ママ運転士が活躍している横浜市交通局に潜入したら、運転士の働き方のイメージが激変した
女性運転士が増加傾向にある鉄道業界。中でも多くの“ママ運転士”が活躍している職場がある。
横浜市が運営する地方公営企業で、市営バスと市営地下鉄の運行を担う「横浜市交通局」だ。
まだ子どもが小さいママ運転士もいれば、3人の子どもを育てながら駅長に昇任した女性もいる。
「育児と両立する人はとても増えています。決して無理をしているのではなく、この仕事だからこそ両立できているなと思います」
そう話すのは、現在6歳の子どもを育てる山下千奈さん(仮名)。
シフト制で不規則な働き方のイメージも強い地下鉄運転士の仕事だが、本当に両立しやすいのか……?
ということで、山下さんの一日に密着してみたところ、子育て中の女性たちが仕事と育児を両立できる理由が見えてきた。
地下鉄運輸職員(助役)
山下千奈さん(仮名)
新卒で飲食業に就いた後、民間鉄道会社で定期券販売窓口のアルバイトに転身。その後、2013年に横浜市交通局に入局。駅務員を経て、16年に運転士に。20年に出産し、21年に短時間勤務で運転士として復職。22年よりフルタイムに切り替え、26年に助役(管理職補助)に昇任
先輩ママがつくってくれた「日勤・時短勤務・土日休み」での両立の道
まず、山下さんが横浜市交通局で働きたいと思った理由から教えてください。
学生時代から鉄道が好きで、前職も鉄道会社で働いていました。次第に「公共性の高い公営の機関で働いてみたい」という思いが強くなり、横浜市交通局に転職しました。
もともと好きな業界だったんですね。転職した時から運転士を目指していたのでしょうか。
最初は、明確に目指していたわけではなくて。横浜市交通局に入局後、駅務員として働く中で、徐々に運転士に挑戦したい気持ちが強まっていった感じですね。
山下さんは2020年に出産されていますが、入局した当時は産休・育休を取得して働き続けることは想定していましたか?
当時は、結婚や出産のことはあまり深く考えていませんでした。仕事が楽しかったので、「この仕事をずっと続けたいな」と漠然と思っていた程度で。
ただ、いざ産休・育休を取得するとなった時は、不安でいっぱいでした。
運転士は、土日関係なく何十通りと勤務パターンがあり、早朝からの勤務や泊まりの勤務などさまざまです。
加えて、穴を空けられない仕事なので、「子どもが突然体調を崩した時はどうしよう?」という不安もあって。
たしかに、働き方が不規則だったり、急なお休みを取りにくいイメージはあるかもしれません。
そうですよね。でも、不安に思っていたことを当時の上司に相談したところ、日勤での勤務を提案してくださったんです。
また、時短勤務、土日休みで復職する道をつくってくれていた先輩ママもいらっしゃったので、まずは「日勤・時短勤務・土日休み」で復職することができました。
一年ほどこの時短勤務を続け、現在はフルタイムの日勤に切り替えています。
先例があったのは大きな安心要素ですね。
はい。先に時短勤務をされていた方は、パイオニアとして苦労も多かったと聞いています。道を切り開いてくださったことには本当に感謝しかありません。
お子さまの体調不良で急に穴を空けてしまうかも……という不安はどのように払拭したのでしょうか?
突然休まざるを得なくなった時のために、待機の職員が控えていて、代わりに業務に入ってくださる体制があるので、運行に穴を開けてしまうことはありませんでした。
それは安心……!
ただ、いざ保育園に入ってみると、想像していた以上に頻繁に体調を崩していて……。1週間フルで出勤することさえ難しい時期もありましたね。
あんまり頻繁に休んでしまうと職場に申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、「お互いさまだよ!」って言ってくださる仲間ばかりで本当に救われました。
いっしょに働く仲間たちにも恵まれたんですね。職場に理解があるのは、お子さんのいらっしゃる職員が多いからなのでしょうか?
