46歳で未経験業界へ転職「人の創造性を解き放ち、若い人が明るい未来を描ける社会をつくりたい」【アドビ・秋田夏実さん】
人生100年時代。年齢や常識に縛られず、チャレンジを続ける先輩女性たちの姿から、自分らしく働き続ける秘訣を学ぼう
「30歳を過ぎたら、異業種への転職は難しい」。そんな言葉に縛られて、新たな一歩が踏み出せない人も多いのではないだろうか。
「失敗しても大丈夫。勇気を持って跳んでみて」と語るのは、46歳で未経験の業界へキャリアチェンジした秋田夏実さん。

約20年間働いた金融業界から、『Adobe Photoshop』や『Adobe Acrobat DC』などのクリエイター向けソフトやドキュメントソリューションを提供するアドビに転職を果たした。
しかも、当時は3人目のお子さんの出産直後だったというから驚きだ。
傍から見ると順風満帆な秋田さんのキャリアだが、苦手な英語の克服に奮闘したり、仕事と家庭の両立に悩んだりと、決して楽なことばかりではなかったという。
そんな秋田さんに、キャリアの壁にぶつかったときの乗り越え方や、長く仕事を続けていくために20代のうちからできることを聞いた。
20年働いた金融業界から、未経験で飛び込んだIT業界
新卒から約20年間、主に外資系金融機関で働いてきましたが、2017年、3人目の子どもを出産した翌年に、アドビに転職しました。
ヘッドハンター経由で連絡をいただいたのですが、初めは「私には務まらないと思います」とお答えしたのです。転職は何度か経験がありますが、40代後半で、3人の子どもを育てながら未経験のIT業界に転職するのは、チャレンジング過ぎると思いました。
それでも「お話を聞いてみようかな」と思ったのは、約20年前からユーザーとしてアドビ製品を使っていて、アドビのファンだったから。
マーケターとして、自分が本当に好きな製品に関わることができるのは、最大の喜びの一つ。せっかくいただいたチャンスですし、人生は一度しかないし、ここで思い切って進まなければもったいないと感じたのです。
いざアドビに入社して驚いたのは、肩書きや年齢に関係なく、誰に対しても自由闊達にものが言えるカルチャーがあったことです。
以前働いていた外資系金融機関にはエスタブリッシュ(社会的に確立した体制がある)な東海岸的カルチャーがありましたが、アドビの雰囲気は対照的。
オープンな西海岸的カルチャーが新鮮に感じられました。社員がみんな自社製品を愛していて、会社への誇りを持っているところも素敵だなと感じています。

アドビ本社
グローバル企業での転職は何度か経験していますが、どこに行っても、入社直後に苦労するのは会社特有の略語です。今回は特に、違う業界への転職だったので、みんなが当たり前に使っている用語が分かりませんでした。
そんなときに私が心掛けているのは、「分からないので教えてください」とちゃんと質問すること。
年齢やキャリアがある程度あると「分からない」と言うことが恥ずかしく思えるかもしれませんが、社歴の長い人の中にも「実は私も知りたかった」という人がいるものです。
臆さずに質問すれば、親切に教えてもらえますし、声を上げることをためらっている周りの人のためにもなりますよ。
Leap Before You Look!
20代は困難を乗り越えるパワーがある時期
長い間、外資系企業で働いてきた私ですが、実はもともと英語が苦手でした。新卒の時に受験したTOEICの点数は600点くらいだったのです。聞き取りができないし、しゃべれない。
「このままではだめだ!」と一念発起して、MBA取得のためにアメリカへの留学に挑戦することを決めました。
毎日仕事が終わってから塾に通い、帰宅して家事をこなしたら、また深夜に勉強する日々。「こんなにつらい思いをして勉強しても合格しないかもしれないのに、私は何をやっているのだろう?」と自問自答したこともあります。
ケロッグ経営大学院(MBA)に合格して留学してからも、今度は講義で教授の言っていることが理解できませんでした。突然指名されて「あなたの意見は?」と聞かれ、寿命が縮むような思いをしたことも何度もあります。
今もう一度当時と同じような努力をするのは難しいかもしれませんが、20代の頃であれば、大変なことも何とか乗り越えるパワーがあるのですよね。
人生100年といわれる時代、20代は人生の基礎をつくる時期です。新しい可能性の扉がどんどん開く年代ですから、小さくまとまる必要はないと思います。
私は「Leap Before You Look(見る前に跳べ)」という言葉が好きなのです。「あれこれ考える前に、勇気をもって挑戦してみよう」という意味です。
「完璧でありたい」「失敗したくない」という気持ちが強い女性は多いと思いますが、生きてさえいれば、少々の失敗はいくらでも取り戻せます。完璧じゃなくても、不完全でもいいと思うのです。
自分の可能性を信じなければ、羽ばたくことはできません。

