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APR/2020

日本でアパレル店員として働いていた私がデンマークで「自分の店を持つ」夢を叶えられた理由

海外ノマドライター小林香織がお届け!
「自分らしく働く」世界の女性たち

この連載では、デンマーク在住ライター小林香織が海外で自分らしく働く女性たちのライフストーリーを紹介。女性たちが幸せに働き、自由に生きていくためのヒントを発信します!

部署異動や転職など、春に付きものの環境の変化。さらに、新型コロナウイルスの影響でリモートワークを余儀なくされている人もいるでしょう。これも、また一種の環境の変化ですよね。

自分を取り巻く環境が大きく変わったとき、これまでのスキルが通用しなくなるケースも多いはず。ではそんなとき、一体どうすれば新天地で活躍できるようになるのでしょうか?

そんな問いへの答えを求めてインタビューしたのは、デンマークでアパレルショップのオーナーとして働く日本人、宇佐見 純子さん。

デンマーク
宇佐見 純子さん
1988年埼玉県生まれ。オーストラリア留学を機に更にさまざまな文化や語学に興味を持つ。アメリカンアパレルにて勤務、店長を経験した後、デンマーク・コペンハーゲンに移住。ワーキングホリデーをしながら語学を取得、同時にアパレル店で働き、デンマークの文化に触れる。その後、デンマーク人のパートナーと結婚。2017年に独立し、レディースコンセプトショップ『ノアブロ』をオープン。2019年メンズコンセプトショップ『OTOKO』をオープン。現在、2店舗のオーナーを務める。取り扱いブランド: Carne Bollente, Soulland, the Virgins, Maria Black等。 インスタグラム: @noaburo @otokocph ノアブロの公式HP:www.noaburo.dk

日本のアパレルショップで店長として働いていた宇佐見さんは、2012年にデンマークへ移住し、現地で国際結婚。その後、2017年に自分の店を持つ夢を叶え、現在は2店舗のオーナーを務めています。

言葉も文化も異なる新しい環境での挑戦には、戸惑いや課題も多かったはず。彼女が自分にとってアウェイの土地で、夢を叶えられたのはなぜだったのか。現地で実戦したこと、それによって起きたマインドの変化について聞ききました。

グローバルな環境で働きたい。夢を叶えるための移住

デンマーク
コペンハーゲンの有名観光スポット「ニューハウン」

--宇佐見さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

私は高校卒業後、語学力を生かした国際的な仕事をしたいという思いから通訳のスキルを学ぶ専門学校に進学、1年語学を学んだ後、在学中に経験したオーストラリアでのホームステイをキッカケに退学し、ワーキングホリデー制度を使ってデンマークへ移住する道を選びました。

デンマークを選んだのは、当時、恋人だったデンマーク人の夫が住んでいたからです。元々はオーストラリアに行こうと思っていたのですが、デンマークに縁があったんでしょうね。

ワーキングホリデー時代は、アパレル店で働きながらデンマーク語のスキルを身に付け、2017年、28歳のときに独立してレディースコンセプトショップ『ノアブロ』をコペンハーゲンにオープンしました。

さらに2019年には、メンズコンセプトショップ『OTOKO』も立ち上げ、現在2店舗のオーナーとして働いています。

デンマーク
宇佐見さんがオーナーを務める「ノアブロ」の外観

--かなりアグレッシブに働く環境を変えられてきたんですね。現在、経営している2店舗では、どのようなお仕事をされているのでしょうか?

ショップを運営するために必要なすべての業務に携わっています。バイヤー、服のデザイン、PR、スタッフマネジメント、店舗での接客が主な業務です。洋服の買い付けのために韓国や日本に出向くこともあります。

私がオーナーとして取り仕切っているのですが、一人では手が回らないときや重要なシーンでは夫も手伝ってくれ、二人でアイデアを出しながら経営しています。

昔から自分のお店を持つことが夢だったので、仕事はとても楽しいですし、ようやく第一段階の目標をクリアできたかな、という感じです。

--語学を生かした仕事は多数ある中で、宇佐見さんが「アパレル」にこだわり続けるのは、なぜですか?

幼い頃から洋服が大好きで、ファッションが人に与える影響にすごく興味があって。洋服やアクセサリーを変えると、イメージや気分がガラッと変わりますよね。

また、接客や洋服のプロデュースを通して、お客さまのファッションだけでなく、ライフスタイルにも好影響を与えられることをとても魅力に感じていて、アパレル業界で働く道を選んできました。

移住してぶつかった“自分のスキルが通じない”問題

--ワーキングホリデーでデンマークに移住した時、宇佐見さんを取り巻く環境が大きく変わったと思います。現地のアパレル店で働き始めた時、ぶつかった壁はありましたか?

