14 MAY/2021

卵子凍結をした女性二人の体験談「キャリアも出産も、何一つ諦めなくていい」

私と仕事のいい関係

女性がキャリアを考える上で避けては通れない、出産の問題。そんな中、気になるのが「卵子凍結」という選択肢だ。

2014年にFacebookが卵子凍結の費用を福利厚生でサポートをすると発表し、日本でも今月からメルカリが卵子凍結支援制度を試験導入した。

耳にする機会が増えつつある卵子凍結だが、経験者に話を聞く機会はそれほど多くない。実際のところ、卵子を保存することは、仕事を頑張りたい女性に何をもたらすのか。

卵子凍結を経験した二人の女性に、率直な体験談を話してもらった。

卵子凍結をした二人の女性の体験談「キャリアも出産も、何一つ諦めなくていい」

(写真左から)
for Grace株式会社
代表取締役 栗原菜緒さん

10代の頃からランジェリーの美しさに魅了され、大学卒業後にランジェリー販売に関わったのち、コンサルティング会社に転職。退職後はランジェリーデザインを学ぶためミラノへ留学。日本の職人技術にインスピレーションを得たランジェリーを考案し、2013年上海ファッションウィークにて「NAO LINGERIE」を発表。ランジェリーを通じて日本文化を世界に届けることを目指し、見た目の美しさと機能性とにこだわった日本製ランジェリーを作りつづけている。
Twitter:@naolingerie
Instagram:naolingerie

人生を祝うプロデューサー
オア明奈さん

2008年中小企業支援のコンサルティングファームに入社。経営コンサルタントとしてフランチャイズ加盟店支援と新規事業開発を担当。2015年株式会社CRAZYに参画。CRAZY WEDDINGエグゼクティブプロデューサー、法人向けお祝い事業CRAZY CELEBRATION AGENCY創業を経て、2020年に独立。現在は、人が自分の人生を肯定できる祝いの場や空間を様々な形でプロデュースしている。米ザッポス社発の企業・組織文化開発プログラム「Delivering Happiness 」コーチサルタントも務める。2021年に初の著書「人生肯定」をクラウドファンディングを通じて出版。
Twitter:@akinaorr919
Instagram:akinaorr

20代で自然と結婚・出産するものだと思っていた

――お二人は、いつ卵子凍結をされたのですか?

栗原:去年、36歳のタイミングで卵子凍結をしました。

いつか子どもが欲しい気持ちは元々あって、20代の頃はなんの疑いもなく「そのうち自然と結婚・出産をするだろう」と思い込んでいたのですが、仕事に熱中しているうちに気付けば30代に。

20代の頃から『ナオランジェリー』というランジェリーブランドを経営していることもあり、自分の事業を成長させるのが最優先。「今すぐに誰かと結婚して子どもを産んで……」と焦ることはしたくありませんでした。

そこで母の勧めもあり、卵子凍結を決意しました。

オア:私も去年、34歳で卵子凍結をしました。29歳の時に北アイルランド人のパートナーと国際結婚をしたのですが、ちょうどそのタイミングで転職。

仕事で成果を出したい時期だったこともあり、夫と話し合って5年間は子どもをつくらず、夫婦二人の時間を大切にすることにしました。

卵子凍結をした二人の女性の体験談「キャリアも出産も、何一つ諦めなくていい」

オアさんのインタビュー記事はこちら

オア:ただ、5年経った34歳の時、多忙で体調を崩してしまって。仕事をお休みして、しばらくニュージーランドで過ごすことにしました。

そこでの生活が心地よくて、いずれは移住したいと思うようになりました。

となると、考えなければいけないのがビザの問題。移住後の出産となると、時間が必要であることも想定して、あらゆる選択肢を持っておけるように、帰国後すぐに卵子凍結を決意しました。

――卵子凍結に関する情報はまだまだ少ないのが現状です。お二人はどのように情報収集をされたのですか?

栗原:とりあえずかかりつけの婦人科に行きました。そこでは卵子凍結はできなかったのですが、別の病院への紹介状を書いていただけたので、スムーズに進めましたね。

あとはTwitterも見ました。婚活アカウントみたいな感じで、卵子凍結をしている人の中には専用アカウントで体験談をツイートしている方もいるんです。

オア:私はまずは卵子凍結を経験した友人にヒアリングしました。

あとは『婦人科ラボ』という不妊治療やクリニック情報を検索できるサイトを利用しましたね。

LINEで病院選びの相談に乗ってくださったり、費用や期間がどれくらいかかるかなども教えてくれたり、とても心強かったです。

私の場合はパートナーがいるので、夫との受精卵と、自分の未受精卵のどちらも凍結をしたかったので、一度に採卵してハイブリッドでの卵子凍結を対応してくれる病院を選びました。

――卵子凍結といっても種類があるんですね。オアさんはどうして卵子と受精卵の双方を保存しようと思ったのですか?