40代になってから空手にチャレンジ
目の前に「安全な道」と「チャレンジングな道」があったら、つい安全な道を選びたくなります。でも、思い切ってチャレンジングな道を選んだら、そこから成長することができますし、新しいやり方に出会えるかもしれません。
自分一人で決断するのが難しいときには、メンターのような存在に相談するのもおすすめです。
私自身も留学を決めた時、大先輩に「外の世界を見てこい」と背中を押してもらいましたし、折に触れて自分より人生経験が豊富な方のアドバイスを仰ぐようにしてきました。
一緒に仕事をしている方でもいいでしょうし、社外の尊敬できる方でもいいと思います。客観的な視点から、自分が見落としている部分に気付かせてもらえることが少なくありません。
マイルストーンを持ち、誠実に、あえてボールを拾う
チャンスを引き寄せ、長く働き続けるために、20代の頃からできることはいろいろあります。
一つは、「5年後、10年後はこうありたい」というマイルストーンを持つこと。
漠然としていても、達成できなくても構いません。目的地を決めることで、その場所へ行くために必要なことが明確になり、今、何をするべきかが見えてきます。
二つ目に、縁あって一緒に仕事をしている人との関係性を大切に、誠実に働くことです。
長く働き続けていると、巡り巡ってまた別の場所で仕事をするとき、上司と部下、発注者と受注者の関係が逆転することも珍しくありません。常に相手の立場への配慮を持って、誠実に接することが大切です。
三つ目は、「私の仕事ではありません」という言葉をできるだけ言わないこと。
明確に分担が決まっていない仕事のボールが落ちてきたときに、「ボールの存在には気付いているけれど、私の担当ではないのでボールは拾いません」という態度をとってしまうと、チャンスを逃すことになります。
自分からボールを拾いに行くと仕事が増えますし、失敗してしまったら「やらなければよかった」と思うかもしれません。でも、ボールを拾って新たな仕事に挑戦することは、経験値を上げること、自分の得意技を増やすことにつながります。
率先して仕事に取り組む姿勢を周りはちゃんと見ていますから、信用にもつながります。効率が悪く思えるかもしれませんが、やって損はないと思いますよ。
「私って無敵!」状態は、心と体を整えることでつくられる
私が20代の頃は、現在のように女性が働き続けることが一般的ではありませんでした。
「教育しても、女はどうせ家庭に入って辞めてしまう。そんな奴を育てるほど暇じゃない」など、若い女性だからという理由で心ないことを言われた経験もたくさんあります。
もちろん傷付きましたが、ネガティブな言葉に振り回されて本来の力を発揮できないのはもったいないこと。
今になって振り返ると、ネガティブな言葉をかけてくる人たちを見返したいという思いがエネルギーになっていた部分がありますし、「自分がこんな言葉を口にする上司になってはいけない」と彼らを反面教師にして学ぶことができたと思っています。
ただ、心身の元気がないときに心ない言葉を投げ付けられると、落ち込んでしまうこともあります。いい仕事をするためにも、悪意のある言葉に負けないためにも、普段から自分の心と体を整えることが大切です。
私の場合、アドビの本社がアメリカにあり、時差の関係で早朝ミーティングが入ることもあり、朝は早起きを習慣にしています。
ひと仕事した後、朝日を浴びながらランニングするのが日課なのですが、体を動かすと、頭の中でぐるぐる考えていたことも「まあ、いいか」と思えるようになります。
ちなみに今は、ホームベーカリーでパンを焼くことにもはまっています。就寝前に、小麦粉やドライイーストなどの材料をセットして、スイッチを入れておくのです。
朝目覚めたときに、焼きたてのパンの香りが家じゅうに漂っていると、本当に幸せな気持ちになりますよ。

ホームベーカリーで焼いた自作のパン
新鮮な野菜など、自分が元気になる食材を食事に取り入れて、内側からキレイになっていることを実感したり、運動してプロテインを飲んで筋肉をつけ、プロポーションを整えるのも自信につながります。
食べ物や運動、生活リズムなどを工夫して、自分に合った方法で心と体を整えることを習慣にすれば、きっと自然に「今日も大丈夫」「私って無敵!」と思えてくるはずです。
人のクリエイティビティを解き放ち、明るい未来をつくりたい
新型コロナウイルスの影響もあり、「これからの日本はどうなってしまうのだろう」と不安に感じている人が多いのではないでしょうか。人口が減少し、国際的な競争力も低下して、日本が繁栄していく未来が見出しにくいかもしれません。
そんな状況ですが、若い人たちがもっと明るい未来を描ける社会を実現することが、私のこれからのテーマです。
未来像を塗り替えることができるのは、人が持っている創造性、クリエイティビティの力だと考えています。クリエイターでなくとも、誰もが自分の中にさまざまなアイデアを持っている。
ただ、せっかくアイデアがあっても、形にすることができなければ、相手には伝わりません。
アドビには、人のクリエイティビティを自由に解き放つためのソリューションがあります。これらのツールをもっとたくさんの人がうまく活用できるよう、サポートしていきたい。
そうやって全ての人がクリエイティブになり、世の中をより良い方向に動かすことができたら、日本の未来はもっと明るくなるはずです。
【Profile】
アドビ バイスプレジデント
秋田夏実さん
東京大学経済学部卒業。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院卒業(MBA)。マスターカード日本地区副社長、シティバンク銀行デジタルソリューション部長などの要職を歴任。2017年4月に金融業界を離れ、アドビに入社。18年より現職。現在はマーケティング本部のVice Presidentとして、アドビのクラウドサービスのマーケティング、デマンドジェネレーション、広報・ソーシャルメディア、ブランディングを含むコミュニケーション戦略といった日本でのマーケティング活動のすべてを統括。夫と共に3人の子ども(2男1女)を育てながら日々奮闘
取材・文/高橋実帆子 編集/天野夏海 写真/ご本人提供
『教えて、先輩!』の過去記事一覧はこちら
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