20 APR/2015

事務系職種が無くなる日は近い!? 人工知能の発達に見る、女性のシゴトの未来

事務系職種が無くなる日は近い!? 人工知能の発達に見る、女性のシゴトの未来

人工知能の研究が進み、世の中に普及し始めた昨今。かつてITの発達と爆発的な普及が社会を変化させ労働の世界を大きく変化させたように、人工知能の発達で「人間の働き方」そのものが変化していくことが予想されている。では、具体的に何が変わり、私たちは未来に備えて何をしておくべきなのだろうか。人工知能の研究の第一人者である松尾豊先生にお話を伺った。

人工知能の発達により
人間が行うべき仕事の質が変わる!

そもそも人工知能とは一体何なのか、前提をおさえたい。iPhoneのSiriやロボット掃除機のような“人工知能搭載型の家電”をイメージする人が多いかもしれないが、「一言で言うならば、人工的に作られた『人間のような知能』のことを人工知能と呼んでいます」と松尾先生。

人工知能をめぐる研究開発は、ここ10年で大きく躍進し続けている実感があるという。そして、その発達によって、人間の仕事や働き方にも大きな変化をもたらすことが予想されている。オックスフォード大学が発表した研究結果によれば、現存する702の職種のうち半数以上がなくなるとの見解も。半数以上の職種が無くなるとあれば、多くの人たちが無関係ではいられない問題だ。

「日々の業務範囲が明確で、“パターン化”しやすい分野の仕事や、何らかのルールに則って処理できるような仕事は人工知能に取って代わられやすいです。例えば、今後5年で、会計・税務・法律・医療などに関する事務系アシスタント業務を行うポジションは激減する可能性が高い。そして、10~15年後くらいには、警備・監視系の業務も人工知能に任せればOKに。店舗のレジスタッフなども、人工知能搭載のロボットが普及して担ってくれるようになりそうです。さらにその先には、自動車運転や荷物の宅配などドライバー業務も人工知能があれば人間が行う必要がなくなってしまうかもしれません」

金融業界などの事務職やコールセンターのオペレーター業務などは、女性が多く活躍している分野。だが、これらの職種はそう遠くない未来に人工知能がカバーする領域になりかねない。

残るのは感情や感性に頼る仕事
コミュニケーションや創造性が重要に

事務系職種が無くなる日は近い!? 人工知能の発達に見る、女性のシゴトの未来

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの
著:松尾 豊/価格:1,400 円+税/出版:角川EPUB選書

人工知能学会で編集委員長・倫理委員長なども歴任、日本トップクラスの研究者の著者が、これまで人工知能研究が経てきた歴史的な試行錯誤を丁寧にたどり、その未来像や起きうる問題までを指摘。情報工学・電子工学や脳科学はもちろん、ウェブや哲学などの知見も盛り込み、「いま人工知能ができること、できないこと、これからできるようになること」をわかりやすく解説する

5年後、そして10年後の近い将来、人間が行うべき仕事は今に比べてだいぶ少なくなってしまいそうだ。では、今後もなくならない職業はあるのだろうか。

「感情の機微に触れるような仕事は人間がやらなければいけないこととして残ると思います。例えば、店舗の販売員なら会計処理よりも顧客への対応や提案などの比重が高くなるでしょうし、教師なら授業のカリキュラムを組むような事務的な仕事よりも、子どもの夢や目標を聞き、これからの道を示すような道徳的な行為が重要になるでしょう」

また、人工知能は定義されていない概念を解釈することも苦手。「きれいなものを作って」と指示しても、「きれいなもの」の定義が明確でない場合はどうすればいいのか分からなくなってしまう。

「人工知能は抽象的なものや感覚的なものを生み出す能力を持っていません。センスや感情をともなうクリエイティブな仕事、人に感動をもたらすような文化的創造は、人工知能にとって非常に難しいこと。だからこそ、人工知能が発達すればするほど人間は、“人間らしい”仕事に集中できるようになるのです」

クリエイティブなことや高度な判断力をともなう仕事に時間をかけられるようになれば、ビジネスにおける生産性もぐっと高まりそうだ。

働き方の多様化が広がり、
人間力が重要になる時代がくる

また、サーバへのアクセス数などを人工知能が監視すれば、会社以外の場所で働いた場合の勤怠管理も可能になるそう。働く場所を選ばないようになれば、子育てや介護などがあっても仕事を続けやすい環境が整っていく。さらに、「暮らしの面でも、家事の一部を人工知能に任せられる日が来るのも近い」と松尾先生。

「現在では、『ディープラーニング』という新たな機械の学習法が誕生しました。この研究がもっと進めば、料理や洗濯、掃除なども、人工知能が個々の好みや個別性を認識し、学習していくことによって任せられるようになるはずです。また、介護についても物理的なサポート面は人工知能に任せて、人間は“心のケア”に集中できるようになります」

こうしてみると、人工知能が発達することによって得られるメリットは大きそうだ。一方で、私たちが注意しておかなければいけないリスクとは何だろうか。

「既存の仕事がなくなるという点においては、何らかの技術が進歩すれば必ず起きること。これまでも私たちはそうした経験を歴史的に経てきたのですから、過度に心配することはないと思います。また、人工知能が人間のコントロールを越えて世界を征服し始める、なんていう映画もありますが、そういった世界が訪れることはないでしょう。なぜなら、人工知能には『自分の種を増やそう』という生物的な本能がないから。ただし、悪用する人間がいた場合には別です。軍事的な利用についてはもちろん、『恋愛感情を抱かせるロボット』などで人の心をハックして悪事に利用できる可能性もある。人工知能をめぐる倫理的な問題について考えていくことは、社会全体の今後の課題です」

加えて、人工知能の発達とともに変容していく社会環境の中で仕事を続けていくためには、「中長期的な視点で準備を行っておくことが大切」と松尾先生。

「短期的な視点で言えば、まずは人工知能分野の技術発達を意識的に知るようにすること。プログラミング知識やデータ分析の手法などを勉強しておくと、深い理解が得られるようになると思います。長期的に見た場合は、人間性を磨くこと。コミュニケーション力や感性、センスがより重要になると思うので、いろいろな人と交流したり、本を読んだり、芸術に触れるなどして独自の感性を高めておきましょう」

人工知能が発達した世界では、雑務から解放され、「生きがいや、やりがい」という人間的な部分に集中できるようになる。そんな未来に備えるためにも、日々の仕事でいかにオリジナリティを生み出せるかを意識してみよう。そうすればきっと、時代が変わり、仕事が変わっても、これまでの経験や能力を応用して長く活躍していく道が広がるはずだ。

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事務系職種が無くなる日は近い!? 人工知能の発達に見る、女性のシゴトの未来

【お話を伺った方】
東京大学工学系研究科 技術経営戦略学専攻 准教授
松尾 豊さん

1997年 、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年、同大学院博士課程修了.博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、2007年10月より、東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 准教授に。2002年、人工知能学会論文賞、2007年、情報処理学会 長尾真記念特別賞受賞。人工知能学会編集委員長を経て、現在、倫理委員長。Webマイニング、ディープラーニング、人工知能を専門とする。著書に『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』(角川EPUB選書)など

取材・文/上野真理子