26歳で介護職に転身! キツイ・つらい仕事から脱却するカギは、“幸せの連鎖”をつくること
超高齢化社会を迎えた昨今、介護は多くの人が直面する課題となっている。しかしいざそれを仕事にするとなると、「つらそう」「大変そう」というイメージから、二の足を踏んでしまう人も多い。
現在、株式会社木下の介護で介護士として働く平田彩香さんも、かつてはそんな若者の一人だった。「お年寄りと話すことは好きだったけど、それだけで務まる仕事なのか、長く働ける職場なのか、正直最初は不安だったんです」と語る。だが今は入社4年目ながら介護リーダーを務め、着実にキャリアを積んでいる。
「“幸せの連鎖”が起これば、介護はとてもハッピーな仕事なんです」と笑う彼女に、介護の仕事のやりがいを聞いた。

株式会社木下の介護 リアンレーヴ本町田 介護リーダー 平田彩香さん
製菓の専門学校を卒業後、レストランやケーキ販売店で接客、パティシエを経験。2016年、木下の介護に入社。現在は介護リーダーを務める
「“人生の大先輩”と話すのが楽しい」
26歳でお菓子の世界から介護業界へ飛び込んだ
私は今の仕事に就くまで、レストランやケーキ店で製造や接客の仕事をしていました。製菓の専門学校を出ていたので、お菓子に関わる仕事をしたいと思っていたんです。24歳の時には大手百貨店にあるケーキ屋で店長を任されるようになり、仕事はどんどん楽しくなってきました。
そんな私が介護の仕事に興味を持ったのは、毎日のように買いに来てくださるご年配のお客さまの存在がきっかけです。仲良くなってお話してみると、さすが人生の大先輩とでもいいましょうか、私が知らない世界の話をしてもらえたり、いろんな知識を教えてもらえるように。同年代と接することの多かった私にとって、ご年配の方とお話するのはとても刺激的で楽しかったことを今でも覚えています。
でもある日、その方が突然お店に来なくなってしまって。私はとても心配しましたが、百貨店のいち販売員では、その方に何があったのかを知る由もありません。そこで「私がもしこの方の日常に関わる仕事だったらよかったのに……」と思うようになったんです。
さらにそのとき、私の祖母も特別養護老人ホームにお世話になっていて、両親の将来についても考えるようになり、介護の仕事に興味を持ちました。

とはいえ、介護職には「キツい」「つらい」といったイメージもありました。当時の私は26歳になっていたので、これから挑戦したとして、つらくて長く続けられない仕事はしたくないなという気持ちもあったんです。
そこで「長く続けられる介護職」はないものかと、求人サイトで企業を探していて、木下の介護と出会いました。私は20代後半で1からキャリアを積んでいく必要があったので、大手の木下グループなら安定感もあるだろうと考え、応募することに決めたんです。とはいえ、応募時点ではまだ半信半疑でしたけどね。
実際に入社を決意したのは、面接の時です。面接をしてもらった応接室に、「幸せをつくる」という企業理念が貼られていて。それは入居者の方々だけではなく、職員の幸せについても深く考えるべきだといった内容でした。当時の施設長からも「職員が働いて『楽しいな、幸せだな』と思える施設にしていきたい」と言われ、「ここでなら、介護未経験の私でも腰を据えて長く働けるかも」と、チャレンジしてみることにしました。
「あなたを大切にしている」が伝われば、幸せは連鎖していく
入社して私が配属されたのは、重度の認知症の方が多いフロアでした。認知症の方と接するのは初めてだったので、どんな受け答えをすればいいのかも全く分かりません。すると先輩から「まずはお話してみるところから始めるといいよ」と言ってもらえたんです。実際に始めの方は、実業務に入るのではなく、入居者の方とお話して人間関係を築くところからスタートさせてもらえました。
その後も、はじめの1カ月間は先輩にマンツーマンでついてもらい、食事の提供方法や入浴介助といった仕事を覚えていきます。教育担当の先輩とは同じシフトで、休憩も一緒。一から丁寧に教えてもらい、未経験の自分にとっては本当に心強かったですし、介護について時間をかけて理解を深めることができました。
今振り返ってみると、もし私が何も分からないまま、重度の認知症の方へのお手伝いをしていたら、きっとつらくなっていたんじゃないかと思うんです。認知症の方に「それは嫌だ」と言われても、その原因も分からず、ただただ苛立ってしまっていたんじゃないかなって。
そうやって介護士が不機嫌になれば、入居者さんやその家族だって嫌な気持ちになるはずです。だからこそ、まずは介護士自身が嫌な気持ちにならないようにしなければいけない。木下の介護の「職員を幸せにする」という理念は、施設に関わる全ての人に大事なことだったんだなと思えますね。

会社が職員を大切にしているからこそ、職員は他のことに気を使わずに、入居者への対応に集中することができる。私たちも入居者の方も「誰かに大切にされている」と幸せを感じられるんだと思います。
実際に、入居者の方と深くコミュニケーションを取った後に実業務に入ると、認知症の方に「嫌だ」と言われたとしても「あ、そういえばこの方は昔からこれが苦手だってお話してくれてたな」と、冷静に原因にフォーカスできるようになります。そうやっていつも穏やかな気持ちで接しているので、入居者の皆さんも私たちを信頼して楽しくお話しをしてくれたりする。むしろ私の方が毎日癒されたり励まされたりしているんですよ。そう考えると、ただ漠然と「介護職はマイナス」というイメージで捉えられるのは、本当にもったいないことだと思います。
「安らかに最期の瞬間を迎えて欲しい」
それが私の使命なんだと気付いた
この仕事に携わるようになって、私自身の人生観も大きく変わりました。私が入社したとき、歩行器を使いながら自分の足で歩いていた入居者の方が、その後寝たきりになられて。最期は苦しまずに、眠るように逝かれたんです。毎日ケアをさせてもらった入居者の方の最期を看取るのは稀なことですが、とてもつらいこと。でも人間誰しもが、この瞬間を迎えなければいけないんだと、強く印象付けられた出来事でした。
その後、ご家族から「平田さんが毎日のようにケアしてくれたから、お母さんも安らかに逝くことができました。今まで本当にありがとうございました」と感謝をされたんです。その言葉のおかげで、「私のケアは決して無駄ではなかった」、「安らかに最期を迎えるお手伝いができたんだ」と思うことができました。
その方のように施設で最期を迎えるケースはほとんどありませんが、入居者の方には誠意を込めてとことんケアしていこうと、改めて心に誓った瞬間でした。なるべく好きなものを食べてもらって、楽しくお話をし、きれいなものを見て、いろいろなところに行っていただく……。そして安らかに最期を迎えられるようにしたい。それが私の目指すところであり、使命なんだと思うようになったんです。

そう思えるまでになったのは、新入社員だった私を大事に育ててくれた施設の先輩方のおかげでもあります。私自身も1年前にリーダーになり、現在は11人の職員をマネジメントする立場になったので、先輩方から育ててもらったようにしていきたいですね。メンバーたちにも「私はあなたを大切に育てていきたい」、「まずは職員のあなたが幸せに働いてほしい」ということが少しでも伝わればいいな、と思っています。
それと、個人としてプライベートも充実させていければいいですね。お世話になった先輩の中には、今施設長をしながら家庭を持っている女性の方もいて。私もそんな風になれたらいいなと憧れているところです。今後はそうやって、「幸せ」の連鎖を意識しながらキャリアをつくっていきたいですね。
取材・文/キャべトンコ 撮影/吉山泰義