19
OCT/2020

ポストコロナ時代を生き抜く鍵は“健全な絶望感”「自分のピュアな気持ちに耳を傾けて」/『Project MINT』植山智恵

革新的教育機関として、世界で注目を集めるアメリカのミネルバ大学。合格率わずか1.2%の超難関校である同大学の社会人向け大学院プログラムを修了した唯一の日本人が、植山智恵さんだ。

ProjectMINT植山

植山さんは新卒入社したソニーで8年勤めたのち、アメリカ・サンフランシスコに渡った。30代での学び直しを経て、帰国後に立ち上げたのが、自己革新したい大人のための短期集中プログラム『Project MINT』だ。

『Project MINT』は、社会人に向けた教育プログラム。ただインプットをするだけの場ではなく、自分が解決したい問題に対してアイデアを考え、副業やパラレルワークを通してと自分のミッションへ向け第一歩を踏み出す行動に移すところまで伴走し、自己革新を後押しする。

その中で重視されているのが、「ビジョンの言語化」だ。

ビジョンは誰にでも絶対にある」とハッキリ語る植山さん。なぜ今ビジョンが重要なのか、その理由を聞いていくと、不透明な時代をハッピーに生きるヒントが見えてきた。

ビジョンをつくったのは、自分を見失った中学時代の原体験

私は2017年からの2年間、アメリカのミネルバ大学大学院で社会問題を幅広く見てきました。その中で抱いた問題意識の一つが、「なぜ大人は学び続けられなくなってしまうのか」ということ。

その原因の一つが、日本のシステムです。給料や立場など、世の中の評価に左右されてしまって、「自分が学びたい」という内側からの欲求に素直になれない構造があるように思いました。

あとは、年齢のステレオタイプの問題。

日本とアメリカの年齢ステレオタイプの度合いを比較したら、日本は顕著に高かったんです。年齢が低い人に対してクリエーティビティーが低いとか、仕事ができないといったジャッジをしてしまいやすい傾向にあります。

そういった問題を何とかしたいという思いに、離婚というパーソナルな変化もあって、「人生で何がしたいのか」を考えるようになりました。

そうしてたどり着いたビジョンが、「一人一人の個性を発揮する世界をつくりたい」というもの。一人一人が持っているクリエーティビティーを引き出し、それによって世界がどう変わるのかを見てみたいんです。

私がこのビジョンを言語化できたのは、つい最近のこと。『Project MINT』の教育プログラムを通じていろいろな人のサポートをしていく中で、最終的には自分の原体験に行き着きました。

ProjectMINT植山

それは、自分を見失うような感覚に陥った、中学時代の体験。

私は元気な子どもだったのですが、中学校に入ると同級生は静かに過ごすようになって。それを見て、私は個性を消さなければいけないと思ってしまったんです。陰湿ないじめにもあい、登校拒否になってしまいました。

その時にすごくショックだったのが、「学校に行きなさい」と両親から怒られたこと。両親は学校の先生だったので、娘が登校拒否をしていることに対し、世間的に恥ずかしいと感じていました。

全然違う環境に行こうと考え、高校では1年間、オーストラリアに留学をしました。のびのびと暮らせて、これからは自分らしくやっていこうとも思ったんですけど、徐々に世の中の評価軸に合わせた方が楽だと思うようになってしまって。

それから当時の夫がアメリカに転勤になったことを機に会社を辞め、サンフランシスコに渡るまで、個性を発揮することに憧れを持ちつつも、日本のメインストリームのシステムをクリアしていくことのラクさに流されてしまっていました。

ビジョンは誰もが絶対に持っている。今はまだ見えていないだけ

世の中はすさまじいスピードで変化をしていますが、コアとなるビジョンは、自分の進むべき道を示すコンパスになります。

それがあれば、成し遂げたいミッションに向けて新しいことを学び、時には正しいと思っていたことを捨て、柔軟に変化し続けられる。

ProjectMINT植山

ビジョンは「こういう世界をつくりたい」という、自分以上に大きな、普遍的なものです。そして「こういう世界を実現させたい」というのは、人間が本来持っているクリエーティビティーの塊だと思っています。

