01 DEC/2021

【松井玲奈】もっと人に甘えていいのかも。初の映画単独主演で学んだ「一人で頑張り切らない」働き方

連載:「私の未来」の見つけ方

生き方も、働き方も、多様な選択肢が広がる時代。何でも自由に選べるって素敵だけど、自分らしい選択はどうすればできるもの? 働く女性たちが「私らしい未来」を見つけるまでのストーリーをお届けします

役者業を軸に、最近では小説家としても活動している松井玲奈さん。

2021年11月26日公開の映画『幕が下りたら会いましょう』では、初の単独主演として、鳴かず飛ばずの劇団を主宰する麻奈美を演じた。

松井玲奈

自身のキャリアについて、「明確な意思を持って自分の道を決めてきたというよりは、一つ一つの仕事の積み重ねの結果として今がある」と話す松井さん。

彼女はこれまでどんなマインドで仕事に向き合ってきたのだろうか。「私らしい未来」に続く、「日々の仕事の積み上げ方」のヒントを探ってみよう。

「できる限り」を尽くしてきた先に、単独主演映画の出演があった

私はいま役者業を中心にお仕事をしていますが、実は自分の意思でキャリアを決めてきたっていう感じではないんですよ。

基本的にはいただいたお仕事に対して、自分のできる限りを尽くすスタンスでずっとやってきていて。過去の仕事の積み重ねで今があります。

初の単独主演映画『幕が下りたら会いましょう』も、そうやって一つ一つ自分ができることを積み重ねてきた中でお話をいただけたのかなと思いますね。

松井玲奈

©avex entertainment Inc

主演として物語を引っ張っていかなければいけないプレッシャーはありましたが、映画の主演は「いつかできたらいいな」と思っていたので、うれしかったです。今回も、自分が出せるものは全て出し切る気持ちで挑みました。

私が演じた麻奈美は、妹の死をきっかけに自分自身や妹と向き合うことになります。麻奈美が妹の死を追っていく過程は、彼女の成長物語でもある。

麻奈美がどうやって家族と向き合って、心を開いていくのか。ストーリー展開や設定が興味深いなと、プロットをいただいた時から、やりがいのある作品だと感じていました。

松井玲奈

©avex entertainment Inc

演じ方も、これまでの作品とは違ったんです。監督からは「感情を抑えながら演じてほしい」と言われていて、役と自分を切り離して考えたというか。

影がある役や静かな役の経験はありましたけど、「感情を出さないでほしい」と言われたのは初めての経験でした。

私は親しい人に安心して気を許せるタイプなのですが、麻奈美は逆で、相手が親しければ親しいほど殻にこもってしまう。自分のニュートラルな状態とは全然違う感覚で、カメラの前に立っていたなと思います。

松井玲奈

©avex entertainment Inc

例えば、うれしい気持ちをこらえる感じ。引き算をしていくイメージで、心をおさえつけて、お腹の底から上がってくる感情をぐっとおさえる。

普段はあまりしない行為なんですけど、感情を抑えるからこそ、抑えきれないものがお芝居に出てくるという体験ができました。それは初めての感覚でしたね。

もっと気楽に甘えたり、相手に委ねたりしていいのかも

私は、「一人で頑張れることを頑張ってやり切る」スタンスでお仕事をしている時間が長くて。人に委ねるとか、甘えるとか、あまり得意ではありませんでした。

でも今回、麻奈美を演じる中で感情を抑えていると、相手が投げ掛けてくれたものが、自分の中でおさえきれなくなってしまう瞬間があって。

松井玲奈

©avex entertainment Inc

今まで以上に目の前にいる相手の役者さんに助けられていることを感じましたし、相乗効果というか、かけ算の影響がたくさんあったように思います。

もしかしたら、もっと気楽に甘えたり、相手に委ねたりしていいのかもしれない。麻奈美を演じたことで、「一人で頑張らなきゃって思わなくてもいいのかな」と考えるようになりました。

実は、撮影前に「私にできるだろうか」と不安だったシーンでも、それを実感することがあったんです。

それは麻奈美が食事をするシーン。監督からは「ご飯を食べた時に、これまで麻奈美が抑えてきたものが溢れ出すように」と言われていました。

それを踏まえた上で台本を読んでいましたが、監督が求めるような状態は表現できないかもしれない。そう感じて、ずっと不安だったんです。

松井玲奈

実際にそのシーンを撮影するときも、私が緊張していることが監督も分かったみたいで。そっと近寄ってきてくれて、「大丈夫です!」ってガッツポーズしながら声を掛けてくださいました。

