収入UPよりも、「今しかできないこと」をやりたい。SmartHRかなきゃん流・衝動重視のキャリア選択の効能【私のベストバランス】
仕事が楽しければ、収入が低くても幸せ? 収入が高ければ、忙しくても幸せ? 幸せに働く「ベストバランス」は、意外と分からないもの。そこで、さまざまなキャリアの転機を経験してきた女性たちにインタビュー。仕事・収入・幸福度の相関関係について調べてみました!
リスクをとって何かにチャレンジしようとするとき、今あるものを手放すことを恐れ、躊躇する人は多いのではないだろうか。
安定を捨てたことを後悔する日がくるのでは? 収入が下がってしまうのでは? 考えれば考えるほど、不安は膨らむ一方だ。
しかし、“かなきゃん”の愛称で親しまれる五十嵐夏菜さんは、これまでの実績や収入を丸ごと手放してでも、「チャレンジすることを選択してきた」と話す。

株式会社SmartHR
セールスグループ カスタマーセールス
五十嵐夏菜(かなきゃん)さん
アイドルとして活躍する傍ら、携帯キャリアの販売員としても勤務。2018年よりエンジニアのインターン生としてSmartHRに入社。未経験エンジニアとして入社した自身の成長の軌跡をつづった『SmartHR Tech Blog』内の記事が話題を集める。19年2月、同社正社員に。同年10月にセールス部門へ異動。
Twitter:@_kanacan_
現在は、クラウド人事労務ソフトを提供するSmartHRでセールスとして働いているかなきゃんさん。過去には、アイドル、販売員、エンジニアなどさまざまな経歴を持っている。
かなきゃんさんにとっての幸せに働くための最重要項目は、収入でも安定でもなく「今しかできず、自分の強みを活かせることを仕事にできているかどうか」だという。
彼女はなぜそう考えるのか。また、どのように自分のベストバランスを見つけたのだろうか。詳しく話を聞いた。
職種チェンジを重ねた20代。年収減より「私だからできる仕事」を探した

ーーかなきゃんさんは4年前まで、アイドル活動をしながらiPadの販売員としても働いていたんですよね。
はい。私はいわゆる“地下アイドル”だったので、それだけで生計を立てていくのが難しくて、携帯電話やiPadの販売員も兼業していました。
2年連続でiPadの販売実績日本一になったこともあるんですよ。
ーー日本一とはすごいですね! 業績に応じて収入も上がりましたか?
実は、売上に応じたインセンティブは当時出ていませんでした。なので、純粋に兼業している時給の分だけ収入が上がった感じですね。
ただ、アイドルだけやっていた頃より年収は倍以上になって、一人で暮らしていけるくらいの収入を得られるようになりました。
ーーアイドルに、売れっ子販売員に……仕事を両立するのは大変だったのでは?
体力的には大変でしたが、どちらの仕事も大好きでした。ずっとアイドルになりたいと思っていたので、ステージで歌って踊れるのがうれしくて。
販売員のお仕事も小学生の頃から憧れていたこともありとても楽しくて、自分に合っていると感じていたので苦ではなかったですね。
ーーその後、2017年にアイドルを引退していますよね。これはなぜ?
まずは体力的にも長く続けるイメージが持てなくなったこと。あとは、当時所属していたグループのメンバーと向かいたい方向が違ってきてしまったことです。
それに、アイドルとして成し遂げたかった夢をある程度叶えられたと感じられたタイミングだったので、次のステージに進もうと決意しました。
まずは、当時楽しくやれていた販売員の仕事に専念することにしたんです。

ーー次に、SmartHRでエンジニアに転身されています。なぜまたキャリアチェンジを?
「すごい製品を売る人」から、「すごい製品を自分でつくる人」になってみたかった、というのが大きいです。
販売も素晴らしい仕事でしたが、「すごいのは私じゃなくて、iPadなのでは?」と思う瞬間が増えてきて。じゃあ、「製品を作る側にまわったら、どういう景色が見えるんだろう」と興味が湧き始めたんです。
エンジニアの仕事は未経験だったので最初はインターンとしてSmartHRに入社し、そこから少しずつ仕事を覚えていきました。
ーー未経験、なおかつインターンということで、エンジニアになった後はアイドル・販売の兼業時代より年収が少し減っていますね。
はい。兼業していたころと比べると年収は100万円程度下がりましたが、エンジニアになりたい思いの方が強かったので気になりませんでした。
むしろ未経験からの入社だったので、収入を得ながら学べる環境に身を置けることがありがたかったですね。
ただ、そこから正社員になり、着実にキャリアを積んで、アイドルと販売の兼業時代の収入を超えられるようになっていきました。

