07 JUL/2022

全国トップのアパレル販売員に聞く、SNS時代のキャリアメイク術「強みを生かせる“新しいポジション”を見つけて」

apparel

コロナ禍となってから、外出自粛による来店者数の激減、それに伴う急な店舗休業など苦境に立たされたアパレル業界。ECサイト利用者も増え、街に人手が戻った今でも「買い物はオンラインで」と考える消費者は少なくない。

人々の買い物スタイルが変わったことは、店頭に立つ販売員が一番敏感に感じているはず。「この仕事をずっと続けていけるか」と、今後のキャリアに不安を抱くようになった人も多いのでは?

そんな中、アパレル業界で必要性が高まるオンライン接客やSNS運用のスキルにスポットをあてたコンテスト「STAFF OF THE YEAR」が2021年からスタート。1200ブランド、全国7万人の販売員の中から、初代グランプリを村岡美里さん、準グランプリをなとりかさんが受賞した。

彼女たちはいかにして「次世代のカリスマアパレル販売員」と呼ばれるまでになったのか。二人が強みを持つSNS運用を始めたきっかけや、これから先、変化の激しいアパレル業界でのキャリアをどう考えているのか、詳しく聞いた。

村岡美里さん

BAROQUE JAPAN LIMITED VISUAL STAFF デジタルマネジメント部所属
村岡美里さん

『STAFF OF THE YEAR』初代グランプリ。2012年バロックジャパンリミテッドに入社し、『rienda』福岡ソラリアプラザ店に9年勤務した後、21年に営業・販売本部へ異動。現在は販売スタッフのSNS活用に関する教育などに携わる。Instagramの他、TikTokでも積極的な投稿を行い、約4.2万人のフォロワーを持つ

なとりかさん

MOUSSYルミネ立川店・MOUSSYオフィシャルスタッフ
なとりか(田中梨花)さん

『STAFF OF THE YEAR』2位。2011年に株式会社バロックジャパンリミテッドにアルバイトで入社。ルミネ立川店に配属。出産のため一度退職したが、1年後に復帰。17年9月から『MOUSSY』に当時5人しかいない「オフィシャルスタッフ」に。プライベートな投稿も交えたInstagramのフォロワー数は3.3万人。最近ではLINEでの情報発信も活発

「ネットで買います」でも、もう落ち込まない。誠実さは必ず成果につながる

——村岡さんは『rienda』、なとりかさんは『MOUSSY』と、お二人はアパレル業界で働きだしてから、ずっと同じブランドに携わっています。もともとブランドのファンだったのでしょうか?

村岡さん

そうですね。私が働きだした当時、riendaはギャルにとって憧れのブランドで、私もこのお店で働いてギャルになりたい! という一心で入社を決めました。

なとりかさん

私も、アパレル販売員になったのはMOUSSYのスタッフに憧れたのがきっかけです。

中学生の頃、どうしても欲しいデニムがあって、お年玉を貯めてドキドキしながら店舗に買い物に行った時のこと。接客してくれたスタッフさんが、「普段はどういう服を着るの?」「これが手持ちのアイテムと合うんじゃないかな」ってすごく親身にアドバイスをくれたんです。

なとりかさん

当時は他にも興味のある仕事があったんですが、その方があまりにキラキラ輝いて見えて。「絶対この人みたいになる」と心に決めて、18歳から働き始めました。

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——とてもブランド愛が強かったんですね。お二人はSNSでもブランドの情報を積極的に発信していますが、いつ頃からSNSに注力しているんですか?

村岡さん

約8年前、入社2年目の頃ですね。その頃ちょうど店長になったので、自分の店舗の売り上げアップにつながる施策をいろいろやっていて。

来店されたお客さまにメッセージカードを必ずお渡しするとか、思いつく限りのことをしようと考えたうちの一つが、SNS運用でした。

——当時から、アパレル販売員の方がSNSをマーケティングに活用するのはメジャーだったのでしょうか?

村岡さん

プライベートでのSNS利用はみんなしていましたが、ブランドのスタッフとして活用している人は少なかったと思います。

村岡さん

マーケティングツールとしては注目されていたものの、新しい手法なので、投稿に関するルールが会社で細かく決められていたんですよ。なので、始めるハードルが高かったのもありますね。

私は、店長になったからには自分の店舗を盛り上げないと、と必死だったので、チャレンジすることにしました。

なとりかさん

私がSNSを積極的に使うようになったのは、子どもを産んでから。ただ、最初からマーケティングのためにSNSを使おうと考えていたわけではないんです。

その頃の私のInstagramは、完全にプライベート用。息子との日常と合わせて、その日の服装を載せる程度だったのですが、親しいお客さまの何人かがフォローしてくださっていたんです。というのも、出産後に配属となったラゾーナ川崎店は、お子さん連れの女性が多く来店される店舗で。

なとりかさん

そのうち、Instagramに載せた写真を見て「なとりかさんが着ていたやつが欲しい」と来店してくださる方が増えていったんです。

会社の仲間からも「ブランドのスタッフとして、SNSを使ってみたら?」と声をかけてもらったことをきっかけに、本格的に運用するようになりました。

——SNSのマーケティング効果を実感して、注力するようになったんですね。

なとりかさん

そうですね。本格的に始めてからは、私がInstagramに載せた服が店舗で売り切れることもありました。「前になとりかが買った服の在庫がなくなっちゃったんだけど」って店舗の仲間から言われて、私もびっくり(笑)

なとりかさん

最初は反響の大きさに驚きましたが、「出かける時はそういう着回しができるんだ」「子どもと遊ぶ時はこうやってコーディネートすればいいのか」といった、私の日常の写真から伝わるリアルな情報が求められていることが次第に分かってきました。

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――村岡さんは、いつ頃からSNSの効果を感じるようになりましたか?

