いきなり気を失うリスクも? 働く女性に多い「かくれ熱中症」のセルフチェック法【医師監修】
連日、10年に一度と言われるほどの猛暑日が続いています。そこで気を付けたいのが熱中症です。
熱中症は誰でも起こりうる症状ですが、「私は外に出ることも少ないから大丈夫」と思っている20~30代の女性も多いのではないでしょうか。
実は熱中症は女性の方がかかりやすく、初期症状を伴わずに急激に進行する「かくれ熱中症」は、通勤時やリモートワーク中にかかることがあるため、どんな人でも注意が必要です。
毎年、5万人以上の人が搬送されていて、重症化すると命の危険を伴うことも……。
後遺症が残る可能性もある「かくれ熱中症」に、20代~30代の女性がかからないためにはどんな対策をすればいいのでしょうか。イシハラクリニック副院長の石原新菜先生に教えてもらいました。
無自覚のうちに進行する「かくれ熱中症」
「熱中症は屋外で起こるもの」と思い込んでいる人も多いかもしれませんが、お家にいてもかかるのが「かくれ熱中症」です。
「かくれ熱中症」は、いつのまにか体温が上昇し、無自覚のまま熱中症になってしまうため、いきなり頭痛や吐き気、けいれん、意識がもうろうとして気を失ったり、頭がボーッとしたりといった症状が現れます。
特に女性は、もともと冷え性で汗をかきづらく体内に熱がこもりやすい人、生理痛や片頭痛で、だるい、頭痛、吐き気がしたりする人するが多いので、これがいつもの症状なのか、かくれ熱中症なのかを判断するのが遅くなってしまいがちです。
重症の場合は緊急搬送される場合もあるので、リモートワークの方でも要注意です。
寝不足だったり、その日の体調が悪かったりすると、特に熱中症になりやすいので、そんな日は特に部屋のエアコン温度を気にしたり、こまめに水分を取ったり、体調の変化を見逃さないようにしましょう。
また、通勤時に屋内外の温度差に身体が対応できずに「かくれ熱中症」になることもあります。
「いつもと何か違うな……」と少しでも違和感を感じたら、まずはセルフチェックをしてみてください。
かくれ熱中症セルフチェック
①手の甲の皮膚をつまんでみる
手の甲の皮膚をハンカチを拾うようにつまんですぐに放し、3秒以上経っても戻らなかったら脱水症状の疑いがあります。これは医師も必ずやるチェックで、水分が足りないと皮膚は戻らず、しわしわのままです。
② 手のひらが冷たくなっていないか
脱水症状で血圧が下がると血行が悪くなり、手足の冷えにつながります。めまいやふらつき、吐き気などの症状を感じたら、手のひらで自分のほほやあごに触れてみてください。暑いはずなのに冷たかったら要注意です。
➂ 舌が乾いていないか
脱水症状になると舌は白っぽく乾くので、鏡を見てチェックしてみてください。また、唾液がネバネバして出にくくなって来たときも要注意です。サラサラの唾液が出ている間は、水分は足りています。
④尿の色が濃くなっていないか
トイレに行った時には尿の色をチェック。尿の色が濃くなればなるほど水分が足りてない合図です。また、尿意をもよおさない場合も脱水症状の可能性があります。トイレに3時間以上行っていない場合は要注意です。
女性の方がなりやすい熱中症。生理の時は特に注意
筋肉には水分や鉄分を貯蔵する働きがあり、もともと筋肉量が少ない女性は熱中症になりやすいと言われています。
ダイエット中の女性も要注意です。食事からは水分や塩分が摂れるので、夏場の無理なダイエットはしない方がいいでしょう。
また、女性には生理があり、体調不良が続く人も多いので、熱中症なのか見極めるのが難しい場合もあると思います。
暑い環境下で働いている方は特に、体調が悪くなったら生理痛ではなく、まず熱中症を疑ってください。
経血で血が失われているので脱水や鉄分不足になりやすく、こまめな水分補給と鉄分の多い食事を心掛けることが必要です。ただ、冷たい飲みものばかりを飲んでいると冷えの原因となるので、常温の飲みものや温かい飲み物がおすすめです。
生理中に冷えは禁物ですが、猛暑日にエアコンを使わないのは危険です。エアコンをつけた上で、靴下をはく、カーディガンを羽織るなどの冷え対策をしましょう。
【時間帯別】「かくれ熱中症」対策
朝から夜まで気温の高い夏場は、それぞれの時間帯によって注意が必要です。時間帯別の熱中症対策をご紹介します。
【朝】
ぬるめのシャワーを浴びる
起き抜けにぬるめのシャワーを浴びて体温を上げておくと、汗をかきやすくなり、体内に熱がこもりづらくなります。
