仕事で必要以上に落ち込んでしまう…精神科医・藤野智哉が語る「自分を責めるクセ」を手放すステップ

仕事で必要以上に落ち込んでしまう…精神科医・藤野智哉が語る「自分を責めるクセ」を手放すステップ

たとえば、会議で発した自分の意見に対して、上司のリアクションが薄かったとしよう。

あなただったら、その反応をどのように捉えるだろうか。

「深く検討するには時間が足りなかったかな。あとでもう一度相談してみよう」
「的外れなことを言ってしまったのかも……。呆れられたかな」

起こった出来事は同じでも、ポジティブに捉える人とネガティブに捉える人がいる。

それは性格によるものだから仕方ないと考えるかもしれないが、実はトレーニングで「思考のクセ」は改善できると話すのは、精神科医の藤野智哉先生だ。

今月発売の藤野先生の著書『人生が自動的にうまくいくレッスン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、認知行動療法の観点から、ネガティブな思考のクセを手放す方法を解説している。

とはいえ、長年染みついた考え方のクセを変えることなんて、本当にできるのだろうか。

そこで今回は、働く女性たちが働き続けていく上での“しんどさ”につながる考え方を切り替える方法について、藤野先生に話を聞いた。

精神科医、産業医、公認心理師の藤野智哉先生

藤野智哉先生

精神科医。産業医。公認心理師。秋田大学医学部卒業。現在は精神神経科に勤務するかたわら、医療刑務所の医師としても活動。自身の経験と精神科医としての知見をもとに、生きづらさやメンタルヘルスとの向き合い方について発信しており、メディア出演も多数。 著書に『「誰かのため」に生きすぎない』『「そのままの自分」を生きてみる』『人生が自動的にうまくいくレッスン』(いずれも、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など ■X

私たちは目の前の出来事を「ありのままに」認識していない

編集部

藤野先生は、著書『人生が自動的にうまくいくレッスン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)で、ものごとをネガティブに捉えてしまうクセは変えていくことができるとお話しされていますね。

藤野先生

そうですね。私たちが物事に対して無意識下で瞬時に抱く考えやイメージのことを、「自動思考」と言うのですが、この「自動思考」のクセはトレーニングで変えていくことができます。

私たちは物事をあるがままに認識していると思いがちですが、実際には無意識のうちに意味づけをしたうえで「認識」しています。

つまり、何かを認識した時点で、すでに「あるがまま」ではないんです。

編集部

認識した時点で意味付けをしているとは、具体的にどういうことなのでしょうか?

藤野先生

たとえば、同僚にあいさつをしたのに、相手から返事が返ってこなかったとします。

実際に起きた事実は、「相手から返事が来なかった」ことだけですが、「あいさつしたのに無視された」と認識する人も多いですよね。

起こった事実に「自分を無視した」という意味を、自動的に乗せてしまっているんです。その結果、腹を立てたり、悲しくなったりと、必要以上にネガティブな感情が生まれてしまう。

このように、認知の段階で即座に「無視された」と受け取ってしまうのが、「自動思考」です。

編集部

同じ事象が起こっても、「無視された」と認識する人もいれば、「聞こえなかっただけ」と認識する人もいますよね。

この「自動思考」の違いは、どのように生まれるのでしょうか。

藤野先生

この違いには、自動思考よりさらに深い部分にある「スキーマ」が関係しています。「スキーマ」とは、その人の根底にある信念や、認知の土台のようなものです。

たとえば、「自分は人に嫌われている」「世界は自分に厳しい」といった思いが根底にあると、あいさつを返してもらえなかったときに、「自分は嫌われやすいから、きっと無視されたんだ」という解釈が生まれるんです。

編集部

つまり、同じ出来事が起きても、ネガティブなスキーマが強い人は、否定的な「自動思考」が生まれやすいのですね。

藤野先生

その通りです。スキーマは、生まれつきのものだけではなく、 幼いころからの環境や経験の積み重ねによって形成されます。

大人になるにつれて、「世界は自分だけに厳しいわけじゃない」といった別のスキーマも育っていきますし、一人の中に複数のスキーマが存在しています。

ポジティブなスキーマとネガティブなスキーマがバランスをとって生活ができると良いのですが、それでもネガティブな思考にとらわれてしまう時は、ネガティブなスキーマが強く出てしまっているから。この度合いはその時の環境や人によって異なります。