村岡さん

運用を始めてすぐに感じました。店舗でしかお話しできなかったお客さまと、SNSのコメントでコミュニケーションが取れるようになったのが大きいですね。
お客さまとの距離がぐんと縮まったのを実感しました。

——今では、SNSから直接ECサイトに移動してショッピングができる仕組みもありますよね。店舗に足を運ぶ顧客がますます減るのでは、という不安はありませんでしたか?

なとりかさん

正直なところ、不安な時期もありましたね。店舗で接客をした後に「今度ネットで買います」と言われることもあって。ECサイトに負けた、と感じて悔しくなりました。

でも今は、もう気にしていません。お客さまが買い物に納得できるようにお手伝いしていれば、また店舗に足を運んでくれるかもしれないし、次はここでお買い上げしてくださるかもしれない。実際、「またお姉さんにアドバイスしてもらいたいから、今日はお店で買います」って言ってもらえたこともあるんですよ。

なとりかさん

今売る、ということに執着するのではなく、お客さまに誠実に対応することが、結果的に将来の成果につながるんじゃないかなと思っています。

在庫管理、SNS運用……自分の強みと、普遍的な接客スキルを大切に

——村岡さんは2021年に部署を異動したと聞きましたが、現在はどのような業務を?

村岡さん

本社のデジタルマネジメント部という部署で、オンラインでもオフラインでも通用する販売員の育成を中心とした販売員の教育に携わっています。

9年間販売の現場で働いてきて、次のキャリアを考えた時、自分の経験を生かして販売員をサポートすることができないかな、と考えたんです。

村岡さん

私の強みは、店舗での接客とInstagramやLIVE配信などの運用を連動させて、お客さまによりよい情報発信やお買い物体験をしていただくこと。そのスキルを伝えていけたら、という思いで、異動を希望しました。

とはいえ、店舗に立つのも好きなので、週に1回は接客の仕事も続けていますよ。

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——新しいチャレンジに取り組んでいる最中なんですね。なとりかさんは現在10歳の息子さんがいらっしゃいますが、妊娠・出産を経て、働き方に変化はありましたか?

なとりかさん

勤務時間は変わりましたが、それ以外はそこまで変化はないんです。

子どもが小さい頃は、保育園のお迎えがあったり、急な体調不良で呼び出されたり、心身ともに大変な時期はありました。それでも、店舗の仲間の協力のおかげで変わらず楽しんで仕事ができていますし、息子との時間も大切にできています。

村岡さん

女性が多い職場なので、ライフイベントによる勤務スタイルの変化には理解がありますよね。最近は、どの店舗にも一人は子育て中の女性がいるような気がします。

以前は「店舗では長く働けない」という印象もありましたが、少しずつ会社の制度や考え方も変わってきているのを感じますね。

——働き方が柔軟になってきているんですね。アパレル業界のキャリアパスについても、なにか変化はありますか?

村岡さん

店舗で経験を積んで店長になり、一部の社員が本社へ……という従来のケースに限らないキャリアや新しいポジションが増えてきていますね

本社に異動しなくとも、店舗内でも自分の強みを発揮しやすくなってきている印象があります。

例えば、店舗のバックヤードの整理やレイアウトをするスキル。バックヤードってお店によって作りが違うのですが、在庫管理のしやすさはバックヤードがすべてと言っても過言ではありません。業務効率化のためにも、店頭やバックヤード内の配置などが得意なスタッフはとても重要なんですよ。

村岡さん

もちろん、本社でチャレンジできるキャリアパスも、どんどん豊富になってきています。私のような販売員のトレーナーも、そのうちの一つ。トレーナーと一言で言っても、私が担当している接客やSNS運用だけでなく、商品管理などの細かな業務を専門とするポジションもあります。

これはほんの一例ですが、販売員の業務はとても多岐にわたるので、自分の強みを見つけて磨いていけば、その分野のプロとして活躍できるはずです。

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なとりかさん

私がアパレル販売員になった当時と比べても、販売員に求められることは増えています。SNS運用もその一つです。

ただ、SNSは大切なマーケティングツールですが、それに気を取られてばかりではいけないとも思っています。どんなにSNS運用が上手くても、店舗で十分な接客ができなければ、せっかく足を運んでくださったお客さまをがっかりさせてしまいますよね。

なとりかさん

SNSで見せる自分と同じか、それ以上に素敵な自分でいなければいけない。そのためにも、お客さまの話に耳を傾けてニーズを汲み取る力や、一人一人に最適な提案をする力がより一層求められるようになっていくと思います。

次回からは、村岡さんとなとりかさんのSNS活用術を大公開! Instagram・YouTube・LINE・TikTokについて、二人が日頃から使っているテクニックとは?

【次回予告】
フォロワー数3.3万人、なとりかさんのInstagram運用ノウハウを伝授! 7月15日(金)公開予定です。

取材・文/安心院 彩 編集/秋元 祐香里(編集部)

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