オア:受精卵は着床する直前の段階まで培養して凍結するので、未受精で凍結した卵子を使って人工授精するよりも妊娠率が高いと言われているんです。

パートナーとの子どもを持つことを考えたら、まずは受精卵を凍結するのが先決だろうと。

一方で、人生何が起きるか分からない。今のパートナーとこの先ずっと一緒にいるとは限りませんし、私自身が病気になるかもしれない。

今後の人生の可能性を残しておくためにも、元気な卵子が採れるうちに凍結しておきたいと思ったんです。

採卵までのスケジュールも採れる数も、やってみないと分からない

――実際に卵子凍結を経験してみて、いかがでしたか? 

栗原:まずは、スケジュールのタイトさに驚きました。というのも、排卵前の1週間くらいで一気にプロセスが進むんです。

今日病院に行ったら「明日また来て」「明後日また来て」と急に言われることはザラですし、病院の待ち時間もかなり長いので、フレキシブルに対応しなくてはいけません。

私は経営者なのである程度自由がききましたが、会社員の方は大変だろうなと。不妊治療にも言えることですけど、周囲の理解や協力が必要だと感じました。

――直前まで予定が立たないのは、どうしてなのでしょう? 計画的に行うのは難しいものなのでしょうか。

栗原:卵子は通常月に一つしか育ちませんが、採卵する時はホルモン注射をして、他の卵子も成長させます。

ただ、そのホルモン注射がどれくらい効くのかは人によって異なります。どのタイミングで採取するかは医師が卵子の状態を観察して決まるので、急に「明日採取します」と言われるわけです。

――なるほど。誰にも予測できないことなんですね。

栗原 採れる卵子の数も、採ってみるまで分かりません。

私は運よく1回の採取で16個の卵子を採ることができましたが、2~3個という方もいますし、全く採れないケースもあるそうです。予定を含め、あらゆることが予測不可能でした。

オア:排卵前は1週間の細かいスケジュール表みたいなものが渡されて、「〇〇時に薬を飲む」「〇〇時にホルモン注射をする」と細かく指示が書かれているんです。

ミスするとその月の採卵はできなくなりますし、その分のお金もパーになりますから、気が気じゃありません。

――かなり神経質になってしまいそうですね。というか、ホルモン注射って自分で打つんですか……?

栗原 そうなんですよ。自分でお腹に打つんです。

――怖くありませんでしたか……?

栗原 最初はかなりビビりましたよ(笑)。自分で自分に注射を打つなんて、初めてですから。

卵子凍結をした二人の女性の体験談「キャリアも出産も、何一つ諦めなくていい」

「痛い?痛いよね....」と言いながら怖すぎてなかなか刺せない様子(栗原さんブログより)

栗原:1回目は不妊治療の経験がある友人に立ち会ってもらって、励ましてもらいながら打ちました。そのあとは徐々に慣れて、一人で打てるようになりましたね。

オア:注射を打つ自分の姿を冷静に見ると、不思議な気持ちになりますよね(笑)

私の場合はホルモン注射を打っている途中からムカムカしたり、お腹が張る感じがあったりして、つわりのような症状が続きました。

結局ホルモンの量を減らして、その月は9個の採取。6個を受精卵として、3個を卵子として凍結しました。

その後、改めてホルモン量を増やして2回目の採取を試みたのですが、今度は卵子が20個以上育ってしまって。先生と相談して、採卵手術はキャンセルしました。

実は卵子が育ち過ぎてもダメなんです。その状態で採卵すると卵巣に負担を掛け過ぎることになるし、入院も必要と言われたので断念しました。

――すごく不確実なものなんですね。加えて、気になるのはお金のこと。お二人は1回の採取でどれくらいの金額が掛かったのですか?

栗原:私の場合は前後の検査など含めると、1回の採卵で75万円ほど掛かりました。

他に凍結した卵子を保管するのにも追加でお金が必要で、私は保管する卵子の数が多かったこともあり、2年目の更新から年間30万円が必要。

私の通っている病院では1年ごとに契約更新ができ、更新すれば最長45歳まで保管してくれるそうです。

卵子凍結をした二人の女性の体験談「キャリアも出産も、何一つ諦めなくていい」

栗原さんのブログより引用

オア:私も同じくらいの金額です。私の病院では、初回の凍結期間を1~3年で選べたので、少し割安になるし、とりあえず3年凍結にしておきました。

ただ、費用は病院によって異なるので、一概には言えないんですよ。先ほど話した通り、ホルモン注射の量や回数も人によって違いますし、採れる卵子の数によっても金額が変わってきます

卵子凍結は本当にケースバイケース。それもあって、一般的な体験談が集まりにくい事情もあるのかもしれませんね。

卵子凍結は「将来の選択肢」への投資

――振り返って、お二人は卵子凍結をしたことをどう思いますか?

