださっていますよね。そこが未来だなと思いました。結婚や恋愛を軸とした男女の関係じゃなくても、自分自身を支える関係性はあるし、あっていい。私も母が亡くなった時や実家を撤収しなければならなかった時、女友達がいなかったら折れていたと思うんですよ。

酒井:恋愛対象ではないけど、同居相手としては相性がいい人もいますしね。『家族終了』の中で同じマンションに友達同士で入居して生活している人の例を書きましたが、どんどん新メンバーが補充されていけば「最後に残された1人はどうするんだ」って話もなくなります。ハロプロはメンバーを入れ替えることで永遠に死滅しないわけですが、家族の形に同じようなシステムが適合されても面白いなと思います。

酒井順子 ジェーン・スー

ジェーン・スー:夫が亡くなったり離婚したりした人にとってもいいシステムですよね。身近なところだと最近独身の先輩女性が定年を迎えたんですけど、お酒が好きなタイプってこともあって、退職と同時にセコムに入ったんだそうです。自分の安否を人にお金で管理してもらうっていうのも一つの選択肢だし、すごくいいなと思いました。

とはいえ、今は先の読めない時代じゃないですか。世間が煽るから、先のことを考えて不安になるのは私達の時代の比ではないでしょうけど、備えていることがあまり役に立たない可能性だって大いにあるわけです。だからこそ、体力がある20~30代の人は先のことを思い悩み過ぎるよりも「自分がどういう状態にあったら幸せなのか」を考えた方がいいのかなとは思いますね。

酒井:いろんなことが起こりますし、起こってもいないことを先に心配しない方がいいね。幸せになったところで、大抵の幸せは長続きしないものですし(笑)。それに“普通じゃない”選択肢って、実は思っているほどハードルは高くないんですよ。私たちもあと10年したら介護や病気に直面して、また違う地平が見えてくるんだと思いますけど、実験みたいな感覚でその都度対応していていければいいなと思っています。

>>【前編】もあわせて読む

取材・文・構成/天野夏海 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) 企画・編集/栗原千明(編集部)


『私がオバさんになったよ』(ジェーン・スー/幻冬舎)

私がおばさんになったよ

人生、折り返してからの方が楽しいってよ。先行き不透明であたりまえ。ネガ過ぎずポジ過ぎずニュートラルに。ジェーン・スーさんと、わが道を歩く8人が語り尽くす「今」。
ジェーン・スー、光浦靖子、山内マリコ、中野信子、田中俊之、海野つなみ、宇多丸、酒井順子、能町みね子。
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『家族終了』(酒井順子/集英社)

酒井順子 

親が好きですか? 子供が好きですか? 夫婦で同じお墓に入りたいですか? 帰りたい家はありますか? 一緒に暮らしたいのは誰ですか? 毒親からの超克・「一人」という家族形態・事実婚ってなあに?
他、日本の“家族”を考える全18章。

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