どんな場面でも、誰に対しても、自分の意見をしっかり伝えなければならないことは最初の戸惑いでした。デンマークではあまり上下関係の概念がなく、上司に対しても率直に意見を言う文化が根付いています。例え、それが反対意見だったとしても、です。

以前の職場もインターナショナルな環境ではありましたが、ここまで意見を聞かれることはなかったし、どちらかというと協調性が求められました。

でも、こちらでは「私はこう思う」と自分の言葉で言えないとダメ。ミーティングなどの場で発言しないと、評価されません。でも、その分、アイデアを採用してもらえるチャンスも多いです。

今でこそデンマークのこの文化が心地よく感じられるようになりましたが、最初は「意見を言わなきゃ!」と頭のスイッチを切り替えて、ミーティングに参加していました。

当時はまだ、自信を持って意見を言えるほどデンマーク語が堪能ではなかったのですが、「デンマークでは、これが当たり前なんだ」と自分を鼓舞しながら

そのうち、反対意見でもどんな意見でも、「自分の意見を言うという行為自体がポジティブに捉えられるんだ」と理解できるようになり、だんだんとナチュラルにディスカッションができるようになりました。

マイノリティな発言でも一人一人の意見が尊重され、その上で、何がもっともベストかを上司が判断する。慣れるまでは発言する勇気が求められますが、余計な気を使わずに仕事の目的達成だけを追求できるのは、非常に効率が良いなと思います。

デンマーク
デンマークへのワーキングホリデー時代に友人たちと(写真中央が宇佐見さん)

--なるほど、これまで身に付けたコミュニケーションの取り方を意識的に変えなければならなかったのですね。

それだけではなく、上司に対して自ら昇給のアピールをしなければならないことも、最初は抵抗がありました。

日本で働いていたときは、上司が日頃の私の働きぶりを見て一方的に評価してくれていましたが、こちらで昇給を望むなら、年に一度くらいの上司との懇談で、自分がどんな貢献をしたか、自ら交渉する必要があります。

「やったことがないし、どうすればいいの!?」と悩みましたが、交渉のイメージトレーニングをしながら、経験を重ねて乗り越えてきました。

でも海外での仕事に限らず、例えば転職したタイミングでも、こういった変化を求められることってありますよね。私なりの最短の解決策は、「なぜだろう」と考え込まずにまずトライしてみること。

悩むよりも、一度ぶつかってみると、そのうち免疫ができてくる。経験から得られるものは想像以上に大きかったなと思います。

--文化の違いによるさまざまな働き方の変化を求められるうえで、失敗した出来事はありましたか?

デンマークのアパレル店で働き始めたばかりの頃、頑張り方を間違えてしまったことがありました。

上司から「これできる?」と仕事を振られたとき、自分のキャパを把握せずに、すべてに「イエス」と答えてしまっていたんです。上司からの期待には応えるべきという価値観があったし、頑張ればこなせると思ったから。でも結果的に、私の仕事ばかりが滞ってしまって……。

自分が誰よりも努力すれば、周りもハッピーになると思っていたけど、そうじゃなかったんですよね。自分が確実にこなせるキャパを知って、周囲とのバランスも踏まえてイエスかノーかを判断しなければ、他の人にも迷惑が掛かるし、自分のストレスも溜まってしまう。

それに、デンマークではストレス対策にフォーカスする文化があり、ストレスが溜まらないように仕事量と労働時間のバランスを調整することが求められます。

だから、場合によってはハッキリ「できない」と言うべき。そう悟ってからは、無理なことには「ノー」と言うように意識を切り替えました。

一社員からオーナーへ。変えたのは自分自身との向き合い方

デンマーク
自身でデザインしたオリジナルコレクション『ユキノ』のトップス

--2017年に独立して、コペンハーゲンでレディースコンセプトショップをオープンされたそうですが、このタイミングで「自分の店を持つ」という夢を叶えられたのは、なぜだと思いますか?

独立にあたって一番の課題だったのは、「店のコンセプトやスタイルがデンマーク人に受け入れられるか」ということでした。

ただ、ワーキングホリデー時代も含めて、トータル4年ほどアパレル店の社員として勤務する中で、ここでできることはやりきったなと思えたこと、デンマーク人のスタッフに指示ができるぐらいデンマーク語も話せるようになり、語学に自信が付いたことが、チャレンジを後押ししてくれました。

日本をはじめとしたアジアならではのディテール、色使いにこだわったスタイルを紹介したいという思いも強くあり、挑戦せずに後悔するより、やってみようというスタンスで始めました。

--一社員からオーナーへキャリアアップし、責任ある立場に変わったことで感じた難しさはありましたか?