一杯の味噌汁、甘酒を飲む
味噌汁は腸内環境にも良い上に、ビタミン・ミネラルもとれるので実は熱中症予防に最適です。朝に味噌汁をつくる余裕のない方は、お湯に味噌を溶かしたものを飲むだけでもOKです。
また「飲む点滴」と言われている甘酒も、おすすめ。豆乳やヨーグルトで割った甘酒ドリンクを朝にコップ一杯飲んでみてください。
日傘はマスト。風がよく通るような服装を
日差しを直接浴びると血管が広がり血圧が下がり、めまいや失神が起こる可能性が高まるので、通勤時に日傘はマストで、熱がこもらないように風がよく通るような服装を意識してください。
また、髪の毛が長い人は、下ろしたままだとマフラーのようになってしまうので、結んで体温上昇を防ぎましょう。
余裕を持ってゆっくり歩く
急激な運動は血圧を上げてしまい、めまいや立ちくらみのもとにもなるので、気温が高い日は特に、時間に余裕を持ってゆっくり歩くようにしましょう。
熱中症警戒アラートをチェック
外出時には気温や湿度とともに熱中症警戒アラートをチェックして、その日の熱中症の危険度を頭に入れておきましょう。
曇りや雨でも油断は禁物です。湿度が高いと体温が上がりやすいため、真夏日や猛暑日ではなくても熱中症になる可能性はあります。
ちなみに、気温30℃以上が真夏日、35℃以上が猛暑日です。気温が30℃を超える8月が熱中症で亡くなる人が一番多い月となっています。
【昼】
リモートワークの場合は、室温計で室温を管理する
適切な室温の目安は28℃&湿度40~60%です。エアコンは機種によって冷え方が違うので、リモートワークの方は特に、室温計を用意して確認することがおススメです。
中でも湿度が65%を超えると熱中症への警戒が必要です。「冷え性でエアコンが苦手」「電気代がもったいない」「暑さは我慢できる」と思う人もいるかもしれませんが、できるだけエアコンの使用は控えないようにしましょう。
扇風機やサーキュレーターで空気を循環させて風を作ると、設定温度が高めでも涼しく感じます。風が直接当たると冷えにつながるので、直接当たらないように調節してください。
オフィスは冷えに注意
エアコンの効いたオフィスでは、冷えに注意。体を冷やしすぎると汗をかかなくなり、体温調節が上手くいかなくなるため、熱中症になりやすくなります。
冷え性の人はひざかけや羽織るものを持っていく、温かいものを飲むなど、オフィスでの冷え対策をしてください。
適度な運動をして汗をかける体に
特にリモートワークであまり外に出る機会がないと、体が夏の暑さについていけなくなります。
「汗をかける体づくり」が熱中症の予防につながるので、15分程度のウォーキングやストレッチ、入浴などで汗をかける体をつくりましょう。日傘をさして、近所にランチの買い物に行くぐらいでもいいと思います。
食欲がないときには薬味たっぷりの麺類を
食欲のない夏場は、消化吸収を助けて血行を良くしてくれる、しょうが、みょうが、ねぎなどの薬味をたっぷり入れたそうめんやうどん、雑炊などが、塩分も取れるのでおすすめです。
【夜】
帰宅したらまずはコップ一杯の水を
たくさん汗をかいた日には、帰宅したらまずはコップ一杯の水を飲んでください。味噌汁や甘酒でもいいので、汗をかくことで出てしまった水分を補給しましょう。
涼しい恰好でリラックス
できるだけ熱がこもらないよう体温を下げるために、入浴、もしくはシャワーを浴びて、涼しい格好でリラックスしてください。
居酒屋メニューは熱中症に良い
実は、居酒屋メニューは熱中症対策に最適です。食欲がない時には、野菜スティックや枝豆、豆腐、もろきゅう、うめきゅうなどのつまみ類を食べるといいでしょう。特に枝豆や豆腐は、豆類にはビタミンB群が入っていて疲労回復効果もあるので、夏場にはおすすめです。
夏の熱中症の4割は就寝時に起こる
寝ている間に汗をかいても水分補給できないため、気付いたら体温が上昇していた…ということも。
エアコンをタイマーで切るようにしている人も多いので、就寝前にはコップ一杯の水を飲む、通気性の高いパジャマにするなど、就寝時に体温が上がりすぎないようにしてください。
鉄筋の建物に住んでいる人も要注意。鉄筋は熱を吸収するため、日中、不在にしていてエアコンをつけていない場合などは特に、室温が上昇している場合があります。
夏の熱中症の4割は、寝ている間に起きています。熱帯夜の日はエアコンを就寝モードなどでつけっぱなしにしておいてもいいでしょう。
ビールやコーヒーは水分補給になる?