以前は今ほど多くはありませんでしたが、最近はすごく増えています。
育児と両立しながら運転士として働き続ける女性はもちろん、3人のお子さんを育てながら駅長に昇任している女性もいます。
また、男性職員もお子さんがいらっしゃる方が多いので、職場全体で育児中の職員を温かく支える風土が根づいているように思います。
男性職員の理解も深いんですね。
そうですね。男性職員でも、お子さんの看護のためにお休みを取る人も多いですし、独身の若い人たちも休暇を取りやすい風土が醸成されています。
皆が休みやすい風土だと、ママたちが休む時の申し訳なさも軽減されそうですね。
ママ運転士の一日に密着
お話を聞いて、想像していたよりもずっと育児と両立しやすそうだなと感じました。より具体的にイメージするために、ママ運転士がどのような一日を過ごしているのかを教えてください!
私は今年から助役に昇任しているので事務作業が多いのですが、運転士だった時の私の一日の流れをご紹介しますね。
【山下さんの一日(日勤フルタイム 8:30~17:15勤務)】
■7:30 子どもと一緒に出発。保育園へ向かいます。
■8:00 出勤。制服に着替え、乗務の準備を始めます。
■8:30 点呼。アルコール検査や体調の確認などを行います。
■8:40 乗務開始。適宜休憩を取りながらお昼まで乗務します。
■12:00 お昼休憩。休憩スペースで同僚たちとおしゃべりをしながらリフレッシュ。
■13:00 午後の乗務開始。
■17:15 退勤後、保育園へお迎え。18:30頃から家族とご飯。
■21:00 子どもの寝かしつけ。その後、家事や翌日の準備を済ませて、23:00頃に就寝。今日もお疲れさまでした!
働くママは「申し訳ない存在」ではなく「希望を与える存在」
一日の過ごし方は、他の仕事に就くワーママたちと変わらないですね。
日勤だと、大きな違いはないと思いますよ。職種のイメージだけで、「やってみたいけれど育児と両立できなさそうだから……」と最初から諦めてしまわずに、チャレンジしてみてほしいですね。
今年で、働くママとして5年目になると思いますが、育児をしながらやりたい仕事も続けていく秘訣があれば、教えてください。
私はどうしても「周囲に迷惑を掛けてはいけない」「同僚に申し訳ない」という気持ちがぬぐえなくて、精神的につらくなってしまった時期もあったのですが、今は「私が前例をつくることは、後輩たちのためになる」と考えられるようになりました。
私自身、先輩ママたちが時短勤務の前例をつくってくれたからこそ、今こうやって大好きな仕事を続けられています。
実は、横浜市交通局においてフルタイムの日勤で働くママ運転士は、私が初めてなんです。後に続く人たちが安心して働ける環境をつくっていけたらいいなと、今はポジティブに考えています。
働くママたちがいきいきと働く様子が若い人たちに希望を与えて、新しいロールモデルを生んでいく。すてきな連鎖ですね。
本当に。3人のお子さんがいる駅長もいるとお話ししましたが、彼女の存在は、「時短勤務をしても責任ある立場を目指せるんだ」という希望を与えてくれたなと思っています。
横浜市交通局のような、ママになってもいきいきと働ける職場を見極めるには、どのような点に注目するといいと思いますか?
制度を整えている企業は増えていると思うので、実際にその制度を活用している先輩がいるかどうかを確認するといいのではないでしょうか。
あとは自分の目で職場の雰囲気を見てみると良いと思います。横浜市交通局では職場見学会なども実施してますよ。
実際に会社の風土を感じ取ってみるのは大事かもしれませんね。山下さんは今後、どんな働き方をしていきたいですか?
世代を問わず、誰もが安心して働ける職場環境をつくっていきたいです。
職員が心穏やかに仕事に集中できることが、お客さまの安全を守ることにも直結しますから。
この目標を実現するために、管理職など責任ある立場にも挑戦していきたいですね。
取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/竹井俊晴