栗原:間違いなくやって良かったです。後悔したことは一度もないですね。

オア:同感です。私もやって本当に良かったなと思います。

――それはどうしてでしょう?

栗原:やはり一つの安心材料ができたのは大きいです。

もちろん妊娠・出産は不確実なものですし、卵子凍結をしたからといって将来確実に子どもが産めるわけではありません。期待をし過ぎてはいけないとも思います。

それでも、仕事に集中する中で「子どもを産むなら早くしなきゃ」「まずは結婚しなきゃ」という焦りが減ったのは、私にとってとても良い変化でした。

オア:まさにその通りで、将来子どもが欲しくなったときに妊娠できる可能性が高まったことは、心の余裕につながっていると感じます。

あとは私の場合、今後仮に自然妊娠したとしても、第二子が欲しい時に自然妊娠では難しい年齢になっている可能性が高いんです。そういう意味では、第二子の備えにもなっています。

――第一子がいる人にとっても、卵子凍結は選択肢になりうるわけですね。逆に、卵子凍結のマイナス面についてはどう思いますか?

オア:薬を使って人工的なことを体に施すわけですから、体力的にも精神的にも負担は掛かります。時間的にも気持ち的にも、ある程度の余裕を持っておくことは必要だと思いますね。

栗原:お金の負担も大きいですよね。ただ、お金に関しては必ずしも一人で準備しなくてもいいと思います。

将来の家族に関わる話ですから、パートナーに半分負担してもらったり、家族に一部出してもらったりと、協力を仰ぐのも一つの手です。

オア:私は、卵子凍結は「将来の選択肢」への投資だと思っています。

目の前に70万円があったとして、貯金をするのも海外旅行に行くのもいいけれど、70万円で将来の選択肢が買えるのだとしたら、その方が絶対にいい。

お金は頑張れば後からいくらでも稼げますが、卵子はどんなに頑張っても二度と若返りません。もちろん卵子凍結をしたからといって必ず妊娠できるわけではないですが、可能性は大きく異なります。

そう考えると、私にとってはやらない理由がありませんでした。

キャリアも結婚も出産も、もっと高望みをしていい

――仕事を頑張りたい女性の中には、妊娠・出産の問題に悩みや不安を抱えている人が少なくありません。そんな女性に伝えたいことはありますか?

オア 少し先輩として、特に20代の女性に伝えたいのは、これくらいの年齢で結婚して、出産して……という固定概念を壊して、自分の人生を自分でつくっていってほしいということ。

私がパートナーがいる中で卵子凍結を選んだのも、自分の人生なのだから、もっと主体的になっていいと思ってのことです。

パートナーがいてもいなくても、何も諦めないための選択肢の一つが、私にとっては卵子凍結でした。

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オア:ウェディングの仕事を長く続ける中で思うことですが、決して結婚・出産が人生のゴールではありませんよね。だからこそ「自分が主体的に生きていける選択肢をいかに増やすか」が大事だと思うんです。

そのために必要なのが、自分の体を正しく理解すること。卵子凍結までしなくとも、卵巣年齢を調べるなど、今からできることはたくさんあります。

私は31歳の時にお互いが妊娠できる体なのかを病院でパートナーと一緒に検査しましたが、体の状態を知っておくのはパートナーと共に生きていく上でも重要です。

不妊治療もそうですが、妊娠・出産は男女双方が関わること。女性だけの問題ではなく、男性ももっとコミットできる問題だということは忘れないでほしいと思います。

――栗原さんはいかがですか?

栗原:私が一番伝えたいのは「もっと高望みをしていい」ということ。キャリアも結婚も出産も、欲しいものは諦めずに突き詰めていいと思うんです。

卵子凍結はそのための選択肢の一つ。私は会社を経営している立場ですが、今後社員への適切なサポートができるようにしたいですし、企業・行政の支援が進むことを願って、今後も発信を続けていきたいと思っています。

卵子凍結をした二人の女性の体験談「キャリアも出産も、何一つ諦めなくていい」

栗原さんは自身のブログやYouTubeで卵子凍結について発信

栗原:一方で、個人が人生の選択肢を増やすには、経済力が必要です。卵子凍結をしてより一層強く思うようになったのは、女性が稼ぐことの大切さ。

いざという時の選択肢を掴めるように「自分で稼いでいくんだ」というモチベーションを忘れないでほしいなと思います。

取材・文/太田冴 企画・編集/天野夏海

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