熱中症予防には適度な水分補給が大切ですが、ビールやコーヒーは利尿作用が高いため、水分補給には向きません。飲みすぎには注意ですが、1日に1~2杯くらいなら脱水症にはならないので、適度な摂取量を心掛けましょう。
ただ、お酒は眠りの質を悪くするため、体調に悪影響を及ぼすことも。たしなむ程度にして、ウイスキーや焼酎、テキーラ、ワイン、日本酒など、度数の強いお酒を飲むときは必ずチェイサーを飲むようにできるといいですね。
また、水分補給にはスポーツドリンクが良いのかといえばそうではありません。糖分が含まれているスポーツドリンクを飲み続けると、急激な血糖値の上昇を引き起こす「ペットボトル症候群」になる可能性があります。
三食食事がきちんとできているのであれば、食事から塩分も糖分も水分も取れています。外で働いている人や、運動をしている人など、たくさん汗をかいている人以外は、水かお茶などで良いでしょう。
朝の起床時や食事の時など、1日の中で何度か飲むタイミングはあると思うので、無理してたくさん飲む必要もありません。
「かくれ熱中症」になってしまったらどうすればいい?
【応急処置】
意識がある場合は日陰か室内に移動してください。服を緩めたら横になり、足を高くします。手のひらと足の裏から熱が逃げていくので、靴下も脱いでください。
保冷剤などがある場合は、首と脇の下、鼠径部をアイシングしてください。なければ霧吹きで水をかけたり、タオルを水で濡らして拭いたり、うちわのようなもので扇いだりして冷やします。
そして、糖分が入っている飲みものの方が吸収が早いので、スポーツドリンクや経口補水液を飲み、水分や塩分を補給します。しばらくして血圧が戻るようなら大丈夫ですが、熱中症が改善したかを自分で判断するのは難しいので、念のため病院に行くようにはしましょう。
自力で飲めないなど、症状の回復が見られないようであれば、救急車を呼ぶなどして病院に搬送してください。
【治療方法】
病院では、体を冷やして生理的食塩水とブドウ糖液を点滴をしてしばらく休みます。30分〜1時間ほどで良くなれば帰宅できますが、回復しなければ入院になってしまう場合も。
入院になる場合はかなり重症で、後遺症が残る場合もあるため、そうならないように日頃からしっかりと予防しましょう。
【翌日の過ごし方】
体調が回復している場合、ほとんど問題はありませんが、翌日はなるべく激しい運動などは控えて安静にしましょう。だるさが残っているのであれば、仕事は休みをもらってもいいと思います。
部屋で過ごす場合、再び熱中症にならないように、室温と湿度の管理をしっかりと行い、こまめに水分補給をして、ゆっくりと過ごしましょう。無理は禁物です。
「一度熱中症になるとまたなりやすい」と思っている方も多いようですが、熱中症はクセになるわけではなく、汗をかきにくい体質の方など、なりやすい体質の方は再びなりやすいです。一度なってしまったら、熱中症になってしまった環境に再び身を置かないように、環境を変えるように気を付けてみましょう。
熱中症が重症化したらどうなる?後遺症は?
熱中症は、体の中に熱がこもってしまい、体温調節ができなくなったことで体の中のタンパク質が変性してしまう症状です。つまり、体の中が煮えたぎって、生卵がゆで卵のような状態になってしまうのです。
中でも一番怖いのは、中枢神経障害などの脳へのダメージです。脳にダメージを受けると、めまいや頭痛が続く、記憶力が落ちる、感情を制御できない、歩行困難など、その後の生活をおびやかす様々な症状が出る可能性があります。
また、細かい血管に血栓ができることで血管が詰まって多臓器不全になってしまう、播種性血管内凝固症候群(DIC)も報告されています。
熱中症で亡くなる理由のほとんどが、この多臓器不全です。最悪のパターンにならないためにも、普段からの熱中症予防を心掛けましょう。
また、熱中症になった人の約2割には後遺症が見られます。だるい、めまい、頭痛、歩行障害、記憶障害、不眠などが主な症状です。内臓にダメージを受けた方は、新陳代謝が悪くなるなどの影響もあります。
中枢神経障害で脳にダメージを受けてしまった場合は、その後、何年も寝たきりになってしまう人もいます。
熱中症は、良い睡眠をとる、バランスの良い食事を三食食べる。毎日お風呂に入り、汗をかける体づくりをするなど、日頃から健康的な生活をしていれば予防できる症状です。
まだまだ暑い日は続きますから、仕事が忙しい時、少し体調が悪いなと感じた時に注意して、適度にエアコンを付けながら元気に過ごしていただけたらと思います。
便利なアイテムを使って熱中症を予防しよう
最近では、たくさんの暑さ対策グッズが揃っています。紫外線などを防いで体温を下げる冷感ウェアや、持ち歩けるミニ扇風機、首もとを冷やせるネッククーラー、拭くだけでスーッと涼しくなるシートなど、グッズを活用して熱中症を防ぎましょう。
取材・文・編集/石本真樹(編集部) 人物写真/ご本人ご提供