元会社員ショコラティエ・廣嶋恵が“甘くない世界”でも夢を実現できた理由/映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』特別企画
公開中の映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は、大ヒット作『チャーリーとチョコレート工場』で有名な、工場長ウィリー・ウォンカの“始まりの物語”を描く。
最愛の母と約束した「世界一のチョコレート店を開く」という夢をかなえるため、仲間とともにさまざまな苦難を乗り越え奮闘する若き日のウォンカのストーリーだ。
日本にも、ウォンカと同じく夢を諦めずにショコラティエになった女性がいる。
東京・自由が丘にあるチョコレート専門店『LE PETIT BONHEUR(ル・プティ・ボヌール)』オーナーショコラティエの廣嶋恵さんだ。
25歳で単身渡仏。ブロア地方とパリでの修行を経て、大阪万博迎賓館のシェフ・パティシエを経験。
31歳の時に、念願のチョコレート専門店を開業した。
華々しい経歴を持つ彼女だが、実は元会社員。
フランスに修行するまでは本格的に製菓を学んだ経験もなく、英語もフランス語も全く話せなかったという。
そんな彼女はどのようにしてショコラティエになる夢をかなえたのだろう。劇中のウォンカの姿と重ね合わせ、彼女のストーリーを聞いてみた。
25歳、会社員3年目。大きな夢への一歩を踏み出す
「小さい頃から、お菓子づくりは好きでした。自分が作ったものを食べた人が笑顔になってくれるのがうれしかったんです。
ただ、趣味を仕事にしたら好きじゃなくなってしまうのが怖くて、新卒では会社員の道を選びました」
飲食系企業に就職し、デパ地下惣菜の企画開発を行っていた廣嶋さん。パン作りのプロジェクトを担当したことがきっかけで、スイーツに対する思いが再燃した。
「パン作りも楽しかったのですが、突き詰めていくうちにもっと表現の幅を広げたいと思って。
だんだんと『私が本当にやりたいのはお菓子作りなのかも』と思い始めて、その道を究めようと決意しました」
日本で修行することも考えたが、「せっかくならお菓子作りの本場で学びたい」と25歳の時に退職し、単身でフランスのトゥール地方へ。
現地の製菓学校に通いながらブロワのパティスリーで働く道を選んだ。
そんな廣嶋さんがチョコレートにのめり込んだのは、フランスに渡ってからのこと。
チョコレート細工を見掛けた時、その芸術性に心引かれたと言う。
「ちょうどイースターの時期で、たくさんのチョコレート細工を行っていたんです。卵型のチョコレートを割ると、中からいろいろなチョコレートが出てくる仕掛けがあったりして、まるでアート作品のようでした。
見た目もかわいくて、食べたらおいしいし、夢が詰まっている。チョコレートってすごく面白いなって、一気に夢中になりました」
あこがれへの挑戦は、お菓子ほど甘くはなかった
映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』で主人公・ウォンカは、世界一のチョコレート店を開くために、一流のチョコレート職人が集まる町を訪れる。
彼が作る“魔法のチョコレート”は瞬く間に町で評判を呼ぶが、その才能に嫉妬した「チョコレート組合」や、とある因縁からウォンカを付け狙うオレンジ色の小さな紳士・ウンパルンパに、あの手この手で夢を妨害される。
廣嶋さんが夢をかなえるまでの道のりも、ウォンカと同じく決して順風満帆ではなかったそうだ。
「あこがれと好奇心だけでフランス修行を決めてしまったものの、初めはフランス語も英語も全く話せなかったんです。
修行先の店では指示された内容を理解するのに時間がかかるし、最初はかなりつらかったですね」
しかし、帰国後にはさらに大きな壁が待ち受けていた。大阪万博迎賓館のシェフ・パティシエとして働きはじめて間もないころ、いきなり数十人規模の宴会で提供するデザートの準備を任されたのだ。
「こんなに大人数のデザートを準備するのは初めてでした。それだけでなく、材料の発注や管理、そしてパティシエ一人一人の育成まで幅広い業務を行っていました。
最初は全然うまくできなくて、そんな自分が情けなくて仕方なかったんです」