「ビジョンなんてない」と思っている人は多いですが、ビジョンは誰もが絶対に持っています。学校や会社で「あなたはどんな世界をつくりたいのか」と問われることなく、トレーニングをしてこなかったから見えていないだけ。

そもそも私たちは「組織の在り方に合わせなさい」と言われてきたから、ビジョンを持つ発想自体がないんですよ。自分の夢を語ったりしたら、「馬鹿じゃないの」って言われる空気があるのもよく分かります。

でも、この先は逆です。これから長く幸せに働いていくためには、ビジョンというコンパスを持って、パーパス(目的)ドリブンの意思決定をしていくことが重要です。

ビジョンがあると、意思決定はすごくシンプルになります。

「コロナ禍だから」ではなく、「私がこうしたい」という、内側から出てくるミッションに基づいた意思決定をして道をひらいていく。そうすると、共感し、協力してくれる人が自然と集まります。

ところが、現実は「恐れ」を起点に意思決定をしてしまっている人が多いもの。

私たちは外からの評価を気にしやすい環境で生まれ育っています。だから、自分のやりたいことも、もしかしたら「世間から評価されるからやりたい」と混同してしまっていることもあるかもしれません。

だからこそ、自分のやりたいことがどこからきているのか、見極めてください。

ProjectMINT植山
『Project MINT』のプログラム概要を説明する植山さん

例えば「良い生活を送りたい」を突き詰めていった先にあるのは、「社会から取り残されたくない」「他人の目が気になる」といった外からの評価かもしれない。

それって自分起点ではなく、他者起点なんですよ。恐れから逃れるための意思決定をしてしまっている。

ミレニアル世代は「目的をもってキャリアを築きたい」と考える人が多い傾向にありますが、「目的を持たなければ」「意義のあることをしなければ」と疲れてしまっているのであれば、それは相手の期待に応えようとする「恐れ」が起点になっているのかもしれません。

大切なのは、自分に正直になること。恐れもあっていいんですよ。「もっとピュアな気持ちでやりたいと思えることじゃなければ」という、「こうでなければ」の考え方自体が恐れですしね。

ただし、ネガティブな気持ちもちゃんと見つめること。そして、恐れ100%にならないこと。願いを全く持たずして、恐れが100%になってしまうと、「あなたの人生は世の中の恐れによって生かされている」ことになってしまいます。

原体験と感情をたどった先に、ハッと自分の願いに気付く瞬間がある

ビジョンが言語化できている人は、私の体感では1割も世の中にいないんじゃないかなと思います。たとえ起業家であっても、恐れ起点で起業している人は少なくありません。それだけビジョンを言語化するのは難しいことです。

ただ、働き方改革や副業が盛んになりつつある今、ビジョンを仕事に体現しようとする流れが生じています。

これまでは「恐れ起点」で会社に尽くさなければいけない時代だったかもしれないけれど、これからは会社の外で自分を表現することも可能です。

また、社会でマイノリティーとして生きている女性は、メインストリームにいる男性よりもビジョンに向き合いやすい立場にいるとも思います。何も考えずに働いていても流れに乗れるということ自体が、現状ではそもそも少ないですから。

ProjectMINT植山
世界中の社会起業家が集まったペンシルバニア大学主催のグローバルアクセルレータープログラムにて

自分の内にあるビジョンをクリアにするためには、自分の過去を見つめる作業が必要です。過去にさかのぼり、好き嫌いや価値観を紐解き、言語化をしていくことで、だんだんとビジョンは見えてきます。

特に意識してほしいのが、感情です。日常の感情を気に留め、「どうしてあの時にこう思ったんだろう」と突き止めていくと、過去にヒントが見つかります。

中でも、目を向けたくない過去や、毛嫌いしている経験がビジョンの根源になることは多いもの。

人間は誰しも向き合いたくない過去の体験から避けるための意思決定をするので、そこに向き合わず、社会に適合する方が楽ではあります。でも、自分の根っことなる原体験を紐解くことで、ハッと自分の願いに気づく瞬間があるはず。