その時に、「あぁ、チームで仕事をしているんだよな」って思えて。

チームなんだから、相手が監督であれ誰であれ、何も怖がることはないんだなと分かって、肩の力を抜いて本場に臨むことができました。

すぐにOKテイクも出て、安心感と同時に、小さな一歩を踏み出せたような気持ちになりましたね。

作品ごとの新しい発見を、「できるようになりたい」気持ちにつなげていく

松井玲奈

私はできないことが本当に多くて、作品を終えるたびに、「今回はこれができたけど、ここは次の課題だな」「こういうカットが使われたんだ」って、毎回学ぶことばかりです。

映画『幕が下りたら会いましょう』では、引き算をするからこそ出てくる表現があると分かったことが新しい発見。

つい何か足したくなってしまうけれど、怖がらずに引いていくこと。時には何もしないことが大切だったりもするんです。

それは『幕が下りたら会いましょう』をはじめ、ここ最近参加した作品で感じていることでもあります。

こういった発見をちゃんと次に生かせるように、つなげられるように、「できるようになりたい」って考えながら日々のお仕事をしていきたい。

本当にまだまだだけど、それでも役者のお仕事を本格的に始めた頃と今では、根本的に、全く変わったなと思っていて。

特に思うのが、お芝居をしている間に余分なことを考えなくなったということ。

「さっきここで笑ってほしいって監督が言っていたから笑わなきゃ」みたいな、そういう雑念のようなものが、作品を重ねていくごとに、どんどんなくなっていく。

今回も麻奈美を演じている間は、自分というよりは、麻奈美の感覚でいられたような気がします。

これまでだったら「感情を抑えなきゃ」って意識がずっとあったと思いますが、頭で考えるのではなく、自然にどこかで感情をせき止めている感覚を持ちながら、ちゃんと相手と向き合えるようになった。

本当はもっと当たり前にできなければいけないことだし、まだまだ未熟だけれど、それは大きな変化かなと思います。

「できるだろうか」と不安に感じることは、今の自分に足りていない部分

松井玲奈

理想の役者像は、年齢を重ねても、魅力的で可愛らしい人。薬師丸ひろ子さんが大好きなんですけど、ああいう人になって、可愛らしいお母さん役も演じられる人になれたらいいなと思っています。

でも、今はどんな役であっても、いただいた役には何でも挑戦してみたい。

「本当にできるだろうか」って不安に感じることがあっても、それが今の自分に足りていない部分なら、そこに挑んでみたいんです。

そうすることで、新しい一歩を踏み出せるようになったり、新しい自分の表現方法や感覚に出会えたりするのであれば、大変なことにこそ挑戦した方が自分のためになるはずなので。

特に、“変な役”をいっぱいやりたくて。お芝居をすることは、誰かの人生を生きること。自分とは違う価値観を持っていたり、異なる生き方をしたりしている役に出会えると、面白いなって思います。

人間には良い面も悪い面もあって、たとえ主人公にとって悪者だったとしても、その悪者には本人なりの正義がある。

その役がどういう境遇に置かれているのかを考えながら、台本をたくさん読んで、セリフ一つ一つを読み解きながら、「人間としての深み」みたいなものをいろんなパターンで解釈していく。

そこには「この人はこういう風に考えるんだ」っていう発見があります。何より、自分と全く別の人間としてカメラの前でお芝居をするのは、やっぱり楽しいです。

自分の人生なので、「自分が好きなように、好きなことをやる」というのが根底にある考え。そのためにも尻込みせずに、自分の可能性を求めて、どんな役でも頑張っていきたいなと思っています。

Profile
松井玲奈
1991年7月27日生まれ、愛知県出身。2008年デビュー。主な映画主演作に『はらはらなのか。』(17年)、『21世紀の女の子』(19年)、『女の機嫌の直し方』(19年)、『今日も嫌がらせ弁当』(19年)など。またNHK連続テレビ小説『まんぷく』(18年)や『エール』(20年)、TBS火曜ドラマ『プロミス・シンデレラ』(21年)にレギュラー出演。映画・テレビドラマ・舞台など役者として活躍するだけでなく、小説集『ひみつのたべもの』(マガジンハウス)、小説『カモフラージュ』『累々』(集英社)なども執筆 
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作品紹介

『幕が下りたら会いましょう』
11月26日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開
出演:松井玲奈、筧美和子、しゅはまはるみ、日高七海、江野沢愛美、木口健太、大塚萌香(新人)、目次立樹、安倍乙、亀田侑樹、山中志歩、田中爽一郎、hibiki(lol-エルオーエル-)、篠原悠伸、大高洋子、里内伽奈、濱田のり子、藤田秀世、出口亜梨沙、丘みどり(友情出演)、袴田吉彦
監督:前田聖来
脚本:大野大輔、前田聖来
音楽:池永正二
主題歌:Jam Flavor「CRY〜戻りたい夜を〜」
エグゼクティヴ・プロデューサー:高木雅共
プロデューサー:猪野秀碧、岡田康弘、細見将志、田中佐知彦
企画:直井卓俊
製作・宣伝:エイベックス・エンタテインメント
制作協力:Ippo
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
©avex entertainment Inc
公式サイト:http://makuai-movie.com

取材・文/天野夏海 カメラマン/神藤 剛