13 JAN/2022

「子どもを産む・産まないがはっきりすれば楽なのに…」犬山紙子・精神科医Tomy先生・僧侶が30代女性の悩みに回答

犬山紙子・精神科医Tomy先生・僧侶

子どもを産む・産まないはどっちでもいい。そんな女性にとって、30 代は答えなき悩みが付きまとう時期。

この先のキャリアや人生を考えたときに、状況がはっきりしないからこそ身動きが取れなくなってしまうこともある。

そんな読者のモヤモヤを、専門領域の異なる識者3名に相談。

『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)で産む・産まない問題に向き合ったイラストエッセイスト・犬山紙子さん、浄土宗僧侶・掬池 友絢さん、精神科医Tomy先生のそれぞれの見解を参考に、自分なりの答えや折り合いの付け方を探してみよう。

読者からの相談内容

犬山紙子・精神科医Tomy先生・僧侶

「夫婦で話し合い、『子どもを持つ・持たないはどっちでもいい』という結論になりました。その上でゆるく妊活をしているのですが、毎月生理が来るたびに落ち込む自分もいます。

職場ではチームリーダーとして多忙な日々で、自分が抜けたら確実に仕事が回らない状況です。私はこれまで産休・育休中の人の穴を埋め続けてきたのに、自分の穴を埋めてくれる人はいないし、子どもを産まない場合は穴を空けることもないわけで……。

子どものことがはっきりしない限りは家を買うこともできず、いっそ『できない』『いらない』とはっきりすればもっと楽しく生きていけるのに……と考えてしまいます」(Aさん/34歳/既婚/クリエーティブ系職種)

犬山紙子さんからの回答:夫婦でそのモヤモヤを共有してみて

犬山紙子

イラストエッセイスト
犬山紙子さん

1981年、大阪府生まれのイラストエッセイスト。『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)、『アドバイスかとおもったら呪いだった』(ポプラ社)などの著書多数。近年はTVコメンテーターとしても活躍。最新著は『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社) Twitter:@inuningen Instagram:inuyamakamiko note:https://note.com/inuningen

まずは夫婦で話し合える関係性であることが素晴らしいなと感じながら、Aさんのお悩みを拝読しました。

子どもを産む、産まないって決めるのも難しいし、決めたからといって子どもを授かれるかも分からない、産んだら産んだでこの先のキャリアはどうなるの……。モヤモヤして当たり前、悩んでいない人なんていないんですよね

そんな時こそ夫婦でそのモヤモヤを共有するのがいいと感じます。

「妊活の年齢はいつまでにするかとりあえず決めてみようか」
「家はとりあえず今から見てみて、内見とかしながらさらに詳しく考えようか」
「不安だよね」

などと、そこから落とし所が見えてくるはず。話し合いの前には、「お互いは味方同士である」と伝え合っておくとスムーズです。

子どもを産む・産まない

また、キャリアのことは信頼できる上司に先に相談しておくのもいいですよね。上司は部下が何をしたいのかを把握するのも仕事のうちですから。

「もし妊娠しても復帰後は第一線でこのまま働きたい」とか、「穴を埋め続けてきたのでそこはちゃんと評価されたい」とか、自分の考えを話しておきましょう。

そうやって人に話し、不安を共有したり、考えを受け入れてもらったりすることで先に進めると思います。

浄土宗僧侶・掬池 友絢さんからの回答:仏教の意味での「諦める」が次に進むきっかけに

掬池 友絢

掬池 友絢さん(きくち ゆうけん)

1975年生まれ。浄土宗僧侶。ILAB(国際仏教婦人会)役員。静岡県三島市にある蓮馨寺の副住職。都内の仏教組織で働く一方で、仏教の良さを伝え広めるべくさまざまな活動に取り組んでいる。蓮馨寺で「お念仏の会」や「お寺BBQ」といったコミュニティー活動をおこなう他、寺子屋ブッダの「友絢さんとお茶を飲む日」で女性向けお話し会の講師も務めている。著書に『泣きたいときには泣いていい』(講談社)