また、何か解決したい問題があるのであれば、なぜそれを解決したいと思うのか、理解を深めてみてください。そうすると、実は自分が当事者であるパターンも多いんですよ。私も教育プログラムの事業をやるのは、自分のためでもありますしね。

他に、直感的な感覚も大切です。「この感覚が好き」「何だか怒りを感じる」など、心が動く瞬間に注目してみてください。

世の中で影響力のある人が何を言っているのかを知り、どういう意見に自分の心が動くのかを探るのもおすすめです。その感情の根源には、きっとあなたのビジョンがあると思います。

「大人は変わらない」なんて嘘。誰でも絶対に変われる

私たちはつい年齢を言い訳に使ってしまいますけど、これからは年齢が関係ない世の中になっていきます。何歳になっても学び続けなければいけないし、コンフォートゾーンを超えていかなければいけない。

自分のビジョンを理解して、それに向けて動くことの重要性は、何歳であろうと同じです。「若いうちにいろいろな経験をしよう」「若者は苦労を買って出ろ」といった考え方に違和感を私は持ちます。

そして、大人は変わらないと言われますけど、私は「年齢に関係なく、誰でも絶対に変われる」と確信しているんです。

3月に行った『Project MINT』のプロトタイプ版に参加してくれた最年長は、50代の男性。彼は大手企業の人事として働いていて、将来的には独立して社会人教育やコーチングをやろうと考えていました。

ただ、彼の過去を紐解いてたどり着いたのは「子どもの笑顔を大切にしたい」だったんです。お金儲けのための教育ではなく、次世代の子どもたちがハッピーでいられるための教育。同じ教育でも、全くの別物ですよね。

彼は現在、子どもの教育をテーマにした企業で複業をしていますが、変わる動機になるのがまさしくビジョンです。そしてビジョンに目覚めた時の伸びしろは、むしろ大人の方が大きい。

ProjectMINT植山
未来の働き方について語るパーソルキャリア、ベンチャーカフェ主催の「脱・働く セッション」イベントに登壇

「変わりたい」という気持ち自体は、誰しもが持っているものだと思います。そして、人はいつでも変わることができる。では、実際に変われる人とそうでない人は何が違うのでしょう?

それは「自分で責任を持って意思決定をしていくんだ」という心構えなのではと私は思っています。

変わるのは自分ですから、自発的に行動を起こすのが第一歩。まずは「この会社に入れば」「この人と付き合っていれば」といった、外部への依存から脱却する必要があります。

つまり「これからの人生は一人だ」という、健全な絶望感を持つこと。不確実な時代だからこそ、他者に頼ってはいけないのだと思います。

特に女性は「男性に養ってもらう」という、ステレオタイプが少なからずあります。でも、今は男性すら不安定なわけで、どう養ってもらうんですか? って話ですよね。

あなたは社会を構成する一員であり、あなたの問題解決のアプローチが世の中への貢献につながる。

それを理解し、多様性の一部として、あなたなりの「こういう世界をつくりたい」というビジョンを持って突き進むこと。それが世の中を良くすることであり、自分自身の糧にもなるはずです。

繰り返しますが、ビジョンは誰もが必ず持っています。ですから、まずは「ビジョンはある」と信じてください。「ビジョンがない」のではなく、「これからビジョンをつくっていく」という考え方を持って、自分に向き合ってください。

ProjectMINT植山
<Profile> 株式会社Project MINT 代表取締役社長 植山智恵さん
埼玉県生まれ。津田塾大学卒業後、ソニーに入社。2015年に渡米し、サンフランシスコで、ソニーの新規教育系スタートアップで米国市場進出、教育テクノロジー事情の調査に従事。同社を退職し、米ミネルバ大学大学院に入学。19年、ミネルバ大学大学院修士課程を修了(Master of Science in Decision Analysis専攻)し、日本に帰国。同年、Project MINTを立上げる。EdTechWomen Tokyoファウンダー。Forbes Japanオフィシャルコラムニストで主に次世代の学び方について記事執筆

Project MINT (現在1月度から始まる第2期プログラム受講生を募集中
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