ーー現在はセールスの部署に在籍されていますね。もう一度「販売」の領域に足を踏み入れようと思ったのはなぜですか?
エンジニアとしてプロダクトを作ることも楽しかったのですが、新製品のセールスに会社として注力していくことになり、そこで自分の経験やスキルが求められていると感じたからです。
過去の販売経験も得意なことも生かせるし、自分らしく会社に貢献してみようと考えて部署異動を決断しました。
こうやって私の経歴を見ていただくと、ころころやっていることが変わるなって感じた方もいるかもしれませんね。でも、その通りで、これは私がその時々で「一番やりたいこと」に素直に向き合ってきたからなんです。
「今しかできないことをする」ことで、幸福度が高まる
ーーかなきゃんさんが「今やりたいこと」に全力で向かっていくことができるのは、なぜなのでしょう?
「今しかできないことをしたい」という気持ちが人より強いからかな、と思います。
グラフを見ていただければ分かる通り、私の幸福度は収入で全然左右されなくて。もちろん、最低限不自由のない暮らしをするためのお金は必要ですが(笑)
金銭的な損失よりも、機会損失の方が後々の人生に大きな影響を及ぼすと思っているんですよ。だから、新しいことに挑戦することに躊躇はありません。

アイドルになると決めたのも、留学準備をしている真っ最中。海外の大学への入学を控えている時にスカウトされたのですが、「留学は後でもできるけど、アイドルは今じゃなきゃできない」と思ってそちらを選びました。結果、すごく幸せな時を過ごせたと思っています。
さらに、エンジニアになったのも、「新しいことを始めるなら今だ」と心から思えたからでした。販売の仕事を続けることもできたけれど、ここでプログラミングスキルを身に付ければ今後のキャリアに絶対に役立つと考えたんです。
一時的に収入は減ったものの、年収は着実に伸びて過去最高額になりましたし、「作れる」し「売れる」ようになったことで、自分にもさらに自信がつきました。
ーー目先の収入より「今やりたいこと」を優先する方が、実は後で返ってくるものも大きいと。
そうですね。結局、その時自分が一番モチベーションの上がることに取り組む方が、仕事に対する意欲も湧きます。それがいい成果にもつながるし、幸福度と収入と両方を上げるいいサイクルに入れるんだと思います。
大変そうなことがある場所で、ワクワクすることも見つかる
ーー幸福度グラフを見てみると、アイドル引退のタイミングで最もグラフが右肩下がりになっています。これはなぜ?

販売の仕事に専念するようになって、アイドル時代のように「私だからこそ、求められている」という感覚を感じられなくなってしまって。
代替可能な存在はいくらでもいる、製品がすごければ私がいなくても売れる……そんなことばかり考えてしまい、どんどん幸福度が下がっていきました。
これは、私の価値観の問題。給料が安くても、仕事が忙しくても、「五十嵐夏菜じゃなきゃダメな仕事」ができていると感じられる方が、幸せでいられるんです。

ーー去年昇給していますが、ここでも幸福度は少し下がっているようですね。
セールスの仕事はとても楽しいのですが、着実に成果を出す優秀な同僚ばかりで、自分の強みを見失いそうになりました。また、セールスチームは組織として成熟しており安心して働ける一方で「新しい挑戦」をしている感覚が薄れてきて。
次は何ができるかな、私だからこそできることって何だろう、とまたさらに模索し始めたのがこの時期でした。
ーー幸せに働き続けるための「自分だからこそできる仕事」はどうやって探すのでしょうか?
最短距離では見つからないですね。まだまだ模索中です。
これまでも、アイドル、販売、エンジニア…といろいろ自分で試してみながら探し続けてきました。ぴんとくることがあれば、すぐ突っ走ってやってみて、それで自分がどう感じるか試します。
そういう意味では、私が突っ走るのを許容してくれる仲間、環境に感謝ですね。
ーーワクワクすることを見つけるのが、かなきゃんさんは得意ですね。
「大変そうなこと」があるところに、ワクワクは落ちていると思っているんですよね。
自分のできることとか、もう知っていることにはあまり興味がない。だから、「大変そうなことはどこだ~?」って自分で探しにいく(笑)
そうすると、私のアンテナにびびっとくるような「ワクワクすること」が見つかります。

ーー最近になってまた幸福度が上昇していますよね。
はい、社内の新たな柱になるであろう、まだ未成熟のカスタマーセールスグループで再び新しい挑戦を始められたからです。
そしてもう1つ、ワクワクして仕方ないことが見つかりました!実は今、起業をしようと思っているんです。
働きやすい企業が増えることで幸せな人生を送れる従業員も増えるってとても素敵だと、SmartHRに所属している中で強く感じました。一方で、身近な友人や家族はまだまだ働くことや将来に対する「大きな不安」を抱えていることに気が付いて。もっと未来にポジティブになれる世界を作りたいと思い、異色のキャリアを歩んできた自分だからこそやる意味がある事業を準備中です。
簡単にはいかないことも承知の上。「私にしかできないこと」を模索し続けた結果、起業という選択肢に至りました。
今は、起業準備を進めていくのが楽しくて仕方がない。もちろん一筋縄ではいかないと思いますし、他人から見たら「失敗」に見えることもあるかもしれません。
それでも、どんな挑戦も早くて大胆な方がカッコイイと思っていて。「今こそやるべきだ」っていう感覚もあります。
大変そうでも、失敗しそうでも、常に大事にしたいのは「私にしかできない」を探してワクワクする方へ突き進むこと。一見すると極端に思われるかもしれないけれど、それが私のベストバランスです。
取材・文/太田 冴 撮影/鈴木 迅