ネガティブな「自動思考」を修正するためのステップ

編集部

女性は自分を過小評価しがちという話もよく聞きますが、これもネガティブなスキーマが影響しているのでしょうか。

藤野先生

明確なエビデンスはないのですが、女性が置かれてきた社会的地位や環境がネガティブなスキーマを形成している可能性はあるかと思います。

たとえば、男性の成功は能力によるものと評価されやすい一方で、女性の成功は「運がよかっただけ」「周囲に恵まれただけ」と、外部要因に結びつけられてしまったり。

編集部

たしかに、若い女性が高い営業成績を上げても、「女性は愛嬌があれば売れていいよね」なんて言われてしまうという声も聞いたことがあります。

藤野先生

そうした経験が続くと、「これは自分の実力だけではないのかもしれない」と感じやすくなるんです。

こうした環境に長く置かれることで、ネガティブなスキーマが育ってしまうことは十分あり得るでしょう。

編集部

これまで生きてきた環境がスキーマを形作っていると考えると、ネガティブな自動思考を変えるのは難しいのでは……と思ってしまいます。

藤野先生

おっしゃる通り、スキーマを変えることは、その人の根っこを変えることなので、簡単ではないと言わざるを得ません。

ただ、表層の自動思考のクセを直していくことはできますよ

編集部

そうなんですね!ネガティブなスキーマが強い人でも「自動思考のクセ」をポジティブに転換するにはどうしたら良いのでしょうか。

藤野先生

まず、自分の自動思考が正しいかどうかを、いろんな視点から見てみてください

ネガティブな捉え方をしてしまった時に、「ポジティブ思考の同僚や上司だったらこの状況をどう捉えるだろう」「この立場に置かれているのが、自分ではなく大切な友人だったらなんてアドバイスするだろう」と、視点を変えて考えてみるんです。

藤野先生

たとえば、上司に仕事の進捗を報告した時に「了解です」の一言だけが返ってきたとします。「そっけないな……期待はずれだったのかな」「できないやつと思われたのかも」とネガティブな自動思考が働いてしまったら、悩んでいるのを自分ではなく友人に置き換えてみてください

きっと、「考えすぎだよ」「そんなことないよ」と声を掛けると思いませんか?

編集部

友人に対してだったら、きっとそう言うと思います。

なるほど、他人に置き換えると、より客観的に事象を捉えられるんですね。

藤野先生

その通りです。「了解です」という端的な答えが返ってくる理由なんて、いくらでもあることが見えてきますよね。

忙しかったのかもしれないし、家族とけんかして機嫌が悪かったのかもしれない。

編集部

とっさに思いついたネガティブな理由だけでなく、考えられるポジティブな理由も挙げていくと、たくさん出てきそうですね。

藤野先生

ネガティブな自動思考を見直すためには、自分の自動思考を信じる根拠と信じない根拠を10個ずつ挙げてみるといいと思います。そして、信じた場合と信じない場合のメリット・デメリットを挙げてみる。

このように訓練を続けていくと、ネガティブな自動思考に触れてしまった瞬間に立ち止まって、「あ、またこの考え方してる」と、自分の認知のクセが見えるようになってきます。

「自分を責める」行為は、自分の影響力の過信?

編集部

違う例ですが、チームの仕事で成果が出ないときなど、つい自分のせいだと思ってしまう女性も多いように思います。

これも「認知のクセ」の一つなのでしょうか。

藤野先生

なんでも自分のせいだと思ってしまうのは、いわゆる認知のゆがみの一種で、「自己関連付け」といいます。

世の中、自分以外の要素で決まることばかりなのに、全部自分のせいだと思ってしまう。

「全部自分のせいだ」と考えるのは、一見自己否定的ですが、「自分がすべてを左右している」と考えている面もあるんです。そう考えると、認知が偏っていることに気付くのではないでしょうか。

編集部

たしかに、謙虚なようで自分の影響力を過信しているとも捉えられますね。

藤野先生

ネガティブな自動思考を正すには、意味を乗せる前に、事象を正しくとらえることが大切です。自分の認知が偏っている可能性を、まずは自覚することが、第一歩となると思います。

編集部

自分の認知=事実ではないことを自覚した上で、「どんな事実である可能性があるか」さまざまなパターンを挙げていけばいいんですね。

藤野先生

そうですね。物事のとらえ方が変われば、気分が変わり、ネガティブなスキーマよりポジティブなスキーマが前に出やすくなってくる。そうすれば、今よりずっと生きやすくなると思います。

根本からガラッと変えるのではなく、いいサイクルをつくっていくことが大切です。

編集部

トレーニングで「自責思考」は改善していけそうなイメージが湧きましたが、気を抜いたらすぐに元々の思考に引っ張られてしまいそうな気もします。

藤野先生

訓練を重ねていけば、少しずつ、心を必要以上に消耗しない考え方ができるようになると思います。

「自責思考」って、たいていは自分が背負うべき範囲を超えて、必要以上に抱え込んでしまっているんです。まずは、「これは本当に自分が背負うべき問題なのか」と、一度立ち止まって考えてみてください。

藤野先生

実は「自責」って、誰かの責任まで勝手に引き受けてしまい、その人の成長の機会を奪ってしまうことでもあるんです。

だからこそ、自分が影響できる範囲を正しく知り、それ以上は背負いすぎないこと。

無駄に悩むなんて、もったいない!自分の人生を取り戻すためにも、自分の思考のクセを見直してみてください。

取材・文/宮﨑まきこ 編集/光谷麻里(編集部)

書籍情報

『人生が自動的にうまくいくレッスン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

『人生が自動的にうまくいくレッスン』書影

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