生理痛は改善できる?副作用は? ピルへの“何となく不安”が働く女性を苦しめている【産婦人科医・高橋怜奈】

産婦人科医の高橋怜奈先生に20~30代の働く女性たちの生理の悩みを相談したところ、お腹の張りや肌荒れ、イライラなど、低用量ピルなどのホルモン治療で改善できる不調があることが分かった。
ただ、ピルにはこんな不安も……。
生理痛が重いのでピルに興味があるけど、副作用があったり、後で不妊になったりしないか心配。血栓症のリスクも気になります。
そこで、ピルにまつわる疑問を高橋先生に相談してみた。

高橋怜奈さん
東邦大学医療センター大橋病院・産婦人科在籍。女医+(じょいぷらす)所属。2016年6月にボクシングのプロテストに合格し、世界初の女医ボクサーとして活躍したのち2021年10月に引退。現在は医師と平行し、SNSを中心に女性の体や検診やワクチンの重要性などについて啓蒙活動を行う
Twitter:@renatkhsh YouTube
長期的にピルを服用している人の方が「妊娠しやすい」という報告も
排卵やホルモンの変動は、妊娠するために起こるもの。妊娠を考えていない人にとってはマイナスですから、妊娠を望んでいないのであれば、ピルを服用した方が単純に楽です。
ピルの副作用は全くない人もいれば、飲み初めに吐き気や頭痛、不正出血がある人もいます。
ただ、小さいトラブルは飲んでいるうち治まるまることがほとんど。合わなければピルの種類を変えることもできます。

そして、ピルを飲んだからと言って不妊になることはありません。ピルは避妊薬として作られたものなので、ピルの服用が不妊につながると誤解している人は多いですが、実は全くの逆。
むしろピルを長期的に飲んでいる人の方が、そうでない人より妊娠しやすいという報告もあります。
なぜなら、ピルの服用で排卵を抑えることができるから。そうすることで卵巣の壁が綺麗に保たれるので、本当に妊娠したい時に排卵しやすくなるんです。
ピルは服用中の避妊効果は非常に高いけれど、服用を止めればすぐに体は妊娠できる状態に戻ります。将来の妊娠を考えているのであれば、長期的にピルを服用した方が「体のメンテナンス」という意味でプラスです。
ピルを服用している人よりも、妊婦は15倍血栓ができやすい
ピルの服用によって、血栓症のリスクが上がるのは確かです。
ただ、血栓はピルを服用していない人でもできます。例えば飛行機でずっと足を動かさないことで生じるエコノミークラス症候群も、血栓症の一つ。
また、女性ホルモンのエストロゲンの影響で血栓はできやすくなるので、エストロゲンが高い妊婦さんや産後の女性は、実はピルを服用している人の約10倍近く血栓ができやすいんです。

ピルを服用するよりも、妊婦さんやお産直後の女性の方が血栓はずっとできやすい。つまり、ピルで血栓ができる確率は皆さんが心配するほど高くないのです。
とはいえ可能性がゼロではない以上、医師は説明をしなければいけません。なので、必要以上に危険だと感じてしまう人が多いのかなと思います。
ピルはヘビースモーカーや前兆のある片頭痛がある方など、血栓症のリスクがある方は服用できませんが、血栓症のリスクのないホルモン治療もあります。
血栓が怖い方やピルを服用できない方は、様々な治療法があるので産婦人科で相談してもらいたいなと思います。
「なんとなくピルは不安」が女性たちを苦しめている

私は以前インタビューで、「大切なのはリスクの見極め」だとお話ししました。同じことはピルにも言えます。
リスクについてはここまででお話しした通りですが、一方でピルを長期的に服用することで妊娠しやすくなる他、不妊につながる子宮内膜症の予防ができるメリットもある。
さらに、卵巣癌や子宮体癌のリスクを下げることもできます。
私個人としては、ピルのメリットはデメリットを大きく上回ると思っています。実際に20~40代の産婦人科の女性医師の多くがピルを服用していますしね。
服用するかどうかは個人の判断になりますが、少なくとも正しい知識を持って、自分にとってのメリットとデメリットを比べた上で判断してほしいなと思います。
というのも、何となくのイメージが女性たちを苦しめているように感じていて。
例えば「ピルの服用は体にとって不自然なんじゃないか」と心配する方もいますが、「自然な状態」とは何でしょう?

前回、女性が生きているうちに経験する生理の回数が激増しているとお話ししましたけど、20代で妊娠せず、生理を繰り返していること自体が、本来の体にとっては不自然なんです。
その結果、生理の不調が生じやすくなり、現代女性の多くが苦しんでいる。この状態は、はたして体にとって自然なことでしょうか?
皆さんには「なんとなく不安」ではなく、ぜひ正しい知識を身に付けてほしいなと思っています。その上で婦人科をうまく使って、健やかな人生を歩んでくださいね。
取材・文・構成/天野夏海 編集/栗原千明(編集部)
書籍紹介

『おとなも子どもも知っておきたい新常識 生理のはなし』(主婦と生活社)
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