夢やあこがれだけでは、心が折れそうになる瞬間もあるだろう。
「ここに来たのは間違いだったのでは」と思い、すっかり自信を失ってしまった時期もあるという廣嶋さん。
そんな彼女の挑戦を支えたのは、「大切な人たちの存在」だった。
「フランスに来て間もない頃、前職の社長が直々に応援のメッセージをくれたこともありました。
シェフ・パティシエの時に頑張れたのも、周囲に支えがあったからこそ。実はちょうど同じ頃、友人に向けてチョコレートを作って売り始めたんです。
バレンタインの時期だけやってみようと始めたのですが、みんなが『おいしい!』と家族や友達に広めてくれてくれて。
自分が作ったチョコレートで笑顔になってくれるとうれしいですし、少しずつ売り上げが伸びてくるのを見て自信を取り戻すことができたんです」
順調に顧客を増やしていき、31歳の時についに店舗をオープンした廣嶋さん。
しかし、初日はお客さんが来るかどうか不安でいっぱいだったそう。
「恐る恐る店のシャッターを開けると、地元の方や知り合いたちが行列を作って並んでいたんです。お店を手伝ってくれていた友人たちもその瞬間に立ち会っていて、本当に感動しましたね」
映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』では、宿屋で出会った孤児の少女・ヌードルをはじめ、仲間たちとともに困難を乗り越えるウォンカの姿が印象的に描かれている。
そんな映画のシーンと重ね、「夢は一人じゃかなえられない」と語る廣嶋さん。
「『夢をかなえた』というより、『かなえさせてもらった』と思っています。
自分一人で夢を見るだけじゃ、きっとそこで終わっていた。周りの支えがなければ、今の私はありません」
チョコレートには、魔法のような力がある
廣嶋さんのお店のショーケースには、キラキラと宝石のように美しくきらめくチョコレートが並ぶ。それを「私の宝物です」とほほえみながら眺める廣嶋さん。
映画でも、“世界一おいしい”ウォンカのチョコレートを一口食べると幸せな気分になり、急に歌い出したくなったり、空を飛んだり、魔法のような出来事が起こる。
「もちろん、空を飛ぶなんてファンタジーすぎますけどね」とほほえんで前置きしつつも、廣嶋さんはショコラティエを「魔法使いのような仕事」だと話す。
「疲れたときに甘いものを食べると、なんだか心がホッとして、幸せな気持ちになるじゃないですか。チョコレートって、人の心を解く不思議な力を持っていると感じるんです。
これからも、見た人が心ときめくチョコレートを作っていきたいですね」
25歳で思い切ってフランス修行へと旅立ち、「ショコラティエになる」夢をかなえた廣嶋さん。
たとえやりたい事があっても「どうせうまくいかないから」と理由をつけて挑戦に尻込みしてしまったり、道半ばで諦めてしまったりする人は少なくない。
なぜ廣嶋さんは夢への一歩を踏み出し、実現させることができたのだろうか。
そう聞くと「私はちょっと楽観的すぎるかもしれないですが」と笑みを見せつつ、こう続けた。
「やりたいことがあるって、本当にすばらしいんですよ。
やるべきことを淡々とやる人生ももちろん良い。でも、人生は一度きりじゃないですか。やりたいことがあるなら、トライしないともったいないと思うんです。
一歩踏み出して、もし失敗してしまっても大丈夫。
ちょっとくらいつまずいても、前にさえ進んでいればきっといい方向に向かうはずですから」
夢見ることからすべては始まる。映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』のメッセージは、それを体現した廣嶋さんの言葉を通してより一層力強く感じられる。
この冬、本作から夢に挑戦することの勇気をもらってみてはいかがだろうか。
取材・文/安心院 彩 編集/柴田捺美
作品情報
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』 大ヒット上映中
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配給:ワーナー・ブラザース映画
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