「定年を過ぎても続けたい仕事」留学帰りの女子大生が出会った、英語を活かせる“新しい職業”とは
まだまだ働く女性のロールモデルが少ない現代社会。今、そしてこれから、自分がどのような仕事をしていきたいか悩んでいる女性は多いだろう。そこでこの連載では、さまざまな働く女性たちが「なぜ今の仕事を選んだのか」にフォーカス。自分と同世代の女性たちの仕事観をのぞき、自分の目指すキャリアを明確にするための材料にしてみよう!
「人と同じ」が大嫌い
毎日違うから、この仕事を選んだ
新卒で株式会社アウトドアテクノロジーに入社した仁後さん。何と、就職活動はたったの3日間しかしなかったという。
「大学に入る前から海外で学ぶことに憧れていて、大学3年から10カ月間、アメリカのノースカロライナ州に留学していたんです。日本に帰ってきたのは、大学4年の5月のこと。もう多くの企業の採用活動は終わっていました」
昔から「人と同じ」ことをするのが大嫌いだったという仁後さん。だから、無理やり周囲と足並みを合わせて就職活動をする気もなかった。帰国後は国際機関で3カ月間の事務職インターンを経験した。そこで、働く面白さと仕事をする上での自分なりのこだわりが明確になっていった。
「まずは大好きな英語を使えることが絶対条件でした。そして、インターンをやって分かったのは、私にはオフィスワークは向いていないということ。毎日決まった時間に出社して、決まった人たちと働くことに、どうしても興味が湧かなかったんです。毎日、いろいろなことが起きて、いろいろな人と会える。そんなイレギュラーな仕事がしたいなと思いました」
好奇心旺盛な仁後さんだが、意外なことに小さいころは一人遊びが好きな寡黙な子だったそう。劇的な変化が訪れたのは、バトントワリングという競技に本腰を入れて取り組み始めたころからだった。良い演技をするために、演技面はもちろん、普段の話し合いの場でも積極的に自分を表現するよう心掛けた。この競技の練習を15年以上続けた仁後さん。いつのまにか、幼少期の自分からは想像がつかないほど、社交的な性格へと変わっていったという。では、なぜそんな仁後さんが今の仕事を選んだのだろうか。
「大学4年の12月の終わりごろ、ちょうどバイリンガル向けのキャリアフォーラムがあることを知って、出展企業をサイトでチェックしてみたんです。そうしたら、当社の名前が最初に目に飛び込んできて。よく分からなかったけど、とりあえずクリックしてみました」
アウトドアテクノロジーでは、旅行業とハイヤー業を組み合わせた独自のサービスを展開している。その中心であるプランナー職は、実に個性的な職業だ。ドライバーとしてハイヤーのハンドルを握りながら、国内外からやってくるゲストをおもてなしする。空港からホテルまでの送迎はもちろん、顧客ニーズに合わせた観光プランの立案、当日のガイドも仕事のうち。ささやかなプレゼントの準備やサプライズの用意もプランナーの裁量次第だ。そのサービス精神とエンターテイメント精神で、「単調な移動」を「楽しい移動」として演出している。
「英語も使えるし、毎日外に出て、いろいろな経験ができる。しかも、ゲストのもてなし方は自分次第でいかようにも変えられる。絶対この仕事がやってみたい、ここで働きたいって思いました」
結局、採用面接を受けたのはアウトドアテクノロジー1社のみ。内定をもらったのは、年明け間もなく。たった3日間の弾丸就活で、就活バッグも友人からの借り物。これこそが仁後さんにとっての“自分らしい就職”だった。
「あなたじゃないなら、別の日にします」
ゲストに選ばれるプランナーの仕事術
そんな自分らしさを貫く生き方は、プランナーになった後も仁後さんの武器となっている。優秀なプランナーほど、一度乗車したゲストからその後もバイネームで指名が来たり、知人を紹介されることが多い。仁後さんは40人近い同社のプランナーの中でも、指名件数は現在ナンバー2だ。
「つい先日アテンドした佐世保からお見えになっているゲストの方も、私が担当になって以来、年に1度、当社のサービスを利用してくだるように。ご友人との観光で東京にお越しになるたびに、私を指名していただいています」
仁後さんのすごさはそれだけではない。今回の乗車では、仙川にあるマヨネーズの見学施設に赴き、そこから六本木の一流シェフのデザート専門店へ。そして最後には東京ディズニーランドへ足を伸ばした。このいずれも仁後さんはドライバーとして目的地へ運ぶだけでなく、車を降りて一緒にスイーツを食べたりアトラクションを楽しんだりしているのだ。その関係は、プランナーとゲストというより、もはや友人の感覚に近い。
「実は今年に入って結婚したんです。ゲストの方もご存じで、お祝いに有名なジュエリーブランドの紅筆と鏡までいただいてしまいました」
ここまでゲストに愛される理由は、仁後さんの徹底したサービス精神にある。仁後さんは初めてゲストをアテンドする場合、まずはお出迎えからの数分の間に、ゲストがどんな性格か、小さなリアクションや所作、ミラー越しから覗く表情を細かく観察し、見極める。その上で、静かに過ごしたい方には程良い距離感でおもてなしをして、あとは快適で安全な運転に集中する。一方、フレンドリーなゲストなら相手の話に耳を傾け、家族や趣味のことなど会話を広げていく。気の利いたサービスや演出も大事だが、最後にゲストの心を掴むのは、プランナーの人間力そのもの。「人と同じ」ではなく、自分らしさを大切に生きてきた仁後さんの笑顔に、多くのゲストが魅了されているのだ。
「今の目標は、指名件数でナンバー1になること。以前はスケジュールが合わなくて、どうしても私がアテンドできない場合、『じゃあ今回は諦めます』とおっしゃるゲストの方が多かったんです。でも最近は『じゃあ、あなたの合う日に変えるわ』と言ってくださることが増えて。東京に来ることが目的じゃなく、私に会うことを目的にしてもらえる。それがすごく幸せだなって思います」
家庭を持った仁後さんは、今後は出産や育児という女性特有のライフステージの変化と向き合うことになる。だが、不安や迷いは、仁後さんの明るい笑顔には一切感じられない。
「妊娠中の運転は難しいかもしれないけど、自分のゲストさえ持っていれば、お出迎えなどご挨拶だけ顔を出したり、やり方次第でつながっていられるし、仕事を続けていける。それがただのドライバーではない、当社のプランナーならではの魅力です」
「子どもを産んでも、60歳を過ぎても働いていたい」と夢を語る仁後さん。自分そのものが商品になる同社のプランナーに年齢は関係ない。生涯の仕事を求めていた仁後さんにとっては、まさに最適な選択だったようだ。
取材・文/横川良明 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)
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