【兒玉遥】整形1000万、体重20kg増…元HKT48センターを追い詰めた「完璧主義」の呪い

【兒玉遥】整形1000万、体重20kg増…元HKT48センターを追い詰めた「完璧主義」の呪い

15歳でデビュー、HKT48のセンターとして脚光を浴びた兒玉遥さん。AKB48の兼任メンバーとしても活躍し、「次世代のエース」と呼ばれた。

しかしその裏では、「反省ノート」に自分を罵倒する言葉を書き連ね、心をすり減らす日々を送っていたという。

不安を打ち消すための過食で体重は20㎏増え、費やした美容整形費用は1000万円以上。アイドルとして完璧を求めれば求めるほど、心も体も壊れていった。

そして下された診断は「双極性障害」。医師からは「元の生活に戻れる可能性は1割」と告げられた。

ベッドから起き上がることすらできなかったあの日から8年——。

再び表舞台に立つ今、彼女が語る「完璧主義を手放し、自分をすり減らさずに働くためのヒント」とは。

兒玉 遥さん

兒玉 遥さん

1996年生まれ。福岡県出身。アイドルグループ・HKT48の1期生。「はるっぴ」の愛称で親しまれ、2012年にAKB48「真夏のSounds good!」で初選抜入りを果たす。’16年にはAKB48選抜総選挙で9位に輝いた。’17年2月に躁うつ病を発症し休業。復帰後の’19年6月にHKT48を卒業し、俳優としての活動を本格化。出演作に、NHK朝の連続ドラマ小説『おむすび』、映画『空のない世界から』など。出演映画『そこにきみはいて』が11月28日公開 ■X

完璧主義とコンプレックスで追い詰められたアイドル時代

2011年7月10日、HKT48オーディション合格者の名前に、「兒玉遥」の名前があった。   当時15歳、ダンスも歌も未経験だった彼女は、いきなりセンターに抜擢される。

兒玉さん

え、なんで?って思いました。ダンスも歌も下手なのに、なんで私が選ばれるの?って

2014年の兒玉さん(写真中央)

2014年の兒玉さん(写真中央)。「HKT48 九州7県ツアー 〜可愛い子には旅をさせよ〜/福岡公演」ライブ・ビューイングのリリースより

幼い頃から完璧主義で、「できないのは自分の努力が足りないからだ」と考える癖があった。そのストイックさが、競争の激しいアイドルの世界で、徐々に彼女を追い詰めていく。

兒玉さん

私は人より覚えるのが遅いし、キャパも小さい。先生に言われたことはひたすらノートにメモして、家でも練習を繰り返しました。

それでも縮まらないメンバーとの差に、自己嫌悪が深まる。厳しい目は、やがて自身の容姿にも向けられた。

兒玉さん

集合写真を見ては、『足が太い』『顔が丸いな』と、容姿の面でも気になるようになって……。

当時のアイドルファンの中には、『太っているメンバーはアイドル失格』という厳しい声もあったので、どんどん自分が嫌いになっていきました。

ソロCMも作られるほどの人気メンバー。愛称は「はるっぴ」

ソロCMも作られるほどの人気メンバー。愛称は「はるっぴ」(~ロッテのガム情報発信サイト「クレイジーガム放送局(CGB)」新TV-CM~「妄想ガムデート」篇リリースより)

眠れない夜が続き、感情のコントロールもできなくなっていくが、当時はまだ高校生。「心の病」というものさえ知らず、自分に何が起こっているのかも理解できていなかった。

やがて病院で下された診断は、「双極性障害(躁うつ病)」——。

兒玉さん

診断を受けて、ようやく『ああ、心が弱ってたんだ』って気付けたんです。

「焦りしかなかった」過食・美容整形を繰り返すように

診断後、彼女は休養に入るが、「自分の居場所を失うのが怖い」という焦りは常につきまとっていた。

兒玉さん

休んでいるうちに自分の居場所がなくなってしまうんじゃないかって。

メンバーの動向を常に追って、『私一人が休んだって、HKT48は成り立つじゃん』と気付いたときは、かなりショックでしたね。

ーーこのままじゃ、私の居場所がなくなっちゃう。

その恐怖から、たった2カ月で復帰。だが、ここからが本当の地獄だった。

処方された薬の副作用で顔は腫れ、うつ症状で記憶力は低下。もともと苦手だったダンスが、全く覚えられなくなった。

兒玉さん

みんなが頑張っている間、私は休んでいたのに、戻ってきても全然役目を果たせない。申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

兒玉遥さん

唯一、不安を忘れられるのは食べている瞬間だけ。

甘いものを食べていると、脳内に快楽物質が分泌され、一時的に不安を忘れられる。今日一日をやり過ごすために、彼女は食べ続けた。それは、生きるための暴飲暴食だった。

体重は20㎏増加。どんどん丸くなっていく自分の顔に耐え切れず、美容整形に頼るようになる。美容整形にかけた費用は、総額1,000万円を超えた。そうしてごまかしてきた心は、すでに限界を迎えていた。

