「ここは夢への一歩が踏み出せる場所」技術コミュニティー参加を有意義なものにするたった一つのアクション【PyLadies Tokyo 石田真彩】
男女比が8:2と、業界全体を見渡すといまだ偏りの見られるエンジニアという仕事(出典)。同性の仲間と出会ったり、安心してスキルアップに打ち込める環境を求める女性エンジニアの集う場の一つとして、「女性向け技術コミュニティー」の存在がある。
日本マイクロソフトでプリセールスとして働く傍ら、『PyLadies Tokyo』など複数のコミュニティーで運営メンバーを務める石田真彩さんは、コミュニティーでの活動に魅了された一人。
約8年前から技術コミュニティーに参加してきた。
「社外のコミュニティーに参加するようになってから、技術に触れることがもっと楽しくなった」と生き生きと語る石田さん。コミュニティー参加を「有意義なもの」にするために意識していることがあるという。それは一体何なのだろうか。
「女子会ノリで技術トーク」女性限定コミュニティーへの初参加時の衝撃
ーー最初に石田さんが技術コミュニティーに参加したのはいつですか?
エンジニアになって5年目くらいの時ですね。
これからどうやって技術の知識を増やしていこうかと悩んでいた私に、当時働いていたベンチャー企業の上司や同僚が「社外の勉強会やイベントに行ってみたら?」と声を掛けてくれたことがきっかけでした。
実際にエンジニア向けのイベントに足を運んでみると、女性の姿はほとんどありませんでした。大規模なイベントだったのですが、会場の99%くらいが男性だったと思います。
女性が少ない環境には慣れていたので大きな違和感はありませんでしたが、その中で手を挙げて自分の意見を言うほどの勇気は私にはなくて。
せっかく参加しても、主体的に活動するのは難しそうだと感じました。
ーー確かに、自分がマイノリティーだと積極的になりづらいかもしれませんね。
なので、当時立ち上がったばかりの女性エンジニア向けのコミュニティーに参加してみたんです。
すると、最初に参加したイベントとは全然雰囲気が違ったんですよ。参加者は全員女性で、みんなワクワクしながら技術の話をしているんです。
こんなに技術のことを楽しそうに話す女性を、それまで私は見たことがありませんでした。
「女子会ノリで技術について語る」という経験は衝撃的でしたね。と同時に、仲間と出会えた気がしてうれしかった。
その経験をしてからは、『PyLadies Tokyo』や『Java女子部』といった女性エンジニア向けのコミュニティーに頻繁に顔を出すように。それぞれ雰囲気は異なりましたが、どちらもとても居心地が良かったんです。
どちらも技術が大好きな女性の集まりだったので、学ぶこともたくさん。ここに身を置いていたらエンジニアとしてもっと成長できるな、という実感が持てました。
次第に運営メンバーと親しくなって、現在は私も三つのコミュニティーの運営に携わっています。
ーー三つも! それほどまでにコミュニティーに魅了された理由は?
まずは、エンジニアとしてのスキルアップにつながることですね。
なかなか理解できないことでも、説明の仕方が変わるとスッと頭に入ることってありませんか? 私も、本を読んでも理解できなかったことが、コミュニティーで人の説明を聞いて分かるようになった経験が何度もあります。
もちろん、本から学べることも多いので、独学と技術コミュニティーの併用が自分には合っていました。
あとは、人とのつながりが増えたおかげで「リアルな情報」を得られるようになったこと。
Web上で発信されている情報だけでは、強い言葉で語られていることや、声の大きい人の意見を「正しい」と思い込んでしまいがちです。
でもコミュニティーの場では、いろんな人の生の声や実体験が聞けます。それぞれ異なる立場で働く人の価値観を知ったことで、物事に対して冷静な判断ができるようになりました。
特に、Java女子部やPyLadies Tokyoなど女性向けのコミュニティでは、日々の業務の中ではなかなか触れ合う機会のない女性エンジニアの意見が聞けるので貴重でした。
コミュニティーは、「夢」を叶えられるかもしれない場所
ーーさまざまなコミュニティーがありますが、自分に合うコミュニティーはどう探したらいいと思いますか?