Aさんはとても責任感が強い方なのだと思います。それは素晴らしいことですが、一方で責任感にとらわれてしまっているようにも感じます。

私たちは「一生懸命に、何でも頑張りなさい」と言われて育ってきましたが、本当は「諦める」のも、次に進むための大切なことです。

この「諦める」はネガティブな印象の言葉ですが、仏教では「明らかにする」という意味を持ちます。もともとの語源も「明らむ」なのですよ。

ご自身の心の状態も含めて、物事を明らかにする。そうやって現状をクリアにすることは、新たな一歩を踏み出すきっかけになります。

子どもを産む・産まない

Aさんは今、自分を見つめ直すタイミングを迎えているように感じました。

夫婦で子どもの件はお話ししているとのことですが、生理がきてがっかりしてしまう気持ちの裏側には、やはり子どもが欲しい思いがあるのかもしれません。

子どものことは白黒はっきり付けられませんが、「どっちでもいい」は本当に本心なのか。自分の人生で大切なことは何なのか。本当に自分が望むものは何なのか。ぜひ考えてみてください。

また「これまで産休・育休中の人の穴を埋め続けてきた」のには、サポートをしようという気持ちが根底にあるのでしょう。それは人間として素晴らしいことです。

ただ、「自分は人のためにこれだけのことをしてきたのに」という感覚がありそうな印象も受けました。

仏教には「徳を積む」という考え方があり、浄土宗という宗派では、日々積んだ徳をご先祖さまに差し向ける行為があります。これを回向(えこう)といい、功徳をめぐらせることで、自身の悟りにつながると考えます。だから日々の良い行いをしようと思うわけです。

Aさんも同じように、「自分のために周りをサポートしている」と考えてみてはいかがでしょうか。

精神科医・Tomy先生からの回答:本当に『夫婦で話し合った』のかしら?

Tomy先生

精神科医
Tomy先生

1978年生まれ。某国立大学医学部卒業後、医師免許取得。精神科病院勤務を経て、現在はクリニックにて常勤医として勤務 Twitter:精神科医Tomy(@PdoctorTomy) ブログ:精神科医Tomyのお部屋♡(https://kazeyokoi.exblog.jp/

複数の問題をぐちゃぐちゃに絡ませず、優先順位を整理しましょう。そうしないと物事はうまく進まないし、漠然とストレスがたまる一方よ。

基本的には、自分がやりたいことを優先した方がいいと思うの。優先順位をつけて、タイミングがきたときに即動けるようにしておく。

そうやって優先度の高いものからやっていく決断をするしかないのよね。「これがしたいけど、そのためにはこっちがこうなるまで待って……」と考えていたって、そのパズルは一生埋まらないから。

もし優先順位が分からないのであれば、それはまだ悩んでいる最中だということ。なぜ順位がつけられないのか、まずはそこに向き合って、頭の中を整理しましょう。

そして、その状況を夫婦で共有してみたらどうかしら?「夫婦で話し合った」そうだけど、もしかすると「話し合った」という事実をつくって、大事なことをうやむやにしていない?

子どもを産む・産まない

あなたに必要なのは、子どものことに夫婦で改めて向き合って、しっかり妊活するかどうかを決めることだと思います。

そうして子どもの優先度が高いのであれば、「緩く」ではなく、期間を決めて妊活に全力を注ぐ。

仕事のことは妊娠した時に考えれば大丈夫。出産時は穴を開けるしかないし、子どもが優先だとはっきりすれば、仕事で穴を開けることも今思っているより問題にはならないはず。今の段階で考えてもしょうがない話よ。

家に関しては子どもに関係なく、欲しい時にいい物件があれば買えばいいわ。

とにかく、複数の異なる問題を頭の中にごちゃごちゃのまま置いておくからストレスがたまるのよ

あとは、第二、第三の選択肢を用意しておくといいんじゃないかしら。例えば子どもが授からなかった場合の人生プランはどうするのか。養子縁組もいいだろうし、子どもがいない人生を楽しむのもいいわよね。

そうやって次のプランまで考えておけば、あとは切り替えるだけ。生理がきて毎回落ち込む気持ちも、少しは楽になるんじゃないかしら。

【書籍紹介】

精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方

『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』(ダイヤモンド社)

「期待」「不安」「選択」「好意」「悪意」「女王」「迷い」「決意」をテーマにした、心がスッと軽くなる8つの読み切り小説。精神科医である著者自身が、これまで抱えてきた葛藤も赤裸々にしつつ、多くの人が抱えがちな悩みの解決法を物語に仕立て、わかりやすい解説とともに説いた一冊

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企画・取材・文/天野夏海