兒玉さんが自身のXで公開した当時の写真

兒玉さんが自身のXで公開した当時の写真(Xより引用

兒玉さん

あるとき『もうだめだ』って思ったんです。完全にゲームオーバー

休むしか道がなかった。初めてちゃんと、『絶望』した感覚でした。

当時20歳。5年間アイドルとして人目にさらされ、「人より劣った自分」を戒め、努力で補おうとしてきた兒玉さん。このとき初めて、「アイドルである自分」を手放した。

「変えられないこと」を頑張るのは辞めた

兒玉さん

1回目の休養は焦りがありましたが、2回目はもう、ちゃんと休むしかないんだって思いました。

起き上がることもままならず、ただ生きるだけの日々。芸能界の情報は一切遮断し、ひたすら休むことに集中した。

半年の時間をかけ、「日記を書いてみよう」「あそこへ行きたい」という小さな意欲が芽生え始めるまで休み続けた。

兒玉遥さん

回復への道を歩む中で、彼女の考えを根底から変える言葉に出会う。それは、心療内科のカウンセリング中の出来事だった。

兒玉さん

心療内科の先生に、『世の中には変えられないものが三つある。一つ目は天気、二つ目はサイコロの目、三つ目は相手の心』と聞いて、ハッとしました。

私は、変えられないことばかりを変えようとして、ずっと頑張っていたんだなって。

それまでは周りの期待に応えなければと必死でした。でも、人の心は変えられない。そう気付いて、視点が変わったんです。

そこからは失った時間を取り戻すように、旅行、運転免許の取得、語学留学、資格取得と、休業中にやりたかったことを一つずつ叶えていった。

自己分析で見つけた、自分をすり減らさない働き方

心も体も健康を取り戻しつつあった時、兒玉さんに新たな一つのチャンスが巡ってくる。それはアイドル復帰ではなく、「俳優」の仕事のオファーだった。

兒玉さん

俳優さんって『若くてかわいい』ことが必ずしも魅力にならないですよね。何歳になってもその年齢の役ができるので、俳優であれば歳を重ねることに抗うことなく生きていける。

なんて自然で、長く続けられる仕事だろうと思ったんです。

とはいえ、芝居は未知の分野。その不安が少なかったのは、2年半の休養で「0か100か思考」を解きほぐしていたからだ。

兒玉さん

もちろん最初は不安がありました。でも、『できなかったら辞めればいい』って最初に決めていたので、挑戦できたんです。

昔は仕事であっても『白か黒か』でないと嫌でした。でも、世の中って曖昧なことが多いし、休養を経てグレーゾーンも楽しめるようになった。0か100かではなく、50くらいでも『まあ、それでいいんじゃないか』って思えるようになったんです。

完璧主義で、常に100%を求めていた兒玉さんだが、2年半の休養を経て自分の緩ませ方を知ったのだ。

2022年には公式YouTubeもスタート。

2022年には公式YouTubeもスタート。

現在は俳優業を中心に、YouTubeチャンネルの運営やタレントなど、マルチに活動の幅を広げている。活動の場が広がったことで、物事の捉え方そのものも変わった。

兒玉さん

昔はアイドルの世界しか知らなかったので、『1キロ太った、やばい!』と本気で考えていました。

でも、さまざまな活動を通して世界を広い視野で見渡せるようになって、一つのことができなくたって、大した問題じゃないって思えるようになったんです。

アイドル時代は、他人の評価という「型」に自分を無理やりねじ込んでいた。その型を抜けた今、彼女が大切にしているのは、「自分をすり減らさない」働き方だ。

兒玉さん

もちろん仕事である以上、頑張らなければならない時期はあります。でも、心と体を壊してまでやるべき仕事って、世の中にはないと思うんですよ。

2022年公開の映画「空のない世界から」では主演を務めた。

2022年公開の映画「空のない世界から」では主演を務めた。(画像は映画のリリースより引用)

働いていると、つい自分のダメなところやできないことに目が行きがちだ。だが、誰にだって必ず「強み」はあるはず。

アイドル時代、兒玉さんは苦手なダンスを克服しようと必死だった。しかし休養中、計画を立てて目標を達成するのが得意だったことを思い出し、運転免許や資格取得に挑戦。明確な「正解」に向かって努力するプロセスで、自信を取り戻していった。

兒玉さん

アイドルや俳優の仕事には、明確な正解がありません。だからこそ、昔は「足りない、足りない」と自分の欠点ばかりを埋めようとして苦しくなってしまっていました。

でも今は、自己分析をして、自分の強みが『計画的に目標を達成すること』だと分かった。それを理解して活かすようにすると、自然と自信を持てるようになるし、それが自分らしい働き方や仕事になっていくのかなと思うようになったんです。それが自分らしい働き方や仕事になっていくのかなと思うようになったんです。

自分の強みを理解して、それを活かす。できないことは無理に頑張るより、潔く諦めたり、人の手を借りたりする。そのくらいでいいのかなって思えるようにもなりました。

完璧じゃなくても、立ち止まってもいい。大切なのは、外の声に惑わされず自分と向き合い、「強み」に光を当てること。

そうして選び取った道こそが、きっと「自分らしい働き方」につながっていくのだろう。

取材・文/宮﨑まきこ 編集/大室倫子(編集部)

『1割の不死蝶 うつを卒業した元アイドルの730日』(KADOKAWA)好評発売中!

『1割の不死蝶 うつを卒業した元アイドルの730日』書影

過食嘔吐、整形依存、幻覚……。さまざまな症状に苦しめられた「躁うつ病」の元アイドルは、いかにして治癒に辿り着いたのか。デビュー前からつけていた日記や、ともに病気と闘った母の証言をもとに綴る自伝。

うつに揺り戻されないために、今も実践していること、そして「自分を許す」ことで手に入れた新しい生き方も語る。

>>書籍情報