まずは、自分が興味のある技術に関連するコミュニティーを探すこと。見つけたら、とりあえず一度参加してみることです。
興味のある技術のコミュニティーだったとしても、雰囲気が合うかどうかは参加してみないと分かりませんから。
もし「思っていたより閉鎖的そうだな」とか、「自分のキャラクターとは合わなそうだな」と感じたら、距離を置いてみればいいだけの話です。
多くのコミュニティーの場合、会員証があるわけでも、会員期限があるわけでもない。関わり方は自分で決められるので、安心して最初の一歩を踏み出してほしいですね。
ーーコミュニティーに参加するにあたって、石田さんが心掛けてきたことは?
まずは受け身にならないこと。登壇者に質問したり、運営の人に「こういうセッションを聞いてみたい」と要望を出したり。懇親会でいろいろな人と絡むのも、コミュニティー参加を有意義なものにするためには大事かなと思いますね。
イベントに参加するだけでも得られるものはありますが、「さらに自分の知識を深めたい」「仲間をつくりたい」と思うなら、一歩踏み出すアクションが必要です。
私もこれまで、思い切ってやりたいことを発言して、それを受け入れてもらい、実現してきました。夢が叶いやすいのも、何かしらの技術コミュニティーに参加する魅力の一つだと思います。
ーー夢が叶いやすい?
コミュニティーとは「こんなことをやってみたい」「仲間と一緒に何かをしたい」という思いを持っている人の集まりですから。やりたいことを口に出す勇気さえあれば、助けてくれる人がたくさんいるんです。
だからこそ、誰かに話し掛けてもらうのを待つのではなくて、自分から働き掛けていくことが大事。最初のアクションさえ取れれば、みんながフォローしてくれるはずです。
ーー石田さんも、コミュニティーでの発言によって夢が叶った経験があるのですか?
ありますよ! 「いつか技術に関する記事を書いてみたい」と話していたら、それを覚えていてくれたコミュニティーのメンバーが声を掛けてくれて、雑誌の記事を執筆する機会に恵まれました。
雑誌での記事執筆はベテランエンジニアにしかできないと思っていましたが、たくさんの方にフォローをしていただいたおかげでチャレンジすることができました。感謝しかありません。
実業務にも生きたコミュニティー運営経験。「楽しさドリブンで続けたい」
ーー石田さんは、コミュニティーの運営メンバーとしてはどのような取り組みをしているのですか?
メインはイベントの企画運営です。本番に向けて、登壇者や日程の調整、イベントページの作成などを行います。
私は複数のコミュニティーに所属しているので、イベントは月3、4回。数人規模から百人以上が参加するものまでさまざまです。
ーー働きながら毎月複数のイベントを企画運営するとなると、かなり忙しいのでは……?
コミュニティー運営に関することは、プライベートな時間を使ってやっています。でも、忙しいと感じることはあまりないですね。
私にとってコミュニティーは「自分が楽しむための場所」。イベントの企画も、まるで旅行の計画を立てているようでわくわくするんですよ。もはや趣味に近いです。
企画したイベントで参加者が楽しそうに過ごしてくれたり、つながり合ったりしている様子を見ると、私もうれしいですしね。
それに、運営スタッフの経験を通じて、実業務でも生かせるスキルが身に付きました。
ーー例えば?
一番役立っているのは、タスクマネジメントのスキルです。
本業とコミュニティーではマネジメントすべき内容や規模は違いますが、やることをリストアップし、チケットを起票してアサインし、定例ミーティングで進捗を確認するという「やり方」は同じです。
何度も繰り返すうちに、優先すべきタスクを判断をする力が身に付いた気がします。
ーー有意義なコミュニティーライフを送っている石田さんですが、今後の目標はありますか?
運営メンバーとしての目標は、とにかく楽しむこと。参加者が楽しいイベントにするためには、運営側が楽しむことが大切なので、これからも無理せず継続していけたらと考えています。
自分のキャリアに関しても、常に自分自身が楽しいと思えるカテゴリーの仕事に携わっていきたいですね。
その時々で自分の興味は移っていくと思うので、心のままに、面白い仕事をずっとやり続けていきたい。モットーは楽しさドリブンです。
その過程でも、ずっとコミュニティーには参加し続けるんじゃないかなと思います。同じ方向を向いた仲間たちと、一緒に成長できる場があるのは私のキャリアにとっても大きな財産ですね。
取材・文/一本麻衣