自分がやりたかったことが叶って、「あれもやりたい、これもやりたい」と仕事が楽しくて燃えている反面、常に頭の中がフル回転していて、仕事のことが頭から離れなくなってしまって……。

最初は一人でやっていたのですが、エネルギーが切れてくると良いパフォーマンスができないことに気付きました。

このままでは良くないと思い、スタッフを雇って意識的に週2の休日を設け、リラックスできるような場所に出掛けるようにしたところ、オンオフが切り替えられるようになり、心地よく働けるようになりました。

独立してからは、今まで以上に自分のコンディションに向き合い、いかにバランスの良い状態を保てるかどうかに気を配るようにしています。

--管理される側から管理する側になると、自分自身への向き合い方を変える必要があるのかもしれませんね。スタッフを雇うという環境の変化もあったと思いますが、マネジメントに関してはいかがですか?

デンマークでは、プロとして意識を切り替えて「職場での顔」を持つみたいな価値観が薄く、カジュアルに働くスタイルが根付いているということもあり、スタッフ一人一人の性格や働き方を尊重するようにしています。

コミュニケーションの取り方や仕事の振り方も相手に合わせて変えるようにしています。みんなの良いところが生かせるように。

ただ、一つ共通しているのは、どんなスタッフとも雑談を交わすこと。「最近どう?」と仕事のことからプライベートの他愛もないことまでオープンに話すことで、お互いがありのままでいられるかなって。

友達みたいな雰囲気だけど、言いたいことはきちんと言える関係を意識してつくっています。

どんな環境にいても“普遍的に求められるスキル”とは

デンマーク
自身でデザインしたオリジナルコレクション『メイコ』のトップス

--環境が大きく変わったとき、宇佐見さんはフラットなマインドで新しいスキルを身に付けてきたと伺いました。その一方で、どんな環境にいても生かすことができたスキルはありましたか?

日本での接客業で身に付いた、日本人らしい細やかな気遣いやサービス精神は、デンマークで働くようになってからも生かせていると感じます。

例えば、お客さまやスタッフに小さなプレゼントを渡したり、お客さまの顔や名前を覚えて「以前は、これを購入されましたよね」と話し掛けたり。相手の立場に立って、どうしたら喜んでもらえるかなと考えて実行することは、どんな環境にいてもきっと役に立つスキルだと思います。

--デンマークで働くようになってからは、どのようにサービス精神を磨いてきたのでしょうか?

デンマーク人のスタッフやインターナショナルなお客さまなど、異なる文化的背景を持つ人たちと接する中で、日本人とはまた違った彼らの良い部分を吸収するようにしています。

例えば、デンマーク人はフレンドリーで楽観的なところが、すごく魅力的なんです。どんなお客さまにも満足してもらうために、海外文化から見習った良い部分と日本らしい温かみのあるおもてなしを掛け合わせて、バランスの良いサービスを心がけています。

--さまざまな経験を経てきた宇佐見さんが思う「自分らしい働き方」とは何でしょうか?

プロとして効率良く仕事をするのは前提ですが、取り繕うことなくありのままの自分でいられることが大事かなって。日本で働いていた時、プライベートの顔と職場の顔がまったく違う人がいて、「なぜなんだろう」と疑問だったんです。

ロボットのようにみんなが同じプロフェッショナル像を目指すのではなくて、心をオープンな状態にして、自分のパーソナリティーをそのまま生かして働くことができる環境、それが自分らしい働き方の実現につながるんじゃないかなと思います。

--これから宇佐見さんがトライしたいことやビジョンはありますか?

大きく二つあり、まずは経営しているブランドのオリジナルコレクションを増やしていくこと。これまでに、『メイコ』と『ユキノ』という二つのオリジナルコレクションを制作したのですが、メイコは母、ユキノは祖母の名前なんです。

それぞれ性格や名前からインスピレーションを受けて、洋服を制作しました。売るたびに、遠くに住む母や祖母を思い出しています(笑)

そして、もう一つは、運営するショップを通じて日本との関係を築くこと。例えば、ポップアップショップを開いたり、日本向けにイベントを開催したりするのもおもしろそうだし、考えるだけでワクワクします。それが今の夢なんです。

フリーライター/広報PR 小林香織

【この記事を書いた人】
フリーライター/広報PR 小林香織

1981年、埼玉県生まれ。高校を卒業後、エンタメ業界に就職し、約10年制作進行を務める。その後、「編集・ライター養成講座」に通い、33歳でライターデビュー。2016年にフリーランスライターへ転身、「働き方・旅・ライフスタイル・IT」などの分野で800以上の記事を執筆。2017年から「旅と仕事を両立するライフスタイル」を開始、これまでに14カ国を訪問。東南アジアでの短期移住を経て、2020年からデンマークに本格移住。海外フルリモートワーカーとして現地取材を含めた執筆や企業のPRサポートを担当。「カフェ」「旅」「テクノロジー」が好き
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取材・文/小林香織

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